米テキサス大学オースティン校などの研究チームが、石炭灰に含まれるレアアースの資源評価を、全国規模の総額から地域ごとの採算へと進めている。2024年の研究が示した970億ドルという潜在価値に対し、2026年3月公表の湾岸地域の研究では、回収対象の価値は灰1トン当たり約4.40ドルと試算された。豪州では回収率90%超の実証も公表され、捨てられた灰を供給源に変える技術は進むが、巨大な資源総額と利益の出る事業の間には距離がある。灰から何を、どれだけの費用で取り出し、誰に売るかが実用化を左右する。
84億ドルと970億ドルを分ける元素の範囲
970億ドルの根拠は、Robert C. Reedy氏やBridget R. Scanlon氏らが2024年9月17日に公表した査読論文である。米国の発電所に関する統計と、既存研究の元素濃度を組み合わせ、石炭灰から回収できる資源の規模を見積もった。新たな鉱床を掘り当てたという話ではなく、すでに地上にある廃棄物を資源として数え直した研究だ。
論文の発電所別の評価では、1972〜2021年の配送・灰処分データを用い、アパラチア、イリノイ、パウダーリバーの各盆地で採れた石炭に由来する灰を対象としている。価値を計算する際には、取り出せる場所に残っている灰の割合を69%とし、さらに地域別の抽出率を掛ける。そのうえで、回収対象を酸化物の量に換算し、2020年の価格で評価した。
この計算には、数える元素が異なる2つの金額がある。
| 評価する元素 | 抽出率などを織り込んだ推計価値 |
|---|---|
| ランタノイド | 84億ドル |
| ランタノイドにイットリウムとスカンジウムを加える | 970億ドル |
レアアースは通常、ランタノイドにイットリウムとスカンジウムを加えた17元素を指す。一方、この論文はランタノイドをまとめた値と、残る2元素を足した値を分けている。「約1,000億ドル」は後者を丸めた表現だ。
イットリウムとスカンジウムの追加分は886億ドルで、970億ドルの約91%を占める。 論文の同じ条件による2つの評価額から、970−84=886、886÷970で算出できる。磁石材料として注目されるネオジムなどの価値だけで、総額が膨らんでいるわけではない。
さらに、高価な元素が大量にあっても、その量を同じ価格で売れるとは限らない。米地質調査所(USGS)は、2025年の世界の酸化スカンジウム消費量を約60トンと推定している。主な用途は航空機向け合金や固体酸化物燃料電池だ。こうした市場の大きさを考えると、過去の単価で評価した在庫総額を、そのまま将来の売上高とみなすことはできない。
970億ドルは、回収費用や設備投資を差し引いた利益でも、2026年の市況で再評価した額でもない。どの資源を詳しく調べるかを決めるための概算である。
灰の濃度より、溶かして取り出せるか
石炭灰は、元の石炭よりレアアースが濃くなる。燃える成分が失われ、元素が灰に残るためだ。ただし、濃くなれば取り出しやすくなるとは限らない。燃焼でできた鉱物やガラス状の物質の内部に元素が取り込まれると、薬液が触れるだけでは十分に溶け出さない。
2024年論文では、アパラチア由来の灰はパウダーリバー由来より元素濃度が高い一方、計算に使った抽出率は前者が30%、後者が70%と逆転している。東部の灰ではケイ素とアルミニウムを含むガラス状物質が抽出を難しくする。パウダーリバーの灰はカルシウムが多く、比較的抽出しやすいという。原料の評価には、濃度と元素の存在形態を合わせて調べる必要がある。
2026年の湾岸研究は、この違いを別の角度から確かめた。研究チームは、褐炭などに関する118試料分の分析データを集めたが、抽出試験を実施したのは石炭5試料と灰1試料である。同じ希薄な塩酸を使った試験では、灰から抽出できたレアアースとイットリウムの割合は中央値3%にとどまり、石炭より大幅に低かった。118か所の灰で同じ抽出率を実証した結果ではない。
この点は、米国内の別の灰に技術を移す際にも効いてくる。ある発電所の灰で高い回収率を出しても、石炭の産地や燃焼条件が変われば、同じ薬液と工程で再現できるとは限らない。発電所に残る灰を実際に採取し、処理方法を合わせ込む工程が要る。
湾岸研究が示した1トン約4.40ドル
Scanlon氏らの2026年の査読論文は、湾岸地域の灰に含まれる回収対象を、中央値で1トン当たり約4.40ドルと評価した。2024年の希土類酸化物価格を使い、ランタノイドとイットリウムを対象に、灰からの抽出率を30%と仮定した値だ。先ほどの希薄な塩酸による灰の抽出試験とは条件が異なり、30%は価値評価のために採用した仮定である。
灰の量を約2億5,800万トンとして計算すると、総額は約12億ドルになる。ただし、全国評価の970億ドルにこの金額を足せば、新しい全米合計になるわけではない。価格の基準年も、集計する元素の範囲も違うからだ。
1トン約4.40ドルという数字は、事業を考えるには総額より切実である。そこから原料を運び、薬液で処理し、製品を仕上げる費用を賄わなければならない。しかも論文が計算に使うのは、元素ごとに分離された酸化物の価格だ。灰から混合物を取り出した時点で、その価格を実現できるわけではない。
一方、元素ごとの価値を分けると、開発すべき製品も見えてくる。この湾岸研究では、磁石に使うネオジムとプラセオジム、さらにテルビウムとジスプロシウムが、灰の回収対象の評価額の約80%を占めた。これは元素の質量割合ではなく、酸化物としての価値の割合である。同じ「レアアース回収」でも、取り出した総重量を増やすことと、買い手が求める磁石材料を増やすことは別の目標になる。
研究者らが想定する現実的な経路は、既存事業との組み合わせだ。褐炭なら活性炭などの製造と併せて元素を回収する。灰なら、資源回収の収入で汚染対策や処分場の修復費用を一部賄う可能性がある。金属の販売だけで新しい処理設備の全費用を負担する事業と、すでに必要な廃棄物処理に回収工程を組み込む事業では、採算の条件が変わる。
回収率90%超を支える薬液と実証規模
豪Monash大学は2026年5月14日、Sankar Bhattacharya教授らの技術について、実証で90%超の回収率を達成し、毎時100リットル規模のパイロット実証を進めていると発表した。高い回収率を実験室の外へ持ち出す進展だが、リットル毎時は液量の指標である。これだけでは、毎時何トンの灰を処理できるかも、年間に何トンの製品を売れるかも決まらない。
同じ研究者らによる、2026年5月26日オンライン公開の査読論文は、有機カルボン酸を用いた抽出条件を報告している。著者公開の抄録によると、対象は低品位の褐炭フライアッシュ3試料。クエン酸濃度1.31 mol/L、温度90℃、反応時間4時間、灰と液の比率1g対50mLという条件で、54〜100%の回収率を得た。さらに250倍の規模でも同程度の結果を得たという。大学発表のパイロット運転と、この論文の試験を同一条件の結果として扱うことはできない。
固体と液体の比率には、回収率と同じくらい注意を払いたい。灰1gに対して液50mLなら、単純換算で灰1kgに50リットル、1トンに5万リットルの液が対応する。これは試験の仕込み比率を換算したもので、1トン処理するたびに5万リットルの水を新しく消費する、という意味ではない。薬液をどの程度循環させられるかで、新規の水や試薬の必要量は変わる。
それでも、液を加温して一定時間反応させる工程には設備とエネルギーが必要だ。クエン酸を使うことの利点を事業として確かめるには、回収率を維持しながら薬液を繰り返し使えるか、不純物が蓄積したときにどのように処理するかまで測らなければならない。有望な抽出条件が見つかったことと、連続運転で製品単価を下げられることの間に、次の開発課題がある。
国内供給を増やすには精製先と残った灰の使い道が要る
米国では、すでに鉱石由来のレアアースを国内で分離する事業が動いている。MP Materialsは2026年4〜6月期に、分離済みネオジム・プラセオジム製品の生産量840トンを報告した。米国に精製能力がまったくないという説明は、現在の状況には合わない。
石炭灰からの回収は、こうした生産実績を持つ既存事業と並んで評価されることになる。ただし、既存の精製設備がどんな灰由来の混合物でも受け入れられるとは限らない。取り出した元素の組成や不純物を確かめ、必要な純度まで分離する工程と買い手を確保して、初めて国内供給の一部になる。地上にある原料の総量から、そのまま輸入代替量を引き出すことはできない。
灰の扱いにも出口が必要だ。米環境保護庁(EPA)は、石炭灰にヒ素や水銀、カドミウムが含まれ、不適切な管理で水などを汚染するおそれがあると説明している。レアアースを取り出せば、残った灰も無害になるわけではない。回収後の固体と廃液をどう管理し、残材を建材などに利用できる品質へ整えられるかも、事業の費用と環境効果を左右する。
今後の実証で確かめたいのは、実際の灰を連続処理したときの製品量と純度、薬液を再利用した後の費用、残材まで含めた販売・処理先である。これらを既存の廃棄物処理と組み合わせて採算を示せれば、長年積み上がった灰は、環境修復の費用を一部賄いながら国内の材料供給を増やす原料になり得る。



