Acer会長兼CEOのJason Chen(陳俊聖)氏は2026年9月19日、台北で開かれたフォーラム後の記者取材で、PC向けのDDR4と一般的なDDR5について「すでに不足は解消している」との見方を示した。
6月にはMicronが、7月にはSK hynixが、2027年もメモリ需給の逼迫が続くとの見通しを相次いで示しており、今回の発言は、メモリを調達する側であるPCメーカーからの反論ともいえる。
ところがChen氏は同じ取材で、PC完成品の価格は2026年第4四半期に平均5〜20%上昇し、平均販売価格(ASP)は2027年半ばごろにピークを迎えるとも予想した。価格が下落に転じるのは2027年下半期になる可能性があるものの、その時期は誰にも分からないという。
売り手と買い手の見通しを、対象市場と時期をそろえて比較すると、実際に両者が正面から食い違っている範囲は思ったほど広くない。また、部品価格と完成品価格が同じタイミングで動くわけではないことも見えてくる。
「メモリ大手3社は80%超の粗利益率を維持したい」:Acer会長の批判
発言の場となったのは、Acer創業50周年に合わせ、智榮基金會と遠見・天下文化事業群が台北で開いた「王道経営とAI国際フォーラム」だった。智榮基金會はAcer創業者のStan Shih氏が董事長を務める財団で、Acerグループ自身が主催したイベントではない。
Chen氏はフォーラム後の取材で、DDR4と一般的なDDR5について、すでに供給不足ではなく、供給側が需要側を上回る状態にあると述べた。経済日報は、DDR4の価格が下がり始めているとも伝えている。
批判の矛先は、メモリ大手3社に向けられた。
Chen氏によれば、大手3社は80%を超える粗利益率をできるだけ長く維持したいため、「価格は下がらない」と発信し続けているという。市場では現在、各社が強気な見通しを示し合っており、契約価格も高値圏で不安定に推移するなか、実際には各社が在庫を抱えていると主張した。
Chen氏は具体的な社名を挙げていない。なお、DRAM市場の大手3社とは、一般にSamsung Electronics、SK hynix、Micronを指す。
2030年まで不足が続くとの見方についても、Chen氏は「非現実的だ」と退けたと経済日報は9月19日に報じている。
その約2か月前には、ADATA董事長のChen Li-bai氏が、DRAM不足はさらに10年続く可能性があると述べたとTechSpotが報じており、台湾企業の間でも見方は分かれている。
ただし、この批判を読む際には、Chen氏自身も利害関係者である点を踏まえる必要がある。
AcerはメモリやSSDを調達する側のPCメーカーであり、部品価格が下落するとの見方が市場に広がれば、調達交渉上は有利に働く可能性がある。売り手には高値を維持したい動機がある一方で、買い手にも価格低下を望む動機がある。
両者の主張は、それぞれが何を売り、何を買っている立場なのかを踏まえて読む必要がある。
部品が足りているのに、PC価格のピークが2027年半ばとされるのはなぜか
2026年第4四半期のPC完成品価格について、Chen氏は平均5〜20%の上昇を見込んでいる。
経済日報とTVBSによれば、2027年第1四半期にもなお値上げの余地があるという。平均販売価格は2027年半ばごろにピークを迎え、その後、2027年下半期に下落へ転じる可能性があるというのがChen氏の見立てだ。
ETtodayは、早ければ2027年末までに平均販売価格が下がる可能性があると伝えている。
ただし、Chen氏は価格下落の時期を断定しているわけではない。
経済日報によれば、Chen氏は転換点がいつになるかは誰にも分からないと述べ、2027年下半期に値上がりが止まり、価格が落ち着く可能性があるとの表現にとどめている。
したがって、「2027年後半には値下がりする」と断定できる材料は、今回の発言にはない。
部品の供給不足が解消しているのに、なぜ完成品価格は上がり続けるのか。
Chen氏は、その理由として在庫コストを挙げている。
経済日報によると、Chen氏は、部品価格の下落が完成品価格へ反映されるまでには時間がかかり、各メーカーが保有する部品在庫の取得コストにも左右される、という趣旨の説明をしている。
さらに、Acerが2027年に負担するメモリとSSDの調達コストは2026年より下がる見込みである一方、現在のAcerのメモリ在庫は高水準にあるとも述べた。
仕組みは単純だ。
PCメーカーは、メモリなどの部品を契約価格で先に調達し、在庫として保有したうえでPCを組み立て、出荷する。そのため、ある四半期に販売されるPCの原価には、それ以前に決まった部品価格が反映される。
2027年の調達コストが2026年より下がる見込みだということは、裏を返せば、2026年末から2027年前半に出荷されるPCには、2026年の高い価格で調達した部品がなお使われる可能性があるということだ。
具体的な仕入れ時期は明らかにされていないが、在庫が多ければ、それを消化するまでに時間がかかる。
部品市況が緩んだあとも完成品価格の下落までに時間差が生じるという説明は、Chen氏自身が挙げた在庫コストの仕組みと整合する。PC価格のピークを2027年半ばごろとする見通しも、この説明と矛盾しない。
日本の読者に置き換えて考えてみよう。
Chen氏が示した上昇幅を税込15万円のノートPCに単純に当てはめると、5%上昇なら15万7,500円、20%上昇なら18万円になる。
ただし、これはChen氏が台湾での取材で示した平均的な見通しを使った単純計算であり、日本国内の店頭価格を予測したものではない。同じ時期に、同じ幅の値上げが日本市場へ反映されるかどうかは、今回の発言からは判断できない。
不足しているのはLPDDR5X-9600と一部CPU 英語圏の報道との食い違い
Chen氏が「なお不足している」と挙げた品目は限られている。
経済日報によれば、NVIDIAのN1やN1Xと組み合わせるLPDDR5X-9600などの高性能部品と、一部の低〜中位CPUだ。CPUについて具体的な型番は報じられていない。
LPDDR5X-9600は、データ転送速度9,600MT/sのLPDDR5Xメモリを指す。これは1秒あたり96億回のデータ転送に相当する。
LPDDRは低消費電力を重視したDRAM規格で、薄型ノートPCなどでは基板へ直接実装されることが多い。
同じDRAMでも、規格や速度が違えば別の製品になる。そのため、汎用的なDDR4やDDR5が供給過剰になっていたとしても、特定のプロセッサーと組み合わせる高速メモリの不足を補えるとは限らない。
Chen氏が同じ取材の中で「足りている」と「足りない」の両方を述べているのは、この違いによるものだ。
ところが、一部の英語圏メディアでは、この区別が曖昧になっている。
TechSpotはNVIDIAのN1XなどのCPUが不足していると報じた。一方、Chen氏を直接取材した経済日報は、不足しているのはN1やN1Xと組み合わせるLPDDR5X-9600などのメモリだと伝えている。
N1Xそのものが不足しているのか、N1Xと組み合わせるメモリが不足しているのかでは、意味が大きく異なる。
前者ならNVIDIA側の供給問題になる。後者であれば、「メモリ全体ではなく高速品の一部だけが逼迫している」というChen氏の主張と一致する。
時期の表現にも違いがある。
TechSpotはPC価格のピークを「2027年前半」と記し、Tom's Hardwareは見出しで「2027年後半までにPC価格が下がる」と打ち出した。
一方、台湾メディアが伝えているのは、「ピークは2027年半ば」「下落に転じるのは2027年下半期の可能性」という内容だ。
英語で要約される過程でピークの時期がやや前倒しされ、「可能性」として語られた下落時期も、より確定的な表現に変わっている。
ただし、台湾メディアの記事も記者による要約であり、Chen氏の発言をすべて逐語的に掲載したものではない点には注意が必要だ。
2027年以降も不足するとみる売り手、PC向けは足りているとみる買い手
Micron CEOのSanjay Mehrotra氏は2026年6月の第3四半期決算で、AI需要と構造的な供給制約を理由に、「逼迫した状況は暦年2027年を超えて続くと予想している」と述べた。
原文では「We expect tight conditions to persist beyond calendar 2027」としており、CNBCが2026年6月24日に報じている。
SK hynix CEOのKwak Noh-jung氏は7月10日のReutersの取材で、2027年は供給面で業界史上最悪の年になるとの見方を示した。さらに、顧客需要は2030年を超えてもSK hynix自身の供給能力を上回ると語っている。
発言者、立場、対象市場、時点をそろえて整理すると次のようになる。
| 発言者 | 立場 | 対象 | 見通し | 発言時期 |
|---|---|---|---|---|
| Micron(Sanjay Mehrotra) | 売り手 | 特定市場に限定せず | 逼迫は暦年2027年を超えて続く | 2026年6月 |
| SK hynix(Kwak Noh-jung) | 売り手 | 自社供給能力に対する顧客需要 | 2027年は供給面で極めて厳しく、需要は2030年を超えても自社供給能力を上回る | 2026年7月 |
| Acer(Jason Chen) | 買い手 | PC向けDDR4、一般的なDDR5 | すでに不足していない | 2026年9月 |
| Acer(Jason Chen) | 買い手 | LPDDR5X-9600などの高性能品 | なお不足している | 2026年9月 |
| 周代運(台湾のアナリスト) | 第三者 | サーバー用ECCメモリ、HBM | なお逼迫しており、単価・粗利益率もPC向けより高い | 2026年9月 |
「足りない」と「足りている」という見方は、そもそも対象としている市場が同じではない。
Micronは特定の市場を限定せず、需給の逼迫が2027年を超えて続くと予想している。SK hynixは、自社の供給能力に対して顧客需要が2030年以降も上回るとの見通しを示している。
これに対しAcerは、PC向けDDR4と一般的なDDR5については不足が解消しており、なお不足しているのはLPDDR5X-9600などの高性能品や一部CPUだとしている。
こうして整理すると、明確に対立していると言える組み合わせは意外に少ない。
SK hynixの2030年に関する発言は、自社の供給能力と顧客需要の比較であり、市場全体の需給を直接示したものではない。そのため、Acerの見方を直接否定するものではない。
サーバー向けECCメモリやHBMについても、Acerは「足りている」と述べていない。工商時報で周代運氏が指摘したように、Chen氏が供給は十分だと述べたのは、PC向けDDR4と一般的なDDR5についてである。
Micronの発言も、AI需要を背景としてメモリ市場全体の需給逼迫を論じたもので、PC向け汎用メモリだけに絞った発言ではない。
したがって、AcerとMicronの見通しが、まったく同じ市場について正面から食い違っていると断定することはできない。Micronが述べる市場全体の需給逼迫の中で、PC向け汎用メモリがどの程度逼迫しているのかは、両社の発言だけでは判断できない。
いずれも将来の予測であり、実績ではない。
売り手には価格を高く維持したい動機があり、買い手であるAcerには調達価格の低下を望む動機がある。それでも対象市場を丁寧に切り分ければ、対立点はSK hynixの自社供給能力やサーバー・HBM市場ではなく、Micronが語る市場全体の需給逼迫にPC向け汎用品がどこまで含まれるのか、という点に絞られてくる。
CXMTの量産開始と、2027年下半期に価格が下落するかを見極める材料
Chen氏の発言翌日の9月20日、中国のCXMTは安徽省合肥で開かれた世界製造業大会で、第5世代DRAMプラットフォーム(G5)の量産開始を発表した。
同社によれば、アクティブ領域のハーフピッチは11.95nmで、前世代と比べてウェハー1枚当たりのダイ数を50%以上増やしたという。24GbのLPDDR5X製品2種類も量産中としている。
量産状況や性能に関する数字はいずれもCXMT自身の発表によるものだ。
Chen氏は取材の中でCXMTを名指ししてはいない。
中国のメモリメーカー全般について、生産能力が大きく価格も安いため、市場価格を押し下げる存在になるとの見方を示し、中国勢が生産能力を拡大し続ける以上、価格が上がり続けることはないと述べた。
CXMTの量産発表は、Chen氏の主張を直接裏付けるものではないが、時期的にはその翌日に発表された関連材料の一つといえる。
ここ3か月の動きを日付順に並べると、次のようになる。
| 日付 | 主体 | 立場 | 出来事 |
|---|---|---|---|
| 2026年6月24日 | Micron | 売り手 | 需給逼迫は暦年2027年を超えて続くと表明 |
| 2026年7月10日 | SK hynix | 売り手 | 2027年は供給面で極めて厳しく、需要は2030年を超えても自社供給能力を上回るとの見通しを表明 |
| 2026年7月21日 | ADATA | 売り手 | DRAM不足はさらに10年続く可能性があると董事長が述べたとTechSpotが報道 |
| 2026年9月19日 | Acer | 買い手 | PC向けDDR4と一般的なDDR5は不足していない、PC価格のピークは2027年半ばごろとの見方を表明 |
| 2026年9月20日 | CXMT | 供給側 | 第5世代DRAMの量産開始を発表 |
2026年6月にMicronが需給逼迫は2027年を超えて続くと述べ、7月にはSK hynixが2027年を供給面で極めて厳しい年になると予想した。
それから約2か月後の9月19日、買い手であるAcerがPC向けDDR4と一般的なDDR5について「すでに足りている」と反論し、その翌日にはCXMTが第5世代DRAMの量産開始を発表した。
売り手側の強気な見通しが相次いでから3か月ほどで、買い手側から異なる見方が示され、新たな供給拡大も発表されたことになる。
CXMTの量産品がLPDDR5Xである点は、Chen氏が不足品として挙げたメモリと規格上は共通している。
ただし、不足しているとされたLPDDR5X-9600と同等の速度に対応する製品なのかは別途確認が必要だ。LPDDR5Xの量産開始だけで、高性能品の不足が解消されるとは言えない。
2027年下半期にPC価格が下落へ転じるかを判断するうえで、注目すべき材料は3つある。
DDR4と一般的なDDR5の契約価格が2027年第1四半期にかけて下がり続けるか。Acerを含むPCメーカーの平均販売価格が2027年半ばごろに頭打ちになるか。そして、CXMTなど中国メーカーの量産品がLPDDR5X-9600級の高性能品まで広がるかだ。
日本でPCの買い替えを考える人にとっても、これらは実際の店頭価格に先行して動く可能性のある指標になる。
3つの動きがそろって価格低下の方向を示せば、Chen氏が可能性として示した2027年下半期の価格下落は、一企業の予測から、市況による裏付けを伴った見通しへと変わっていく。



