General Motors(GM)は9月29日、LG Energy Solutionとの合弁会社Ultium Cellsが、米テネシー州スプリングヒル工場でリチウム・マンガン・リッチ(LMR)角形電池セルを生産する計画を明らかにした。工場の改修は2026年中に始まり、2028年に完了する見込みだ。
GMが狙うのは、比較的安価なマンガンを多く使い、電気自動車(EV)の航続距離と電池コストを両立させることだ。2025年に示した商用化計画について、具体的な生産拠点が決まった形になる。ただし、GMが示すエネルギー密度、研究用セルで確認された耐久性、工場の量産計画は、それぞれ対象も条件も異なる。
2028年の量産に向け、スプリングヒル工場を改修
GMとLG Energy Solutionは2025年5月、将来の電動トラックや大型SUV向けにLMR角形セルを商用化すると発表していた。当時は、米国で2028年までに商業生産を始める目標を示し、その前段階としてLG Energy Solutionの施設で2027年後半から先行生産する予定としていた。
今回、その米国での量産拠点がナッシュビル近郊のスプリングヒルに決まった。2028年という目標が前倒しされたわけではなく、従来の商用化計画が具体的な工場改修へ進んだことになる。
GMは、この拠点がLMR角形セルを世界で初めて商業量産する工場になると見込んでいる。改修に伴って500人を新たに雇用する計画で、現在の従業員数は約1,200人。ただし、2028年の工場改修完了は、LMR電池を搭載した完成車が同年に発売されることを意味しない。具体的な搭載車種や発売時期は今回の発表では明らかにされていない。
投資計画には、すでに始まっている別の電池事業も含まれる。Ultium Cellsの発表によると、スプリングヒル工場では2026年6月から、定置用蓄電システム向けのリン酸鉄リチウム(LFP)セルを生産している。LG Energy Solution Vertechの顧客向けに供給するもので、EV向けLFPセルの生産とは区別する必要がある。
LMRと定置用LFPの2事業、それに施設改善を合わせた投資額は、2030年までに10億ドルに達する計画だ。テネシー州政府も10億ドルの追加投資を発表しているが、Ultium Cellsの説明を見る限り、全額がLMR専用の投資ではない。事業ごとの内訳は明らかにされていない。
スプリングヒルは今後、EV向けの新しい電池を量産する準備を進める一方、定置用蓄電池も生産する拠点となる。特定の電池化学や用途だけに固定せず、複数の需要へ対応できる工場にする狙いもある。
安価なマンガンを生かす鍵は、酸素の反応を制御できるか
LMRは、正極材料に含まれるマンガンの割合を高め、高価なニッケルやコバルトへの依存を減らす電池化学だ。一方、「角形(prismatic)」はセルの形状を指す。化学系とセル形状は別の要素であり、GMは材料だけでなく、セルや電池パックの構造も変えようとしている。
2024年12月のGMとLG Energy Solutionの提携発表では、角形セルは電池パック内の空間を効率よく利用でき、モジュールや機械部品を減らすことで重量やコストを抑えられる可能性があると説明していた。材料費を抑えるLMRと、パック構造を簡素化しやすい角形セルを組み合わせる狙いがある。
ただし、マンガンを増やせば自動的に高性能な電池になるわけではない。
LMRでは、ニッケルなどの遷移金属だけでなく、正極材料中の酸素も酸化還元反応に利用することで、多くのエネルギーを取り出そうとする。ところが、充電時に酸化した酸素が放電時に十分に元の状態へ戻らなければ、材料内部の構造劣化やガス発生につながる。
特に大型セルでは、容量に対してガスを収容できる内部空間が相対的に小さくなる。このため、発生したガスによる内圧上昇が、セルの寿命や安定性を損なう問題が大きくなる。
この問題に対し、LG Energy Solutionとソウル大学の研究チームは、充電と放電の両方の条件を見直した。LGが9月7日に紹介した研究では、充電時の上限電圧を抑えるだけでなく、放電終止電圧をより低く設定することで、酸化された酸素をより十分に還元できることを示している。充電時に酸素をどこまで酸化させるかだけでなく、放電後にどこまで元の状態へ戻すかが重要になる。
Munsoo Song氏らが8月4日にNature Communicationsで発表した査読済み論文では、大型セルを製造後に活性化する「初期充放電工程(formation)」についても条件を最適化した。
40Ah級セルでは、35℃、2.00〜4.55Vという比較的穏やかな初期充放電条件を採用することで、従来条件よりガス発生を抑えられることを確認した。材料の組成だけでなく、工場で行う初期充放電工程や、その後の充放電条件もLMRの寿命を左右するという結果である。
「33%高密度」「883回後92.2%」「2028年」は別の数字
GMが示す「LFP比で33%高いエネルギー密度」、研究用セルで確認された「883サイクル後に92.2%を保持」、そして「2028年の商業生産」という数字は、それぞれ意味が異なる。同じ量産電池について性能が実証された結果として扱うことはできない。
誰が、どの対象について、何を示した数字なのかを分けると次のようになる。
| 数字・時期 | 発表主体と対象 | 読み取れることと条件 |
|---|---|---|
| LFP比33%高いエネルギー密度 | GM・LG Energy Solution、開発中のLMR角形セル | 2025年5月の発表では、高性能なLFPベースのセルと比べて33%高いエネルギー密度を同程度のコストで実現すると説明。比較対象となるセルの型式や絶対的なエネルギー密度は未公表 |
| 883サイクル後に初期エネルギーの92.2%を保持 | ソウル大学・LG Energy Solution、40Ah級パウチセル | 25±1℃で、0.33Cの充放電による長期試験。最終的な充放電電圧範囲は4.25〜2.00V |
| 2028年 | GM・Ultium Cells、米国での生産計画 | 2025年発表の商業生産開始目標と、2026年発表のスプリングヒル工場改修完了見込み。LMR搭載車の発売時期とは別 |
出典:GMの2025年発表、GMの2026年発表、Nature Communications論文。性能の優劣を比較するための表ではなく、それぞれの数字が何を意味するのかを整理したものだ。
33%というGMの比較については、重量当たりのエネルギー密度なのか、体積当たりなのかが発表では明記されていない。コストの算定条件も公開されていないため、他社セルとの厳密な性能比較や、「実車の航続距離が33%伸びる」といった換算には使えない。
一方、92.2%という耐久性は、試験開始時に取り出せたエネルギーに対する保持率である。論文で示された初期663Wh/kg、883サイクル後612Wh/kgという値も、正極活物質の質量を基準に計算した比エネルギーであり、外装や負極などを含むセル全体のエネルギー密度ではない。
また、試験で使用したLMR正極材料にはコバルトが0.27重量%含まれており、完全なコバルトフリーではない。
40Ah級までセルを大型化し、ガス発生と寿命の問題に取り組んだ点には、車載電池の実用化につながる意味がある。ただし、試験したのは柔軟な外装を使うパウチ型セルだ。GMが量産を計画する角形セルと同じ設計ではないため、この試験結果だけから、実車での急速充電や低温環境を含む寿命を判断することはできない。
EVの価格を下げられるかは、量産セルで決まる
GMはLMRの最初の用途として、電動トラックとフルサイズSUVを挙げている。大容量の電池を必要とする車種では、十分なエネルギーを確保しながら電池パックのコストを下げられれば、車両価格を抑える余地も大きくなる。
2025年の発表では、LMRを使った電動トラックで400マイル超、約644kmを超える航続距離を目指すとしていた。これは将来の開発目標であり、LMRを搭載した量産車について認証された航続距離ではない。
一方、GMは高ニッケル系電池も引き続き採用する。今回の発表でも、高ニッケル電池は同社のラインアップで最長の航続距離を提供する選択肢になると説明している。
LMRの役割は、高ニッケル系に代わってすべてのEVで最高性能を狙うことではない。比較的安価な材料を使いながらLFPより高い性能を目指し、車種ごとに価格と航続距離のバランスが異なる電池を選べるようにすることにある。
その狙いが実現するかを判断するには、量産される角形セルの絶対的なエネルギー密度や、実際の電池パックにした場合のコストが必要になる。セル単体で高いエネルギー密度を実現しても、冷却機構や安全対策を含む電池パックや車両全体では、その効果は変わる。
スプリングヒル工場の改修後、どの車種へLMRセルを供給し、実車でどの程度の航続距離と価格を実現できるのか。そこまで明らかになって初めて、LMRがGMのEV戦略に与える実際の価値を評価できる。
2028年に向けた工場計画が進み、研究段階で示された酸素反応やガス発生の制御を量産セルでも再現し、さらに車両での検証を経てコスト削減につなげられれば、GMは長い航続距離を求める大型EVでも、より価格を抑えた選択肢を提供できる可能性がある。
