英国の競争・市場庁(CMA)は、MicrosoftによるAIスタートアップInflection AIからの大量の人材獲得について、独占禁止法上の調査を開始すると発表した。この動きは、大手テクノロジー企業によるAI人材の獲得・囲い込みが競合他社や新興企業の競争を阻害する可能性があるとの懸念を反映した物と見られる。
人材の獲得は“独占禁止法”に抵触するのか
CMAの調査は、Microsoftが2024年3月にInflection AIの共同創設者Mustafa Suleyman氏とKarén Simonyan氏、さらに「複数のメンバー」を自社に迎え入れたことに端を発している。Suleyman氏はMicrosoftのAI部門のCEOに就任し、Simonyan氏はチーフサイエンティストとなっている。
この人材獲得に加えて、Microsoftは5億200万ポンド(1,031億円)の取引でInflectionのモデルへのアクセス権を得たとされている。CMAは、これらの動きが英国における競争を減少させる可能性があるかどうかを調査している。
CMAの声明によると、「MicrosoftによるInflection AIの特定の元従業員の雇用と、Inflectionとの関連する取り決めについて、調査を開始するのに十分な情報がある」としている。
英国における合併は、「2つ以上の企業が別個の存在でなくなった」場合、または取引が7,000万ポンドのしきい値を超えるか、財またはサービスの国内供給の少なくとも25%に影響を及ぼす可能性がある場合に調査を必要とする「関連する合併状況」のレベルに達するとされている。Inflection AIが独立企業として存続し、Microsoftと同社との5億ドル超の取引が同社のモデルへの非独占的アクセスであったことをCMAが認めていることを考えると、調査の結果は保証されないかもしれない。
この調査は「フェーズ1」と呼ばれる初期段階で、2024年9月11日までに証拠を収集し、より詳細な「フェーズ2」の調査に進むかどうかを決定する予定だ。
Microsoftの広報担当者は、「人材の採用は競争を促進するものであり、合併として扱われるべきではないと確信している」とコメントしている。
なお、CMAは同時期に、AmazonによるAnthropicへの40億ドルの投資についても調査を開始していたが、この案件の進捗状況は現時点で不明である。
この調査は、英国だけでなく、米国連邦取引委員会(FTC)や欧州連合(EU)の競争当局も注目している。FTCは6月初旬にMicrosoft/Inflection AIの案件について調査を開始し、EUの競争政策担当委員Margrethe Vestager氏も4月にこの取引について言及している。「これらの慣行が基本的に集中につながるのであれば、合併管理規則をすり抜けることがないようにする」とVestager氏は当時述べている。
欧州委員会は、独占禁止法の観点からMicrosoftとInflection AIの取引を分析中であり、もしこの取引が合併に相当すると判断した場合、Microsoftはすでに問題を抱えることになるかもしれないと述べた。「合併の観点からは……この取引は欧州委員会に正式に通知されていない」とECの広報担当者は述べた。 「ある取引が集中を構成し、EUの次元を持つ場合、それを欧州委員会に通知するかどうかは、常に企業次第である」。
MicrosoftのAI分野での動きは、OpenAIへの130億ドル以上の投資や、フランスのAIスタートアップMistral AIへの1630万ドルの投資など、広範囲に及んでいる。これらの取引も規制当局の監視下にあり、AIセクターにおける競争の公平性を確保するための取り組みが続いている。
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