2026年8月20日、匿名の第三者が開発・運用するという無料モデル「Ox Alpha」が、OpenRouterとOpenCodeに登場した。1,048,576トークンのコンテキストとコーディング性能が先に話題になった。しかし、開発チームが先に確かめるべき前提は、同じOx Alphaへコードを送っても、経路によってデータを誰が扱い、どの条件で保持・利用できるかの説明が変わることである。
コードエージェントはソースコードを読み、リポジトリの設定やログ、テスト結果にも触れる。ときには認証情報の近くで指示を待つ。OpenRouterは自らをOx Alphaの開発者、所有者、提供者ではなく、リクエストをルーティングする仲介者だと説明しており、運用者の名称と所在は公表していない。利用者が確認すべき単位は「Ox Alphaというモデル名」よりも、OpenRouter経由かOpenCode経由かという送信経路になる。
1,048,576トークンの仕様と、58.4%に置き直された評価
OpenRouterのモデルIDはstealth/ox-alphaで、モデルページは公開日を8月20日と記載する。入力・出力料金はともに0ドルで、コンテキストは1,048,576トークン、最大出力は131,072トークンを掲げる。テキスト、画像、動画を入力できる。推論は常に有効で、強度をlow、high、maxから選び、既定値はmaxである。
この大きな入力枠は、公開された第三者調査の測定ともおおむね整合する。LuD1161の調査は、入力の先頭・中央・末尾に埋めた情報を934,221トークンの状態で3回すべて取り出した。受け付ける入力の境界は約1.00M〜1.005Mトークン、出力上限は131,072トークンと報告しており、公称値から大きく外れていない。
ただし、初期に広がった「10問中8問」という印象を、そのままモデル全体の実力に置くことはできない。MatchaOnMuffinsが公開したDeepSWEの独立実行では、113問中66問を解き、結果は58.4%だった。所要時間は20時間39分で、各問を1回ずつ試している。公式ランキングの実行ではないため、複数回の平均や異なる実行環境の結果と同列には扱えない。
実行ログには、11問でツール呼び出しが3回続けて返らず、RepeatedFormatErrorで停止した記録もある。これは全113問の9.7%に当たる。コードの問題を解けるかという能力と、長時間のエージェント実行を安定して完走できるかは、別に測らなければならない。
GLM-5世代という指紋はあるが、正体は確定していない
Ox Alphaの開発者と運用者は、8月24日時点で公式確認されていない。それでも公開調査は、モデルの振る舞いから候補を絞ろうとしている。LuD1161は二系統の調査を統合し、600回を超えるリクエストと約13.5M入力トークンを使って照合した。
最も目立つのはトークナイザーの比較である。44個の識別文字列がGLM-5世代のトークナイザーと44/44で一致し、GLM-4.xとは42/44だった。調査は中国語で返る上流エラーや推論強度の制御、コンテキスト境界の挙動も照合し、GLM-5系への帰属を高い確度、特定のチェックポイントへの帰属を中〜高程度と評価している。
しかし、これは外から入出力を観察するブラックボックス調査である。44/44の一致は有力な手掛かりでも、モデルの重みが同じであることや、特定チェックポイントの由来までは証明しない。GLM-5系らしいという評価から、Ox Alphaの運用者や処理場所を特定することはできない。
匿名提供者の名称を確定できない以上、性能の比較表だけでは調達判断が終わらない。運用主体と処理場所を確かめ、データの保持と再利用を別の契約条件として審査する必要がある。
OpenRouterとOpenCodeで、データの説明が分かれる
OpenRouterのモデルページは、プロバイダーが入力と出力を保持する一方、学習には使用しないと説明する。保持期間は記されていない。この説明だけを読めば、学習利用はないものとして受け取れる。
OpenCode Zenは同じOx Alphaをx-preview-f-freeとして、チャット用APIで0ドル提供する。個別の説明とプライバシー節は、プロバイダーがゼロ保持方針に従い、データを学習に使わないとしている。全モデルは米国内でホストするとされ、例外一覧にOx Alphaは入っていない。
OpenRouter経由とOpenCode経由では、ゲートウェイと契約、ホスト方針が異なる。仮にモデルの重みが同じでも、利用者が送る入力データに適用される条件は変わる。
| 利用経路 | 公表されたデータの扱い | 場所・保持期間の説明 |
|---|---|---|
| OpenRouter | モデルページはプロバイダーが入力と出力を保持し、学習には使わないとする | 保持期間は明示されていない。運用者名と所在も非公表 |
| OpenCode Zen | Ox Alpha Freeはゼロ保持で、学習に使わないとする | 全モデルを米国内でホストすると公表。Ox Alphaは例外一覧にない |
同名モデルの利用条件を、モデル名で一括りにはできない。OpenCodeのゼロ保持と米国内ホストは同社が公表した方針であり、匿名の上流プロバイダーの名称を第三者が監査できる情報は示されていない。その限界も残る。
OpenRouter内で食い違う「学習しない」とStealth規約
OpenRouterでは、同じ経路の説明の間にもずれがある。モデルページは「保持するが学習には使用しない」と書く一方、2026年7月6日更新のStealth Program EULAは、匿名モデルを無料で提供する対価として、ユーザーコンテンツを収集・共有し、学習、評価、改善に使うと定める。
EULAはOpenRouterに、コンテンツを保存・利用・配布などに使える世界的、取消不能、永続的なライセンスを認める。匿名プロバイダーには、学習・評価・改善のための再許諾を認める内容だ。プロバイダーへ渡す際は利用者識別子をハッシュ化し、提供者による再特定を禁じるとしている。入力本文から個人情報や機密情報を取り除く保証ではなく、入力と出力の利用目的を狭める措置でもない。
モデルページとEULAを読み合わせても、Ox Alphaの入力と出力を学習へ使うのか一義的に判断できない。実際の保持期間と処理場所も不明である。短いモデル説明と法的な契約文書の食い違いを残したままでは、利用者は送信後の扱いを確定できない。
無料提供は、実運用のトラフィックと失敗パターンを短期間に集める手段になりうる。ただし、Ox Alphaの提供者が何を目的にしているかは公表されていない。利用者側はその目的を推測で補わず、送ってよいデータの範囲を最も広い利用許諾に合わせて決める必要がある。
匿名の高性能モデルを導入する前に、誰へ何を送るか
企業がOx Alphaを評価するなら、まず秘匿すべきコードや設定、ログを送らない条件で、能力とエージェントの安定性を分けて試すのが出発点になる。58.4%のDeepSWE結果は公開記録を伴う独立実行だが、初期の8/10や公式ランキングの代わりにはならない。そこで得た性能評価を、そのまま本番データを送る判断へつなげるのは早い。
次に、匿名プロバイダーの身元と処理場所、保持期間を確認する。学習・評価への利用条件と、事故時の連絡先も必要だ。欠けた項目をモデル性能で埋めてはならない。OpenRouterの規約の優先関係や実際の処理条件が明らかになるまで、同経路へ送る情報は、その不確実性を受け入れられる範囲に限る判断が必要になる。
OpenCodeを選ぶ場合でも、ゼロ保持と米国内ホストは同社の公表であり、匿名の上流プロバイダーまで独立に検証できたことを意味しない。企業が本番コードを送れる条件は、1,048,576トークンの文脈長より先に、提供者名とデータ処理条件を誰が保証するかで決まる。



