フィリピン沿岸警備隊(PCG)は2026年9月28日、中国の調査船「Jia Hai Ke 7(嘉海科7)」がバタネス州イトバヤット島の北西約38カイリ(約70km)にとどまっていることを確認したと発表した。同船の船舶自動識別装置(AIS)には、9月21日午前0時59分に中国・厦門を出港した後、同日午後8時10分には約2,000カイリ離れたパプアニューギニア沖にいたとする、物理的に不可能な航跡が記録されていた。PCGは意図的な位置情報の偽装と判断し、ルソン海峡の海底通信ケーブルが敷設された海域付近での活動に懸念を示している。

ただし、10月3日までに公表された情報では、同船が海底ケーブルに関するデータを収集したことや、観測機器を海中に投下したことを裏付ける証拠は示されていない。フィリピン外務省が中国側に抗議した際も、根拠としたのは海底ケーブルの保護規定ではなく、排他的経済水域(EEZ)内の海洋科学調査に沿岸国の同意を求める国連海洋法条約(UNCLOS)第246条だった。今回の問題では、実際に確認された船舶の行動と、その目的をめぐる推定を区別する必要がある。

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AISの位置偽装疑惑から退去まで、中国調査船をめぐる4日間

発端となったのは、Jia Hai Ke 7の不自然なAIS航跡だ。台湾の中央通信社(CNA)が伝えたPCGのJay Tarriela報道官の説明によると、同船は9月21日午前0時59分に厦門を出港したと記録されながら、約19時間後にはパプアニューギニア沖から位置情報を発信していた。9月28日午前6時55分には、フィリピン北部のイトバヤット島付近に現れている。一方、South China Morning Post(SCMP)がMarineTrafficのデータから集計した航跡では、厦門の出港が9月19日、イトバヤット島付近への到着が9月22日とされており、PCGの記録とは一致しない。いずれも位置偽装が疑われるAISデータに基づくため、実際の出港日や到着日を確定することはできない。

AISは船舶が自らの位置や針路などを発信する仕組みであり、送信データが改変されれば、実際とは異なる場所にいるように表示される。PCGは、イトバヤット島の監視拠点で同船を探知した後、カナダが提供した「Dark Vessel Detection(DVD)」システムと照合して位置を確認したと説明している。DVDは、AISを発信していない船舶などを衛星データから検知するためのシステムだ。PCGは、AIS上の航跡と独立した監視情報が一致しないことから、同船が意図的に位置情報を偽装したと判断している。

PCGの9月28日付声明では、同船の位置をイトバヤット島の北西37.84カイリと特定している。台湾から約160kmの距離にあるこの海域で、同船は一定の針路を維持せず、ほぼ同じ場所にとどまっていた。また、PCGの航空機による無線での呼びかけにも応答しなかった。PCGは、こうした行動が単なる通過ではなく、海洋科学調査を行う船舶の動きと一致すると主張している。

事態が動いたのは10月1日だった。PCGの発表によると、午前7時55分、全長97mの大型巡視船「BRP Teresa Magbanua」がJia Hai Ke 7の約91m以内まで接近した。巡視船から降ろした複合艇が調査船の周囲を旋回し、無線による呼びかけを繰り返したほか、Basco空港から飛来したIslander航空機も上空で監視に加わった。PCGは、同船が繰り返し回避行動を取ったと説明している。

その後、中国海警局の船体番号2503の巡視船が現れ、Teresa Magbanuaに接近しながら無線による警告を繰り返した。PCG側は約914mの距離を保って追尾した。Tarriela報道官によると、PCGは当初、民間所有のJia Hai Ke 7には政府船舶としての主権免除が適用されないとの判断から、乗船検査を検討していたという。中国海警局の船舶が民間調査船を護衛したことについても、同報道官は重大な意味があるとの認識を示した。

午前11時42分、Jia Hai Ke 7は約4.6ノット(時速8.5km)で停留地点から移動を始めた。PCGは声明で、通常の通航であれば一定の針路で進むはずだとし、同じ海域に4日間とどまった行動は海洋科学調査を強く示唆すると主張した。Teresa Magbanuaはその後も同船をEEZの外縁付近まで追尾し、10月2日には中国海警局の巡視船2隻も同船に随伴していた。同じ海域には台湾海巡署の巡視船3隻も展開していたが、Tarriela報道官は台湾側との連携はなかったと説明している。

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なお、PCGがいう「4日間」は、9月28日から10月1日までを日付で数えたものだ。9月28日午前6時55分から10月1日午前11時42分までは実際には約3日5時間であり、Tarriela報道官自身も同船が「ほぼ3日間」静止していたと述べている。フィリピン外務省が国連海洋法条約第246条を根拠に中国側の主張を退けたのは10月2日で、同船による機器投下の疑いが公に言及されたのは10月3日だった。

PCGが確認した事実と、証拠が示されていない疑惑

PCGが懸念しているのは、Jia Hai Ke 7がこの海域で何を調べ、収集したデータを何に利用する可能性があるかという点だ。9月28日の声明では、AISの位置情報を偽装しながら停留を続ける行動が、海底通信インフラの安全保障や収集データの軍事利用に深刻な懸念を生じさせると指摘した。しかし、フィリピン紙Inquirerによると、PCGは同船が海底ケーブルの敷設海域付近で具体的にどのようなデータを集めたのか、そもそもデータを収集していたのかについて証拠を示していない。

10月3日には、Tarriela報道官がJia Hai Ke 7による何らかの観測機器の投下を疑っていると発言した。ただし、機器の種類や用途は特定されず、PCGが投下を直接目撃したり、機器を回収したりしたという説明もない。また、マニラ首都圏や中部ルソンで報告された通信障害との関係についても、同報道官は関連を確認しておらず、推測にとどまると説明している。

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10月3日までに公表された情報を、各当事者の主張とその根拠に分けると次のようになる。

主張・疑惑 主張した当事者 公開された根拠・確認状況
AISの位置情報を偽装した PCG 約19時間で2,000カイリ以上移動したとする不自然なAIS航跡と、独立した監視情報との照合
同じ海域で海洋科学調査を行っていた PCG 一定の針路を取らず、9月28日から10月1日まで停留していた行動
海底ケーブルの敷設海域でデータを収集した PCGが懸念 収集の有無や内容を裏付ける証拠は未公表
観測機器を海中に投下した PCGのTarriela報道官 機器の特定、投下の目撃、回収の情報は未公表
マニラ首都圏などの通信障害に関与した PCGは関連を確認していない 関連を示す証拠なし
中国の管轄海域で通常の調査活動を行っていた 在マニラ中国大使館 中国側の海洋権益に関する法的主張。調査内容を示す証拠とは別
フィリピンのEEZ内で無許可の海洋科学調査を行った疑い フィリピン外務省 中国側から調査許可の申請がなく、同意も与えていないこと

このように、公開情報から確認できるのは、異常なAIS航跡と停留、無線への無応答、両国の巡視船による対応などだ。海洋科学調査を行っていたという判断は船の行動に基づく推定であり、データ収集や機器投下の疑いには、さらに具体的な裏付けが必要となる。ただし、PCGが非公開の監視情報を保有している可能性まで否定するものではない。

Jia Hai Ke 7の設備も、こうした疑惑を考えるうえで重要だ。Baird Maritimeが2025年5月に掲載した船舶紹介によると、同船は全長70.26m、排水量2,000トンで、Kongsberg製のDP2級自動船位保持システムを備える。DP2は、設備の一部に故障が発生しても船位を維持できるよう冗長化されたシステムで、ケーブル敷設や水深150mまでの地質ボーリング、水中目標の追尾などに利用できる。船底には2.8m四方のムーンプールと呼ばれる開口部もあり、観測機器の投入や回収が可能だ。中国船級社(CCS)は同船をDP2を備えた中国初の民間所有調査船と紹介しており、2025年4月に就航している。

ただし、こうした設備を搭載していることは、今回の航行で実際に使用した証拠にはならない。Tarriela報道官は、海洋科学調査の一部で使用する音響測深について、PCGの巡視船が発する騒音によって作業を妨げられる可能性があると説明したが、具体的な調査内容は明らかになっていない。

また、海底ケーブルに関する懸念と、実際の損傷事故も区別する必要がある。国際ケーブル保護委員会(ICPC)によると、世界の海底通信ケーブルでは年間約150〜200件の障害が発生し、その70〜80%は漁業活動や船舶の錨などによる偶発的な損傷が原因となっている。Jia Hai Ke 7の事案ではケーブルの損傷は報告されておらず、現段階では調査活動をめぐる疑惑として扱う必要がある。

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フィリピン外務省が根拠とした国連海洋法条約第246条

10月2日、フィリピン外務省は中国大使館による海洋権益の主張を強く拒否する声明を発表した。同省はJia Hai Ke 7がフィリピンのEEZ内で活動していたと説明し、国連海洋法条約第246条に基づき、EEZと大陸棚で海洋科学調査を行うには沿岸国の同意が必要だと指摘した。中国側から調査の許可申請はなく、いかなる中国船にも同意を与えていないとしたうえで、PCGによる対応は合法的かつ通常の法執行活動だったと主張している。

注目すべきは、外務省が海底ケーブルの保護を直接定めた条文ではなく、海洋科学調査の同意制度を根拠にしたことだ。外務省は、その条文を選んだ理由までは説明していないが、今回の問題をケーブルの損傷ではなく、無許可の調査活動の疑いとして扱っていることが分かる。

国連海洋法条約の原文を確認すると、関係する規定は次のように整理できる。

条文 主な規定内容 今回の当事者による言及
第58条1項 EEZにおける他国の航行や海底ケーブル・パイプライン敷設の自由 確認できる声明では直接言及なし
第79条2項 沿岸国による合理的な措置の権利を留保しつつ、大陸棚でのケーブル敷設・維持を不当に妨げることを禁止 同上
第113条 故意または重大な過失による海底ケーブルの破損などを処罰する国内法の整備を各国に要求 同上
第56条1項(b)(ii)、第246条2項 EEZと大陸棚での海洋科学調査に対する沿岸国の管轄権と同意制度 フィリピン外務省が第246条を明示
第248条 海洋科学調査を計画する国などに、開始予定日の6か月以上前までに詳細情報を提供するよう要求 直接言及なし
第74条、第83条 EEZと大陸棚の境界画定に関する規定 在マニラ中国大使館が言及

海洋科学調査の同意制度と海底ケーブルの保護規定では、規制の対象が異なる。第246条と第248条は、沿岸国のEEZや大陸棚で調査を計画する国などに対し、原則として事前の同意と、開始予定日の6か月以上前までの調査計画の提供を求めている。調査の目的や方法、使用する船舶・機器、実施海域などを沿岸国へ知らせる仕組みだ。これに対し、第58条と第79条は海底ケーブルを敷設・維持する自由を保障する規定であり、無許可の海洋科学調査への対応を直接定めるものではない。

第113条は、船舶や管轄下の者が故意または重大な過失によって公海下の海底ケーブルを破損し、通信を妨害するおそれのある行為などを処罰するための法令を、各国が整備するよう求めている。第58条2項により、第113条を含む一部の公海規定は、EEZに関する規定と両立する限りEEZにも適用される。ただし、これらの条文自体が、沿岸国に外国船への乗船検査や退去命令を認める具体的な手続きを定めているわけではない。

一方、中国側は海域の管轄権そのものを争っている。在マニラ中国大使館のGuo Wei副報道官は、Jia Hai Ke 7が中国の管轄下にある水域で通常の活動をしており、国連海洋法条約を含む国際法に従っていると主張した。また、PCGの対応を嫌がらせだと批判している。中国共産党系メディアの環球時報も、同船の活動を合法的な近海海洋地質調査と報じた。

フィリピン外務省の反論を受け、中国大使館は両国の海洋権益の主張が重なっているとし、第74条と第83条に基づく交渉によって解決すべきだと反論した。フィリピン側は自国のEEZ内で無許可の調査が行われたと主張し、中国側はその海域に自国の主権的権利と管轄権が及ぶと主張している。このため、調査への同意が必要だったかという問題は、海洋境界と管轄権をめぐる対立とも結びついている。

さらに、水路測量と海洋科学調査の区別にも解釈の違いがある。水深や海底地形を測定する水路測量が、第246条に基づく同意を必要とする海洋科学調査に含まれるかについては、各国の見解が一致していない。Radio Free Asia(RFA)によると、米国は2020年、軍事目的のものを含む水路測量を海洋科学調査とは区別する立場を示している。ただし、Jia Hai Ke 7が実際にどのような調査を行ったかは明らかになっておらず、今回の活動がどの法的区分に該当するかは確定していない。

フィリピン政府が今回の対応に用いたのは、海底ケーブルの損傷を立証する必要がある規定ではなく、海洋科学調査の事前同意を求める制度だった。少なくとも外務省の声明では、データ収集やケーブルへの干渉が実際にあったと証明することは、抗議の前提とされていない。

台湾では海底ケーブル切断事件で船長に懲役3年の判決

今回の事案と比較できるのが、2025年2月に台湾で発生した海底通信ケーブルの切断事件だ。

台湾の中央通信社(CNA)によると、2025年2月25日、トーゴ船籍の貨物船「宏泰58号(Hong Tai 58)」が、台湾本島と澎湖を結ぶ海底通信ケーブル「台澎3号」を損傷させた。中華電信が切断を通報し、台湾当局が捜査を進めた結果、台南地方法院は同年6月12日、中国籍の王姓船長に対し、電信管理法第72条違反で懲役3年の判決を言い渡した。

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中央社 CNA

この事件では、ケーブルの損傷と船舶の行動を結びつける具体的な証拠が存在した。現場は投錨禁止区域に指定され、複数の警告標識が設けられていたほか、船舶の電子海図にも海底ケーブルの位置が表示されていた。裁判所によると、船長は錨を下ろすよう指示したものの、錨は海底に適切に固定されず、船舶がジグザグに漂流する間にケーブルを引きずって切断した。裁判所はこうした経緯から故意を認定した。

中華電信が被った損害は、ケーブル修理費が約1,700万台湾ドル、船舶代理店費用が約180万台湾ドルに達した。乗員7人については証拠不十分として起訴されず、送還されている。その後、2025年8月29日には台湾高等法院台南分院が検察側の控訴を棄却し、懲役3年の判決が維持された。

宏泰58号の事件とJia Hai Ke 7の事案では、証拠の性質と法的な対応が根本的に異なる。前者ではケーブルの切断という結果が確認され、電子海図や投錨禁止区域、錨の動きなどを基に、国内法によって船長の刑事責任が問われた。一方、後者ではケーブルの損傷は報告されておらず、PCGが公表した根拠は主として船舶の位置や行動に関するものだ。調査活動の目的や機器投下の有無については、物的証拠が示されていない。

台湾では、これ以前にも海底ケーブルの損傷が繰り返されていた。Taipei Timesによると、台湾の通信規制当局である国家通訊伝播委員会(NCC)は、2023年2月2日に台馬2号ケーブルが中国漁船によって、同月8日には台馬3号ケーブルが貨物船によって切断されたと説明している。中華電信によれば、台湾本島と馬祖を結ぶケーブルの損傷は2021年に5回、2022年に4回発生しており、修理費は1本当たり1,000万〜2,000万台湾ドルに達する。復旧までの代替通信手段として、2.2Gbpsのマイクロ波回線も利用された。

こうした被害を背景に、台湾は海底ケーブルの保護を国際的な安全保障問題として訴えている。Reutersの報道によると、2026年10月に米シンクタンクの新アメリカ安全保障センター(CNAS)が開催したセミナーで、台湾の楊懿珊(Andrea Yang)駐米副代表は、中国人船長に有罪判決が下された事例に言及した。そのうえで、海底ケーブルへの妨害は国連で取り上げるべき問題であり、悪質な行為を防ぐ国際的な仕組みの検討が必要だと訴えている。

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フィリピンと台湾が海底ケーブル保護で協力を模索、日本との海洋境界交渉も背景に

今回の事案を受け、フィリピンと台湾の間では海底ケーブルの保護に向けた協力が検討されている。

10月21日(米国現地時間)、在米フィリピン大使館のFelipe Carino III次席公使は、CNASのセミナーで、フィリピン政府が台湾との海底ケーブル保護協力を深める方法を模索していると明らかにした。Reutersによると、フィリピンは「一つの中国政策」を維持しながらも、台湾との間に位置するバシー海峡で共通の利益を守るため、実務的な協力を進める必要があると考えている。具体策として挙げられたのは、情報や知見の共有、監視・対応能力の強化に向けた協力だ。共同パトロールの可能性について質問されると、Carino次席公使は具体的な計画を把握していないと答えた。

これに対し、中国外務省の毛寧報道官は翌22日、フィリピンに対して「一つの中国原則」を行動で厳守するよう警告した。ルソン海峡とバタネス州沖は、フィリピンと北東アジアなどを結ぶ海底通信ケーブルの重要な通過海域であり、その保護をめぐる協力は中国との外交関係にも影響する可能性がある。

日本も、この地域の海洋権益をめぐる動きと無関係ではない。2026年5月28日の日比首脳会談に伴う共同声明では、日本とフィリピンがEEZと大陸棚の海洋境界を画定するため、正式な交渉を開始することで合意した。対象となるのは台湾東方の海域であり、両国は国連海洋法条約などの国際法に基づいて境界の明確化を進める方針だ。

中国はこの交渉に強く反発している。中国外務省は、日比が境界画定を予定する海域には中国のEEZと大陸棚が含まれると主張し、中国の海洋権益を侵害する行為だと批判した。台湾側も、自らの海洋権益が交渉によって損なわれないよう求めている。台湾外交部は6月3日、日比両国に対し、交渉の過程や合意内容が台湾の権利に影響しないことを確認する方針を示した。台湾は中国が台湾を代表して海洋権益を主張することも認めていない。

さらに、2026年6月末には中国の政府系研究機関や大学の研究者らが広東省でシンポジウムを開催し、バタン諸島が中国領だとする見解を示した。共同通信によると、南京大学や中国社会科学院などの研究者が参加したこの会合は、日比の海洋境界画定交渉への合意を問題視して開かれたものだ。ただし、中国政府がバタン諸島そのものの領有権を公式に主張したことは確認されていないとされ、フィリピン政府も研究者らの見解には根拠がないと反論している。

今回のJia Hai Ke 7をめぐる中国大使館の主張も、バタン諸島の領有権ではなく、周辺海域における主権的権利と管轄権に関するものだ。島の領有権をめぐる主張と、その周辺のEEZや大陸棚についての権益の主張は、区別して扱う必要がある。

今後の焦点は観測機器の証拠と海底ケーブル保護協力の具体化

今回の事案でフィリピン政府が根拠としたのは、EEZ内での無許可の海洋科学調査に関する疑いだった。中国側から調査の許可申請がなく、同意も与えていないことを理由に抗議しており、ケーブルの損傷やデータ収集を立証する形は取っていない。一方、台湾の宏泰58号事件では、実際のケーブル切断と錨の動きなどの物的証拠を基に、船長個人の刑事責任が問われた。同じ海底通信インフラをめぐる問題でも、調査が疑われる段階と損傷が発生した後では、必要な証拠と適用される法的手段が異なる。

今後、Jia Hai Ke 7の活動について判断するうえで重要なのは、PCGが疑う観測機器の投下を裏付ける情報が公表されるかどうかだ。機器の種類や回収物、観測記録などが示されれば、同船が実際に何をしていたのかを検証する材料となる。また、フィリピンと台湾が検討している知見の共有や能力構築が、バシー海峡での具体的な監視・保護体制につながるかも注目される。中国が求める第74条・第83条に基づく海洋境界の交渉と、日比間で進む境界画定交渉の関係も引き続き重要な論点となる。

海底ケーブルの保護をめぐっては、台湾側が国連での国際的な仕組みづくりを求め、フィリピン側も台湾との実務協力を模索している。ただし、いずれも現時点では具体的な共同監視体制や新たな法的枠組みの成立を意味するものではない。損傷が発生する前の不審な調査活動に対し、どのような証拠に基づいて各国が対応できるのか。 Jia Hai Ke 7の事案は、海底通信インフラの安全保障を考えるうえで、その難しさを浮き彫りにしている。