中国のAIチップ新興企業、東方算芯は、2026年10月12〜16日に上海で開催された国芯展(中国国際工業博覧会の集積回路展)で、HBM(広帯域メモリ)を使用しない14nmプロセスのAIチップ「DF1000」を128枚搭載したクラスタが安定稼働していると説明した。同社の市場部長、徐子鳴(Xu Ziming)は界面新聞の取材に対し、初の大規模訓練クラスタが顧客への納入段階に入ったと明らかにした。企業発表に近い内容の報道では、72時間の連続訓練や、約1300億パラメータのモデルを7日間でDF1000に対応させた実績も紹介されている。ただし、128カード構成での安定稼働は7月13日の発表時点ですでに主張されており、メモリ容量や消費電力といった基本仕様も依然として明らかになっていない。徐子鳴自身も第1世代製品の生産能力には制約があると認めており、今回の発表だけで訓練用AIチップとしての実用性を十分に評価できるわけではない。

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7月に発表済みの128カードクラスタ、10月には72時間の連続訓練とモデル移植の実績を公表

東方算芯は7月13日にDF1000を発表した際、試作チップの検証を終え、128カード構成の大規模クラスタですべての機能が安定して動作したと説明していた(観察者網の報道)。したがって、128カードでの安定稼働自体は10月に初めて明らかになった成果ではない。今回新たに示されたのは、対応するモデルの種類や連続訓練の時間、顧客への納入状況など、実際の運用に関する情報である。

界面新聞の取材で徐子鳴が明らかにした主な進展は3つある。主流の大規模モデルを7日以内にDF1000で訓練できる状態へ移行できること、初の大規模訓練クラスタが顧客への納入段階に入ったこと、そして2026年末までに千カード級のクラスタを納入する計画である。ただし、顧客名や具体的な納入台数、顧客環境での稼働状況は明かされていない。

運用実績についてさらに詳しく報じたのが、至顶科技の記事(界面新聞が広告として転載)と快科技の記事だ。いずれも企業の説明を中心とする宣伝色の強い内容であり、独立した検証結果として扱うことはできない。両記事によると、128カードのクラスタは72時間にわたって中断することなく訓練を続け、訓練精度も所定の基準を満たしたという。また、Llama2-70Bや同社がJYXC-130Bと呼ぶモデルなど、複数の大規模モデルの訓練にも対応したとされる。同社がStep 130Bと呼ぶ約1300億パラメータのモデルについては、7日間でDF1000に対応させたとしている。快科技はさらに、開発開始からクラスタが訓練可能になるまでの期間を24カ月と紹介している。

ここで注意したいのは、「7日間」がモデルの訓練完了までに要した時間ではないという点だ。この数字は、既存のモデルをDF1000上で訓練できるようにするためのソフトウェアの移植や調整にかかった期間を指す。界面新聞の取材で徐子鳴が説明したのも、主流モデルなら7日以内に対応できるという一般的な開発能力であり、Step 130Bという具体的なモデル名には言及していない。モデルの移植期間と訓練時間は異なる指標であり、両者を混同することはできない。

国芯展では、ほかの中国AIチップ企業も大規模クラスタをアピールした。沐曦(MetaX)は64カード構成の曦景S600を、燧原(Enflame)は雲燧ESL64-Oを、天数智芯(Iluvatar CoreX)は144基のGPUを搭載したラック一体型システムを展示した。それぞれ構成単位が異なるため規模を単純には比較できないものの、中国のAIチップ企業がチップ単体の性能だけでなく、多数のアクセラレータを組み合わせたシステム全体の運用能力を競うようになっていることがうかがえる。

72時間の連続訓練で確認できる安定性と、未公表のメモリ容量・消費電力

72時間の連続訓練は、クラスタが長時間にわたって停止せずに動作できるかを確認する試験だ。大規模モデルの訓練では、多数のアクセラレータが計算結果を頻繁に交換しながら処理を進めるため、1枚のカードや通信リンクの故障がシステム全体の停止につながる場合がある。その場合、保存済みのチェックポイントから訓練を再開する必要があるが、システムによっては障害を迂回して処理を継続する仕組みも備える。今回の説明では、DF1000のクラスタがこうした耐障害機能を備えているかは明らかにされていない。それでも、短時間のベンチマークでは発見しにくい故障や温度管理の問題を検証するうえで、長時間の連続運転には意味がある。

一方、72時間停止しなかったという実績だけでは、訓練性能の高さは判断できない。1時間あたりにどれだけ学習を進められるかを表す訓練スループット、目標精度に到達するまでの時間、カード数を増やした際の性能向上率などは、それぞれ別の測定が必要だ。システムの安定性と計算性能は異なる評価項目であり、10月に公表された運用実績は、訓練速度そのものを示すものではない。7月と10月に公開された情報を比較すると、次のようになる。

項目 7月の発表時 10月の説明 公表状況
連続稼働の実績 128カードで全機能が安定稼働と説明 72時間の連続訓練を中断なく実施(同社側の記事) 連続訓練の実績を公表
モデルの移植・調整期間 公表なし 主流モデルは7日以内、Step 130Bは7日間(同社の説明) 訓練時間とは別の指標
同じ精度までの訓練時間 公表なし 公表なし 未公表
カード増設時の性能向上率 公表なし 公表なし 未公表
メモリ容量 公表なし 公表なし 未公表
消費電力 公表なし 規格試験を終えたとの記載のみで数値なし 未公表
顧客名と導入数 公表なし 初のクラスタが顧客への納入段階(顧客名なし) 未公表
製造委託先とDRAM供給元 公表なし 公表なし 未公表

10月の発表では、72時間の連続訓練、7日間のモデル移植・調整、初の大規模クラスタの納入段階入りが新たに示された。しかし、メモリ容量や消費電力、顧客名、訓練スループットなどは引き続き公表されていない。至顶科技の記事は、加速カードの演算性能、メモリ帯域、通信帯域、消費電力、温度に関する規格試験をすべて完了したと伝えているが、具体的な測定結果は掲載していない。また、計算効率が85%以上に達したとも主張しているものの、測定条件が不明で、独立した検証結果もないため、性能評価の根拠としては不十分だ。

なお、この比較は公開された報道と企業発信に基づくものであり、顧客向けの非公開資料に詳細な仕様が記載されている可能性までは否定できない。10月の3本の報道のうち2本は企業の説明に依拠した内容であり、情報の独立性にも限界がある。製造体制についても、東方算芯はチップ設計から14nmプロセスによるウェハー製造、3Dパッケージング、検査までを中国国内の供給網で完結すると説明している。しかし、製造委託先やDRAM供給元は明かされておらず、外部から供給網の詳細を確認することは難しい。

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DF1000はH200の約2.5倍のメモリ帯域を演算性能1単位あたりに確保

DF1000の公表仕様は、BF16(AIモデルの訓練で広く使用される16ビットの数値形式)の演算性能が520 TFLOPS、メモリ帯域が6.4TB/sである。演算性能をメモリ帯域で割ると約81 FLOP/Byteとなり、メモリから1バイトのデータを読み出す間に、ピーク性能で約81回の浮動小数点演算を実行できる計算になる。一方、NVIDIAが公表するH200 SXMとH100 SXMのBF16演算性能は、スパース性を利用した条件でいずれも1,979 TFLOPSだ。スパース性を利用しない場合の性能をその半分の989.5 TFLOPSとして、それぞれのメモリ帯域である4.8TB/sと3.35TB/sで割ると、H200 SXMは約206 FLOP/Byte、H100 SXMは約295 FLOP/Byteとなる。

この比較では、DF1000の約81 FLOP/Byteに対して、H200 SXMは約206、H100 SXMは約295となる。つまり、DF1000はピーク演算性能に対して相対的に大きなメモリ帯域を確保した設計だ。逆に、演算1回あたりに利用できるメモリ帯域で比較すると、DF1000はH200 SXMの約2.5倍、H100 SXMの約3.6倍に相当する。至顶科技の記事も、主流GPUの比率を150〜300 FLOP/Byteとし、DF1000は演算1回あたりのメモリ帯域をGPUの2〜3.6倍確保していると説明する。ただし、上限の3.6倍はH100 SXMの公表値から再現できるものの、下限の2倍がどのGPUとの比較なのかは明示されていない。

演算性能をメモリ帯域で割った値が小さいほど、ピーク演算性能を維持するために必要なデータ転送量を、相対的に確保しやすくなる。大規模モデルの計算では、膨大な重みや中間データをメモリから演算器へ送り続けなければならない。データの供給が追いつかなければ演算器が待機し、カタログ上の演算性能を十分に発揮できない。このようなメモリ帯域が性能の制約となる状態を「メモリ律速」と呼び、DF1000は演算性能に対してメモリ帯域を厚くすることで、この問題を緩和しようとしていると考えられる。

ただし、実際にメモリ律速が発生するかどうかは、モデルの構造、バッチサイズ、ソフトウェアの最適化などによって変わる。メモリ帯域が相対的に大きくても、必ずしも訓練が速くなるとは限らない。訓練性能の優劣を判断するには、同等の条件で測定した訓練スループットや目標精度への到達時間が必要になるが、東方算芯は今回もこれらを公表しなかった。DF1000の設計上の特徴が実際の性能向上につながっているかを確認するには、なお重要な情報が不足している。

同社側の記事によると、DF1000はDRAMのウェハーとロジックのウェハーを直接接合する「ハイブリッドボンディング」によって、高いメモリ帯域を確保している。この方式は、従来の数十µmという接続間隔をサブµmまで縮小し、接続密度を数桁高めるものだ。HBMを使用しない背景には、先端メモリの調達をめぐる制約もある。米商務省産業安全保障局(BIS)は2024年12月の規則でHBMを輸出規制の対象に追加し、米国製HBMに加え、外国直接製品規則の対象となる外国製HBMにも規制を適用した。

もっとも、DF1000とNVIDIA製GPUの比較は、あくまで公表されたピーク性能とメモリ帯域の比率に基づいている。DF1000がH200より高速にモデルを訓練できることを意味するものではない。また、東方算芯は520 TFLOPSという数値がスパース性を利用しない密行列演算での性能かどうかを明らかにしていない。仮にスパース性を利用した値であれば、密行列演算での性能を基準にした比率はさらに低くなるが、メモリ帯域を重視した設計という評価自体は変わらない。加えて、今回の比較にはメモリ容量や消費電力が含まれておらず、システム全体の効率を評価するものでもない。

第1世代の生産能力には制約、第2世代の納入開始は2027年下半期を予定

徐子鳴は界面新聞に対し、第1世代製品で確保できる生産能力は比較的限られており、現段階の納入規模も制約を受けていると説明した。一方、2026年末には第2世代チップの「投片」、すなわち製造ラインへのウェハー投入を開始し、2027年下半期から納入を始める見込みだという。東方算芯は7月の発表時、副総裁の郭煒(Guo Wei)を通じて、DF2000を2026年第4四半期に投入し、演算性能をDF1000の2倍に高める計画を明らかにしていた。さらに、2027年第4四半期には性能をもう一段2倍に高めたDF3000を投入する方針も示していた。

10月の説明では第2世代の製品名に触れていないものの、開発順序からはDF2000を指していると考えられる。ただし、7月に使われた「投入」と10月の「投片」は同じ段階を意味するとは限らない。前者は製品の市場投入、後者は製造工程の開始を指すため、両者が必ずしも矛盾するわけではない。それでも、顧客への納入開始時期として新たに示されたのは2027年下半期であり、量産・供給スケジュールを判断するうえでは、この時期が重要になる。

時期 出来事 実績・計画の区分
2024年5月20日 上海東方算芯科技有限公司を設立 実績
2026年4月 A+ラウンド完了、投資後評価額122.75億元と報道 実績(報道)
2026年7月13日 DF1000を上海で発表 実績
2026年7月13日 128カードクラスタの全機能安定稼働を公表 同社の主張
2026年10月12〜16日 国芯展で初のクラスタの顧客への納入段階入りと年末の千カード級クラスタ納入計画を説明 同社の説明
2026年末 千カード級クラスタの納入 計画
2026年末 第2世代チップのウェハー投入開始 計画
2027年下半期 第2世代チップの納入開始 見込み
2027年第4四半期 DF3000の投入 計画(7月時点)

東方算芯は2024年5月の設立から約2年半で、DF1000の発表、128カードクラスタの安定稼働の報告を経て、初の大規模クラスタを顧客へ納入する段階まで進んだ。ただし、第2世代製品の納入開始は2027年下半期になる見込みだ。同社は上海の張江に本社を置き、従業員数は500人を超える。董事長兼CEOの魏少軍(Wei Shaojun)は清華大学の教授であり、中国半導体行業協会の副理事長も務めている。界面新聞によると、2026年4月に完了したA+ラウンドの投資後評価額は122.75億元で、2026年10月30日の為替レート(1元=23.693201円、0.150125ドル)では約2908億円、約18.4億ドルに相当する。同社は2026年第4四半期にBラウンドの資金調達を開始する計画だという。

年末に千カード級クラスタを納入する計画からは、東方算芯が供給規模の拡大を目指していることが分かる。しかし、第1世代製品の生産能力が限られると担当者自身が認めている以上、現段階では大量供給よりも、実際の顧客環境でクラスタの動作や運用を検証する段階にあると考えられる。同社は生産能力が制約されている理由について、具体的な説明をしていない。

DF1000が採用する3D積層技術には、製造面でも克服すべき課題がある。国芯展の関連フォーラムで郭煒は、チップを積層することで相互接続距離を短縮できる一方、歩留まりや放熱の管理が難しくなると指摘した。また、3D集積後の歩留まりと熱特性を設計段階で予測できるシミュレーションツールが、業界全体で不足しているとの認識を示した。海光信息の副総裁、潘于(Pan Yu)も、3D集積の実用性は歩留まり、安定性、持続的な性能、コストなどの要件を満たせるかどうかで決まり、顧客にとって積層数が多ければよいわけではないと説明している。

DF1000が本格的な商用供給に進めるかどうかは、今後の製造・納入実績と性能情報の開示によって判断することになる。まず、2026年末に予定する千カード級クラスタの納入を実現できるか、同時期に第2世代のウェハー投入を開始し、2027年下半期の納入につなげられるかが焦点だ。さらに、7月の発表以来明らかになっていないメモリ容量、消費電力、訓練スループットについても、具体的な数値が求められる。これらの情報がそろえば、HBMの調達に制約を抱える中国のAI開発企業にとって、DRAMをロジックチップに直接積層するDF1000の方式が、実用的な訓練用計算基盤の選択肢となり得るかを、より客観的に評価できるようになる。