メモリ特許を巡る二つの動きが、2026年7月中旬に米国で相次いだ。テキサス州西部地区連邦地裁の陪審は7月16日、キオクシアがViasatのフラッシュメモリ特許を侵害したとして、約2億2900万ドルの損害額を認めた。その前日、米国際貿易委員会(USITC)は、Netlistの申立てを受け、Samsung Electronicsなど7社を対象とする337条調査を開始している。
両件に当事者や特許の接点はない。キオクシア事件はNANDフラッシュの誤り訂正を巡る連邦地裁訴訟で、過去の侵害に対する金銭賠償が争われた。Netlist事件はHBMとDDR5 DIMMを巡るITC手続で、米国への輸入を止める救済が申立ての中心にある。共通するのは、メモリセルから一段上の制御・実装技術が、メモリ製品とそれを搭載するシステムの販売や輸入へ影響し得る点だ。
請求項16はNANDの何を押さえたか
Viasatの米国特許第8,615,700号は、「フラッシュメモリ向け並列エラー検出を伴う前方誤り訂正」を扱う。衛星通信機器を手掛けるViasatとNANDフラッシュは遠く見えるが、接点はデータを壊さずに届けるための誤り訂正にある。Reutersによると、Viasatは衛星システム向けの誤り訂正を設計する過程で、フラッシュメモリの信頼性を改善する技術を開発したと説明している。
フラッシュメモリでは、書き換えや経年によってビット誤りが増える。そこでデータへ冗長性を加えて記録し、読み出し時に誤りを検出・訂正する。第8,615,700号の請求項15は、符号化器、フラッシュメモリ、復号器を含むシステムを記載する。復号器は符号化データを複数のデータストリームとして扱い、複数の誤り検出サブモジュールで並列に検査し、物理的に分けた訂正モジュールへ誤り情報を渡す。
地裁で最後まで残った請求項16は、その構成に一つの条件を加える。フラッシュメモリの「年齢」または復号データのエラー率に応じ、符号化率を適応的に変えるというものだ。符号化率を下げれば、保存する実データに対して冗長情報の比率を増やせる。容量や処理負荷との交換条件は生じるが、劣化が進んだメモリで訂正能力を厚くできる。
陪審が扱った技術は、NANDセルの材料、積層数、製造工程ではない。コントローラー側でデータをどう符号化し、どう並列検査し、媒体の状態に合わせて保護強度を変えるかという経路である。完成したフラッシュデバイスの信頼性や寿命に直結するため、セル製造を担うメーカーも侵害訴訟の被告になり得る。
特許庁の審判を経て戻った陪審
Viasatは2021年11月、テキサス州西部地区連邦地裁Waco支部でキオクシアを提訴した。キオクシアは侵害を否定し、特許の有効性も争った。並行して米特許商標庁の特許審判部(PTAB)に当事者系レビュー(IPR)が申し立てられ、一部請求項は取り消された。残る請求項についても無効性が争われたため、地裁と特許庁、連邦巡回区控訴裁判所の手続が絡み合った。
2024年10月15日、Viasatは地裁の侵害主張を請求項16へ絞った。地裁は同月17日、予定されていた公判の約2週間前に事件を停止し、IPR控訴の結論を待つことにした。連邦巡回区控訴裁は2025年12月、請求項16を含む残存請求項を無効としなかったPTABの判断を維持した。キオクシアが提示した先行技術は、裁判所が採用した「decode」の意味を満たさないとされた。
この経緯は、7月16日の評決が突然現れた巨額賠償ではないことを物語る。キオクシアは特許庁手続で請求項を減らしたものの、製品への侵害主張を支える請求項16は残った。停止が解かれた地裁で、陪審は侵害と約2億2900万ドルの損害額を認めた。
現段階は陪審評決であり、地裁の最終判決や控訴の終結を意味しない。評決後の法律問題に関する申立て、損害額を含む最終判決、連邦巡回区控訴裁への控訴が続く可能性がある。現時点で明らかなのは、陪審が侵害と約2億2900万ドルの損害額を認めたことまでである。Reutersによると、ViasatはWestern Digitalに対する別のフラッシュメモリ特許訴訟も続けている。
Samsungには二つのITC調査が並ぶ
Samsungを巡るNetlistの動きは、7月15日に始まった337-TA-1511が第2のITC調査に当たる。先行する337-TA-1472は2025年12月に開始され、現在も行政法判事(ALJ)の下で係属中だ。対象品は両調査ともDDR5世代のDIMM、HBM、それらを組み込んだサーバーや計算機を含むが、法的な根拠と被申立人は異なる。
| 第1調査337-TA-1472 | 第2調査337-TA-1511 | |
|---|---|---|
| 調査開始 | 2025年12月29日 | 2026年7月15日 |
| 対象特許 | 別の6件 | 第12,646,537号、第12,650,937号 |
| 被申立人 | Samsung系3社、Google、Super Micro | 左記にNVIDIA、Broadcomを加えた7社 |
| 対象品 | DDR5 DIMM、HBM、搭載システム | DDR5 DIMM、HBM、搭載システム |
| 求める救済 | 限定的排除命令、停止命令 | 限定的排除命令、停止命令 |
第1調査では、2026年11月23日から12月3日まで証拠審理が予定され、ALJの仮決定は2027年5月3日、委員会の調査完了目標日は同年9月3日に設定されている。第2調査では、USITCが開始から45日以内に目標日を定める。対象製品が重なっても、各手続で請求項を解釈し、侵害と有効性を争い、米国内産業要件を立証する必要がある。
第2調査が加えたNVIDIAとBroadcomは、HBMやDDR5を自社ブランドで製造するSamsungとは供給網での立場が違う。USITCの通知は、争われるDRAMデバイスと部品に加え、それらを含むサーバー、コンピューティングシステム、ストレージシステムも対象品として列挙した。Netlistは、メモリメーカーからシステム設計者へ被申立人を広げ、完成品を含む輸入経路を調査対象に据えたことになる。
HBMの積層とDDR5モジュール、発行直後の2特許
第2調査の二つの特許は、申立て直前に発行された。米国特許第12,646,537号は2026年6月2日に、第12,650,937号は同月9日に発行され、Netlistは6月16日にITCへ申立てを提出した。発行から申立てまで、それぞれ14日と7日である。既存調査の補足資料という扱いではなく、新しい特許を根拠に別の調査を立ち上げる速さが際立つ。
第12,646,537号は、複数のDRAMアレイダイを積層し、制御ダイとシリコン貫通電極(TSV)で接続するメモリパッケージを記載する。請求項1では、TSV接続を複数グループへ分け、制御ダイからの信号をグループごとに同時駆動する構成が示される。積層が増えるほど信号を駆動する負荷は大きくなるため、接続と制御の分割は高速性、電力、信号品質に関わる。NetlistはこれをHBMに対応する特許と主張している。
第12,650,937号はメモリモジュールの信号インターフェースを扱う。異なる動作に対応する別々の信号インターフェースを、オープンドレイン出力を介して提供する構成が中心だ。NetlistはDDR5のRegistered DIMM(RDIMM)とMultiplexed Rank DIMM(MRDIMM)が対象だと説明する。こちらは積層ダイ内部の接続ではなく、サーバー向けメモリモジュールがホスト側と制御情報をやり取りする境界に関わる。
Netlistはこの2件について、ITC申立てと同時期にテキサス州東部地区連邦地裁でもSamsungとGoogleを提訴した。ITCで輸入救済を求め、地裁で金銭賠償を求める並行戦略とみられる。Netlistは過去にもSamsungとの地裁訴訟で、2023年に3億300万ドル、2024年に1億1800万ドルの陪審評決を得たとSECへ開示している。ただし、控訴、IPR、評決後申立てが続いており、確定・回収済みの金額ではない。
輸入差止めがAIサーバーへ及ぶ条件
ITCの337条調査は連邦地裁訴訟と救済が違う。USITCは金銭賠償を命じない。違反を認定した場合、指定した被申立人の製品を米国境で止める限定的排除命令や、米国内の在庫販売などを止める停止命令を出せる。排除命令は米税関・国境取締局が執行するため、輸入依存の高い半導体では強い交渉材料になる。
もっとも、調査開始は侵害認定ではない。Netlistは、対象製品が特許請求項を満たすこと、特許が有効かつ執行可能であること、保護される技術に関連する米国内産業が存在することを示す必要がある。Samsungなどは非侵害や無効性を争える。違反が認定された後も、USITCは公衆衛生に加え、米国の競争環境や国内生産・消費者への影響を検討する。命令の文言や適用除外も実際の影響を変える。
AIサーバーへの波及は、この救済範囲の設計に左右される。通知上の対象品にはHBMやDDR5 DIMMと、それらを搭載する完成システムが入っている。仮に侵害が認められても、メモリ部品を積んだ全製品が一律に止まるとは限らない。特許請求項と輸入品の対応、被申立人ごとの関与、非侵害品への切り替え可能性、公共の利益を踏まえて範囲が定められる。
二つの事件が突きつけるのは、メモリの競争軸がビット密度や帯域幅の公称値で完結しない現実である。キオクシア事件では、経年に応じて誤り訂正の強度を変える制御が2億ドルを超す評決につながった。Netlist事件では、HBMの積層接続とDDR5モジュールの信号制御が、GPU、サーバー、ストレージを含む輸入調査の入口になった。次の分岐点は、キオクシア事件の最終判決と控訴、第1ITC調査の2026年11月の審理、そして第2調査で設定される日程と対象製品の具体化にある。