中国の工業情報化部(MIIT)など7部門は2026年9月28日、新型電池産業の今後5年間の発展方針を定めた「第15次5カ年計画(2026〜2030年)」を公表した。2030年までに全固体電池の一定規模での実用化を目指すとしている。
ただし、公開された計画には、全固体電池を年間何GWh生産するのかといった具体的な数量目標は示されていない。一方、長寿命リチウム電池では充放電寿命1万5000回、大手電池メーカーでは製品不良率をPPB級まで抑えるという数値目標が設定された。
現在の全固体電池の生産規模も、既存のリチウムイオン電池と比べればまだ小さい。報道されたBYDと国軒高科の試作ラインの生産能力を単純に年間換算し、半年分を中国全体の2026年上半期のリチウムイオン電池生産量と比較すると、約0.09%に相当する。ただし、これは公称生産能力から計算した参考値であり、実際の生産量や市場シェアではない。
今回の計画から読み取れるのは、中国が全固体電池の実用化を進める一方、既存のリチウムイオン電池についても寿命の延長や品質向上を重視していることだ。
全固体電池が2030年までにどの程度普及するのかを考えるには、政府が掲げた目標だけでなく、現在の生産規模や、各メーカーが計画する量産開始時期も確認する必要がある。
中国政府が掲げた2030年の目標、全固体電池の実用化と寿命1万5000回
今回の計画は、工業情報化部、国家発展改革委員会、交通運輸部など7部門が連名で公表した「新型電池産業発展第15次5カ年計画」である。文書番号は「工信部聯規〔2026〕220号」となっている。
2030年の目標として掲げられたのは、先進的な電極材料や新型電解質などの技術開発を進め、新しい電池技術の研究で大きな進展を得ることだ。
その中で全固体電池については、「初步实现规模化应用」という表現が使われている。
直訳すれば「初歩的な規模化応用の実現」だが、日本語では「一定規模での実用化を実現する」という意味に近い。試作品の開発にとどまらず、実際の用途で一定規模の利用を目指す方針と解釈できる。
ただし、どの程度の生産量や搭載台数に達すれば目標を達成したと判断するのか、その基準は明示されていない。
一方、同じ2030年の目標には、長寿命リチウム電池の充放電寿命を1万5000回に引き上げることと、大手メーカーの製品不良率をPPB級まで抑えることが盛り込まれた。
PPBは10億分の1を表す単位であり、製品の不良率を極めて低い水準に抑えるという品質目標だ。
計画は5分野、19項目の重点施策と、具体的な技術課題などをまとめた5つの特別項目で構成される。対象となる用途も、電気自動車や船舶、航空機の電動化から、電力網やデータセンター向けの蓄電設備まで幅広い。
一方、産業全体の生産規模については「着実な成長」を目指すとしているものの、公開資料で確認できる目標には、全固体電池の年間生産量や搭載台数などの具体的な数字はない。
ただし、工業情報化部の通知には「本文有删减(本文の一部を省略)」との注記がある。省略された部分の内容は確認できないため、数量目標が存在しないと断定できるのは、あくまで公開された資料の範囲である。
数値目標は寿命と品質に集中、全固体電池も重点的な開発対象に
今回の計画で数値が明示されたのは、長寿命リチウム電池の充放電寿命と、大手メーカーの製品不良率である。
一方、全固体電池については、具体的な数量目標を定めるのではなく、産業化に必要な技術や製造能力を高める方針が示されている。
重点施策の第3項目では、リチウムイオン電池を中心としながら、ナトリウムイオン電池やフロー電池なども組み合わせた、多様な電池の供給体制を構築するとしている。
ここで注意したいのは、リチウムイオン電池やナトリウムイオン電池という分類と、全固体電池という分類では、区別する基準が異なることだ。
前者は主に電池に使われる化学的な仕組みによる分類だが、全固体電池は電解質が固体であることによる分類である。そのため、リチウムイオン電池と全固体電池が必ずしも対立する関係にあるわけではない。
同じ第3項目では、全固体電池、水系電池、超急速充電電池について、量産化に必要な技術や製造能力を高める方針も掲げられた。
つまり、全固体電池は今回の計画でも重要な開発対象の一つに位置付けられている。ただし、公開資料では、ほかの電池より優先して生産量を拡大するという数量目標までは示されていない。
産業構造についても見直しを進める。
第11項目では企業の合併や再編を支援し、第12項目では、企業や生産拠点を適切な地域に集約することで、リチウム電池産業の配置を最適化する方針が示されている。
こうした政策は、2026年に入ってから進められてきた電池産業の競争環境の改善ともつながっている。
4月9日には、工業情報化部、国家発展改革委員会、市場監督管理総局、国家エネルギー局の4部門が、車載用・蓄電用電池メーカーとの会合を開催した。
そこで問題として取り上げられたのが、中国で「内巻式競争」と呼ばれる、企業間の消耗的な過当競争である。
4部門は、生産能力の過剰な拡大を防ぐための監視や調整、過度な価格競争の是正、製品の品質管理強化などを進める方針を示した。
今回の計画について工業情報化部が公表した解説でも、リチウム電池産業の需給構造に関する問題の解消が重要な政策課題として挙げられている。
ただし、これは政府による解説の内容であり、計画本文に同じ表現がそのまま記載されているわけではない。
既存のリチウム電池について品質や寿命の改善が重視される背景には、蓄電設備向けの需要拡大もある。
工業情報化部によると、2026年上半期の中国のリチウムイオン電池生産量は1240GWhを超えた。このうち蓄電用は420GWhで、全体の約3分の1を占めている。
2024年通年では、生産量1170GWhのうち蓄電用が260GWhで、全体の約2割だった。
ただし、2024年の通年値と2026年の上半期値を比較しているため、この数字だけから生産量や構成比の変化を正確に評価することはできない。
今回の計画では、長期間の充放電に耐える蓄電池の開発も重点課題として挙げられている。
全固体電池の実用化を進めると同時に、すでに大規模な市場が存在するリチウムイオン電池の寿命や品質を改善する方針が、具体的な数値目標にも表れている。
BYDと国軒高科の全固体電池、現在の生産能力はどの程度か
中国の大手電池メーカーも、全固体電池の実用化に向けて試作ラインや量産設備の整備を進めている。
報道によると、BYDは2026年2月、深圳市坪山区で硫化物系全固体電池のパイロットラインを稼働させた。公称生産能力は2GWhとされている。
一方、国軒高科は2025年5月、全固体電池の試験ラインが完成したと発表した。設計上の生産能力は0.2GWhで、同社は良品率が90%に達したと説明している。
ただし、これらはいずれも設備の生産能力を示す数字であり、実際にその量を生産したという意味ではない。
また、BYDの2GWhについては業界報道に基づく数字であり、企業の公式資料で生産能力や稼働状況の詳細まで確認されたものではない。
ここで、報道された両社の生産能力を合計すると2.2GWhになる。
仮にこれを年間生産能力とみなし、両社がフル稼働したと仮定すれば、半年分は1.1GWhだ。
2026年上半期の中国のリチウムイオン電池生産量1240GWhと比較すると、次のようになる。
1.1GWh ÷ 1240GWh × 100 ≒ 0.089%
つまり、約0.09%に相当する。
ただし、この比較にはいくつかの制約がある。
第一に、分子に使った1.1GWhは公称生産能力から計算した仮定の数字であり、実際の生産量ではない。
第二に、分母の1240GWhは中国全体のリチウムイオン電池生産量であり、全固体電池だけの生産量ではない。
第三に、国軒高科とBYD以外のメーカーの設備は含まれていない。
そのため、0.09%という数字を、中国における全固体電池の実際の生産比率や市場シェアと解釈することはできない。
あくまで、報道された2社の設備規模が、中国全体の既存リチウムイオン電池産業と比較してどの程度の大きさに相当するかを示す参考値である。
さらに、BYDが重慶市璧山区で建設を計画していると報じられた20GWhの量産ラインなど、計画段階の設備は計算に含めていない。
したがって、現在の設備規模をそのまま2030年の生産規模とみなすことも適切ではない。
それでも、全固体電池の生産設備はまだ立ち上げ段階にあり、既存のリチウムイオン電池産業とは規模に大きな差があることが分かる。
今回の計画に全固体電池の具体的な数量目標が示されていないことと合わせると、政府が2030年までの実用化を目指しながらも、現段階では生産量の大幅な拡大を数値で約束するところまでは踏み込んでいないと捉えられる。
全固体電池の量産を難しくする、固体同士の接触問題
全固体電池の量産化を難しくしている技術的な課題の一つが、電極と固体電解質の接触状態を安定して保つことだ。
一般的なリチウムイオン電池では、液体の電解質が電極材料の隙間に入り込み、イオンが移動するための経路を形成する。
一方、全固体電池では電解質も固体になるため、電極と電解質という固体同士が接触する部分の状態が重要になる。
接触が不十分だと抵抗が大きくなり、充放電性能が低下する可能性がある。
さらに、充放電によって電極が膨張・収縮を繰り返すと、固体同士の接触状態も変化する。電極と電解質の間に隙間が生じれば、イオンが移動しにくくなる。
このため、材料の組み合わせによっては、外部から一定の圧力を加えて接触状態を維持する仕組みが必要になる。
ただし、圧力を高めればすべて解決するわけではない。圧力を加えるための部品が増えれば、電池システム全体の重量や製造コストにも影響する。
研究室の小型セルで性能を実現することと、大量生産に適した構造で安定した性能を確保することは、別の課題なのである。
今回の計画も、こうした製造上の問題を重点課題として取り上げている。
第1項目では、イオン伝導率の向上、充放電を繰り返した際の安定性の改善、製造コストの最適化などが挙げられた。
さらに、技術課題をまとめた項目では、電極と固体電解質の接触状態の改善や、量産工程に適した加圧システムの設計にも言及している。
中国の電池メーカー首脳や研究者も、全固体電池の実用化にはまだ時間が必要との見方を示している。
CATLの曾毓群董事長は2026年6月、大連で開催された夏季ダボス会議で、全固体電池の技術成熟度を9段階中の4段階目と評価した。
同年5月の『財経』のインタビューでは、全固体電池を搭載する車両が短期間で100万台規模に達する可能性は低いとの見方も示している。
また、中国科学院の欧阳明高院士は2026年3月16日付の新華社の報道で、全固体電池を搭載した試験車両は2026年末から2027年にかけて登場する一方、大規模な量産には今後3〜5年程度かかる可能性が高いと説明した。
これらの見通しは、今回の計画が掲げた2030年までの一定規模での実用化という目標と、時期の面ではおおむね重なる。
ただし、技術の成熟度に関する専門家の評価と、政府が掲げる政策目標は異なるものであり、2030年までの実用化が保証されたわけではない。
2030年の目標には具体的な数量がない一方、2027年の量産を目指す企業も
中国政府が全固体電池の開発を支援する方針は、今回初めて示されたものではない。
2020年11月に国務院弁公庁が公表した「新エネルギー車産業発展計画(2021〜2035年)」では、固体電解質を用いた車載用電池の研究開発と産業化を加速する方針が示された。
また、2023年1月に工業情報化部など6部門が公表した指導意見では、固体電池やナトリウムイオン電池などの新技術の研究開発を加速するとともに、関連する標準体系の整備に向けた研究も進めるとしていた。
これらの文書では開発の加速が掲げられていたが、全固体電池の実用化について具体的な期限は設定されていなかった。
今回の計画では、2030年までに一定規模での実用化を実現するという目標時期が明示された。
期限が設定されたことは、従来の研究開発支援から、実際の利用を見据えた政策へと目標が具体化したことを示している。
さらに、今回の計画では、全固体電池に関する技術開発だけでなく、量産化に必要な製造技術についても重点課題が設定されている。
そのため、全固体電池の具体的な数量目標がないことを理由に、中国政府がこの技術を重視していないと判断することはできない。
一方、電池メーカー各社は政府が掲げた2030年よりも早い時期から、限定的な量産や実証を進める計画を示している。
長安汽車は2027年から段階的な量産を進める方針を示し、CATLも2027年に小規模な生産を始める見通しを示している。
BYDの孫華軍CTOは2025年2月、2027年ごろから限定的な車両への実証搭載を始める一方、本格的な大規模搭載は2030年以降になるとの見方を示した。
これらの計画で注意したいのは、「試作」「実証搭載」「小規模生産」「本格量産」がそれぞれ異なる段階を指していることだ。
少量の製品を製造して車両に搭載できるようになったとしても、その段階で大量の一般販売車両へ搭載できるとは限らない。
今回の政策が掲げる2030年の目標も、具体的にどの段階へ到達すれば達成したとみなすのか、今後の実施文書や評価基準を確認する必要がある。
日本も2030年ごろの本格実用化を目指す
日本政府も、全固体電池の実用化について2030年前後を重要な時期と位置付けている。
経済産業省は2026年6月2日、従来の「蓄電池産業戦略」を「蓄電池・電源産業戦略」に改訂した。
改訂後の戦略では、2030年ごろに全固体電池の本格実用化を実現し、2030年代半ばに向けて需要規模に応じた製造基盤を整備する方針を示している。
また、日本企業による開発も進んでいる。
トヨタ自動車と出光興産は2023年10月、2027〜2028年の全固体電池実用化に向け、硫化物固体電解質の量産技術を共同開発すると発表した。
中国が掲げる「2030年までの一定規模での実用化」と、日本が掲げる「2030年ごろの本格実用化」は、時期の面では近い。
ただし、中国の「一定規模」と日本の「本格実用化」について、それぞれ達成を判断するための共通した数量基準があるわけではない。
そのため、表現の違いだけを根拠に、どちらの国がより早く大量生産へ到達するかを判断することはできない。
両国とも2030年前後を全固体電池の実用化に向けた重要な時期に設定しているものの、各企業が実際にどの程度の量産能力を整備できるかについては、今後の進捗を確認する必要がある。
2027年末までに、どこまで生産能力を拡大できるか
今後の進展を判断するうえで重要になるのは、企業が公表する生産能力と、実際に稼働している設備の規模だ。
現在報じられているBYDと国軒高科の設備能力を合計すると2.2GWhとなる。
仮に2027年末までに、中国の主要メーカーが年間12GWh程度の全固体電池生産能力を稼働させたとすれば、現在確認されている2社の設備規模を大きく上回ることになる。
12GWhという数字は、工業情報化部が公表した2024年の中国全体のリチウムイオン電池生産量1170GWhの約1%に相当する。
ただし、これは政府が定めた目標ではなく、設備規模の拡大を確認するために設定した参考値である。
また、生産能力が12GWhに達したとしても、実際に同じ量を生産・出荷できるとは限らない。安定した量産が可能かどうかを判断するには、設備の稼働率や良品率、顧客への出荷実績まで確認する必要がある。
BYDについては、重慶市璧山区で20GWhの全固体電池量産ラインを建設する計画が報じられている。
仮にこの計画が2027年末までに実現し、計画どおりの生産能力で稼働を開始すれば、現在報じられている試作ラインの規模を大きく上回ることになる。
ただし、建設計画が存在することと、予定どおり稼働し、量産製品を出荷できることは別だ。今後は設備の建設状況に加え、生産開始や顧客への供給に関する公式発表を確認する必要がある。
政策面では、工業情報化部が今後公表する実施計画や評価基準も重要になる。
現在の「一定規模での実用化」という目標について、例えば年間数十GWhといった具体的な数量が設定されれば、2030年に向けた政府の方針を、より明確に評価できるようになる。
一方、数量目標が示されないままであっても、企業が公表する生産能力や実際の出荷量から、全固体電池の産業化がどこまで進んでいるかを確認することは可能だ。
欧阳明高院士が2026年3月に示した「大規模な量産まで3〜5年」という見通しは、2029〜2031年に相当し、今回の計画が掲げた2030年とも重なる。
中国の全固体電池産業がこの見通しに沿って発展するかどうかを判断するには、政府の目標だけでなく、各メーカーの試作ラインが実際の量産設備へ移行し、生産量と良品率をどこまで引き上げられるかを確認する必要がある。



