Thea Energyが、平面型の高温超伝導(HTS)磁石を試作室から生産ラインへ移す。米エネルギー省のARPA-Eは2026年7月9日、同社をSCALEUP Readyに選び、Thea Energyは7月27日に支援額が2,000万ドルだと公表した。資金の使途は核融合炉の運転ではなく、モジュール型HTS磁石の製造・試験能力を拡大し、米国初とする生産ラインを整えることにある。約300基の平面成形コイルを必要とする実証機Eosを前に、開発の難所が「1基を動かす」ことから「同じ品質で揃える」ことへ移った。

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2,000万ドルが買うのは約300基を揃える工程

ARPA-Eが7月9日に発表したSCALEUP Readyの対象は、Thea Energyと光コンピューティングを手がけるXscape Photonicsである。Thea Energyはニュージャージー州カーニーの製造・試験能力を増強し、モジュール型HTS磁石の国内生産ラインを整える。

SCALEUP Readyは、ARPA-Eの支援で技術を育てた組織を商用規模へ進める枠組みである。今回の選定でも審査されたのは、技術の成熟度と商業的に拡張できるかどうかだった。Thea Energyの平面コイル技術は同庁のBETHE核融合プログラムから発展しており、今回の資金は研究原理の探索よりも、安定した歩留まりで繰り返し作る工程へ向かう。

同社によれば、直近約2年でコイル設計を100回以上更新した。次のEosには約300基を使う計画である。数百基を同じ仕様で揃えるには、単機の合否に加えて製造時間、受け入れ検査、手直し率を管理しなければならない。これらが装置全体の日程と費用を決める段階に入った。

Thea Energyは5月に1億ドルのシリーズBも調達している。公的資金は、同社が内製する炉部品を国内の供給能力へ育てる。ただし、生産能力、1基当たりの費用、目標歩留まりは開示されていない。稼働開始日や社外顧客からの確定受注も不明である。「生産ラインを作る」という選定と、ラインが商用品を安定出荷する状態の間には、まだ距離がある。

ステラレーターの複雑さを磁石から制御へ移す

ステラレーターは、プラズマに大電流を流さず、外側の磁石でねじれた磁場を作る。大きなプラズマ電流に頼るトカマクより、定常運転に向き、電流が引き起こす急激なプラズマ崩壊も避けやすい。その代わり、良好な閉じ込めを得る三次元磁場を、複雑に曲がった高精度のコイルで実装してきた。

この製造負担は歴史に残っている。プリンストン・プラズマ物理研究所(PPPL)のNCSXは、複雑な部品形状と厳しい公差から費用と日程の見通しが悪化し、2008年に中止された。モジュラーコイルには、装置上で±1.5ミリ以内に収める配置精度が求められていた。ドイツのWendelstein 7-Xは運転で成果を上げているが、5つのモジュールに50基の非平面超伝導コイルと20基の平面コイルを組み込む建設は、大型ステラレーターが特注品の集合体になる難しさを物語る。

Thea Energyは、プラズマを囲む大きな平面コイルと、その外側に敷き詰める小さな平面成形コイルを組み合わせる。各成形コイルへ別々の電流を流し、合成磁場で必要な三次元形状を作る。DOEの説明を借りれば、複雑さを「曲がりくねったコイル」から制御系へ移した設計だ。円形で平らなコイルなら、テープ状のREBCO超伝導材を張力をかけながら巻きやすく、同じ部品を繰り返し作れる。

ソフトウェア制御には別の利点もある。製造や組み立てで生じた誤差を計測し、コイルごとの電流で磁場を補正できれば、金属部品だけで理想形状を作り込む公差を緩められる。保守時には平面コイルを取り外しやすくし、大きな炉セクターをコイルの間から抜く設計にもつながる。もっとも、数百の電源と低温配線を束ね、電磁力に耐え、故障時に保護する仕事は消えない。複雑さの置き場所が変わるのである。

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9基のCanisと6Tコイルが証明した範囲

公開された実験で最も具体的なのは、9基の小型HTSコイルを3×3に並べたCanisである。Thea Energyは20Kで配列を動かし、コイル面から25センチ離れた平面上の磁場を予測値の±1%以内に制御した。平らなコイル群で、ステラレーターに必要な不均一磁場を再現できるという基本命題には、実機データがある。

Canis論文は試験の境界も明記している。この9基は正味のトロイダル磁束を作れず、磁力線が閉じた面をたどる状態や準対称性を再現していない。電流と磁場の勾配はEosに似せたが、構造、冷却、電源を実機並みの密度で組み込む試験でもなかった。したがって、Canisが確かめたのは磁場を局所的に成形する能力であり、プラズマを閉じ込める統合ステラレーターではない。

2026年5月には一段大きな前進があった。Thea Energyは、Eosと同じ寸法、電流、磁場条件を狙った成形コイル1基を20Kで運転し、6Tを超える磁場を制御したと発表した。小型配列で制御精度を確かめ、実寸コイルで電流と磁場を確かめたわけだ。

残る試験は重い。高温超伝導体が一部で常伝導へ移るクエンチにコイルが耐えるか、製造ばらつきや欠陥があっても制御できるか、約300基を同時に動かしたときに電磁力と熱を処理できるかを確かめる必要がある。Thea Energy自身も、実寸コイルのクエンチ耐性と追加のデジタルツイン検証を今後の課題に挙げている。

生産ラインの先に残る三つの試験

米エネルギー省が2026年6月にまとめた核融合科学技術ロードマップは、HTS磁石の製造技術を国内供給網の戦略項目に掲げた。そこで求めているのは製造量の拡大に加え、REBCOテープを中性子照射したときの特性である。臨界電流、交流損失、接合部性能には共通基準も要る。Thea Energyのラインは「作れる量」を増やす。一方、発電炉で長く使えると認めるには、放射線と故障を含む「使える条件」の標準化が要る。

計画中の発電炉Heliosは、この隔たりの大きさを示す。2025年末に公開された前概念設計では、12基の大型周回コイルと324基の成形コイルを使い、コイル上の最大磁場を20Tに抑える。設計計算上は熱出力1.1GW、正味電気出力390MW、設備利用率88%、コイル寿命40年以上を見込む。しかし、これらは建設前の設計値であって、運転成績ではない。

まず問われるのは、生産ラインの年間能力である。歩留まりと1基当たりの検査時間が、Eosの建設日程に直結する。次に、実寸コイルがクエンチと中性子照射に耐え、数百基の電源・冷却系と共存できるか。そして2030年の稼働を掲げるEosで、約300基が一つの閉じた磁気面を作り、長時間のプラズマ運転へ到達できるか。そこまで進んだ時、平面磁石はステラレーターの製造問題を解く手段として評価できる。