Rapidusという社名を聞くたびに、量産実績のない会社になぜ巨額の税金が投じられるのか、腑に落ちない方も少なくないはずだ。実際にRapidusは半導体の量産ラインを一度も動かしたことがないまま、TSMCやSamsung、Intelと同じ最先端の2ナノ世代に挑もうとしている。民間8社が出資のみで積み上げた73億円に対し、政府が計画する出資と研究開発支援の合計支援総額は2.9兆円で、その差は397倍に達する。この非対称な賭けを支えているのは、量産経験の欠如そのものを別の手段で置き換える3つの迂回策だ。IBMらからの技術輸入、TSMCとは異なる生産方式の採用、そして国家規模の資金投入である。

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8社73億円と政府2.9兆円、量産経験ゼロの企業に積み上がった賭け金

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北海道千歳市に完成した工場では、半導体の量産ラインが一度も回ったことがない。Rapidus株式会社は2022年8月10日、トヨタ自動車、ソニーグループ、NTT、ソフトバンク、NEC、デンソー、キオクシアの7社が各10億円、三菱UFJ銀行が3億円を出し合う形で設立された。出資総額はわずか73億円で、経済産業省は同年11月11日、研究組織LSTC(技術研究組合最先端半導体技術センター)の設立と合わせてRapidusを国内の製造基盤の担い手に選定したと発表した。会長には東京エレクトロン元社長の東哲郎氏、社長には元SanDisk幹部の小池淳義氏が就いている。

出資した8社のうち7社は、半導体を安定調達できるかが自社の競争力に直結する企業だ。トヨタ自動車とデンソーは自動運転や電動化の分野で先端半導体の需要を抱え、ソフトバンクとNTTはデータセンター向けの需要を抱える。ソニーグループはイメージセンサー、キオクシアはメモリの担い手であり、いずれも半導体の使い手として名を連ねた。金融機関である三菱UFJ銀行は、資金供給の側面からこの布陣に加わっている。

この73億円という民間出資に対し、政府は2027年度までに研究開発支援と出資を合わせて2.9兆円を投じる計画を掲げている。単純に比べれば数百倍規模の開きだが、正確な倍率と内訳は出資と研究開発支援の流れをたどるとハッキリする。額はいまも更新され続けている。

Rapidusが目指すのは、TSMCやSamsung、Intelが数十年かけて積み上げてきた最先端2ナノ世代の量産だ。目標時期は2027年度後半に定められている。量産経験のない企業が世界最先端のプロセスにいきなり挑むという組み合わせが、日本の半導体政策における最大の賭けとなっている。

半導体の量産とは、試作品を1つ完成させることとは意味が異なる。同じ設計のチップを数千枚、数万枚と焼き続けながら、欠陥の出方や装置ごとのばらつきを収集し、歩留まりを引き上げていく反復作業を指す。TSMCやSamsungはこの反復を数十年にわたり、数百万枚単位のウェハーで積み重ねてきた。

Rapidusにはこの蓄積が存在しない。この反復には巨額の設備投資と長い年月がかかるため、後発企業が同じ道をなぞって追いつくことは事実上できない。だからこそ量産経験という土台そのものを、別の手段で置き換える必要が生じている。

世界シェア50.3%から7%へ、日米摩擦と水平分業の乗り遅れが刻んだ36年

内閣府の資料によれば、日本の半導体産業は1988年に世界シェア50.3%でピークを迎えた。世界で作られる半導体の半分以上を日本企業が担っていた時代だ。経済産業省の資料は2024年時点のシェアを7%としている。ピークからの下落幅は43.3ポイントに及ぶ。

転落の引き金は日米摩擦だった。米半導体工業会(SIA)は1985年6月14日、日本市場での参入障壁を問題視し通商法301条に基づき提訴した。同月24日には米Micron Technologyが日本製DRAMのダンピングをUSTR(米国通商代表部)に別途提訴し、これらを受けて1986年9月2日に日米半導体協定が締結された。協定は日本市場における外国製半導体のシェア拡大や公正な価格での輸出を求める内容で、日本メーカーの拡大戦略に制約をかけた。

協定と同じ時期に、業界の勝ち筋そのものが変わり始めていた。設計から製造まで自社で抱え込む垂直統合モデルに日本各社がこだわり続けた一方、1987年設立のTSMCは製造だけを請け負うファウンドリという水平分業モデルを打ち出した。設計会社は工場を持たずに済み、TSMCは複数の顧客の注文をまとめて大量生産することで固定費を分散できる。日本の総合電機メーカーは自社製品向けの生産能力を優先し、この分業への転換で後れを取った。

垂直統合の限界を象徴したのが、NECと日立製作所のDRAM事業を統合して1999年に発足したエルピーダメモリだ。政府の後押しを受けた国内唯一のDRAM専業大手で世界シェア3位につけたが、2012年2月27日に会社更生法を申請した。負債額は約4480億円で製造業の倒産としては過去最大となり、翌年に米Micronへ買収された。

垂直統合が当初から誤りだったわけではない。1980年代のDRAM市場では、設計から製造、品質管理までを1社が一貫して担うことで歩留まりと品質を安定させやすく、これが日本メーカーの強みになっていた。潮目が変わったのは、半導体の用途が汎用メモリからロジック中心へと広がり、多品種の設計に対応できる水平分業のほうが投資効率で優位に立ち始めてからだ。日本各社はこの転換点で自前の生産能力を優先し続け、TSMCのような専業ファウンドリに主導権を譲った。

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TSMCと同じ土俵で戦わない。全枚葉処理という生産方式の作り替え

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「TSMCとは異なる分野とマーケットを作っていくことができます」。Rapidus社長兼CEOの小池淳義氏はこう断言している。量産実績で並べない以上、同じ基準で比べられる土俵を避け、生産方式そのものを作り替える判断をした。

その生産方式がRUMS(Rapid and Unified Manufacturing Service)と呼ばれる仕組みだ。設計、前工程、後工程を1社で一気通貫に統合し、ウェハーを1枚ずつ処理する「全枚葉プロセス」で個々のデータを収集する。集めたデータをAIで解析し、工程を制御しながら歩留まりを改善していく。

TSMCなど従来型ファウンドリでは、ウェハーを25枚単位の「ロット」にまとめて搬送・管理するのが業界標準だ。露光や成膜など個々の装置では1枚ずつ処理する枚葉工程も珍しくないが、工程間の搬送や進捗管理そのものはロット単位で行われる。ロット単位の管理は大量生産の効率化に向く一方、1つのロットに異常が起きれば25枚分の損失が同時に発生しうる。

Rapidusが掲げるRUMSは、この搬送・管理の単位そのものを1枚ごとに置き換え、全工程を通じて1枚ずつの測定データを個別に紐づけて解析する体制を設計思想の中心に据えている。従来型ファウンドリもAIを使った装置・工程制御でデータ収集を進めているとされるが、Rapidusは異常が起きた工程や装置をより早く特定でき、多品種少量の受注や短納期のニーズに応えやすいと説明している。

前工程のターンアラウンドタイムを従来型ファウンドリの半分未満にすることをRapidusは目標に掲げているという。量産実績の蓄積がなくても、注文から納品までの速さで顧客を獲得できれば、TSMCと同じ物差しで比較される不利を避けられる。RUMSという土俵の作り替えは、この逆転の発想に支えられている。

経験不足を外部から輸入する。IBM、imec、ASMLとの技術総動員

Rapidusは2022年12月、IBMと2ナノノード技術の共同開発で戦略提携を結んだ。契約に基づき、Rapidusのエンジニアは米ニューヨーク州にあるIBMの研究開発拠点Albany NanoTech Complexに入り、IBMの技術者と共に技術を学んでいる。量産経験という土台がない以上、まず既存の知見を持つ相手から技術を移植する道を選んだ。

技術を教える立場のIBM自身も、現在は2ナノ世代の半導体を大量生産する自社工場を稼働させているわけではない。IBMは2015年に半導体製造事業をGlobalFoundriesへ譲渡しており、Rapidusのエンジニアが技術を吸収するAlbany NanoTech Complexは研究開発の拠点であって量産ラインではない。Rapidusが移植しているのは、量産で鍛えられた工程ノウハウではなく、研究段階の技術そのものだ。

Rapidusは技術供与元をIBM一社に絞らなかった。2023年4月4日、EUV(極端紫外線)露光技術の研究で知られるベルギーの研究機関imecの「Core Partner Program」に参加し、先端技術や300mmパイロットライン、2ナノ世代の構成技術へのアクセスを得た。2024年12月14日にはEUV露光装置を手がけるオランダASMLの最新機「TWINSCAN NXE:3800E」が新千歳空港に到着し、同月18日から千歳工場への搬入が始まった。国内で量産対応のEUV露光装置が稼働するのはこれが初めてだ。

EUV露光装置が2ナノ世代に欠かせないのは、回路線幅を数ナノメートル単位まで細くする微細化に、極端紫外線でなければ得られない解像度が必要になるためだ。この装置を量産できるメーカーは世界でASML一社に限られ、納入までの待機期間も長いとされる。Rapidusが2024年末という早い段階で搬入を実現できたことは、量産経験のなさを装置調達の優先順位で補った一例といえる。

この体制が最初の成果を出したのは2025年7月18日だった。千歳の生産棟IIM-1が本格稼働してからわずか3ヶ月後、Rapidusは国内で初めてとなる2ナノ世代GAA(Gate-All-Around、ゲートがチャネル全体を囲む構造)トランジスタの動作確認を発表した。量産ではない試作段階の成果だが、この構造は従来のFinFET(フィン型電界効果トランジスタ)よりリーク電流を抑えやすい半面、工程数が増えるため歩留まりの最適化が2ナノ世代最大の技術的な壁になっている。リーク電流を抑えられれば同じ電力で演算性能を高められるため、データセンター向けのAIアクセラレーターのような高性能チップほど恩恵が大きい。小池淳義氏は「2027年の量産化に向けて、大きなマイルストーンを超えた」と述べた。

演算資源の面ではNVIDIAとの連携も模索されている。同社のTim Costa氏によれば、露光技術向けライブラリー「cuLitho」はフォトマスクへの回路パターン転写に欠かせないOPC(光近接補正)パターンの生成をGPU演算で従来比70倍高速化し、TSMCはすでに2024年から量産に使っているという。別のライブラリー「CuDSS」は物理現象にかかわる線型方程式を高速に解くもので、TSMCやSamsung Electronics、EDA大手Cadence Design Systemsとの検証では最適解を探す演算速度を60倍から80倍高められたと説明している。いずれもTSMCなど既存の大手ファウンドリでの実績であり、NVIDIAとRapidusとの連携はまだ探る段階にとどまる。量産経験がない企業にとって、こうした外部の計算基盤を将来活用できれば、試行錯誤の回数を稼ぎ経験不足を計算力で補う手段になり得る。

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情報処理推進機構の出資2500億円と研究開発委託6315億円、2.9兆円の内訳を追う

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政府の資金は主に2つの経路でRapidusに流れ込む。一つは独立行政法人情報処理推進機構(IPA)による出資、もう一つは経済産業省とNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)による研究開発委託だ。IPAは2026年2月27日に1000億円、6月5日に1500億円を追加出資し、出資累計は2500億円に達した。

この出資でIPAが握る議決権は11.5%にとどまるが、拒否権を伴う黄金株を保有している。黄金株は保有比率にかかわらず、経営の根幹に関わる特定の議案について拒否権を行使できる株式で、国が重要インフラ企業の経営に関与する際に採用されることがある仕組みだ。Rapidusの場合も、経営権の過半数を求めずに量産方針や資本政策の転換をけん制できる設計になっている。少ない議決権でも決定的な局面だけを押さえられ、政府は日常の経営に深く介入せずに監視の手綱を残せる。同じ2026年2月には民間32社も計1676億円を追加出資しており、当初の8社73億円から出資者の裾野が広がった。

委託の側では、経済産業省がNEDOを通じたポスト5G基金の研究開発委託事業として、2026年4月11日に2026年度分6315億円の追加支援を決定した。出資と研究開発支援を合わせた政府支援は、2027年度までに合計2.9兆円に達する計画になっている。当初8社が出し合った73億円と比べれば、その規模は397倍に相当する。政府がここまでの規模で資金を投じる背景には、先端半導体の供給を海外に依存しない体制を築くという経済安全保障上の狙いがある。民間の設備投資も含めた総投資額は、当初の5兆円規模から7兆円規模へ膨らむ見通しだとも報じられている。

ただし2.9兆円はあくまで2027年度までの計画総額であり、2026年6月時点で実際に決定済みの金額はこれより少ない。報道によって幅があるものの、既決定額はおおむね2兆3000億円から2兆6000億円規模とみられている。計画と実績のこの差が、Rapidusの資金調達がまだ道半ばであることを示している。

技術供与の対価を得るIBM、優先的に部材や装置を供給できる国内メーカー、そして出資を通じてRapidusとの関係を深めた32社は、この構図で利益を得る側だ。一方、量産が計画通り進まなければ、出資したIPAは評価損を抱えることになり、その原資は税金を負担する国民が最終的に引き受ける。得をする顔ぶれと損失リスクを負う顔ぶれは、こうしてはっきりと分かれている。

TSMC、Samsung、Intelが先を走る中、2027年度後半という目標の位置

TSMCとSamsung、Intelはいずれも2025年から2026年にかけて2ナノ世代のGAAプロセスの立ち上げを進めている。Rapidusが目指す量産開始は2027年度後半で、この3社より数年遅れてのスタートになる。量産経験の差に加え、時間の差もRapidusには重くのしかかる。

経済産業省は2030年度、2ナノ世代のロジック半導体で世界需要に対し供給が10%から30%不足するとの見通しを示しているとEE Times Japanは報じている。市場そのものは伸びる余地があるとしても、Rapidusが量産の質を競合と同じ水準まで引き上げられるかは別の問題だ。台湾の調査会社Isaiah Researchで副社長を務めるLucy Chen氏は「製造はできるが、歩留まりや生産性を高め利益を生み出せる水準の達成にはまだ疑問がある」と評している。

この懐疑に対する反証材料が、試作段階ながら集まり始めている顧客だ。富士通は1.4ナノ世代のNPU(Neural Processing Unit、AI処理に特化した演算装置)製造をRapidusへ委託する方向で、開発費約580億円のうち3分の2をNEDOが補助する。2026年3月にはキヤノンと日本シノプシスが2ナノ世代の画像処理半導体の試作を委託し、国内大手企業による委託としては初めてのケースになった。2023年11月17日にはカナダのTenstorrentともIP開発で合意しており、2ナノ世代をベースにしたAIエッジ半導体の共同開発を進めている。量産ラインでの実績がなくても、試作段階で個別に伴走できるRUMSの多品種少量という特性が、顧客を引き寄せている。

Lucy Chen氏の懸念は、技術的な実現可能性と事業としての採算性を分けて考える必要があるという指摘でもある。全枚葉処理は個別対応がしやすい一方、装置1台あたりの処理枚数がロット処理より少なくなるため、同じ生産量を確保するには装置と人員をそれだけ余分に投じる必要がある。歩留まりが1ポイント変わるだけで1枚のウエハーから取れる良品チップの数は大きく変動し、歩留まりが低いまま量産を続ければ1個あたりの製造コストは競合より高くなる。RUMSが多品種少量に強い代わりに抱える高い固定費構造は、政府資金への依存度を高める要因にもなっている。

千歳の地価は1年で44.1%上昇した。賭けはもう地元経済を動かしている

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国土交通省が公表する2026年1月1日時点の公示地価で、千歳市のJR千歳駅周辺は前年比44.1%上昇し、全国で最も高い上昇率となった。市平均でも11.85%、商業地に限れば29.67%上昇し、2022年と比べると地価はおよそ3倍に達している。Rapidusの量産の成否が判明するのは2027年度以降だが、地価はすでにその結果を先取りするように動いている。

半導体工場の進出が地価を押し上げるのは、量産開始前から関連企業や従業員の移住需要が先回りして発生するためだ。千歳工場には資材や装置を供給する取引先、建設や保守を担う協力会社が集まり、従業員とその家族の住宅需要も膨らむ。北海道は千歳から石狩、苫小牧にかけての一帯を先端技術の集積地とする「北海道バレー構想」を掲げており、ソフトバンクが苫小牧に再生可能エネルギーを活用するデータセンターを建設すると発表するなど関連投資も広がっている。

北海道新産業創造機構(ANIC)は2023年11月、Rapidusが2027年度に量産を始める前提で経済波及効果を試算し、2036年度までの累計で最大18.8兆円に達するとした。このうち、千歳の第1期工場(IIM-1)のみが建設されるシナリオでも、北海道全域への波及効果は14年間の累計で10.1兆円に上り、道内の総生産(GDP)を6.1兆円押し上げるとしている。地価の44.1%上昇はすでに現実になった実測値であり、18.8兆円はRapidusが量産に成功しなければ実現しない期待値だ。市場は量産の成否を待たずに、先に価格を織り込んだことになる。

求人サイトのデータを集計する株式会社フロッグが2025年5月に公表した調査によれば、千歳市内の求人広告に掲載された募集月給の下限額はこの2年で46.42%上昇し、全国トップの伸び率になったという。地価も賃金も右肩上がりという地元の高揚感は、かつてのエルピーダメモリの経緯と対照的だ。2012年の経営破綻で国民は約280億円規模の負担を負ったと報じられ、国策半導体への投資が必ず地域や国民に恩恵をもたらすとは限らないことを示す過去がある。

2027年度後半、量産経験ゼロが試される

Rapidusが2022年8月の設立から積み上げてきたのは、IBMやimec、ASMLから技術を借りる外部動員、TSMCとは異なる生産方式であるRUMS、そして2.9兆円という資金という3つの迂回策だ。量産という経験そのものが手元になくても、この3つを組み合わせれば土台の欠如を埋められるという賭けだった。2025年7月の2ナノGAAトランジスタ動作確認は、その賭けが最初の技術的な関門を越えたことを示している。

2027年度後半に量産を始められなければ、2029年度の営業キャッシュフロー黒字化は成り立たず、その先にある2031年度のフリーキャッシュフロー黒字化と株式上場も遠のく。Rapidusが掲げる工程表は、この意味で一直線につながっている。逆に言えば、最初の関門である量産開始さえ突破すれば、残る2つの財務目標は量産の歩留まりと受注量という具体的な数字で検証できる段階に進む。

1988年の50.3%から2024年の7%への転落、そして2012年のエルピーダ破綻という2つの敗北を踏まえ、経済産業省は既存企業を追加支援する道を取らず、新会社を設立する道を選んだ。既存企業でなく新会社を設立した理由について当事者の説明は限られているが、垂直統合と自前主義に固執した過去の失敗を繰り返さない布陣だと言える。Rapidusはその意味で、日本の半導体産業にとって二度目の国家実験になっている。

2027年度後半が近づくにつれ、確認すべき指標は絞られてくる。千歳工場の歩留まりが公表されるか、富士通やキヤノンといった試作段階の顧客が量産発注に踏み切るか、そして政府が計画する2.9兆円のうち残りがどう執行されるか。量産経験ゼロのまま最先端に挑んだ賭けの結果は、この3つの数字がそろったときに姿を現す。