2026年6月19日、Realta Fusionはウィスコンシン大学マジソン校(UW-Madison)との共同研究装置であるWHAMに直接エネルギー変換(DEC)装置を設置し、核融合プラズマ運転中に100ボルト前後・複数アンペアの電流を取り出すことに成功した。同社によれば、DECを核融合プラズマに適用した民間企業は世界で初めてだという。

DECとは、磁場によって閉じ込められた荷電粒子が持つ運動エネルギーを、熱を介さず静電ポテンシャルによって直接電気に変換するプロセスである。今回の実証では、WHAMの端部リング組立体の中心ディスクをシングルステージのDECコンバーターに置き換え、3枚の細かいメッシュグリッド(接地グリッド、電子反発グリッド、イオン収集グリッド)でロスコーンから漏れ出す荷電粒子を減速し、その運動エネルギーを電流として回収した。

磁気ミラー閉じ込めの歴史的な弱点は、両端から粒子が漏れやすいことにある。強力な磁場でその漏れを最小化することが従来のアプローチだったが、Realta Fusionは発想を逆転させている。高温超伝導(HTS)マグネットで十分なミラー比を実現して閉じ込め性能を確保した上で、それでも漏れ出す粒子の運動エネルギーをDECで回収する設計を採用することで、同社はミラー方式特有の粒子漏れを廃棄ロスから電力源へと転換しようとしている。

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WHAMとは何か

WHAMはRealta FusionとUW-Madisonが共同で運用する試験的な核融合装置であり、17テスラのHTS磁石を搭載した軸対称磁気ミラー炉だ。2024年7月にUW-Madisonのフィジカル・サイエンス・ラボ(ストートン、ウィスコンシン州)で初プラズマを達成している。現在のところWHAMはドイテリウム燃料のみを使用するプロトタイプスケール装置であり、今回のDEC実証で変換されたエネルギーの大部分はプラズマを維持するための投入エネルギーであって、核融合反応そのものから生じるものではない。

Realta Fusionは同社CEO Kieran Furlongのコメントとして、「DECについては長年大きな話をする人が多かったので、実際にやってみた」と述べており、最初の実証である以上にハードウェアとしての概念実証(proof-of-concept)であることを強調している。最高科学責任者Derek Sutherlandも「これは正味の電力生産でも核融合由来の大規模変換でもない。それらは将来のデバイスで達成すべきマイルストーンだ」と明示している。自社の主張の限界を公式声明で明確に区切るこのスタンスは、核融合業界での自社のポジショニングを考慮した戦略的なコミュニケーションでもある。

DECが核融合の経済性に与える影響

熱サイクルによる発電は、200年以上前から商業発電の主力だ。今日の火力・原子力発電所では熱エネルギーを蒸気タービンで回転力に変換し、さらに発電機で電気にするため、熱力学の第二法則による効率の上限がある。現在の蒸気タービンは最大でも45〜55%の熱電変換効率であり、残りは廃熱として失われる。

DECはこの制約を回避する。荷電粒子の運動エネルギーを静電場で直接電気に変換するため、Furlong CEOはこのプロセスの効率が90%を超えると試算している。ただし、これは将来のデバイスに対する推算であり、現時点での実証値ではない。

Realta Fusionが2030年代半ばに建設を目指す第一世代の重水素トリチウム(DT)核融合発電所では、核融合出力の80%が高エネルギー中性子に由来し、この部分は従来どおり熱サイクルを経由して電力に変換される。残り20%が荷電アルファ粒子由来であり、この部分についてはDECで回収する設計だ。会社の推算では、このDECの寄与によりコスト・パー・キロワットアワーが少なくとも10〜20%低下するとしている。

さらに同社は、DECが相対的にメリットをより多く発揮する応用として、触媒D-DやD-He3のような先進燃料サイクルへの可能性にも言及している。これらの燃料反応はDT反応と異なり中性子をほとんど生成しない(非中性子性)ため、核融合出力のより大きな割合が荷電粒子として放出される。中性子線量が少なければ材料損傷の問題も緩和され、またトリチウムの大規模育種設備も不要になる可能性がある。ただし、これらはDT炉よりもさらに高いプラズマ温度を必要とするため、現実的な開発タイムラインには別途の検討が必要だ。

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DECの歴史と今回の技術的位置づけ

DECは新しいアイデアではない。Lawrence Livermore National LaboratoryのRichard Postが1974年にこのコンセプトを提案して以来、1970年代の「ベネチアンブラインド」型コンバーター、1980年代のTMX装置、2008年のGAMMA 10装置など、学術・国立研究所レベルでは複数の実証がある。Realta Fusionの主張は、民間企業がDECを実際の核融合プラズマに適用したのが初めて、という点にある。

技術的な新規性という観点では、今回のWHAM実証は先行する学術的実証と質的に異なるものではない。電流の規模も電球数個を光らせる程度であり、実用的な電力規模とは大きな乖離がある。Realta Fusion自身もこの点を明言している。

この実証が持つ意味は、物理原理の発見よりも、商業化の文脈でのハードウェア実証という点にある。核融合企業がPhysicsマイルストーンからFundingマイルストーン、そして電力購入契約(PPA)や発電所経済性へと議論が移行しつつある現在の業界状況において、「実際に電流が流れた」という事実はナラティブとして機能する。

資金調達と競合との関係

Realta Fusionは2025年5月にFuture Venturesが主導する3,600万ドルのシリーズAを完了した。参加投資家にはMayfield、Khosla Ventures、Wisconsin Alumni Research Foundation、TitletownTechなどが名を連ねる。ラウンドはプラズマ物理の検証、プロトタイプエンジニアリング、施設計画への充当を目的としていた。

民間核融合の競争環境という観点では、Focused Energyのレーザー核融合に対する2億4,000万ドルのシリーズA、Thea Energyの平面マグネットステラレーターに対する1億ドルのラウンドと比較すると、Realta Fusionの調達規模は一回り小さい。ただし各社の技術アーキテクチャは異なり、調達規模の大小が技術的な優劣を直接示すわけではない。

Realta Fusionの差別化軸は、モジュール型・工場生産型の設計と、産業用熱・電力需要への適合性にある。大規模なトカマク型装置が想定するような大型発電所ではなく、産業用熱需要に応じる分散型の展開を目指す姿勢は、電力市場への参入戦略として独自の論理を持っている。CEO Furlongが化学エンジニア兼MBAというプロフィールを持ち、プラズマ物理者ではないことも、製造コストと市場適合性を優先するという同社の事業判断を反映している。

DECが磁気ミラー方式に固有の競争優位をもたらす理由は、炉の形状に起因する。トカマク型はドーナツ状のプラズマを密閉する構造であるため、粒子がリアクターの外に自然に出てくる「出口」が設計上存在しない。DECを適用するには、粒子をあえて閉じ込め領域から引き出す追加機構が必要になる。一方、磁気ミラーはロスコーンを通じて荷電粒子が自然に両端へ流出するため、その流れをそのままDECコンバーターに導ける。粒子漏れという固有の特性が、DECとの親和性を生む。

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スケールアップへの距離

今回の実証で明らかになった物理原理の妥当性は一歩前進だが、商業発電所との距離は依然として大きい。Realta Fusionが自社で示したロードマップでは、次のステップとして多キロワット、その先に多メガワットへのDECスケールアップを挙げている。これに加えて、DT燃料での持続的なプラズマ運転、中性子によるブランケットでのトリチウム育種、材料の中性子損傷への対応、発電所としての可用性と製造コストの実証、顧客との統合、規制対応といった課題が連なる。

DECの導入は、これらすべての課題が解決されることを前提として初めて効果を発揮する。プラズマ自体が発電所として持続運転できなければ、DECの効率議論は意味を持たない。今回の実証はDEC単体の技術実証であり、発電所全体の実証ではないという明確な限定の中でのみ評価されるべきものだ。

一方で、DT核融合を実現した場合の効率向上幅(コスト10〜20%削減)は、ベースロード電源として他の低炭素電源と競合するエネルギー市場において無視できない数値だ。この差異が市場での優位性につながるかどうかは、DECの実用化よりも先に、持続的なプラズマ運転・トリチウム育種・材料耐久性という三つの工学課題の解決にかかっている。