ウェストバージニア大学(WVU)がマウントストームで運転するA34実証施設は、炭鉱由来の酸性坑廃水(acid mine drainage、AMD)を処理しながら、希土類を回収する。WVUは回収物を下流で分離・精製し、軽希土類酸化物(LREO)と重希土類酸化物(HREO)の双方で純度95%超を得たと公表している。AFPが8月22日に報じた現地取材では、WVU Rare Earth Elements InitiativeのLance Lin所長が同施設の能力を希土類酸化物で年約4トン、そのうち重希土類を約45%と説明した。
ただし、年4トンは2026年の年間実生産量ではなく、施設の能力を示す説明である。今回の現地報道にも、A34の新しい査読論文は伴っていない。公表資料には回収率、物質収支、連続運転を判断する値がそろわず、薬品・エネルギー消費、廃棄物量、コストも不明だ。商用供給への距離は、今後開示される運転データで決まる。
流量毎分500〜1,000ガロンの実排水を処理するA34
A34はWVUとウェストバージニア州環境保護局(WVDEP)が運営する、実排水を扱う統合型のパイロット施設である。WVUのケーススタディによる公開条件では、流入水の全希土類元素(TREE)濃度は約1,583マイクログラム/リットル、pHは約2.8で、処理後のpHは約7.5になる。流量は毎分約500〜1,000ガロンだ。
流入TREEの質量組成では、Dyが約6%、Tbが約1%、イットリウム(Y)が約29%、ネオジム・プラセオジム(NdPr)が約19%を占める。この4群でTREE質量の約55%になり、WVUの評価では価値の85%超を占めるという。ただし、同ページは価格基準日と価格表を示していないため、この価値割合を現在の売上額や採算性に置き換えることはできない。
公開値は単一地点のケーススタディであり、サンプリング回数や観測期間は記載されていない。したがって、濃度と組成はA34流入水の公表条件であって、他の坑廃水や季節変動を含む平均値ではない。年4トン、重希土類約45%というAFPでの説明も、回収物の構成と能力の話であり、施設全体の回収率や米国需要に占める実績ではない。
酸で溶けた金属を、段階中和で前濃縮する
AMDは、硫化鉱物が酸化して生じる酸が周囲の岩石から金属を溶かした排水である。希土類は既に水へ溶け込んでいるため、硬岩鉱山で通常必要になる採掘、破砕、粉砕を前処理として省ける。一方で、対象は希薄な溶液であり、流量と組成の安定性が採算を左右する。薬品使用量、沈殿物の輸送、下流での分離も運転コストに加わる。
Tommee Larochelleら5人による2021年の査読済み『Minerals』論文(DOI: 10.3390/min11111298)は、段階中和の工程を技術経済的にモデル化した。論文の工程説明では、pH 4〜4.5で鉄と大半のアルミニウムを沈殿させ、pH 8〜8.5で希土類の全量と大半のコバルト、マンガンを前濃縮物として沈殿させる設計である。
ここでいう「全量」は、この工程の設計説明における希土類の沈殿を指す。A34の通年物質収支で確認された回収実績ではない。また、WVUが示す95%超は下流精製後の製品純度であり、排水からどれだけ取り出せたかという回収率とは別の指標だ。純度の達成は下流処理の到達点を示すが、商用化には回収量と運転の再現性も要る。
141地点808試料が示した資源の分布
希土類を含むAMDがA34だけの偶然かを考える材料は、Christopher R. Vassら3人による2019年の査読済み『Mining, Metallurgy & Exploration』論文にある(DOI: 10.1007/s42461-019-00112-9)。同論文は北部・中部アパラチアの141処理地点から、未処理AMDの185試料と、処理副産物であるAMDpの623試料を分析した。合計808試料の広域調査である。
平均TREE濃度は水中で282マイクログラム/リットル、固形副産物で724グラム/トンだった。研究チームは141地点にある貯留資源を合計340トンと推定したが、これは流域全体の在庫量でも、年あたりに供給できる量でもない。分析対象を141地点へ限定した推定値である。
この研究は観察・広域調査であり、低pHと希土類負荷などの関連を示した。A34の工程が商用規模で採算に乗ることを因果的に証明する実験ではない。また、141地点調査はA34の連続運転を独立に再現した追試でもない。公表されたA34データを基に、別の研究機関が同じ回収率や製品純度を再現できるかはまだ判断できない。
年4トンの能力と300トン仮定の間にある採算の壁
規模を比べると、パイロット実証と供給網の間には大きな開きがある。USGSの『Mineral Commodity Summaries 2026』(DOI: 10.3133/mcs2026)によれば、米国は2025年にREO換算51,000トンの鉱物濃縮物を生産した。A34の年約4トンという能力説明は、この総量を置き換える規模ではない。
AFPに対しDavid Hoffmanは、AMD由来の希土類を年300メトリックトン生産できれば、TbやDyなどの世界需要の7〜8%を満たせると推計した。これは年300トンという条件を置いた見積もりであり、A34の実績ではない。対象元素ごとの需要分母と需要年は記事内で示されていない。必要なサイト数と回収率も不明なため、7〜8%を実現済みの供給寄与とは扱えない。
Larochelleらの2021年論文も、収益性を実測した研究ではなく技術経済シミュレーションである。2021年9月、2020年12月、2014〜2021年の最低・最高という4つの価格シナリオと、5つの生産構成をモデル化し、2021年9月価格では内部収益率(IRR)25〜32%を見込んだ。一方、最低価格のシナリオでは構成によって基準IRRの10%を下回った。
しかも同モデルは前濃縮物を無償調達する前提で、METSIM、文献、熱力学シミュレーションを組み合わせた理論評価である。資本費はAACE Class IV/FEL-2で精度±40%とされた。価格、原料調達、資本費の仮定が変わればIRRも変わるため、A34の実運転から25〜32%の採算性が確認されたわけではない。
DOE/NETLのFE0032296は、2023年8月1日から2025年4月30日までのFEEDと建設前計画で、DOE負担は8,000,000ドル、総額は11,704,182ドルだった。1日1〜3メトリックトンの混合希土類酸化物(MREO)施設は設計目標であり、既設A34の生産量ではない。この差を埋める実績は、まだ公表されていない。
回収後に残る元素別分離と磁石製造
希土類を沈殿物や混合酸化物として回収しても、供給網はそこで終わらない。元素別に分離し、金属化、合金化、磁石製造へ進まなければ、DyやTbを必要とする用途へ届けられない。米国の2021〜2024年の希土類化合物・金属の輸入元は、中国が71%、マレーシアが13%、日本が5%、エストニアが5%、その他が6%だったとUSGSは記す。
WVU発のMission Critical Materialsは、REalloysを下流工程の協力先に選んだ。AFPが伝えたのは予備的な合意であり、確定した長期購入契約や供給実績ではない。回収工程を実排水で動かしたことと、磁石までの下流工程を商用でつなげることは、別に確かめる必要がある。
A34の価値は、米国全体の希土類量を直ちに代替する点ではなく、Dy、Tb、Yを相対的に多く含む原料を環境浄化と組み合わせて扱える可能性にある。次の判断は、査読済みのフル運転データでサンプル数と回収率を示せるかにかかる。物質収支と運転期間も必要だ。そこに元素別分離から磁石製造までの実績が加わって初めて、AMD回収を供給源として比べられる。
