Googleは10月12日に待望のPixel 8スマートフォンシリーズを発売した。
筆者はAndroidスマートフォンからはしばらく離れ、メインでiPhoneを使っていたが、Pixel 6aの安売りに惹かれて久しぶりに購入した後、その価格からは考えられない使いやすさとパフォーマンスに驚き、その後Pixel 7を購入し、カメラの画質と新たなAI機能に驚かされ、すっかりGoogle Pixelの魅力にハマってしまった。
今年発売したPixel 8シリーズは大幅な値上げとなってしまったが、下取りやGoogleストアクレジットなどを併用するとかなり安く購入できるようになっているため、思い切って最上位モデルの「Pixel 8 Pro」を購入してみた。
前評判では発熱の可能性やパフォーマンス不足などが伝えられていたPixel 8 Proだが、実際の使用感はどうだろうか?正直にお伝えできればと思う。
Pixel 8 Pro | ||
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ディスプレイ | 6.7インチ リフレッシュレート:1-120 Hz 2992×1344 LTPO OLED Corning® Gorilla® Glass Victus® 2 のカバーガラス | |
OS | Android 14 | |
SoC | Google Tensor G3 3.0GHz Cortex-X3コア x 1 2.45GHz Cortex-A715コア x 4 2.15 GHz Cortex-A510コア x 4 | |
GPU | ARM Mali-G715 | |
RAM | 12GB | |
ストレージ | 128GB/256GB/512GB UFS 3.1 | |
バッテリー | 5,050 mAh | |
充電 | 30W USB-PD高速有線充電 ワイヤレス充電 | |
ネットワーク | Wi-Fi 7, Bluetooth 5.3, GPS, NFC, 5G mmWave & Sub-6 GHz | |
ポート | USB Type-C 3.2 | |
リアカメラ | ・5,000万画 f/1.68 Octa PDワイドカメラ ・4,800万画素 f/1.95クアッドPDウルトラワイドカメラ(視野角125.5度) ・5倍光学ズーム付き4,800万画素 f/2.8クアッドPD望遠カメラ | |
フロントカメラ | Dual PD 1,050万画素 f/2.2 視野角95度 | |
サイズ | 162.6 x 76.5 x 8.8mm | |
重量 | 213 g | |
開始価格 | 159,000円 | |
その他 | IP68防塵・防水、eSIM、画面内指紋リーダー |
目次
高まる高級感と確立されたデザイン
Pixel 8 Proの箱を開封してまずは飛び込んでくるのが横長のカメラバーが特徴的なデザインだ。Pixel7 Proでは望遠カメラが独立して丸くくりぬかれていたものが横長の1つのエリアになり、よりデザインが洗練された印象だ。
背面中心にはGoogleの「G」マークロゴが見える。
バックパネルは一見するとガラスには見えないが、Corning Gorilla Glass Victus 2の強化ガラスになっている。磨りガラス加工がされており、マットな質感が実に心地良い。指紋も付きにくい素材だ。
ボディのカーブがPixel 7に比べ大きくなっており、より手に馴染む様になっている事が感じられる。実際、大きなサイズにもかかわらず、持ったときは手にスッと馴染むデザインだ。
ただ、側面とカメラバー部分はアルミニウムの鏡面仕上げとなっているため指紋が残りやすくなっている。また、その素材の材質上、傷も付きやすい。裸運用の方は少し気になるかも知れない。筆者はカバーを付けて使用するので、その辺はあまり気にしないが。
ちなみに、ケースはTorrasのMagSafe化ケースを買ってみた。ワイヤレス充電器は、モバイルバッテリーをはじめ、AppleのMagSafe対応機器を用いており、実際に利便性を肌で感じているため、Pixel 8 ProでもMagSafe化したかったためだ。
今後はMagSafeと仕様を同じくしたQi2がAndroidスマートフォンでも多く採用され、それに伴い充電機器も充実することが予想される為、今から備えておいても良いかもしれない。
ちなみに、公式にはMagSafe対応は謳われていないが、MagSafe対応機器で一部貼り付く現象が確認出来た。分解動画ではMagSafe用のマグネットアレイは確認出来ないためたまたまだろう。ちなみに、以下の状態で問題なく充電ができている。
ビルドクオリティもPixel 7世代から少し上がったように感じる。特に物理スイッチ周りの押し心地は、しっかり「カチッ」としており、少しぐらつきが減った印象だ。
また、驚くのはそのディスプレイのクオリティだ。「Super Actua Display」と新たに名付けられたPixel 8 Proの新たなディスプレイは、前モデルの1,500ニトと比較して 2,400ニトに向上したが、発色・輝度共に非常に鮮明で見やすく素晴らしいものだ。日中の日向でも全く問題なく見られる(ただしその分発熱もあるが)
新たなTensor G3
AI処理が格段にレベルアップ
Tensor G3は、デバイス上でこの数ヶ月世界を席巻しているChatGPTに代表される“生成AI”を実行する初のモバイルチップであり、Google自身のデータセンターと同じ音声言語モデルを実行する初のシリコンでもある。Googleによると、Tensor G3は、デバイス上での生成AI処理に関して、昨年のTensor G2の最も複雑なAIタスクよりも「150倍複雑」な処理が行えるという。
実際にこのような具体的な数値を出されてもイマイチピンと来ないが、試しにこのPixel 8で可能になった写真編集機能のいくつかを使ってみたところ、その威力にまさに驚愕することになった。
Pixel 6と7でも導入されている「マジック消しゴム」機能は単に画像からピクセルを消し、同じ写真から似たようなピクセルに置き換えるだけだ。結果としては、得られる写真はどこか不自然な物も多く、そこまで実用的なものではなかった。しかし、Tensor G3の生成AI能力のおかげで、Pixel 8はそれらのピクセルを消去し、代わりに新しいピクセルを生成できるようになった。
その驚愕の威力は、以下に示す画像をご覧頂くと一目瞭然だろう。今回浅草の雷門前で写真を撮ったところ、多くの観光客でごった返していたが、新たな「編集マジック」機能を使うことでそれらの人がまるで最初からいなかったような写真を生み出してしまえたのだ。
別の例を示そう。水槽前に多くの子ども達に紛れている我が子を1人だけにできるか実験してみたのが以下の例だ。従来の消しゴムマジックでは難しかった消去が綺麗に行えている。(足下の影が多少不自然だが)
面白いのが、このマジック編集はシチュエーションに応じて色々な提案をしてくれるところだ。
例えば川の画像では、水の流れを描き直してくれる事も提案してくれるのだ。i以下の例では、シャッタースピードを落として水の流れを表現したものも生成してくれる。
Tensor G3による生成AIは画像だけではなく、今後の機能強化では、Pixel 8モデルでいくつかのプロンプトを送るだけで、電子メール全体や段落の単語を作成するように指示できるようになるようだ。また画像から、ソーシャルメディアのキャプションを作成することもできるという。もちろん、こうしたことは昨年、Bardやその他のAIアプリケーションによって一般的になったが、ポケットに収まる小さなデバイスのPixelフォトギャラリーアプリの中で、これらすべてを提供するのは脅威と言えるだろう。ちなみに、この生成AI機能は、GoogleフォトにバックアップされているPixel 8で撮影したのではない古い写真でも適用できるので、思い出を書き換えることも可能だ。
ベンチマークやその他の処理はフラグシップモデルには劣る
Googleの新たなモバイルSoC「Tensor G3」は、同社の開発したスマートフォン向けチップの中で最も高性能な物ではあるが、ライバルのApple A17 Proや、昨年発表されたQualcommのSnapdragon 8 Gen 2などのライバルと肩を並べるまでの性能は有していない。
実際のベンチマークテストの結果は以下の通りだ。
比較として、iPhone 15 Pro MaxのAntutu、GeekBench 6の結果と3D Markの結果を以下に掲載するが、そこには大きな隔たりがある。
ではこれが実際どこに現れるのかと言えば、日常的な操作ではほぼ問題にならないと言える。アプリの切り替え、ホーム画面の操作など、操作感は常に快適で、応答性も最高レベルだ。
大きな差が出てくるのは、例えば動画の編集機能や、『原神』などの重量級のゲームをプレイする場合だろう。例えば『原神』などは、デフォルトではグラフィッククオリティは“中”と判断される。特にプレイする分には引っかかりはなく、デバイスもほんのり温かくなる程度だったが、この設定を“高”にすると途端にデバイスが熱を持ち、処理落ちが散見されるようになった。
Adobe Premiere Proでのビデオレンダリングテストでは、同じ動画の処理についてiPhone 15 Pro Maxが25秒で終了するところ、Pixel 8 Proは70秒もかかっていたので、大きな差が出ている。
カメラ
Googleは、Pixel 8 Proの3つの背面カメラすべてが新しいセンサーを採用していると述べているが、その詳細については明らかにしていない。これに関しては、SamsungのISOCELL GNVセンサーが採用された事が判明しており、噂のGN2の採用は見送られたようだ。
GNVはGN1の少しアップグレードされたバージョンで、センサーサイズは同じ1/1.3インチだが、より高速なF1.7の開口部を備えている。超広角カメラカメラとズームレンズは、どちらも4,800万画素となり、こちらもレンズが明るくなっており、より多くの光が取り込めるようになっている。スペック的にはLEICAのレンズやHasselbladのレンズを搭載している中華スマホには及ばないが、GoogleのPixelフォンの真骨頂はそのソフトウェア処理だ。
例えば、ポートレートモードの処理はiPhone 15 Pro Maxに比べてPixel 8 Proはより自然なボケが得られ実用的だ。ここら辺はスマートフォンの豆粒レンズでミラーレスカメラのようなボケが得られるわけもないので、完全にソフトウェア処理の腕の見せどころとなる。Googleの処理はAppleよりも優れている。
前述の生成AIによる様々なトリックも新機軸として面白い物だが、Pixel 7から見られる様に、Pixel 8 Proも素晴らしい写真を撮ることができる。ポップな色彩は好みが分かれるかも知れないが、HDR処理も上手く、ディテールも豊富で素晴らしい。
全体的に明るく、空の雲のディテールもしっかり出ており、個人的にはPixel 8 Proの写真の方が好ましく感じられた。以下の5倍カメラの比較も同様な傾向だ。
そして面白いのはやはり超解像ズームだろう。AI処理により、最高30倍の望遠が実現しているが、肉眼ではとても視認できないような人影も捉えているのは(実用的かは別として)楽しい物だ。
ただ、シャッターを押してからの次の撮影までのラグは、明らかにiPhone 15 Pro Maxが優れている。Pixel 8 Proのシャッターは時々一息つくような挙動が見られ、少し遅く感じられた。それによって時に撮影機会を逃してしまいそうにもなる。この点は気になるところだ。
また、逆行耐性はまだまだ甘い。iPhone 15 Pro MaxはApple曰く改善されたと言っていたが、実際Pixel 8 Proの方がゴーストやフレアが発生しやすかった。以下のように逆光状態で撮影したところ、どちらもゴーストが発生しているが、iPhone 15 Pro Maxの方がまだ目立たないレベルだった。
とはいえ、全体的に素晴らしい写真が撮れるのも事実だ。肌色の発色もGoogleの方が好ましい結果が多かった。
Pixel 8 Proのファーストインプレッションまとめ
Pixel 8 Proを数日使用したが、ハッキリ言って、使っていてとても楽しいデバイスだった。メインで使っているiPhoneも最新のiPhone 15 Pro Maxにしたが、ボディがチタンになった以外はほとんど昨年と代わり映えのしないアップデートで、Appleのイノベーションの欠如を感じる毎年のiPhoneと違い、AIを中心とした意欲的に様々なソフトウェア機能を提供するPixelフォンは使っていてワクワクさせられる。
特に、Pixel 8 Proに搭載された「編集マジック」は、写真のあり方を問うような賛否を呼ぶ物ではあるが、まだまだ発展途上とは言え、その威力は驚異的で、使いようと今後の進化によっては有用な物となり得るのではと感じさせられるものだった。その他のAI機能や、今後導入予定の新たな機能は、我々の生活の複雑なことを簡素化してくれる可能性を秘めている。特に、12月に登場するだろう、「Googleアシスタント with Bard』の登場は、大きな変化をAndroidにもたらす物だろう。
なにより、Pixelスマートフォンの魅力はOSがクリーンなAndroidを利用できる点だろう。そして、Googleの実験をいち早く試す事ができるスマートフォンでもあり、そういった面で、多くの人々に様々な魅力を与えるスマートフォンと言える。
懸念されていた発熱も、使い始めの2日間はバックグラウンド最適化のためか感じられたが、その後はパタッとなくなり、快適に使えている。
ただし、価格も上がっていることは懸念材料ではあるだろう。今後為替レートがどういった方向に進むのかは分からないが、Googleの今後の方向性を考えると更なる高級化も考えられる。それに伴い、Tensorチップを他社フラグシップと並ぶ物にすることは、Googleにとって避けられない課題でもあるだろう。来年、そしてその先のPixelフォンが楽しみでもある。
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