Mercedes-Benzと台湾の電池メーカーProLogiumは2026年9月24日、次世代の全固体電池セルを共同で試験する契約を結んだ。Mercedes-BenzはProLogiumのGen4セルへ優先的にアクセスし、自社施設と外部の専門機関で電気特性、熱挙動、安全性を評価する。試験結果は、将来の電気自動車(EV)に採用できるかを判断する材料となる。

ただし、発表では今回の契約に実車での走行試験が含まれるとは明記されていない。量産車への採用も決まっていない。ProLogiumは高いエネルギー密度や急速充電性能、安全性を掲げるが、発表にはセル容量やサイクル寿命が示されていない。試験期間や合格基準、Mercedes-Benz向けの供給量も不明だ。今回の契約で進んだのは、研究室で示された性能を自動車メーカーの評価工程で検証する段階へ移すことだ。

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メルセデスが始めるのは「Gen4の共同評価」

共同発表で明記された試験項目は、電気特性、熱特性、安全性の3分野だ。Mercedes-Benzの専用設備に加え、外部の専門機関も利用する。ProLogiumにとっては、自社内での評価にとどまらず、Mercedes-Benzの評価プロセスでGen4を試す段階へ進むことになる。

一方、発表ではモジュール、バッテリーパック、車両のどこまでを試験対象に含めるのかは詳しく示されていない。セルの形状や容量、正極材料、充放電を何回繰り返すのかも未公表だ。「優先アクセス」という表現も、独占供給や採用決定、発注を意味するものではない。Mercedes-Benzは試験結果を見たうえで、将来の車両に採用できる可能性を判断する。

両社の関係は今回始まったものではない。Mercedes-Benzは2022年にProLogiumとの技術協力と出資を発表し、同社の取締役会にも席を得た。当時は、共同開発した全固体電池を搭載する試験車を数年以内に投入し、将来的には乗用車へ採用することを目指していた。今回の契約で具体化したのは、そのロードマップの中でGen4セルをMercedes-Benz側の評価段階へ進める工程だ。

量産中なのは別世代、Gen4はセル評価の入口

Mercedes-Benzとの約10年にわたる協業のなかで、2026年9月時点のGen4はセル評価の段階にある。一方、ProLogiumが量産開始を発表しているのは、別世代のGen3.5だ。

ProLogiumは9月2日、台湾のGWh級施設でGen3.5 Lithium Ceramic Battery(リチウムセラミック電池)の量産を始めたと発表した。これに対し、Mercedes-Benzが試験するGen4は、電解質を全無機系へ切り替えた次世代品だ。セル構造や主要な製造工程は引き継ぐとしているものの、材料構成が変われば、寿命や歩留まり、大型セルでの均一性などを改めて確認する必要がある。Gen3.5を量産できたからといって、Gen4も同じ品質やコストで生産できるとは限らない。

Mercedes-Benz社内でも、全固体電池の開発は複数の段階で進んでいる。同社が2024年末にEQSへ搭載し、2025年2月から公道試験を始めたのは、米Factorial製のリチウム金属セルだった。改造したEQSは同年8月末、StuttgartからMalmöまで1,205kmを充電せずに走行し、到着時にも航続可能距離が137km残っていると表示されていた。これはFactorialセルを使った車両システムの実績であり、ProLogium Gen4の性能を示す数字ではない。

開発段階を並べると、その違いが分かりやすい。ProLogiumのGen3.5はメーカーが量産開始を発表した段階、Gen4はMercedes-Benzがセルを評価する段階、Factorial製セルはEQSへ組み込んで公道を走行する段階にある。同じ「全固体電池」という名称でも、使われる材料や開発の成熟度は異なる。

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Gen4が解決を目指す全固体電池の難題

Gen4の中心となるのが、ProLogiumがSuperfluidized All-Inorganic Solid-State Electrolyte(超流動化全無機固体電解質)と呼ぶ材料だ。固体電解質は燃えにくい材料を使いやすい一方、固体同士の接触面ではイオンが移動しにくくなりやすい。充放電によって負極が膨張・収縮すると接触状態も変化し、抵抗の増加や劣化につながる。ProLogiumは、全無機電解質とセラミックセパレーターを組み合わせることで、外部から追加で圧力をかけなくても、電解質と活物質の界面を良好な状態に保てると説明している。

セルには全無機電解質に加え、セラミックセパレーターと全シリコン負極を採用する。シリコンは多くのリチウムを蓄えられる一方、充放電に伴う体積変化が大きい。ProLogiumによれば、独自のセル構造とセパレーターによって、膨張に伴う界面の劣化を抑えるという。ただし、これは同社による技術説明であり、Mercedes-Benzが「外部から追加で圧力をかけなくても性能や寿命を維持できる」と確認したわけではない。

安全面では、電解質を不燃性の無機材料で構成するとともに、高温時に電極材料を安定化させるActive Safety Mechanism(能動安全機構、ASM)を組み込むという。ProLogiumは熱暴走につながる反応を途中で抑えると説明しているが、実際の事故を含むあらゆる条件で熱暴走を防げると確認されたわけではない。Mercedes-Benzと外部機関が熱・安全試験を行うのも、こうした性能を実際の車載を想定した条件で検証するためだ。

381Wh/kgはGen3.5、860Wh/LはGen4の会社公表値

ProLogiumが公表している数値は、世代と測定対象を分けて読む必要がある。第三者試験の結果として発表された381Wh/kgと903Wh/Lは、容量185.4AhのGen3.5大型セルの値だ。ProLogiumによれば、TÜVが測定したという。さらにUL Solutionsは、中国のGB/T 43568-2026に沿って120℃で6時間の真空試験を行い、質量損失が0.05%未満だったとしている。全固体電池に分類する基準値の0.5%を下回ったという。

一方、Gen4についてProLogiumが示している代表的な数値は、最大860Wh/Lのエネルギー密度、室温で57mS/cmのイオン伝導度、さらに残量5%から60〜80%まで4〜6分で充電できるという性能だ。しかし、これらはそれぞれ異なる指標を示している。860Wh/Lはセルの体積当たりエネルギー密度、57mS/cmは電解質中でイオンがどれだけ移動しやすいかを表す数値だ。電解質のイオン伝導度が高くても、電極との界面抵抗や発熱、充電制御、劣化などがセル全体の出力や寿命を左右する。

また、公開資料からはGen4のすべての性能を一つの第三者試験報告書で確認することはできない。381Wh/kgと903Wh/LをGen4の実測値として扱ったり、Gen3.5の量産開始とGen4の急速充電性能を組み合わせて「量産済みの超急速充電セル」と表現したりすれば、異なる世代と試験条件を混同することになる。公表されている数値は目を引くものの、性能を横並びで比較できるだけの条件はまだ揃っていない。

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次の節目は「車に積めるか」と「同じ品質で作れるか」

ProLogiumは、Gen4へ切り替える際、既存のGWh級生産ラインと関連設備の約10%を改修するだけで対応できると見込んでいる。フランスのDunkirk工場については、2028年に0.8GWh規模でGen4の量産を始め、2030年に4GWh、2032年に12GWhへ拡大する計画を示している。用地には最大48GWhまで拡張できる余地があるというが、これは将来的な拡張余地を示すものであり、現時点ですでに完成している生産能力ではない。

量産の難しさは、生産ラインが動くかどうかだけでは決まらない。大型セルを安定した品質で作り続けられる歩留まり、急速充電を繰り返した後の容量維持率、低温から高温までの耐久性、バッテリーパックに組み込んだ際の熱管理なども問われる。Mercedes-Benz向けセルの容量や評価期間は公表されていない。合格基準や供給量、採用車種も不明だ。2028年という工場の量産計画を、そのままMercedes-Benz車の発売時期と結びつける根拠もない。

今回の契約の意味は、ProLogium Gen4がMercedes-Benzの正式な評価プロセスに入ったことにある。今後、Mercedes-Benz側の測定結果が明らかになり、セルからモジュール、バッテリーパック、車両へと試験が進み、さらに同じ性能のセルを工場で安定して生産できることが示されれば、Gen4は量産車への採用候補として次の段階へ進むことになる。現時点では、Factorial製セルがすでに到達している実車での走行試験よりも、一段手前に位置している。