『ゼノギアス』をゲームエンジン「Godot」で再構築する非公式プロジェクト「Xenogears Atlas」が、ラハン村を中心とする開発映像を公開した。開発者は原作ディスクのデータを読み解き、地形や会話、イベントの動きをPC上へ戻そうとしている。まだ序盤を形にしている段階だが、その方針には、懐かしい場所を歩けるようにする以上の細やかさがある。キャラクターが言葉を発するまでの「間」も含め、あの旅の感触をどう受け継ぐかという試みだ。

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ラハン村から戻す、あの旅の手触り

 

開発者のOk-Bed3203氏は2026年9月8日、Redditへの投稿で、イントロからラハン村、シタンの家へ向かう道までの進捗を報告した。会話やアイテムの扱いに加え、ステータスや装備も動作すると説明している。ただし、細部には未解析の箇所が残るという。

先に公開された開発動画の説明は、ラハン村と建物の内部、原作のカメラ挙動を使った探索、イベントの命令に従うカットシーンを紹介している。ギアの登場場面や戦闘に関わる演出、冒頭の一連の流れには開発途中の表記もある。村を再現できたことと、戦闘を含む全編の完成は分けて受け止めたい。実際、開発者は投稿への返信で、戦闘エンジンにこれから取りかかると述べている。

とりわけ心に留まるのが、会話の表示に関する説明である。開発者は、原作の会話が持つ間合いを確かめるため、タイマーに従ってテキストを組み立てる処理を扱っていると書いている。ウィンドウの見た目は今後調整する部分があるが、まず原作の状態を把握することを優先している。

台詞が同じでも、文字が現れる速さや次の動作までの時間が変われば、場面の印象は変わる。ラハン村を再び歩けることへの喜びと、そこで過ごす時間まで大事にしてほしいという願いはつながっている。Atlasの原作重視の方針は、そうした期待に応えるものだ。

原作のデータをGodotで動かす

Atlasは、原作ディスクから取り出したデータと、解析したゲームの処理を組み合わせて、Godotの中に場面を再構築するという。開発者が対象に挙げているのは、歩ける地形やキャラクターのアニメーション、音楽が鳴り始めるきっかけなどだ。カメラの移動とカットシーンのタイミングも含まれる。

マップの形やキャラクターの画像を取り出しただけでは、ゲームは動かない。どの条件で会話が始まり、どこへ人物が移動し、いつ次の場面へ進むのか。それを指示する処理を読み解き、新しいエンジンでも実行できるようにする必要がある。Atlasが説明する再構築では、原作のデータが見た目と動作の両方の基準になる。

Godotへ移すことは、原作の開発環境をそのまま手に入れることを意味しない。開発者は元のエンジンの処理を研究し、作り直した場面を原作と照合するという方法を取っている。「データから確認できないものは採用しない」という方針も掲げる。ただし、これは開発の基準であり、全場面の正確さが第三者によって検証済みだという意味ではない。

この順序は、将来の高画質化を考えるうえでも筋が通る。先に原作の挙動を把握しておけば、画像を差し替えた際にどこが変わったのかを確認しやすくなるからだ。開発者も現段階では画質の向上を行っていないと説明しており、まず原作に忠実に動かすことを優先している。

さらに、動画の説明は、元のエンジンがどう働いていたかを理解し、記録に残すことも目的に挙げている。遊べる形へ戻す過程が、作品の仕組みを後から調べるための知識にもなる。Atlasが目指す保存には、画面に映る成果と、その画面を動かす知識の両方がある。

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Noahとは何が違うのか

『ゼノギアス』の処理を解析し、別の環境で動かす先行例には「Noah」がある。同プロジェクトは米国版を基に、ゲームの処理をC++で再実装する取り組みだ。元のプログラムと同じ機械語を再現することを目的にせず、複数の環境で動くことを意識していると説明している。

AtlasはGodotで原作の動作を再構築し、NoahはC++でゲームの処理を再実装する。いずれも開発中であり、完成したPC版として扱うことはできない。

比較する点 Xenogears Atlas Noah
実装方法 原作のデータと処理を解析し、Godotで場面を再構築 米国版の処理をC++で再実装。音源チップはエミュレート
公表された進捗 ラハン村などの序盤を報告。戦闘はこれから実装を進める段階 一部を遊べるが、未実装の機能により進行できない箇所がある
環境の説明 PC向けの計画。告知には詳細な対応環境の記載なし WindowsとLinuxで動作するとREADMEに記載
原作データ 原作が必要。ゲームファイルは配布しない方針 利用者が原作を用意。ゲームデータは同梱しない

比較は2026年9月10日に確認したAtlasの動画説明・開発者投稿と、NoahのREADMEに基づく。方式と自己申告の進捗を並べたもので、完成度や性能を測った比較ではない。両者のコード共有や協力関係も確認できないため、別の取り組みとして扱う。

Noahの存在を踏まえると、今回の新しさは「ついにPCで動かす方法が生まれた」と一括りにはできない。Atlasは、Godotで原作の場面を組み直す道筋と、その序盤の進捗を示した。その方法でどこまで原作を再現できるかが見どころになる。

利用条件も、開発映像とは別に確かめておきたい。Atlasは非商用のファンによる保存活動であり、スクウェア・エニックスとは無関係で、公認も受けていないと明記する。原作が必要で、ゲームファイルは配布しないという方針だ。今回の告知には完成版の配布日や日本語版への対応が示されておらず、手元の環境ですぐ全編を遊べる段階とはいえない。

Disc 2への期待と、いま守ろうとしているもの

開発者はDisc 2にも取り組みたいと述べる一方、そこへ至るにはまだ距離があるとしている。解析が安定した後には、共同作業用の仕組みを整え、追加の内容にも取り組みたいという。現時点では将来の構想だ。原作の処理を復元することと、新たな場面を創作することは別の作業であり、「Disc 2を補完した完全版」が決まったわけではない。

それでも、原作を未来へつなごうとする動きには胸が熱くなる。『ゼノギアス』は1998年2月11日に発売された。スクウェア・エニックスの公式製品ページには、PS3・PSP向けの2008年、PS Vita向けの2012年のゲームアーカイブスも記録されている。原作が最初のPlayStationから一度も外へ出なかったわけではない。そうして受け継がれた作品を、さらに先の環境へ運ぼうとしているのが今回の試みだ。

フェイとエリィの出会いから、神話の時代へ連なる物語へ。公式の紹介文にも残る、輪廻や再生をめぐる大きな問いは、この作品を忘れがたくする理由の一つだ。そして物語への入口には、村を歩き、人と言葉を交わす時間がある。大きな筋書きと小さな仕草を一緒に残そうとするからこそ、ラハン村から始まる再構築に意味がある。

当サイト「XenoSpectrum」というサイト名にも、この作品への愛着が込められている。だからこそ、原作を大切にする手つきには目を向けたい。光田康典氏は2018年の20周年コンサートに寄せて、作品を皆と再認識し、記憶を共有する時間を願っていた。音楽を通して思い出へ戻る道があるように、ゲームの動作を読み解いて残す道もある。もちろん、同氏の言葉はコンサートへのもので、Atlasとの関係を示すものではない。

Atlasがこれから越えるべき山は、戦闘やワールドマップを実装し、場面をつないで旅を進められるようにすることだ。その積み重ねの先で、フェイたちの物語を初めて体験する人にも、長く待ち続けた人にも、あの世界へ入る新しい扉が開くことを願っている。