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NVIDIA、DeepSeekと連携し中国特化カスタムAIチップ開発か?米中貿易摩擦下の大胆な戦略転換

Y Kobayashi

2025年4月22日

米国による厳格化した輸出規制の中、NVIDIAが中国のAI企業DeepSeekと提携して「中国特化型」のAIチップを共同開発する計画があると報じられている。この動きは、重要な中国市場でのシェア維持と現地サプライチェーンへの依存を強める戦略的転換を示唆している。

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輸出規制を回避するNVIDIAの新戦略

台湾メディア工商時報が報じたところによると、NVIDIAは中国のAI企業DeepSeekと共同で、中国市場向けのカスタムAIチップを開発する計画があるという。この噂の背景には、米政府による高性能AIチップの対中輸出規制強化がある。

NVIDIAはこれまで、規制に対応したスペック調整版のAIアクセラレータ(例:H20)を中国市場に投入してきた。しかし、規制が強化されるたびに性能が低下する「米国準拠」製品を出し続けることには限界がある。中国市場はNVIDIAにとって数十億ドル規模の収益源であり、シンガポールやマレーシアなどを経由する取引も含めれば、その重要性は公式発表の数字以上とも言われる。事実、新たな輸出規制発表後、CEOのJensen Huang氏が急遽訪中したとも報じられており、同社がいかに中国市場を重視しているかがうかがえる。

今回の噂では、NVIDIAは単にチップを設計するだけでなく、研究開発(R&D)チームを中国に置き、現地のAIコンピューティングフレームワークと深く連携することで、中国独自のAIエコシステム構築を目指す可能性も示唆されている。工商時報は、「NVIDIAが将来、DeepSeekと共同で新しいチップを開発・設計する可能性がある。研究開発チームは中国に置かれ、現地の業界の大規模モデルコンピューティングフレームワークと深く統合され、中国専用のエコシステムを構築するかもしれない」と推測している。

なぜDeepSeekなのか?中国AI開発の現状と連携のメリット

現時点でDeepSeekに関する詳細情報は提供されていないが、NVIDIAが特定の中国企業と連携する背景には、現地の状況に合わせた最適化の狙いがあると考えられる。

中国では、米国の規制によりNVIDIAの最新鋭AIチップへのアクセスが制限されている。その結果、Huaweiが自社開発した「Ascend 910C」のような国産AIチップへの需要が高まっている。工商時報によると、DeepSeekの研究者は、推論タスクにおいてAscend 910CがNVIDIA H100の約60%の性能を発揮することを確認したという。これは、ハードウェアの性能差をソフトウェアやAIモデルのアルゴリズム最適化である程度補える可能性を示唆している。

NVIDIAがDeepSeekのようなローカル企業と連携することで、以下のようなメリットが考えられる。

  1. 現地のニーズへの適合: 中国特有のAIモデルやコンピューティング環境に最適化されたチップを開発できる。
  2. エコシステムの構築: NVIDIAの持つCUDAのようなソフトウェア資産と、中国のAIフレームワークを融合させ、強固なエコシステムを築くことができる。
  3. 規制への対応: 中国国内での開発・製造プロセスを一部でも利用できれば、米国の輸出規制の影響を低減できる可能性がある(ただし後述の課題あり)。
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「中国製」NVIDIAチップは実現可能か?サプライチェーンの課題

NVIDIAはこの計画において、HBM(High Bandwidth Memory – 高帯域幅メモリ)、プロセスノード(半導体製造プロセス)、パッケージング(半導体チップの封止)といったサプライチェーン全体を中国国内で完結させることを意図している可能性がありそうだ。しかし、現状の中国の半導体製造能力を考えると、これは極めて挑戦的な試みと言える。

工商時報が伝えるように、中国のファウンドリ最大手、SMICの最新プロセス「N+3」は、トランジスタ密度においてTSMCの6nmプロセスに匹敵するとされるものの、依然としてDUV(深紫外線)リソグラフィ装置を用いた多重露光に頼っている。最先端のEUV(極端紫外線)露光装置は米国の輸出規制により入手できないため、歩留まり(良品率)や生産効率が低く、コスト面で米国製AIチップに対抗するのは難しいと見られている。

さらに、AIチップの性能を左右する重要な要素であるHBMの調達も大きな課題だ。台湾のASIC(特定用途向け集積回路)設計企業である智原科技(Faraday Technology)がHuaweiへのHBM供給に関与したとの噂が流れたが、同社はこれを強く否定している。工商時報によると、HBMの特殊な実装方法(CoWoS-Sなど)を考えると、一度実装されたHBMを取り外して再利用することは技術的に困難であり、特に高性能AIチップの要求を満たすのは難しいとされる。中国のメモリメーカー長鑫存儲(CXMT)はDDR5メモリの量産に成功しているものの、HBMの製造能力はまだ確立されていない状況だ。

これらの点を踏まえると、NVIDIAが完全に中国国内のサプライチェーンだけで最先端に近いカスタムAIチップを製造することは、現時点では多くのハードルがあると言わざるを得ない。

NVIDIAの狙いと今後の展望:競争激化と戦略転換の可能性

NVIDIAがDeepSeekとのカスタムチップ開発という噂に踏み切るとすれば、それは米国の規制強化と、Huaweiをはじめとする中国国内勢との競争激化に対する危機感の表れだろう。単純なスペックダウン版では、性能面でもコスト面でも競争力を維持することが難しくなりつつある。

NVIDIAの強みは、ハードウェア性能だけでなく、長年培ってきたCUDAプラットフォームという強力なソフトウェアエコシステムと、豊富なIP(知的財産)にある。たとえハードウェアのスペックが競合より劣っていたとしても、NVIDIAはその研究開発力とソフトウェア資産を活かして、中国市場で製品の魅力を高めることは可能だろう。DeepSeekとの連携は、そのソフトウェアとローカルなニーズを融合させる試みなのかもしれない。

一方で、この動きがNVIDIAのグローバル戦略に与える影響も注視される。工商時報は、台湾に計画されていたとされるNVIDIAの海外本社(あるいはR&Dセンター)計画に変更が生じる可能性にも言及している。

ただし、現段階ではこれらはあくまで噂や憶測の域を出ない。状況は常に変化しており、NVIDIAが最終的にどのような戦略をとるかは不透明である。今後のNVIDIA、そして中国のAI・半導体業界の動向を注意深く見守る必要があるだろう。


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