Hachette Book Group、Cengage Learning、Elsevierの出版社3社と作家Scott Turowらは2026年7月10日、Geminiの開発で著作権を侵害したとしてGoogleをニューヨーク南部地区連邦地裁に提訴した。訴状が突くのは、AI学習の是非をひとまとめにした抽象論ではない。Google Booksなどに別の目的で蓄積した作品、Webから取得した文書、学習時に生じるコピーを分け、それぞれの段階で複製権を侵害したと主張している。Googleが長年築いた検索用の書籍データを、生成AIの競争資産として使えるのか。それが問われている。

訴状はGoogleの内部資料として、出版社提供の書籍をAIに使えば「100億1000億ドルの潜在的制裁金」が生じ得るとの警告も引用した。ただし、これは原告の請求額でも、裁判所が認定した損害でもない。原告が「Googleは法的リスクを把握していた」と主張するために引用した社内評価である。

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4本の請求に分解されたGemini訴訟

事件番号は1:26-cv-05870。原告にはScott Turowの著作権を保有するS.C.R.I.B.E.も加わり、同様の被害を受けた著者と出版社を代表する集団訴訟としての認定を求めた。対象には一般書や教科書に加え、Elsevierが扱う学術論文も入る。

57ページの訴状が立てた請求は4本ある。第1はGoogle Books、Google Play Books、Google Scholarなどにある作品の無断複製。第2はWebスクレイピングで取得した作品の複製、第3は学習工程で生じる複製だ。第4では、著作権表示や著者名、出版情報といった著作権管理情報を前処理で除去・改変したとして、デジタルミレニアム著作権法違反を訴えている。

この分け方には意味がある。AIモデルの学習が変容的な利用として認められても、元データをどこから、どの権限で入手したかという問題は残るからだ。さらに、取得した作品を高速ストレージへ移し、メモリーへ読み込み、トークン化し、新しいモデルを作るたびに処理し直す工程も、原告は別個の複製として数えている。

原告が求める救済も広い。違法行為の差止めと損害賠償に加え、GoogleがGeminiに使った書籍や論文を作品単位で特定し、収集・処理・符号化の方法を開示するよう求めた。侵害コピーと認定されたデータについては、裁判所の監督下での破棄も請求している。損害額は訴状で確定していない。

Google Booksの勝訴をGeminiへ広げられるか

Googleには書籍全文のデジタル化を巡る大きな勝訴がある。2015年、第2巡回区控訴裁判所はGoogle Booksについて、全文をコピーして検索可能にする行為をフェアユースと認めた。検索結果が示すのは短い断片であり、原著作物の購入を有意に代替しない。書籍に関する情報を見つけやすくするという目的も、元の作品を読む目的とは異なる。判決はこの組み合わせを重視した。

今回の原告は、その勝訴条件を逆に使う。Google Booksで認められたのは検索と断片表示のためのコピーであり、表現を生成する商用モデルの学習は別の目的だという主張だ。Geminiが教科書の章構成や本文に近い文章を返し、小説の要約や類似作品を生成した例も訴状に並べた。原告側は、検索への導線を作るGoogle Booksと、市場で作品の代替物を作り得るGeminiの違いを前面に出している。

一方、Googleは2025年4月に公表した方針で、オープンWeb上のコンテンツを使った基盤モデル学習は、米国法上の変容的フェアユースだとの立場を示した。米著作権局も、巨大で多様なデータセットから汎用モデルを作る行為は変容的になり得ると認めている。生成AIの学習だから直ちに違法になるわけではない。

それでも米著作権局は、一律の結論を退けた。作品とその取得元、利用目的をまず見る。そのうえで出力制御と市場への影響を評価すべきだとしている。今回の訴訟では、Google Books判決で決め手になった「市場の代替にならない」という条件を、Geminiの出力とガードレールが満たすかが争点になる。

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学習より前に、データの入手経路

訴状の強い部分は、Googleがすでに保有していたデータの利用目的を問う点にある。原告によれば、Google Play Booksへ渡した電子書籍は販売用、Google Scholarへ渡した論文は検索と正規アクセスへの案内用だった。AI学習の許諾は含まれない。訴状はGeminiの主任技術者の発言として、Googleは「すでに保有するデータのために契約はしない」と判断したとも主張する。

もう一つの取得経路がWebだ。訴状によると、LaMDAの学習データInfinisetは29億7000万文書で構成され、その12.5%に当たる約3億7100万文書がGoogleのC4データセットから来ていた。C4はCommon Crawlの文書をGoogleが選別したものだ。原告は、C4に著作権記号が2億回超現れ、Z-Libraryの旧ドメインをはじめ、米政府が海賊版市場として特定した少なくとも27サイトの文書が含まれていたと訴える。これらは今後、Google側の証拠と反論を経て検証される主張である。

別件の裁判では、入手経路を切り分ける考え方も示されている。2025年のBartz対Anthropic訴訟では、書籍をモデル学習に使う工程はフェアユースとされた。一方で、海賊版サイトから数百万冊を取得して中央ライブラリに保管した行為は、少なくとも略式判決の記録上はフェアユースと認められなかった。ただし、これはカリフォルニア北部地区連邦地裁の別件であり、ニューヨークの今回の裁判所を拘束する判断ではない。

米著作権局の政策報告も、取得元と用途によって結論が変わると整理した。非営利の研究や分析で、作品の表現を出力できない利用はフェアユースになりやすい。対照的に、海賊版から表現作品を取得し、ライセンスが現実に得られるのに、市場で競合するコンテンツを制限なく生成する利用は認められにくいとした。裁判所を拘束する文書ではないが、今回の訴状はGoogle Books、Web取得、学習という3つの入口を分け、その事例別評価に接続しやすい請求を組み立てている。

ISBNとDOIで作品単位の台帳を迫る

原告が提案するクラスの定義は具体的だ。ISBNを持つ書籍か、DOIまたはISSNを持つ学術論文のうち、米著作権局への登録要件を満たし、Googleのサービス、Webスクレイピング、Geminiの開発・学習のいずれかで無断複製された作品の権利者を対象とする。クラス認定には共通の事実と法的争点が多数の権利者に当てはまることを示す必要があり、この定義がそのまま裁判所に認められたわけではない。

ここで実務上の壁になるのが、作品単位のデータ来歴だ。Googleの現行Gemini 3 Proモデルカードは、公開Webとクローラー取得データ、商用ライセンスデータなどのカテゴリを開示している。ユーザーデータや社内で取得・生成したデータ、合成データも対象だ。前処理ではrobots.txtを尊重するとも説明する。しかし、どの書籍や論文を、どの根拠で、どのモデルに使ったかという一覧は公開していない。

Web運営者向けにはGoogle-Extendedがある。この制御トークンを使えば、自社サイトの内容を次世代Geminiの学習や検索グラウンディングに使わせるかを指定でき、通常のGoogle検索への掲載やランキングには影響しない。だが、Google BooksやPlay Booksへ過去に預けられたファイルの扱い、海賊版サイトに転載された作品、権利者とサイト運営者が異なる場合までは解決しない。

訴訟が証拠開示へ進めば、Googleはカテゴリ説明より細かなデータ来歴を示すよう迫られる。裁判所がまず判断するのは集団訴訟として扱える範囲であり、その先に、検索目的で得た作品を生成AIへ移す権限と、作品単位の記録をどこまで残すべきかという問題が待つ。Googleの答弁とクラス認定の判断が、Geminiの学習データ台帳を法廷へ引き出せるかを左右する。