半導体や電気自動車の部材ニュースで、聞き慣れない鉱物名を目にするたびに身構える方も少なくないはずだ。ガリウム、ゲルマニウム、タンタル——規制の対象になる鉱物は増える一方で、その裏にある共通の脆弱性まで説明されることは少ない。2026年1月6日、中国は対日デュアルユース品のうち軍事関連の用途・エンドユーザー向け輸出を即日規制した。これが2010年のようなレアアース本格規制へ発展した場合、経済損失は3か月で約6600億円、1年で約2.6兆円にのぼると試算されている。同じような輸出規制が繰り返される背景には、鉱物ごとに異なる精製構造という共通の弱点がある。
対日輸出規制が突きつけた6600億円の試算
2026年1月6日に即日発効した中国商務部の公告は、対日デュアルユース品のうち日本の軍事ユーザー・軍事用途、および日本の軍事力向上に寄与するエンドユーザー・用途向けの輸出を対象に規制した。全ての対日輸出を一律に止めるものではないが、「日本の軍事力向上に寄与するエンドユーザー・用途」という定義は当初具体的に列挙されておらず、どの取引が規制に触れるのか実務上判断しにくい状態だった。中国商務部はその後2月と6月にそれぞれ管控対象20団体・注視対象20団体(各月計40団体、累計80団体)をリストへ追加しており、対象企業は徐々に具体化されているが、用途・エンドユーザーの定義そのものの曖昧さは残る。発表から適用まで猶予期間がほとんど設けられなかったため、対象品目を扱う企業は在庫の積み増しや代替調達先の確保といった事前対応を取る時間をほとんど持てなかった。
この6600億円という数字自体は、1月6日の規制の直接の影響額ではない。野村総合研究所の木内登英氏は、2010年当時の経済産業省調査などをもとに分野別の生産減少率を推計し、それを各分野の市場規模に当てはめる方法で、仮に中国がレアアース輸出を本格的に規制した場合の経済損失を試算しており、3か月続いた場合を約6600億円、1年続いた場合を約2.6兆円としている。1月6日の軍民両用品規制がこの本格規制シナリオへ発展するリスクを排除できない、という点が問題の核心だ。対象は既存の両用品目リストに基づくが、エンドユーザー・用途の定義が拡大解釈されれば半導体、防衛、EV関連部材にも影響が及びうると分析されており、その場合は輸出企業に加えてそれらの部材に依存する国内産業全体に影響が波及する。
同種の措置は今回が初めてではない。2010年の尖閣諸島問題を契機に、中国は事実上のレアアース対日輸出停止に踏み切り、日本は代替調達先の開拓や省レアアース技術の開発で対応した。16年後の2026年に同種の措置が再び発動されたのは、依存構造そのものが解消されていなかったことを意味する。
当時のレアアース禁輸は特定の鉱種に限られていたが、今回は軍民両用品目という枠組みで対象範囲があいまいなまま運用される点が異なる。軍民両用という枠組みを使えば、対象品目の追加や削除を後から柔軟に運用できるため、特定の鉱物1種類を狙い撃ちにする規制よりも、日本側が代替策の対象を絞り込みにくい。この運用の柔軟さこそが2010年と2026年を分ける最大の違いであり、鉱物によって性質が異なるこの構造を分けて見なければ、次の規制強化への備えは立てられない。
主産物型と副産物型、レアメタルを分ける精製構造
Interesting Engineeringが8月にまとめた「世界が確保すべき10の重要鉱物」は、銅からタングステンまで10種類を横並びで列挙する構成になっている。だが、どの鉱物が増産しやすく、どの鉱物が増産しにくいのかという評価軸はほとんど示されていない。同じ「供給リスク」という言葉でくくられていても、銅とガリウムでは危機の性質がまったく異なる。今回、同記事では触れられていないが、ここで注目したいのは、鉱物ごとに増産のしやすさを決める精製構造の違いだ。
銅、リチウム、ニッケルは、その金属自体を目的に採掘され、精錬される主産物型の鉱物だ。価格が上がれば新規鉱山開発や製錬所増設に資金が向かい、時間はかかっても供給量は市場原理に反応しうる。一方、ガリウムとゲルマニウムは、他の金属を精錬する過程で生じる副産物だ。ガリウムはボーキサイトからアルミナを作る過程で、ゲルマニウムは亜鉛精錬の残渣から回収される。タンタルはコルタン鉱石そのものを目的に採掘される点で主産物型に近いが、供給がDRC・ルワンダなど特定の紛争影響地域に集中しているという別種の脆弱性を抱える(後述)。
生産量を決めるのは主産物であるアルミニウムや亜鉛の精錬計画であり、ガリウムやゲルマニウムの価格がいくら上がっても、精錬業者は主産物の生産計画を変えてまで副産物の回収設備に投資する動機を持ちにくい。アルミナ精錬プラントを新設する動機はアルミニウム需要にあり、そこに付随するガリウム回収設備は投資判断で主役になりにくいという事情もある。増産の主導権を握っているのは、その鉱物自体の需給よりも別の金属の需給という構図だ。この一点が、副産物型鉱物を政治的な圧力の道具にしやすくしている。輸出を止められた側から見れば、価格を吊り上げて対抗しようにも、そもそも供給量を動かす手段自体が乏しい。
今回取り上げられた10鉱物の間にも、集中度には大きな差がある。銅の供給不足はIEA(国際エネルギー機関)の2026年7月時点の試算でも最大25%というギャップの話であるのに対し、ガリウムは中国の生産量シェアが98〜99%に達する。USGS(米国地質調査所)によれば、中国以外にも低純度ガリウムの生産能力自体は世界の1割強を占めるが、その大半は稼働率が低いか休止状態にある。前者は「不足するが世界中に生産余地が残る」構図であり、後者は「生産手段自体は他国にもあるが、稼働させる動機が生まれにくい」構図だ。前者は市場が資金で埋められる不足であり、後者は価格が上がるだけでは埋まりにくい偏在である。
市場規模に守られる主産物型の脆弱性
銅はIEAが2035年までに、計画されている供給が需要に対して最大25%不足しうると試算する鉱物だ。データセンター、EVのモーター、送電網などでの需要拡大を背景に、銅の総需要は2040年までに約700万トン増加する見通しだ。深刻な数字だが、銅はIEAの試算で単独の鉱種として約3500億ドル規模の新規投資が2040年までに必要とされるほど市場規模が大きく、価格が上がれば資金を引き寄せる力を持つ。
リチウムも同じ構図にある。IEAの需要予測では2040年までに現在の3〜5倍に拡大する見通しで、EV電池の需要拡大がそのまま鉱山投資を呼び込んでいる。ニッケルはステンレス鋼とEV電池の両方に使われる鉱物で、生産の集中がむしろ進んでおり、インドネシアのシェアは2024年の61.3%から、2025年には業界推計で約66%まで拡大したとみられる。同国は製錬設備の誘致を続けており、集中が進む一方で投資自体は活発に動いている。
IEAは新規鉱山への投資額を2040年までに、既定の政策が続くシナリオで約5000億ドル、脱炭素目標に沿ったシナリオでは約6000億ドルと試算する。市場規模が大きい鉱種ほどこの資金を引き寄せやすく、銅やリチウムのような巨大市場では価格インセンティブが投資を動かす余地がまだ残っている。
コバルトは、主産物型と副産物型の中間のような構造を持つ。EV電池の正極材や特殊合金に使われ、採掘はDRC(コンゴ民主共和国)が世界の約76%(2024年産、USGS)を占める一方、精製は中国が約75〜80%を担う。採掘国と精製国が分離しているため、DRCで増産しても精製能力という別のボトルネックが残る。この分離構造は、次に見る副産物型鉱物が抱える問題の一部を先取りしている。
EV電池のアノード材に使う黒鉛は、電池級への加工工程で2035年時点でも中国が約80%のシェアを維持すると見込まれている。黒鉛自体は主産物型に近い鉱物だが、電池級への高度加工という別のボトルネックが存在するため、市場規模の大きさが分散投資に直結していない。この例からは、増産のしやすさを決める要因が市場規模に加えてどの工程がボトルネックになっているかという点にもあることがわかる。
増産しにくい鉱物が武器化・脆弱化する理由
ガリウムは中国が世界の低純度生産の98〜99%を握る、副産物型鉱物の典型だ。中国は2023年7月3日にガリウムとゲルマニウムの輸出許可制を公告し、同年8月1日に施行した。2024年12月には対米輸出を全面禁止する強硬策も取った(この全面禁止は2025年11月から2026年11月末まで一時停止されているが、通常の輸出許可制と軍事用途向けの禁止は続いている)。ボーキサイト精錬というアルミニウム産業の生産計画に回収量が縛られる構造は、パワー半導体やレーダー向けの需要が急増しても供給を短期間で機動的に増やしにくいことを意味する。ゲルマニウムも同様に亜鉛精錬の残渣や石炭灰から回収される副産物であり、光ファイバーや赤外線センサー向けの用途で代替が利きにくい。
タングステンは超硬合金の切削工具やドリルビット、防衛用の弾芯に使われ、代替材料が限られる鉱物だ。2025年2月の中国による輸出規制後、価格は急騰し記録的な高値をつけた。上昇率は出典によって数値が異なるため断定は避けるが、規制発表から短期間で市場が急変したこと自体が、供給の大半を一国に依存する鉱物の脆さを示している。
タングステンとレアアースは、鉱床によっては他の鉱物の副産物・共産物として得られる場合もあるが、多くは単独の鉱種として採掘・精製されており、ガリウムのように増産の主導権を丸ごと他の金属に握られているわけではない。それでも中国が圧倒的シェアを握るのは、長年の国家的な投資と精製技術の蓄積による集中の結果であり、地質的な偏在よりも政策判断の産物に近い。レアアース精製で中国のシェアが2023年の90%超から2035年に70%へ下がるとIEAが予測しているのは、この種の集中が他国の投資判断次第で崩せることを示す一例だ。ガリウムとも銅とも違う、政策判断がつくり出した第三の性質がここにある。
タンタルはこの2つのどちらとも異なる、第四の脆弱性を示す。コルタン(タンタル原料)は、DRCなどではそれ自体を目的に採掘される鉱石だ(世界全体では錫精錬スラグ等の副産物として得られる場合もある)。DRC北キブ州ルバヤ地区だけで世界のタンタル生産量の約15%を供給しているとされ(国連の推計をNGOのGlobal Witnessが引用)、同地域の一部はM23の支配下にあるとされる。増産を阻むのは精製構造ではなく、供給地そのものが武装勢力の影響下にある紛争鉱物としての脆弱性だ。ガリウムが「精錬計画に縛られて動かせない」鉱物なら、タンタルは「動かせても、動かす主体が武装勢力の資金源になりかねない」鉱物である。
規制のたびに立場を強めうるのは、精製能力の分散を進める米国やマレーシアの新興精製業者、そして自国資源で代替を進める豪州のリチウム鉱山会社だ。IEAは米国での新規プロジェクトやマレーシアでの増産計画の進行を確認しており、規制のたびに顧客企業が代替調達先を探す動きが、こうした新興プレーヤーへの追い風になりうる。恩恵と負担が正反対の側に生まれやすい、非対称な構造がここにある。
逆に損失を被るのは、中国産ガリウムやゲルマニウムをパワー半導体やレーダー部材に組み込む国内メーカーと、コルタン採掘の現場で不安定な立場に置かれ続けるDRCの非公式鉱山労働者だ。代替調達先が乏しい鉱物では、規制発動後に代替材料の探索や設計変更にかかるコストと時間がそのまま企業の負担になる。Global Witnessの調査では、ルバヤ地区周辺の採掘現場は武装勢力の影響下に置かれやすく、川下の電子機器メーカーが調達経路を追跡しにくい構造も指摘されている。増産を阻む理由はガリウムとタンタルで異なるのに、川上と川下でまったく逆方向の負担を生んでいる構図は共通している。
リサイクルと海底資源、日本が打つ代替策
環境省は2026年度予算で、レアメタル・レアアースを含む金属資源等の再資源化促進事業に379億円を計上した。2025年度当初予算比で63%の増加であり、日本政府もこの構造的な弱点への対応を本格化させ始めている。都市鉱山と呼ばれる使用済み電子機器からの回収量を増やせれば、新規の鉱山採掘や中国での一次精製への依存度を下げつつ、供給源を確保できる。使用済み製品からの再資源化にも解体・選別や湿式・乾式精錬といった別の工程が必要になる点は変わらない。
リサイクルの対象になるのは、使用済みのスマートフォンやEVのモーター、家電製品に組み込まれたレアメタルだ。都市鉱山からの回収技術は鉱物や製品によって確立度合いに差があり、環境省の事業も設備導入支援に加えて再資源化技術そのものの実証を対象に含む。回収量の底上げが実現すれば、供給の主導権を他国の精錬計画や特定地域の政情に握られる構造そのものから一部抜け出せる点が大きい。
海洋資源開発ではさらに具体的な進展がある。JAMSTEC(海洋研究開発機構)の地球深部探査船「ちきゅう」は2026年1月12日から2月14日にかけて南鳥島沖の排他的経済水域(EEZ)で採鉱システム試験を実施し、2月1日には水深5569メートルの海底下から連続して泥を船上へ揚げることに世界で初めて成功したと7月24日に発表された。同発表によれば、採取した約50トンのレアアース泥に含まれるレアアース総量のうち、約54%はイットリウムやジスプロシウムなど需要が旺盛な中重レアアースが占めており、有害物質・放射性物質とも有意な数値は検出されなかったという。2027年2月には本格的な採鉱試験が予定されているが、これはあくまで技術実証であり、商業生産に必要なコストと採算性の検証はこれから進む段階にある。
IEAの予測では、中国のレアアース精製シェアは2023年の90%超から2025年に85%、2035年には70%まで下がる見通しだ。10年余りで20ポイント落ちる程度の変化であり、リサイクルや海底資源が構造を変える速度は、政治的な輸出規制が構造の脆さを突く速度に比べてはるかに遅い。規制は発表から即日で効果を発揮するのに対し、代替供給網の構築は予算計上から実装まで年単位の時間を要する。この非対称性が、対日輸出規制のような措置を繰り返し有効にしている一因だ。
何が揃えば構造は変わるのか
銅やリチウムのような主産物型鉱物は、価格シグナルと投資さえ十分に流れれば供給は時間差で反応する。IEAが試算する25%の需給ギャップも、資金が集まる市場である以上は縮小の余地がある。中国が20の重要鉱物のうち19鉱物の精製で平均70%のシェアを握るという集中構造自体は変わらなくても、主産物型や戦略集中型なら他国の精錬能力が投資と時間をかけて育つ道筋は描ける。主産物型、副産物型、そしてタングステンやレアアースのような戦略集中型とでは、必要な処方箋がこの点で異なる。
ガリウムのような副産物型鉱物は、増産の主導権が別の金属の精錬計画に握られている以上、価格が上がっただけでは供給は増えにくい。前述した中国のレアアース精製シェア低下予測が実現するには、副産物の回収技術に特化した投資と、都市鉱山や海底資源のような代替供給源の実用化が同時に進む必要がある。この2つが噛み合わなければ、価格がどれだけ跳ね上がっても供給量は動きにくい。タンタルの場合はさらに、供給地の統治・紛争鉱物トレーサビリティという、投資だけでは解決しない課題が重なる。主産物型に比べて対応が難しいのは、この構造ゆえだ。
2026年1月の対日輸出規制は、この構造がまだ変わっていないことを日本に突きつけた一件にすぎない。環境省の379億円というリサイクル予算も、南鳥島沖のレアアース泥試掘も、構造を変える途上にある取り組みだ。どちらも即効性はないが、供給の主導権を他国の精錬計画や特定地域の政情に頼らずに済む供給源という意味では、方向性は正しい。予算規模や試掘の進捗が翌年度以降どう積み増されるかが、この方向性が本気度を伴っているかを測る指標になる。
パワー半導体からドローン部品、防衛装備まで中国製部材に依存する国内製造業がこの先も同じ手を打たれ続けるかどうかは、この10年でどれだけ代替供給網とトレーサビリティを築けるかにかかっている。10鉱物を横並びで眺めるだけでは見えてこないこの違いを踏まえれば、増産しにくい鉱物への対応は価格でも交渉でもなく、鉱物ごとに異なるボトルネックに応じて回収技術・代替供給源・トレーサビリティをどれだけ同時に前進させられるかという一点に絞られる。



