TrendForceが7月8日に公表したメモリスポット価格の更新は、DRAMNAND Flashが別々の問題に直面していることを示した。DRAMでは取引量が伸びないまま、DDR3と4Gb DDR4のチップ価格が小幅に上がった。一方、NANDではサプライヤーが在庫を調整するために売り気配を緩めているにもかかわらず、買い手の調達姿勢が大きく弱まっている。

この違いは、メモリ相場を「AI需要で全部が上がる」と見るだけでは捉えにくい。DRAMでは、古い世代の部品を必要とする機器がまだ残る一方で、主要メーカーの能力は高付加価値のサーバー向け製品に向かいやすい。NANDでは、上流価格が高くなりすぎたことで、モジュールメーカーや端末側が追加在庫を抱えにくくなった。高値は続いている。だが、買い手の限界も表に出てきた。

AD

DRAMの小幅上昇が示す古い世代の圧力

TrendForceによると、DRAMスポット市場では多くの買い手が様子見を続け、全体の取引量はかなり限られている。それでも、DDR3と4Gb DDR4のチップ価格は前週から小幅に上がった。主流品とされるDDR4 1Gx8 3200MT/sの平均スポット価格は、7月1日の36.10ドルから7月7日の37.14ドルへ上昇した。上昇率は2.88%である。

7月8日18時10分(GMT+8)更新のTrendForceのDRAM価格表でも、世代ごとの温度差が出ている。DDR5 16Gb 4800/5600のセッション平均は47.067ドルで変化なしだった。DDR4 16Gb 3200は76.925ドル0.32%下がった一方、DDR4 8Gb 3200は37.34ドル0.54%上がった。DDR3 4Gb 1600/1866も12.825ドル0.59%上昇している。

小幅な数字に見えるが、意味は軽くない。旧世代DRAMは最新PCの主役ではないものの、産業機器やネットワーク機器、組み込み機器では簡単に置き換えられない。長期保守が必要な製品も同じだ。設計を変えるには部品を選び直し、基板も改める必要がある。その後に検証や認証が続く。価格が上がっても、必要な製品では買わざるを得ない。

しかも、旧世代品は需要が急増しなくても価格が動く。供給側がDDR5、サーバーDRAM、HBMに能力を振り向ければ、成熟世代の余力は細る。市場全体の取引量が薄い局面でも、特定の容量や世代だけが上がる理由はそこにある。7月のDRAMスポットは、旺盛な買いではなく、限られた供給を巡る局所的な締まりを映している。

NANDは値下げしても買い手が動かない

NAND Flashのスポット市場は逆の絵になっている。TrendForceは、サプライヤーが在庫調整のために売り気配を継続的に緩めていると説明した。ところが、買い手の在庫積み増しは極めて消極的になった。買い手は、どの注文でも受けるという段階を過ぎ、コスト許容の限界に達している。

512Gb TLCウェハーのスポット価格は、7月6日の週に2.87%下がり、19.293ドルになった。TrendForceの公開価格表では、6月29日14時40分(GMT+8)時点の512Gb TLCウェハーのセッション平均が19.862ドル、セッション変化率がマイナス1.03%だった。そこからさらに下がった形だ。

値下げがすぐ需要回復につながらない点が、今回のNANDの読みにくさである。下流のモジュールメーカーや端末メーカーは、上流部材が高くなった分を製品価格へ移しにくい。SSDやメモリーカード、USBメモリでは、消費者向け需要が強くない場面で値上げが通りにくい。スマートフォンやPC向けストレージも同じ圧力を受ける。売値に転嫁できないなら、安くなったウェハーを急いで積む理由も弱くなる。

つまり、NANDスポットの下落は供給が十分になったという合図ではない。むしろ、高値圏で取引量が細り、サプライヤーが在庫を動かすために価格を調整している状態に近い。TrendForceの関連レポート要約も、NAND Flashウェハー市場について、歴史的な高値が下流モジュールメーカーの利益率を大きく圧迫し、買い手が防御的な調達姿勢を取っていると説明している。

AD

契約価格の上昇鈍化とスポット安は同じ意味ではない

スポット価格と契約価格は、同じメモリ市場を見ていても役割が違う。スポットは、短期で足りない部品を調達する市場の温度を映す。契約価格は、PCメーカー、スマートフォンメーカー、クラウド事業者などが、数カ月単位で交渉する価格に近い。短期のNANDスポットが下がっても、端末メーカーの部材費がすぐ軽くなるとは限らない。

Tom's Hardwareは7月4日、TrendForceの第3四半期価格調査を基に、2026年第3四半期の汎用DRAM契約価格が前四半期比13〜18%、NAND Flash契約価格が10〜15%上がる見通しだと報じた。第2四半期に見られた約60%規模の上昇からは鈍化する。ただし、同記事は、鈍化の理由を供給改善ではなく、消費者向け電子機器メーカーが高いメモリ価格を吸収しにくくなったためだと説明している。

ここが7月8日のスポット更新とつながる。DRAMでは旧世代品の不足感が残り、NANDでは買い手が高値に耐えにくくなった。どちらも「価格が正常化した」とは言いにくい。上がる力と買えない力が同じ市場の中でぶつかっている。

AIサーバー向けの需要が強い限り、メモリメーカーは高採算のサーバーDRAM、HBM、エンタープライズSSD向けNANDを優先しやすい。その結果、PCやスマートフォン向けの部材は、全体の需給が緩んでいなくても品目ごとに違う動きをする。民生ストレージや産業機器向けの部材にも同じ選別が及ぶ。旧世代DRAMの上昇と512Gb TLCの下落は、同じ供給制約から派生した別々の症状である。

次に効くのは価格水準より取引量

次の判断材料は、価格そのものよりも取引量である。DRAMでは、DDR3や4Gb DDR4の小幅上昇が実需を伴うのか、それとも薄商いの中で限られた注文だけが価格を押しているのかを見る必要がある。前者なら、組み込み機器や長期保守品の部材費はさらに上がりやすい。後者なら、買い手の様子見が続く中で短期の振れにとどまる。

NANDでは、512Gb TLCウェハーの下落がどこで止まるかが目印になる。価格を下げても買い手が在庫を増やさないなら、サプライヤーの在庫調整は長引く。逆に、下流が受け入れられる水準まで下がれば、スポット市場には短期の買い戻しが入る。ただし、その場合でも契約価格や完成品価格まで下がるには時間差がある。

7月のメモリ市場で起きているのは、需給緩和の始まりではなく、買い手の選別である。DRAMでは必要な旧世代品を確保する動きが残り、NANDでは高値を前に調達を絞る動きが強まった。上流のAI需要が能力配分を縛る限り、相場は全面的にほどけない。下期の部材価格を見るには、平均価格よりも、どの世代で実際に注文が戻るかを追う必要がある。