Samsungが2027年向けのHBM4供給交渉で、現在主力のHBM3Eを3倍以上上回る価格を提示していると、韓国の毎日経済が10月2日に報じた。HBMはDRAMを縦に積層し、GPUなどの演算チップへ大量のデータを高速に供給するメモリで、HBM4ではデータ転送速度に加え、入出力に使う信号線の数も増えている。

ただし、今回報じられた大幅な価格差を、HBM4の性能向上だけで説明することはできない。HBMと生産能力を奪い合うサーバー向けDDR5の採算が上昇し、年単位で価格を決めるHBMにも、2027年の契約で価格を引き上げる圧力が強まっている。

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2027年供給の交渉で提示された「3倍超」

毎日経済の独自報道によると、Samsungは主要顧客との2027年向けHBM4の年間供給価格交渉で、1Gb当たり4ドル台半ばから後半の価格を提示しているという。現在主力のHBM3Eは1Gb当たり約1.5ドルとされ、単純比較では3倍を超える。

ここでいう「3倍超」は、2027年に供給する新世代のHBM4と、現在主力のHBM3Eを比較した提示価格である。同じHBM4製品が1年間で3倍に値上がりしたという意味ではない。

また、原報道で使われている単位は容量をビットで表す「Gb(ギガビット)」だ。ストレージやメモリ容量の表示でよく使われる「GB(ギガバイト)」とは異なり、1バイトは8ビットに相当する。今回の価格をGB当たりの数字として読むと、金額の意味が変わってしまう。

さらに、報道では価格提示の対象となるHBM4の積層数や容量までは明らかになっていない。この数字だけから、特定のHBMスタック1個の価格や、GPU1基当たりのメモリ部品費を計算することはできない。

Samsungがこの価格で顧客との契約を締結したという公式発表も、現時点では確認できていない。交渉で提示された価格と、最終的な成約価格は分けて考える必要がある。

「3倍」の価格と「2.7倍」の帯域は別の数字

Samsungは2月12日のHBM4量産・商用出荷発表で、HBM4のピン当たりの転送速度を安定動作時で11.7Gbps、最大13Gbpsと説明している。

HBM3Eの最大9.6Gbpsと比べると、11.7Gbpsは約1.22倍となる。

一方、HBM4ではデータ入出力に使うI/OピンがHBM3Eの1,024本から2,048本へ倍増した。3月13日のSamsungの技術解説によると、この変更によって単一スタックの最大メモリ帯域は3.3TB/sに達し、HBM3Eと比べて約2.7倍に増えた。

つまり、HBM4の帯域向上は、一本一本の信号線を高速化するだけで実現しているわけではない。信号線自体を増やし、同時に運べるデータ量を大きくしたことも効いている。

ただし、最大メモリ帯域が2.7倍になったからといって、AIの学習や推論がそのまま2.7倍高速になるわけではない。

AIシステム全体の性能は、GPUやアクセラレーターの演算能力、ネットワーク、ソフトウェア、モデルの構造などにも左右される。処理がメモリ帯域以外の部分で詰まっていれば、HBMの帯域を増やしても性能向上は小さくなる。

容量と帯域も別の指標だ。帯域は1秒間にどれだけのデータを転送できるかを示し、容量はどれだけのデータを保持できるかを示す。

Samsungの現行HBM4ラインアップは24〜36GBで、12層構成では36GBを提供する。今後は16層で最大48GBまで拡張する計画だ。帯域がHBM3E比で約2.7倍になったからといって、保持できるモデルやKVキャッシュの量まで同じ割合で増えるわけではない。

今回出ている三つの数字も、意味はそれぞれ異なる。

数字と公表日 何を比較しているか 判断できることと限界
3倍超:毎日経済、10月2日 Samsungが提示した2027年HBM4価格と現在のHBM3E価格。1Gb当たり4ドル台半ば〜後半と約1.5ドル 世代交代に伴う価格交渉の強さを示す。最終契約価格や同一製品の値上げ率ではない
約2.7倍:Samsung、2月12日 HBM4とHBM3Eの単一スタック最大帯域。HBM4は最大3.3TB/s メーカー公称の転送性能差。AI処理全体の実測性能差ではない
121%増:TrendForce、9月29日 2027年のHBM市場全体の平均販売価格を2026年と比較した予測 製品構成や需給を含む市場平均の予測。Samsungの個別契約価格ではない

出典は、毎日経済の報道、SamsungのHBM4発表、TrendForceの9月29日発表。

価格交渉、製品仕様、市場平均という異なる数字なので、例えば「価格は3倍だが性能は2.7倍だから、性能当たりでは何%割高」といった計算には使えない。

TrendForceの121%上昇という予測にも、単純な値上げ以外の要因が含まれる。同社は、より高価なHBM4の販売比率が増えることや、2027年下半期からHBM4Eの生産が拡大することを予測に織り込んでいる。

同じ製品の価格が変わらなくても、高価格帯の製品が販売全体に占める割合が増えれば平均販売価格は上がる。そのため121%という数字を、すべてのHBMが一律に121%値上がりするという意味で読むこともできない。

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DDR5との採算競争もHBM価格を押し上げる

TrendForceは5月27日の調査レポートの公開要旨で、2026年第1四半期には、HBMのウェハー当たり売上高と利益率がDDR5 64GB RDIMMを下回ったと説明している。

RDIMMは主にサーバーで使われるDRAMモジュールだ。

背景にあるのが、HBMと通常DRAMで価格が動くタイミングの違いである。

HBMは主要顧客との年間契約で翌年の価格と供給量をあらかじめ決めるケースが多い。このため、2026年向けHBMの価格が決まった後に通常DRAMの市況が急騰すると、HBMの契約価格だけが市場環境の変化に追い付かない状況が生じる。

TrendForceによると、その結果、2026年第1四半期にはHBMのウェハー当たり売上高と利益率がDDR5 64GB RDIMMを下回った。公開されている要旨では、具体的な金額や利益率までは示されていない。

これは、「HBMは先端製品だから常に通常DRAMより高収益」とは限らないことを示している。

HBMは単価が高い一方、DRAMダイが大きく、積層や高度なパッケージングも必要になる。また、HBM向けの生産を増やせば、その分だけ通常DRAMへ使えるウェハー生産能力も減る。

メーカーがHBMをどこまで増産するかを決める際には、HBMそのものから得られる利益だけでなく、同じDRAM生産能力をDDR5などへ振り向けた場合に得られる利益も比較対象になる。

年間契約には、顧客が必要なHBMをあらかじめ確保し、メーカーもそれを基に生産計画を立てられる利点がある。

一方で、契約後にメモリ市況が大きく変化しても、HBM価格にはすぐ反映されにくい。

そのため2027年向けの価格交渉は、HBM4の性能向上や製造コストを価格へ反映するだけでなく、通常DRAMと比べて悪化したHBMの採算を改善する機会にもなっていると考えられる。

ただし、これはTrendForceが示した価格決定の仕組みと採算動向から読み取れる市場構造であり、Samsungが今回の提示価格について、DDR5との採算差を理由として公式に説明したものではない。

Micronも2027年HBMを大幅な価格上昇で契約

SamsungだけがHBM価格の引き上げを進めているわけではない。

Micronの9月30日決算資料13ページによると、同社は2027年に供給するHBMビット量の大部分について、すでに顧客との契約を完了している。

Micronはその契約価格について、2026年と比べて「大幅に上昇した」と説明し、その結果、HBMと通常DRAMの粗利益率の差が縮まるとしている。

具体的な値上げ率は公表していないため、Samsungが提示した1Gb当たり4ドル台半ば〜後半と同じ水準なのかは分からない。

それでも、通常DRAMの採算が急上昇したことを受け、HBMでも価格を引き上げて相対的な収益性を改善する動きが、別の大手メモリメーカーでも起きていることは確認できる。

HBMの買い手にとっては、競合するHBMメーカーの価格だけを比較すれば済む市場ではなくなっている。

通常DRAMが高い利益を生む状況では、メモリメーカーにHBMへ限られたウェハー生産能力を振り向けてもらうためにも、それに見合った採算が必要になる。

AI向けメモリの価格を見る際には、HBMそのものの需要だけでなく、同じ生産設備を使うDDR5など通常DRAMの価格と収益性も追う必要がある。

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HBM4はすでに商用出荷、2027年は価格と供給量が焦点

SamsungのHBM4は、これから量産を始める未発売製品ではない。

同社は2月12日にHBM4の量産開始と商用出荷を発表した。7月30日の第2四半期決算発表でも、HBM4の販売を拡大し、限られた生産能力の中でサーバー向け製品を優先したと説明している。

したがって、今回の2027年価格交渉は、発売前のHBM4について初めて価格を決める話ではない。すでに出荷が始まった製品について、次年度の供給量と価格を決める交渉として見る方が正確だ。

SamsungのHBM4には、同社がメモリとファウンドリの両事業を持つ特徴も表れている。

HBM4のコアダイには第6世代10nm級の1c DRAMを使い、積層されたDRAMとGPUなどの演算チップとの間で信号を処理するロジックベースダイには、自社ファウンドリの4nmプロセスを採用している。

さらに、積層や接続には先端パッケージング技術も必要になる。

つまりHBM4の需要増は、Samsungのメモリ事業だけでなく、ベースダイを製造するファウンドリ事業や先端パッケージングにも需要を波及させる。

実際、Samsungは2026年第2四半期について、インセンティブ関連の引当による影響を除けば、ファウンドリ事業の業績が大きく改善したと説明している。その要因として、HBM向けベースダイの需要と、米国顧客からの強い受注を挙げた。

ただし、この説明だけからHBM4によってSamsung Foundryが黒字化したと判断することはできない。HBMベースダイ以外の受注も含まれており、HBM4単独の売上や利益は公表されていない。

メモリ、ロジックベースダイ、先端パッケージングを自社内で連携できることはSamsungにとって強みになり得る一方、複数の製造工程で十分な生産能力と歩留まりを確保しなければならない。

Samsung自身も、増産を進めてもメモリの供給制約が続くとの見通しを示している。

そのため、HBM4の価格が上がることと、顧客が必要な量を必要な時期に受け取れることは別の問題である。

HBM4の価格を判断するには、AIシステム全体を見る必要がある

顧客側からHBM4の価格が妥当かを判断するには、最終的な契約単価だけでは足りない。

必要になるのは、

  • いくらで契約したか
  • どれだけの容量を確保できたか
  • 必要な時期に何個納入されるか
  • そのHBM4を使ったGPUやアクセラレーターで、実際のAI処理性能がどれだけ向上するか

といった情報だ。

HBM4の帯域がHBM3Eより大幅に増えていても、AI処理全体が同じ倍率で速くなるわけではない。

GPUの演算性能が限界になっている処理もあれば、GPU間通信やネットワーク、CPU、ストレージなど別の部分がボトルネックになる処理もある。

反対に、メモリ帯域が性能を強く制限しているワークロードでは、HBM4によってGPUの演算器をより効率よく使えるようになり、同じ時間で処理できる仕事量が増える可能性がある。

最終的に重要なのは、HBM4そのものの価格倍率ではない。

HBM4へ追加で支払った費用によって、AIシステム全体で処理できる仕事量がどれだけ増えるかである。

2027年のHBM4市場では、Samsungが最終的にどの価格で契約するかに加え、顧客が必要な供給量を確保できるか、そのHBM4を搭載した次世代GPUやAIアクセラレーターが実際のワークロードでどれだけ性能を引き上げるかが、価格の妥当性を判断する材料になる。