米エネルギー省(DOE)が、トリウム溶融塩炉を利用した使用済み核燃料の再利用研究に540万ドルを助成することが明らかになった。テキサスA&M大学工学部が2026年10月29日に発表したもので、燃料の調製から実験、計算モデル化、原子炉設計までを一体的に進める計画だ。ただし、今回の発表は研究への資金提供に関するものであり、核廃棄物の削減効果や実際の原子炉での運転性能が実証されたわけではない。
溶融塩炉は、高温で溶融した塩を燃料の媒体や冷却材として利用する原子炉だ。トリウムから核燃料となるウラン233を生成する仕組みと、使用済み核燃料に残る重い元素を再利用する仕組みでは、扱う物質や必要な工程が異なる。両者を単純に「核廃棄物を燃料に変える技術」と捉えてしまうと、今回の研究で何を開発し、どのような実験で性能を確かめるのかが分かりにくくなる。今回の助成は、燃料の調製と実験による検証、計算モデルを使った予測を原子炉設計へと結び付ける研究を支援するものだ。さらに、燃料として使用した後の塩をどのように処分するかも、技術の実用性を判断するうえで重要な課題となる。
540万ドルの助成で進める4つの研究工程
助成を受けるのはテキサスA&M工学実験局(TEES)で、同大学原子力工学科のLin Shao教授が研究を率いる。共同研究にはサバンナリバー国立研究所とNatura Resourcesも参加する。助成額の540万ドル(5,400,000米ドル)は研究開発に充てられる資金であり、原子炉の建設費や発電コストを示すものではない。
テキサスA&M大学の発表によると、研究では燃料調製と実験試験に取り組むとともに、計算モデル化と原子炉設計を組み合わせ、これらの工程を一体的に進める方針だ。燃料を製造して性質を調べるだけでなく、その結果を計算モデルに反映し、原子炉の設計に役立てることを目指している。ただし、今回公表されたのは研究計画と実施体制であり、査読を経た成果論文や具体的な実験データ、計算結果は示されていない。
4つの工程はそれぞれ異なる役割を担っており、一つの工程で成果が得られても、ほかの工程の成功が保証されるわけではない。各工程で検証すべき事項と、今回の発表で確認できる進捗を整理すると、次のようになる。
| 研究工程 | 主な検証課題 | 現時点で公表されている内容 |
|---|---|---|
| 燃料調製 | 想定する組成の燃料塩を製造し、その性質を評価できるか | 研究計画のみ。具体的な塩組成や調製結果は未公表 |
| 実験試験 | 燃料や材料の挙動を実測によって検証できるか | 研究計画のみ。試料数、試験条件、測定値は未公表 |
| 計算モデル化 | 実験データに基づいて燃料や材料の挙動を予測できるか | 研究計画のみ。境界条件や実測との照合結果は未公表 |
| 原子炉設計 | 燃料と材料に関する知見を原子炉の構成に反映できるか | 研究計画のみ。実際の原子炉の性能を示す結果は未公表 |
想定した燃料塩を製造できたとしても、その性質が原子炉の運転中にどのように変化するかを正確に予測できるとは限らない。実験で得られたデータを計算モデルと照合し、その結果を原子炉の構成や運転条件に反映するには、さらに検証が必要となる。今回の助成は、特定の工程で技術的な成果が得られたことを意味するのではなく、こうした一連の研究を進めるための資金提供と位置付けられる。
燃料の選択は、原子炉の設計にも大きく影響する。オークリッジ国立研究所のJoanna McFarlane氏は、2024年に学術誌『Frontiers in Nuclear Engineering』に掲載された査読済みの展望論文(DOI:10.3389/fnuen.2024.1335980)で、溶融塩炉の設計によって使用できる燃料が異なると論じている。候補にはウラン235のほか、使用済み核燃料に含まれるプルトニウム239やアメリシウム241などがあり、トリウム燃料サイクルではウラン233が関わる。
ただし、これらは溶融塩炉全般で考えられる燃料の選択肢であり、今回の米国の研究計画で採用される核種を示したものではない。McFarlane氏によると、燃料の選択は塩の調製方法だけでなく、原子炉の規模や構成にも影響し、核物質を適切に管理するための保障措置や最終的な廃棄物処分にも関わる。つまり、燃料として利用できるかどうかだけでなく、原子炉での使用から廃棄物の処分までを見据えた設計が必要になる。
欧州の先行研究では4種類の燃料組成を実験で評価
欧州では、トリウムを含む燃料塩を実際に調製し、その品質を評価した先行研究がある。欧州委員会の共同研究センター(JRC)とNRGが進めるSALIENT-03向けの燃料製造実験だ。Pavel Souček氏らの研究チームは2024年12月19日、学術誌『Materials』第17巻第24号に原著論文を発表している(論文番号6215、DOI:10.3390/ma17246215)。
公開された論文の抄録によると、研究対象はリチウムとトリウムのフッ化物を基に、ウランやプルトニウムなどを含む4種類の燃料組成である。ここでいう「4種類」は燃料の組成数を指しており、4個の試料を測定した、あるいは実験を4回繰り返したという意味ではない。研究チームは燃料の合成と精製を行い、質量収支の評価、X線回折、示差走査熱量測定によって特性を調べた。燃料塩を実際に製造し、その品質を実験によって評価した研究といえる。
SALIENT-03では、オランダのPettenにある高束炉を利用したニッケル合金の腐食調査を視野に入れている。ただし、実験計画全体の目的と、今回の論文で報告された成果は区別する必要がある。燃料の合成や精製に成功したとしても、それだけで原子炉内での照射後の材料性能や、商用炉における長期間の連続運転が実証されたことにはならない。また、今回DOEが助成する研究については、燃料塩の具体的な組成や試料数、照射条件が公表されていないため、欧州の実験条件や結果をそのまま当てはめることもできない。
それでも、この先行研究は、燃料調製という工程で実際に何を検証する必要があるのかを理解する手がかりになる。想定した組成の燃料塩を製造し、分析によって性質を調べる作業は、原子炉の設計や運転性能の検証とは別の重要な研究課題だからだ。SALIENT-03は今回の米国の共同研究とは独立した取り組みであり、米国の研究計画を追試したものでも、その計算モデルの正確性を裏付けるものでもない。両者に共通するのは、燃料塩を原子炉で安全かつ適切に利用するために、その組成や性質を実験で把握する必要があるという点だ。
使用済み燃料塩の処分まで含めた評価が必要
溶融塩炉では、燃料として使用した後の塩だけでなく、運転や保守に伴ってさまざまな放射性廃棄物が発生する。揮発性の放射性核種に加え、排ガスを捕集するために使用した材料や、保守作業で交換した部材も管理・処分の対象となる。そのため、使用済み核燃料に含まれる一部の元素を再利用できることと、放射性廃棄物全体の処分負担を軽減できることは必ずしも同じではない。再利用による効果を評価するには、燃料として回収できる物質だけでなく、最終的に残る廃棄物の量や性質も調べる必要がある。
McFarlane氏の2024年の展望論文でも、燃料調製や廃棄物管理を原子炉設計と並行して検討する重要性が指摘されている。その理由の一つが、原子炉から取り出した後も燃料塩の化学的な状態が変化する可能性だ。同氏は、過去の溶融塩炉実験であるMSREの経験を踏まえ、使用後の塩では長期間にわたって放射線分解が進む可能性があり、継続的な監視や脱ガスが必要になると指摘している。原子炉での使用が終わったからといって、燃料塩がそのまま最終処分に適した安定状態になるわけではない。
最終処分に向けては、塩の化学的な安定性も課題となる。同論文では、水に溶けやすい塩について、安定化処理によって水への溶解性を低くする必要があると論じている。原子炉で使用できる燃料塩を調製する工程と、使用後の塩を安全に処分できる形へ変える工程では、求められる性質が異なる。使用済み核燃料の再利用技術を評価するには、燃料製造から最終処分までの工程を一体的に考えなければならない。
ただし、こうした知見は2024年に発表された査読済みの展望論文に基づくものであり、今回の米国の研究計画で使用する燃料塩を実測した結果ではない。また、展望論文そのものも、新たな実験によって廃棄物の削減率を検証した研究ではない。テキサスA&M大学の発表にも、今回の助成に対応する成果論文や再現実験の結果は掲載されていない。DOEが助成する研究計画、欧州で実施された燃料調製実験、廃棄物処分に関する既存研究は、それぞれ異なる段階の知見として扱う必要がある。
核廃棄物の削減効果を評価する際には、廃棄物の質量が減ることと、放射能が低下することも区別しなければならない。崩壊熱や長寿命放射性核種の量もそれぞれ異なる評価指標であり、今回の発表だけでは、廃棄物の削減率や管理期間の短縮効果を算出することはできない。今後は、どの核種をどのような条件で再利用するのか、燃料や材料の実測データが計算モデルによる予測とどの程度一致するのか、さらに使用後の塩をどのように安定化して処分するのかが重要となる。これらの検証が進めば、使用済み核燃料の再利用が廃棄物管理にどれほど貢献するのかを、具体的な測定結果に基づいて評価できるようになる。



