Tesla Model 3の廉価グレードに積まれたCATL製リン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池が、走行10万kmを超えた車群で平均93.3%の健全度を保っていた。スウェーデンの中古EV販売会社Carlaが2026年7月8日に公表した実車検査の集計で、Panasonic52.4kWhパックの平均88.2%を5.1ポイント上回る。同じ車体で生じた差は、LFPが長寿命になりやすいという実験室の知見と重なる。ただし、電池の化学系が差を生んだと断定するには、公開データに足りないものがある。

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10万km超の四群を比べると、平均SoHに最大5.1ポイント差

Carlaは2022年から2026年までにスウェーデンで実施した9,954件の電池検査を分析した。そのうち走行10万kmを超え、十分な検査件数がある車種と電池仕様について、初期容量に対する現在の容量をState of Health(SoH)として比べている。Model 3を電池別に切り分けた結果は次の通りだ。

電池仕様 正極系 10万km超の平均SoH
CATL 60.5kWh LFP 93.3%
LG Chem NMC 91.5%
Panasonic 77.8kWh NCA 89.8%
Panasonic 52.4kWh NCA 88.2%

最上位と最下位の差は5.1ポイントである。LFPはLG Chemのニッケル・マンガン・コバルト(NMC)系にも1.8ポイント先行した。車体設計と熱管理の基本部分を共有するModel 3内の比較なので、別メーカーの車種を並べるよりも電池仕様の影響を捉えやすい。

一方、残存「率」と残っているエネルギー量は別物だ。60.5kWhのLFPパックが高い比率を保っても、77.8kWhのLong Range用パックより航続距離が長くなるわけではない。中古車を選ぶ際は、劣化率と同時に初期容量、車両効率、必要な一充電走行距離を見る必要がある。

Carlaの総合順位には、78.8kWhのLG Chem製パックを「新しいソフトウェア」の車群に絞った92.83%という数字も載る。電池別比較の91.5%とは母集団が異なるとみられるが、両者の関係は説明されていない。数字を転用するときは、電池メーカー名が同じでも車群の定義を混ぜられない。

LFPが長寿命になりやすい代わりに失うもの

LFP正極のオリビン型結晶では、強いP–O共有結合が骨格を支える。Inorganic Chemistryに掲載された材料研究は、この結合を高い熱安全性と関連付け、LiFePO4が優れたリチウムの出し入れの可逆性を示すと報告した。これは耐久性と整合する材料特性だが、Carlaが観測した車群間の差を化学系だけで説明する証拠ではない。Teslaの資料によれば、LFPパックはニッケルとコバルトを使わない。

代償はエネルギー密度だ。Teslaは2021年のImpact Reportで、NCAとNMCを高エネルギー用途、LFPを低エネルギー用途に振り分ける戦略を示した。Master Plan Part 3でも、標準航続距離の車両にはLFP、長距離向けには高ニッケル正極が必要だと整理している。Model 3のLFP仕様が高いSoHを示した事実は、長距離仕様の価値を消すものではない。距離と重量を優先する用途では、ニッケル系の高いエネルギー密度が効く。

また、LFPなら満充電で放置しても傷まない、という理解は正しくない。LFP/黒鉛セルを調べた2025年の研究では、保管温度が25℃から50℃へ上がり、充電率が50%から100%へ高まると容量低下が進み、温度の影響がより大きかった。Teslaも現在は一律の充電上限を示さず、車両の画面に表示される電池別の推奨値に従うよう案内している。

ニッケル系でも使い方によって劣化は変わる。2018年型Model 3から取り出したPanasonic製NCAセルの研究では、非常に高い領域と低い領域の狭い充電率範囲で繰り返すと劣化が速くなり、保管中は高い充電率ほど容量を失いやすかった。化学系は寿命に影響する一因だが、温度、充電率、充電出力も劣化速度を左右する。

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全車種9,954件の調査でも、化学系の勝利とは断定できない

Carlaが使ったAVILOO FLASH Testは、停車した車両から約3分で最大約1,000の信号を取得する。セル電圧と温度を読み、電池管理システムや充電履歴も統計モデルで評価する。メーカーのメーター表示を読むだけの検査ではない。だが、満充電から放電して実容量を直接測る試験でもない。

AVILOOは、完全な放電サイクルを使うPREMIUM Testとの参照測定で、少なくとも95%のケースが誤差±3ポイント以内に収まると説明する。これは1台ごとの試験精度であり、車群の平均差5.1ポイントが持つ不確かさではない。Carlaは電池群ごとの台数と平均車齢を公開していないため、統計的な有意差は判断できない。10万kmを超えた後の走行距離分布に加え、ばらつきと信頼区間も不明である。

車齢は特に効く。走行距離が同じでも、短期間に長距離を走った車と、長い年月をかけて到達した車では、充放電による劣化と時間による劣化の比率が違う。電池メーカーは生産年や容量と結び付いており、製造拠点とソフトウェアも同一とは限らない。今回の四群は、化学系以外の条件まで揃った対照実験ではない。スウェーデンの気候で得た平均値を、暑い地域の車へそのまま移すこともできない。

販売会社が選別した車両の集計である点にも注意が要る。CarlaはAVILOOに対応する販売車を検査し、不合格なら修理または電池を交換してから再検査すると説明している。公表資料からは、最初の不合格データや交換済みパックが集計にどう入ったか分からない。したがって、この結果は「検査された中古Model 3ではLFP群の平均SoHが高かった」ことを示すが、故障率や全車両の寿命を測ったものではない。

走行距離からSoHへ、中古EV査定の次の基準

中古EVの買い手にとって、今回のデータが示す実益はLFPという名称より個体検査の必要性にある。Teslaでは「コントロール」「ソフトウェア」「追加車両情報」からLFP搭載車か確認できる。対応車なら、充電率20%未満から5kW以上の交流充電器につなぎ、最大24時間かけるBattery Health Testで、新車時に対するエネルギー保持率を測定できる。

保証条件も確認したい。スウェーデン向けの現行保証はModel 3 RWDが8年または160,000km、Long RangeとPerformanceが8年または192,000kmで、期間内に最低70%の容量保持を定める。Carlaが集計した10万km超の車群平均はこの基準を大きく上回るが、平均は個々の車両を保証しない。SoH、電池交換歴、残る保証期間を一台ごとに揃えて初めて、価格差を評価できる。

運用履歴も価格に入る。Geotabが2026年1月に更新した22,700台超のテレマティクス分析では、平均劣化率は年2.3%だった。100kWを超える直流急速充電への依存度が高い車は最大年3.0%、交流または低出力中心の車は約1.5%で、暑い地域ではさらに年0.4ポイント速かった。電池の種類が同じでも、充電と気候が差を広げる。

欧州連合では、この情報格差を制度で埋める動きが始まっている。EU電池規則は2024年8月から、EV電池の健全度を判断する最新データを電池管理システムに保持するよう求めた。2027年2月18日以降に市場投入または使用開始されるEV電池には、化学系や個体別の健全度、充放電回数などを記録するバッテリーパスポートが必要になる。既存の中古車に自動で遡及する制度ではないが、走行距離と年式を中心に値付けする時代は終わりに近づく。

LFP群の平均93.3%は、購入時に電池仕様を確認する材料にはなる。最終判断を支えるには、Carlaが次に電池群ごとの台数と車齢を開示し、走行距離の分布と交換車の扱いも示したうえで、同じ年式と利用条件で5.1ポイントの差が残るかを確かめる必要がある。