中国の長鑫存儲技術(CXMT)が製造した24Gb DDR5を載せるKingBankの48GBキットが、ASUS ROG Crosshair X870E Apex上で8600 MT/s動作を記録した。ハードウェア情報を扱うUniko’s Hardwareが7月15日、ASUSのオーバークロッカーSafeDiskから提供された検証結果を公開した。AMDがRyzen 7 9800X3Dに定めるDDR5-5600を大幅に超える一例であり、CXMT製DDR5は8000 MT/s級でのプラットフォーム検証へ進んだ。ただし、報告は電圧を上げても伸びにくく、タイミングを詰めにくいとも指摘する。8600 MT/sへ届いたことと、同じ性能を量産キットで再現できることは分けて考える必要がある。

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6000 CL36の48GBキットが8600 CL44へ

検証に使われたのは、CXMTの24Gb、すなわち1ダイ当たり3GBDRAMを載せたKingBank製2枚組キットである。定格プロファイルはDDR5-6000、36-38-38-88、1.25V。容量は1枚24GB、合計48GBとなる。CPUにはRyzen 7 9800X3D、マザーボードには2スロット構成のROG Crosshair X870E Apexが使われた。

公開画像では、実クロックが4309.4MHz、DDR換算で約8619 MT/sに達している。手動設定は44-56-56-126、Command Rate 1Tだった。RunMemtestProは58分32秒動作し、平均カバレッジ110.19%を記録している。少なくとも、この個体と検証環境では8600 MT/s級でメモリーテストを一巡できた。

一方、これは製品保証を伴うDDR5-8600キットの検証ではない。画像に表示されたBIOSは7月13日付の「0802」で、ASUSが7月15日に一般公開したベータBIOS 2402とは番号が異なる。約59分のテストも、長時間運用や別個体の安定性までは保証しない。SafeDisk側から公開されたのは到達結果と所見であり、試した電圧範囲や温度、比較対象にしたSK hynix製キットの設定は明らかになっていない。

8600という数字では実効遅延を測れない

MT/sは1秒間のデータ転送回数を示す。周波数が上がれば理論帯域は増えるが、CPUが要求したデータを読み出し始めるまでの時間はCLやtRCD、tRPなどのタイミングにも左右される。クロック数を実時間へ直すと、今回の設定が何を改善し、何を残したかが見えてくる。

設定 CLの実時間 tRCD / tRPの実時間 tRASの実時間
DDR5-6000 36-38-38-88 12.00ns 12.67ns 29.33ns
DDR5-8600 44-56-56-126 10.23ns 13.02ns 29.30ns

換算式は「タイミングのクロック数×2000÷データレート」である。CLは12.00nsから10.23nsへ短くなった。しかし、tRCDとtRPは12.67nsから13.02nsへわずかに延び、tRASはほぼ変わらない。高いデータレートを得るためにクロック数を緩めた結果、帯域とCAS待ち時間は改善しても、行の選択やプリチャージに要する時間は縮んでいない。

SafeDiskの所見として、同じクロックではSK hynix製DRAMより遅いという評価も公開された。ただし、同一CPU、同一マザーボード、同一クロックで測った帯域、遅延、実アプリの数値は公開されていない。二次・三次タイミングやCPU側のメモリーコントローラー比率も結果を動かすため、現段階で差を何%と一般化することはできない。上の表から確認できるのは、今回のCXMT製キットを6000 MT/sから8600 MT/sへ上げた際に、CAS以外の主要な待ち時間がほぼ縮まっていないことだ。

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BIOSが押し上げた8000 MT/sの壁

CXMTは自社のDDR5について、16Gbと24Gbを展開し、チップの最高データレートが8000Mbpsを超えたと説明している。ここへマザーボード各社の調整が加わった。ASUSは7月15日、ROG Crosshair X870E Apex向けベータBIOS 2402を公開し、CXMT製チップとの互換性、メモリー性能、システム安定性を改善したと更新内容に記載した。

MSIも7月14日、Intel 800シリーズ向けの検証結果を公表している。2スロットのMEG Z890 UNIFY-Xでは、CXMTの24Gbチップを載せた48GB構成がDDR5-8600、46-56-56-134でMemTestのカバレッジ100%を超えた。4スロットのPRO Z890-S WiFiでも、32GB構成がDDR5-8200、44-56-56-132で同じ基準を通過している。

MSIによれば、Intel 800シリーズ向けにはCXMT用のBIOSメモリートレーニングとタイミング調整を施した。一方、同社はAMDプラットフォームでも、CXMT製DDR5に従来あった6800 MT/sの上限を専用調整で越えたと説明している。起動時に信号条件をDRAMの特性へ合わせる処理が進んだわけだ。周波数上限はDRAMダイだけで決まらない。基板の配線、DIMMスロット数、CPU内蔵メモリーコントローラー、BIOSが一体で動いた結果である。

メーカー自身も再現性には条件を付けている。MSIは、オーバークロック結果がCPUのメモリーコントローラー品質、モジュールとICのバッチ、システム構成で変わると明記した。Ryzen 7 9800X3Dの公式最大メモリー速度はDDR5-5600であり、8600 MT/sは保証範囲外の手動調整に当たる。ASUSの公開QVLも、プラットフォームの制約によって最大速度で動かない場合があると注意している。

ロット差を越えて小売製品にできるか

今回の報告で厄介なのは、SafeDiskがバッチ間のシリコン差を大きいと評価した点である。電圧を上げても周波数やタイミングが改善しにくく、ロットごとの適正設定が広く振れるなら、モジュールメーカーは選別を増やすか、販売プロファイルを保守的に設定しなければならない。記録用の1キットが8600 MT/sへ届いても、同じ型番を買った利用者が同じ設定を使えるとは限らない。

2026年7月16日の確認時点で、ROG Crosshair X870E Apexの公開QVLにはKingBankとCXMTの名前が見当たらない。ベータBIOS 2402はCXMT互換性の改善を掲げるが、対象キットや保証速度の一覧はまだ示していない。利用者が現時点で頼れるのは、製品に記載されたEXPOまたはXMPプロファイルと、マザーボードメーカーが公開するQVLである。DDR5-6000 CL36キットから8600 MT/sを引き出せるという期待で購入する段階ではない。

それでも、CXMT製DDR5を8000 MT/s級で扱えるプラットフォームが増える意味は大きい。Micronは6月の決算資料で、DRAMとNANDの需要が供給を大幅に上回り、逼迫が2027年を越えて続くと見通した。PC向けDRAMの供給元が増えれば、大手3社への依存を下げられる。ただし、供給量の拡大と高速品のばらつきを抑えることは別の課題である。

次の判定材料は、さらに高い一発の記録ではない。公開BIOSと複数の製造ロットで同じプロファイルを再現し、同一条件のSK hynix製キットと帯域、実効遅延、アプリ性能を比べられるかどうかだ。そこまで揃った時、CXMTの8000 MT/s超は実験室の到達点から小売製品の性能へ変わる。