トヨタ自動車は2026年10月1日、米ミシガン州サリーンに電池の評価・開発拠点「Toyota Battery Center of North America(TBC)」を開設した。施設は3万平方フィート、約2,800平方メートルの広さで、北米の電池工場や車両工場を支える。
ノースカロライナ州ではすでに電池の量産が始まっており、今回、米国で実際に使われる条件に合わせて性能や耐久性を評価する拠点が加わった。ミシガン大学の試作・研究設備とも連携することで、トヨタは北米で電池を生産し、評価結果を次の開発へ反映する体制を強化しようとしている。
米国の使用環境に合わせ、セルから電池パックまで評価
TBCでは、技術者がハイブリッド車とプラグインハイブリッド車向けの電池を評価する。水素車やバッテリー電気自動車(BEV)向けの技術も対象としており、複数の電動化技術を並行して進めるトヨタの戦略を支える施設となる。
開発の対象は、原材料の調達から車両での利用、リサイクルまで電池のライフサイクル全体に及ぶと、同社は開設発表で説明している。
狙いの一つは、北米で使われる電池を、現地でより迅速に評価できるようにすることだ。北米のパワートレイン部門を率いるJordan Choby氏は、市場で発生した問題を現場に近い場所でより早く検出・解決し、米国のドライバーが日常的に直面する環境でも長く使える電池の開発につなげられると説明した。
ただし、これは新拠点によって目指す効果であり、問題への対応時間や電池寿命が実際にどの程度改善したのかを示す試験結果ではない。
この施設への投資計画が発表されたのは2023年6月で、投資額は約5,000万ドルとされた。トヨタの計画ページは2025年10月に更新されており、電池の性能だけでなく品質や耐久性を確認し、北米の顧客が求める条件に合っているかを評価すると説明している。
この5,000万ドルは計画段階で示された投資規模であり、今回の開設時点で最終的な支出額として改めて確定した数字ではない。
評価対象は、電池の基本単位であるセルから、車載用にまとめた電池パックまでを想定する。セル単体の特性を調べる工程と、車載システムとして使った際の挙動を確認する工程をつなげる。
当初の計画には、普通充電や急速充電の評価、電源や充電インフラとの接続確認も含まれていた。電池そのものの性能だけでなく、実際に充電して車両で使う場面まで評価する構想だ。
ただし、これらは計画時に示された活動内容であり、今回の開設発表だけから、すべての設備がすでに稼働していると判断することはできない。
北米で量産・評価・試作の役割を分担
ノースカロライナ州の電池工場について、トヨタは2025年11月12日に生産開始を発表している。当時の発表によると、約140億ドルを投じた同工場では、ハイブリッド車向けの電池モジュールをケンタッキー州とアラバマ州の車両工場へ出荷していた。
つまり、TBCが支える北米の製造ネットワークには、すでに電池を量産し、車両工場へ供給する拠点が存在する。
公開資料を主な役割ごとに整理すると、ノースカロライナの工場が量産、トヨタのミシガン拠点が評価・開発、ミシガン大学がセル試作や研究、人材育成を担う形になる。
| 拠点・組織 | 公表されている主な役割 | 確認できる活動と資料の時点 |
|---|---|---|
| トヨタのノースカロライナ電池工場 | リチウムイオン電池の開発・量産 | ハイブリッド車向けモジュールを出荷中と2025年11月12日に発表 |
| トヨタのミシガンTBC | 北米製造拠点向けの電池評価・開発 | 幅広い電動車向け電池を扱う施設を2026年10月1日に開設 |
| ミシガン大学EVC・Battery Lab | セル試作、研究、技術者教育 | 2025年活動報告で設備利用と予約開放を説明し、2026年9月24日の記事でセル試作工程を紹介 |
表は、各主体が2025~2026年に公表した機能を主な役割ごとに整理したものだ。性能や生産効率を同じ条件で比較したものではなく、実際の役割には重なる部分もある。ノースカロライナ工場も電池開発を担い、大学でも電池性能に関する研究を行っている。また、大学とTBCが一つの連続した共同工程として運用されていることを示すものでもない。
量産規模の数字にも注意が必要だ。ノースカロライナ工場は14本の生産ラインを備える計画で、ハイブリッド車に加えてBEVとプラグインハイブリッド車向けの電池にも対応する。フル稼働時の年間生産能力は30GWhとされ、追加ラインの立ち上げは2030年までに進める計画だ。
この30GWhは工場が最終的に持つ予定の生産能力であり、生産開始時や現在の年間生産量を示す数字ではない。
TBCの役割は、北米で生産した電池を現地で評価し、その結果を製品開発へ戻す能力を高めることにある。電池を大量に作ることと、品質や耐久性を検証することは別の仕事だ。
量産規模が拡大すれば、実際の車両で起きた問題を調べ、材料や構造を変更した際の効果を確認する機能も必要になる。今回の投資は、こうした評価・開発を北米の製造拠点に近い場所で行えるようにするものだ。
大学との連携で、セル試作と人材育成も
ミシガン大学のElectric Vehicle Center(EVC)は、すでに電池の試作設備や教育プログラムを運営している。
大学の2025年活動報告によると、アナーバーのEllsworthにある「Battery Lab 2.0」は利用段階に入り、試作規模の設備を拡充するとともに、利用者や研究パートナー向けの予約を開始した。今回開設されたトヨタのTBCとは別の施設である。
大学が2026年9月に紹介したセル開発の工程には、電極材料の配合や塗工、ローラーで電極を圧縮する圧延、その後の乾燥室でのセル組み立てなどが含まれる。
大学では、材料や製造条件の違いが、容量、急速な充放電への対応、充放電を繰り返した際の寿命などにどう影響するかを研究している。材料の候補を検討するだけでなく、実際にセルを試作し、その特性を評価できる設備がある。
トヨタはEVCとの連携を通じて、TBCの施設や研究機能をほかの研究パートナーにも利用できるようにする方針を示している。
大学の試作設備と企業の評価設備の連携が進めば、材料や製造条件について大学で得られた研究成果を、実際の車載用途に近い条件で評価しやすくなる可能性がある。
ただし、共同試験を具体的にどのように進めるのか、研究データをどの範囲で共有するのかまでは公表されていない。大学の試作設備がすでに利用されていることと、TBCを研究パートナーへ開放するという今後の方針は分けて見る必要がある。
連携には、人材育成という役割もある。EVCは2025年の活動報告で、Schoolcraft CollegeとのEV技術者向け教育課程や、コミュニティーカレッジ教員を対象とした電池実習を進めたと説明している。
参加する自動車メーカーにはトヨタのほか、GM、Mercedes-Benz、Hyundaiも名を連ねる。トヨタがTBCと大学との連携を、次世代の電池技術者や技能者の育成にも位置付ける背景には、こうした既存の教育・研究活動がある。
一方、TBCを外部の研究者がいつから、どのような条件で利用できるのかは、今回の開設発表では具体的に示されていない。「研究パートナーへ開放する」という方針を、すでに一般利用の受付が始まったという意味に受け取ることはできない。
今後、大学の試作設備で研究や実習を行う学生・技術者と、トヨタの評価施設が具体的にどのように連携するのかが、この取り組みの実態を判断する材料になる。
電池がどれだけ長持ちするかは、これからの成果で判断
今回発表されたのは、電池を評価・開発する施設の開設だ。新しい電池材料によって性能や航続距離が向上したことを発表したものではなく、全固体電池の量産開始を知らせるものでもない。
トヨタが掲げる電池の長寿命化や、不具合への対応迅速化がどの程度実現するのかを判断するには、具体的な使用条件と測定方法を伴った結果が必要になる。
たとえば寿命が延びたとするなら、どの温度や充放電条件で、従来品と比べてどの程度改善したのかを確認する必要がある。新しい材料や製造技術であれば、試作セルで得られた結果が、電池パックや量産車でも再現できるかが重要になる。
施設を開設したことと、その施設から製品の改善が生まれたことは別だ。評価結果が実際の製品設計や量産工程へ反映されて初めて、新拠点の効果を具体的に判断できる。
北米では、量産を担う電池工場に加え、電池を評価・開発するTBC、セルの試作や研究、人材育成を担う大学の設備がそろいつつある。
今後、TBCの研究利用が具体化し、北米で得た評価結果が量産電池の設計や製造工程の改善へつながれば、トヨタは米国で生産する電池を、現地で評価しながら改良するサイクルをより短くできる可能性がある。



