全固体電池を軽量化しながら、リチウムイオンが動きやすい固体電解質を実現する。電気通信大学と日亜化学工業の共同研究チームが、この課題の解決につながる新たな結晶構造の可能性を明らかにした。研究成果は、2026年9月24日付で査読付き学術誌『Advanced Functional Materials』に掲載され、電気通信大学が10月6日に公式発表を行った。論文の責任著者は、日亜化学工業の市川諒英氏と電気通信大学の中村淳教授が務めている。国立大学法人 電気通信大学

ただし、この成果を「軽量な次世代電池が完成した」と受け取るのは早計だ。研究チームが示したのは、セラミックスの合成実験と計算科学を組み合わせた、固体電解質の基礎的な物性評価である。実際に充放電できる電池セルを製作したわけではない。計算ではリチウムイオンが移動しやすいことが示された一方、実験で合成した試料のイオン伝導率は極めて低かった。この大きな隔たりにこそ、今回の研究の重要な発見がある。

次世代の蓄電技術として期待される全固体電池だが、実用化には多くの課題が残されている。その一つが、固体電解質の重量だ。発火リスクを低減するために不燃性の無機固体電解質を採用すると、材料の種類や構造によっては、電池全体の重量が増えてしまう。特に酸化物系の固体電解質は、大気中での安定性に優れる一方、代表的な材料には重い元素が多く含まれている。電気自動車やドローンでは、電解質の重量増加が航続距離や積載能力に影響する。

今回の研究は、こうした重量の問題を解決する手がかりを示したものだ。研究チームは、これまで主に発光材料として研究されてきた結晶に着目し、リチウムイオンが移動しやすい経路を原子レベルの計算から見いだした。軽量化と高いイオン伝導性を両立できる結晶構造を示した点に、学術的な価値がある。

一方で、結晶内部にイオンが移動しやすい経路があっても、それだけでは十分な伝導率が得られないことも明らかになった。材料が本来持つ性能を、実際の電池でどう引き出すか。その難しさも浮き彫りになっている。

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酸化物系固体電解質の重量を減らす、新たな結晶構造

全固体電池の研究では、酸化物系固体電解質が有力な候補の一つとされている。硫化物系の固体電解質とは異なり、水分との反応によって有毒な硫化水素が発生するリスクが小さく、大気中でも比較的安定して扱えるためだ。

しかし、従来の代表的な酸化物系固体電解質には、材料そのものが重いという問題があった。結晶構造を安定させるため、ランタン(La)やジルコニウム(Zr)など、原子量の大きい元素を含んでいるからだ。

例えば、代表的なガーネット型固体電解質である(LLZO)の結晶密度は、約5.12 g/cm³に達する。

固体電解質が重ければ、電池の安全性を高められても、重量当たりのエネルギー密度を向上させるうえでは不利になる。電気自動車の航続距離を延ばす場合や、機体の軽量化が特に重要な航空用途では、電解質の重量を抑えることが重要な課題となる。

そこで研究チームが着目したのが、型と呼ばれる結晶構造を持つケイ酸塩化合物、である。

この物質は単斜晶系の結晶構造を持ち、理論密度は2.74 g/cm³と算出されている。LLZOの5.12 g/cm³と比べると、結晶密度は約46%低い。

は、もともと緑色LED用蛍光体の母体材料として知られていた。つまり、今回初めて合成された化合物というわけではない。従来は主に光学材料として研究されてきた物質に、リチウムイオン伝導という別の観点から着目したことが、今回の研究の特徴だ。

日亜化学工業が培ってきた蛍光体材料の知見と、電気通信大学の計算物質科学を組み合わせることで、これまで固体電解質として十分に検討されてこなかった結晶構造の可能性が明らかになった。

ただし、ここでいう「約46%の軽量化」は、あくまで結晶密度の比較である。完成した電池セルの重量が46%減るという意味ではない。

実際の電池セルには、正極・負極の活物質、導電助剤、バインダー、集電体、外装材など、さまざまな部材が使われる。固体電解質の密度が低くても、電池全体の重量やエネルギー密度がどの程度改善するかは、電解質層の厚さや電極との複合化方法などによって変わる。

今回示されたのは、電池全体の軽量化を直接実証した結果ではなく、軽量な固体電解質を開発するうえで有望な結晶構造が見つかったという成果である。

合成実験と2種類の計算手法でイオンの移動を解析

研究チームは、セラミックスの合成実験と計算科学を組み合わせて、材料の特性を調べた。

まず、固相反応法によっての多結晶粉末を合成し、それを焼結したペレット状の試料を作製した。これらを用いて結晶構造を調べるとともに、イオン伝導特性を測定した。

さらに、結晶内部でリチウムイオンがどのように移動するのかを詳しく調べるため、2種類の計算手法を併用した。

一つは、量子力学に基づく密度汎関数理論(DFT)を用いた第一原理計算だ。原子間の相互作用や、リチウムイオンが移動する際に必要なエネルギーを評価できる。ただし、計算負荷が大きく、扱える原子数や時間スケールには制約がある。

もう一つは、ニューラルネットワークを利用した機械学習ポテンシャル「Preferred Potential(PFP)」を用いる分子動力学シミュレーション(PFP-MD)だ。原子間の相互作用を機械学習モデルで表現することで、第一原理計算より大きな系や長い時間スケールで、原子の動きを追跡しやすくなる。

研究チームは、この2つの手法を組み合わせ、実験では直接観察することが難しいリチウムイオンの移動経路や、その移動を妨げる要因を解析した。

計算結果と実験結果の比較も行っている。分子動力学シミュレーションから求めた結晶方位ごとの活性化エネルギーを平均すると、多結晶ペレットの実験から得られた活性化エネルギーとよく一致した。

これは、計算モデルが実際の材料で起きているイオン伝導の特徴を捉えていることを支持する結果だ。理論上の構造だけを調べたのではなく、合成したセラミックスの測定結果と照らし合わせている点に意味がある。

もっとも、活性化エネルギーの一致だけで、結晶内部のイオンの動きがすべて正確に再現されていると証明されたわけではない。計算で推定した移動経路や欠陥の挙動については、今後も実験による検証が必要になる。

また、今回の研究は、実験室での材料合成と計算による伝導機構の解明を目的としたものだ。電極を接合した実用的な電池セルで、充放電性能や長期耐久性を評価した研究ではない。

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0.30 eVの低い移動障壁と、3次元に広がる伝導経路

今回の研究で注目される成果の一つが、リチウムイオンの移動経路に関する発見だ。

の結晶構造を見ると、リチウムイオンが通れる経路は、結晶の$b$軸方向に伸びるトンネル状の一次元チャネルに限られているように見える。

一般に、一次元的なイオン伝導経路には弱点がある。途中に不純物や結晶欠陥が生じると、その影響でイオンの移動が妨げられやすいことだ。

一本道しかない道路では、途中で通行止めが発生すると先へ進めなくなる。結晶内の一次元伝導経路にも、それに似た問題がある。

ところが、PFP-MDシミュレーションからは、異なる結果が得られた。

結晶構造上は独立しているように見える$b$軸方向のチャネルが、実際には互いにつながり、3次元的なリチウムイオンの移動経路を形成していることが示されたのだ。

原子の熱振動を考慮すると、リチウムイオンは一つのトンネルに沿って移動するだけでなく、隣接するトンネルへも移動できる。これにより、一部の経路が結晶欠陥によって妨げられても、別の経路を通って移動できる可能性がある。

完全な一次元伝導体に比べて、局所的な欠陥の影響を受けにくい構造と考えられる。

さらに第一原理計算では、結晶内の格子間位置に存在するリチウムイオンが移動する際のエネルギー障壁が、わずか0.30 eVであることが示された。

移動障壁とは、イオンが結晶内のある位置から別の位置へ移動する際に、越えなければならないエネルギーの壁を指す。一般に、この値が低いほどイオンは移動しやすくなる。

0.30 eVという値は、実用化が期待される酸化物系固体電解質と比較しても低い水準だ。

例えば、ガーネット型LLZOの移動障壁は0.26 eV、NASICON型構造を持つ(LATP)では0.27 eVと報告されている。

固体電解質のリチウムイオン移動障壁の比較横棒グラフ。カテゴリ 3 件、系列: イオン移動障壁(単位: eV)LLZO(基準材料)LLZO(基準材料)LLZO(基準材料) — イオン移動障壁: 0.26eV0.26LATP(基準材料)LATP(基準材料)LATP(基準材料) — イオン移動障壁: 0.27eV0.27RbLi(Li3SiO4)2(本研究)RbLi(Li3SiO4)2(…RbLi(Li3SiO4)2(本研究) — イオン移動障壁: 0.3eV0.3単位: eV
データを表で見る
イオン移動障壁 (eV)
LLZO(基準材料)0.26
LATP(基準材料)0.27
RbLi(Li3SiO4)2(本研究)0.3
固体電解質のリチウムイオン移動障壁の比較各材料について報告されたリチウムイオンの移動障壁。値が小さいほど移動に必要なエネルギーが低い。ただし、材料全体のイオン伝導率を直接比較したものではない。出典: Advanced Functional Materials (2026), DOI: 10.1002/adfm.78600/電気通信大学

研究チームは、この低い移動障壁を生み出す要因として、隣接するリチウムイオン同士のクーロン反発力に着目している。

リチウムイオンは正の電荷を持つため、互いに反発する。結晶内で一つのイオンが動くと、周囲のイオンとの反発によって、別のイオンの移動も促される。このように、複数のイオンが連動して移動する「協奏運動」が、低い移動障壁に関係していると考えられる。

ただし、これは計算から導かれた移動機構の説明であり、個々のリチウムイオンの動きを実験で直接撮影した結果ではない。

今回の研究対象と、比較に用いられた代表的な酸化物系固体電解質の数値を整理すると、次のようになる。

材料名 本研究での位置づけ 理論密度(g/cm³) イオン移動障壁(eV) 実測イオン伝導率 留意点
今回の研究対象 2.74 0.30 S/cm(150℃) 化学量論組成の試料で測定。室温での実用的な伝導率は未実証
(LLZO) 既存の酸化物系基準材料 5.12 0.26 本研究では測定せず ランタンやジルコニウムなどの重い元素を含む
(LATP) 既存の酸化物系基準材料 比較値の提示なし 0.27 本研究では測定せず 移動障壁の比較対象として引用

※移動障壁は本研究および参照文献で報告された値であり、すべてを同一条件で測定・計算した結果ではない。

この比較から、は、既存の有力材料より結晶密度が低く、リチウムイオンの移動障壁も同程度に小さいことが分かる。

しかし、移動障壁が低いことと、材料全体のイオン伝導率が高いことは同じではない。

実際に合成されたの伝導率は、計算から期待されるイオンの移動しやすさに比べて、極めて低い値にとどまった。

この違いを説明するのが、今回の研究でもう一つ明らかになった「結晶欠陥の形成」という問題だ。

イオンは動きやすいのに、なぜ伝導率が低いのか

第一原理計算から求められた0.30 eVという低い移動障壁に対し、実験室で合成した化学量論組成のペレットが示したイオン伝導率は、150℃で S/cmだった。

これは極めて低い値だ。

全固体電池用の固体電解質では、用途や設計にもよるが、室温で$10^{-3}$〜$10^{-2}$ S/cm程度のイオン伝導率が、一つの実用的な目標とされる。

今回の実測値は、その目標と比べて約3万〜30万倍も低い。しかも、今回の測定は室温ではなく150℃で行われている。

なぜ、計算ではイオンが移動しやすいと示された材料が、実際には十分な伝導率を発揮できないのだろうか。

研究チームは、その原因がイオンの移動そのものではなく、移動に必要な結晶欠陥が形成されにくいことにあると突き止めた。

イオン伝導率は、主に移動できる電荷担体の数と、その動きやすさによって決まる。

イオンが非常に動きやすい結晶構造であっても、実際に移動できるリチウムイオンが少なければ、材料全体の伝導率は高くならない。

今回の研究で重要になるのは、結晶内の通常の原子位置とは異なる「格子間位置」に存在するリチウムイオンだ。

完全な結晶では、リチウムイオンは基本的に決められた格子位置を占めている。しかし、リチウムイオンの一部が本来の位置から格子間位置へ移ると、元の位置には空孔が残り、格子間には余分なリチウムイオンが生じる。

こうしてできる空孔と格子間リチウムの組み合わせを「フレンケル欠陥対」と呼ぶ。

今回の計算では、このフレンケル欠陥対を形成するために必要なエネルギーが1.26 eVと求められた。

これは、格子間リチウムの移動障壁である0.30 eVよりも大幅に高い。

つまり、いったん格子間リチウムが存在すれば、比較的小さなエネルギーで移動できる。しかし、そもそもその格子間リチウムを生み出すために、大きなエネルギーが必要になるのだ。

化学量論組成の結晶では、この欠陥形成に必要なエネルギーが高いため、熱によって生じる移動可能なリチウムイオンの数が限られる。

その結果、結晶構造そのものはイオンが移動しやすいにもかかわらず、材料全体としては低い伝導率しか得られない。

道路に例えるなら、車が高速で走れる道路は整備されているのに、実際に走っている車がほとんどない状態に近い。

道路の性能がどれほど優れていても、走る車の数が少なければ、単位時間当たりに運べる荷物の総量は増えない。

今回の材料でも、イオンが移動するための経路と、そこを移動できるイオンの数を分けて考える必要がある。

研究チームは、この欠陥形成の難しさこそが、化学量論組成のでイオン伝導率を制限する主な要因だと結論づけている。The Advanced Portfolio

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リチウム過剰組成による性能改善の可能性と、残された課題

イオン伝導率を制限している主な原因が欠陥の不足であれば、改善の方向性も見えてくる。

結晶内で自然に欠陥が形成されるのを待つのではなく、材料の組成を調整し、移動に関わるリチウムイオンをあらかじめ増やすという方法だ。

研究チームは、その具体的な方向性として、リチウムの含有量を化学量論組成より多くした「リチウム過剰組成」を提案している。

結晶格子内に余分なリチウムイオンを導入できれば、高いエネルギーを必要とする欠陥形成の過程を経ずに、イオン伝導に必要な電荷担体を確保できる可能性がある。

異なる価数の元素による置換なども、一般的な固体電解質の材料設計では欠陥濃度を調整する手段となる。ただし、どのような元素や組成がこの結晶に適しているかは、別途検証する必要がある。

電気通信大学の中村教授は、今回明らかになった結晶構造について、リチウムイオン伝導に適した骨格であり、今後の材料設計に向けた明確な指針を与えるものだと評価している。

ここで重要なのは、今回提案されたリチウム過剰組成による性能改善が、まだ実験で確認された結果ではないという点だ。

今回の研究では、リチウム過剰組成の試料を実際に合成し、そのイオン伝導率の向上を実証したわけではない。

計算上は余分なリチウムを結晶内に配置できても、実際の合成工程で狙い通りの組成と構造を実現できるとは限らない。

リチウムの含有量を増やすことで、目的とする結晶構造が不安定になったり、別の化合物が生成されたりする可能性もある。余分なリチウムを導入できたとしても、それが実際に移動可能な状態で存在するかどうかを確認しなければならない。

したがって、今後の重要な課題は、リチウム過剰組成の材料を安定して合成できるか、そして実際に伝導率が改善するかを検証することになる。

さらに、材料の組成だけでなく、セラミックスの製造方法にも課題が残る。

固相反応法で得られた多結晶セラミックスでは、一つ一つの結晶粒の内部だけでなく、結晶粒同士の境界である「粒界」もイオン伝導に影響する。

粒子間に空隙や不純物が残っていると、結晶粒の内部ではイオンが動きやすくても、ペレット全体の伝導率が低下する可能性がある。

そのため、焼結条件を最適化してセラミックスを緻密化し、粒界での抵抗を抑える技術が必要になる。

電気通信大学の公式発表でも、今後の課題として、リチウム量の最適化による高伝導率化と、粒子間の緻密性を高める製造プロセスの改善が挙げられている。

実際の電池に組み込むためには、さらに多くの検証が必要だ。

例えば、金属リチウム負極や高電位の正極材料と接触した際に、電解質が化学的・電気化学的に安定しているかを調べなければならない。

電解質が電極との界面で還元分解や酸化分解を起こすと、イオンの移動を妨げる反応生成物が形成される可能性がある。

また、充放電に伴う電極の体積変化によって、固体電解質との接触状態が悪化しないかという問題もある。長期間の使用に耐えられるかを確認するには、実際の電池セルを作製したうえで、充放電サイクル試験などを行う必要がある。

今回の研究では、こうした電極との界面安定性や、電池セルとしての充放電性能までは実証されていない。

それでも、これまで主に発光材料として知られていた結晶に、固体電解質としての可能性を見いだした意義は小さくない。

今回の成果は、高性能な全固体電池を完成させたことではなく、軽量でイオンが移動しやすい結晶構造を特定し、その性能を引き出すために何を改善すべきかを明らかにしたことにある。

今後、リチウム過剰組成の材料を実際に合成し、室温でのイオン伝導率をどこまで高められるかが、研究の進展を判断する重要な指標になる。

さらに、材料の緻密化や電極との界面安定性を改善し、実際に充放電できる電池セルへ発展させられるかどうかも問われる。

全固体電池に関する研究成果を評価する際には、計算で求めたイオン移動障壁の低さだけでなく、実際に測定された伝導率とその測定温度、そして電池セルとしての動作実績を区別して見る必要がある。

今回発見された結晶構造が、軽量で高性能な全固体電池の実現につながるかどうかは、これからの材料合成と実証実験にかかっている。