Liquid AIは2026年10月27日、端末上での実行を想定した新しいAIモデル群「LFM3」ファミリーを公開した。文章、画像、音声の処理から判断タスクまで対応する6つのモデルで構成され、共通の基盤モデルをもとに開発されている。文章モデルは約17億パラメーターという小規模な構成で、同社によれば4ビット量子化した場合、モデルの重みは約1GBに収まるという。ただし、モデルが小型だからといって、あらゆる用途に適しているわけではない。対応する入力形式や文脈長、出力方式はモデルごとに異なるため、企業が文書処理や音声操作などに導入する際には、公開されたモデルサイズだけでなく、実際の業務における精度や実行環境を見極める必要がある。

AD

共通基盤から生まれた6モデル、文脈長と入出力方式に違い

LFM3ファミリーの6モデルは、いずれも「LFM3-1.7B-Base」を共通基盤としている。文章処理向けの「LFM3-1.7B」、画像や動画を理解する「LFM3-VL-2B」、音声処理向けの「LFM3-Audio-2B」、文章・画像・音声を統合した「LFM3-Omni-2B」に加え、判断タスクに特化した「d1-2B」と「d1-Omni-2B」が用意されている。基盤モデル自体も公開されているため、利用可能なチェックポイントは合計7つとなる。

今回のLFM3-VL-2Bは、Liquid AIの画像対応モデルとして初めて動画入力をサポートした。また、LFM3-Omni-2Bは、同社初の画像・音声・言語を統合したモデルとなる。判断モデルのd1シリーズも機能を拡張しており、従来の二択判定やスコア算出に加え、文書から抽出した情報、画像内の位置、数値の範囲など、構造化された結果を返せるようになった。この判断機能を音声入力にも広げたのがd1-Omni-2Bだ。

モデルの内部構造も前世代から変更されている。従来のLFM2は、短い畳み込みとAttention(注意機構)を組み合わせていたが、LFM3ではこれに局所的なAttentionを加えた3種類の処理方式を採用した。全24層のうち、短い畳み込みが13層、局所的なAttentionが5層、全体を参照するAttentionが6層を占める。局所的なAttentionが参照する範囲は256トークンに設定されている。

Liquid AIによると、LFM3の事前学習には合計22兆トークンを使用した。最後の3.5兆トークンでは、AIエージェントの実行記録やツール呼び出しに関するデータを増やすとともに、扱える文脈長を256Kトークンまで拡張したという。ただし、公開情報はアーキテクチャの変更だけが性能向上に寄与したことを切り分けて証明するものではない。各モデルの重みは公開されており、Liquid AIのPlaygroundやAPIからも利用できる。

実際にモデルを選ぶ際に重要なのが、一度に処理できる文脈長だ。文脈長は入力と出力を合わせたトークン数の上限であり、同じLFM3ファミリーでもモデルによって異なる。2026年10月27日に公開された各モデルカードの仕様を比較すると、以下のようになる。

モデル 対応する入力 出力 文脈長(入力+出力)
LFM3-1.7B 文章 文章 256K
LFM3-VL-2B 文章・画像・動画 文章 128K
LFM3-Audio-2B 文章・音声 文章・音声 32K
LFM3-Omni-2B 文章・画像・音声・動画 文章・音声 32K

文章モデルの文脈長は256Kトークンだが、画像・動画対応モデルは128K、音声モデルとOmniモデルは32Kに制限される。つまり、共通基盤から開発されたモデルであっても、扱える情報量や入出力機能は同じではない。なお、この表は公開仕様を比較したものであり、同一の機器で処理速度や業務上の精度を測定した結果ではない。また、長い文書を入力できることと、その全体を正確に理解して回答できることは区別する必要がある。

LFM3-VL-2Bは、文書や図表、画面の読み取りに加え、動画を毎秒2フレームで取り込める。LFM3-Audio-2Bは日本語を含む18言語に対応し、音声を使ったツール呼び出しもサポートする。Liquid AIによれば、ユーザーの発話中から入力を処理する仕組みにより、発話終了後、最初の出力トークンが生成されるまでの時間は最短50ミリ秒に抑えられるという。ただし、この数値は音声応答全体が完了するまでの時間ではなく、すべての実行環境で同等の応答速度が得られることを保証するものでもない。

LFM3-Omni-2Bは、画像と音声など複数の形式を単一モデルで扱える一方、Liquid AIはこれを「非推論モデル」と位置付けており、推論(reasoning)モードを有効にする設定には対応していない。また、利用する実行形式によって使用できる機能も異なる。BF16精度で動作するSGLang版は文章出力に対応し、GGUF形式を用いるllama.cpp版にはリアルタイム音声サーバーも用意されている。同じモデルであっても、導入する実行環境が必要な音声機能をサポートしているかは個別に確認する必要がある。

判断専用モデル「d1」は長文入力時の精度低下に注意

LFM3の判断モデル「d1-2B」は、一般的なチャットAIのように文章を順番に生成するモデルではない。文章、画像、動画を入力すると、単一の順伝播処理によって複数の質問に対する型付きの回答と確率を出力する。例えば、請求書から日付や金額、該当箇所を抽出するなど、決められた形式で情報を取得する業務に適している。ただし、d1-2Bの公称文脈長は128Kトークンであるものの、公式モデルカードには約64Kトークンを超えると回答の信頼性が低下すると明記されている。最大128Kトークンを入力できるからといって、その全範囲で同等の精度を維持できるわけではない。

AD

ブラウザー操作ではQwen3.5-9Bを上回るが、コードや長文処理では逆転

Liquid AIが公開したベンチマーク結果では、文章モデルのLFM3-1.7Bが、一部のAIエージェント向け評価で、より大規模なQwen3.5-9Bを上回った。特にブラウザー操作や関数呼び出しで優れた結果を示している一方、複雑なツール連携やコーディング、長文処理ではQwen3.5-9Bの方が高いスコアを記録している。両モデルの評価結果は次のとおりだ。

ベンチマーク LFM3-1.7B Qwen3.5-9B
WebArena-Verified 38.42 28.94
BFCL V4 71.39 62.83
MCP-Atlas 32.57 42.67
SWE-bench Verified 43.40 51.20
RULER 128K 65.56 87.11

ブラウザー操作能力を測るWebArena-Verifiedでは、LFM3-1.7Bが38.42を記録し、Qwen3.5-9Bの28.94を上回った。関数呼び出し能力を評価するBFCL V4でも、LFM3-1.7Bが71.39、Qwen3.5-9Bが62.83と、小型のLFM3が優位に立っている。一方、MCPを利用したツール連携能力を評価するMCP-Atlasでは32.57対42.67、OpenCodeを用いたSWE-bench Verifiedでは43.40対51.20となり、Qwen3.5-9Bが上回った。128Kトークンの長文処理能力を測るRULERでも、LFM3-1.7Bの65.56に対してQwen3.5-9Bは87.11を記録している。特定のブラウザー操作や関数呼び出しで優れた成績を収めたからといって、複雑なエージェント処理やコーディング、長文理解でも優れているとは限らない。

これらのスコアはいずれもLiquid AIが測定したもので、独立した第三者による評価ではない。測定にはvLLMとBF16精度が使用され、LFM3とQwenの最大文脈長は262,144トークンに設定されている。また、各ベンチマークには実行ステップ数など個別の条件が設けられており、結果を比較する際にはこうした設定も考慮する必要がある。少なくとも、4ビット量子化したLFM3を実際の端末で動かした際に、同じスコアが得られたことを示すものではない。

LFM3-1.7Bの公式モデルカード自体も、小型モデルとしての制約を認めている。特に、エージェントによるコーディングや複雑な多段階推論には推奨しないと明記されている。ブラウザー操作や比較的単純なツール呼び出しで好成績を収めていても、その結果を高度な自律エージェント全般に当てはめるべきではない。

また、約1GBというモデルサイズは、文章モデルを4ビット精度に量子化した場合の目安である。アプリケーション全体が使用するメモリーや、長文を処理する際に必要となる作業領域、KVキャッシュなどまで含めた総メモリー使用量を保証するものではない。実際の端末で問題なく動作するかは、使用するモデル形式や入力長、実行環境を決めたうえで測定する必要がある。

風車ブレードの損傷検出を微調整で改善、位置特定には課題

Liquid AIは、LFM3ファミリーの全モデルを単一GPUで微調整できると説明している。その実例として公開したのが、風車ブレードの損傷を画像から検出する実験だ。同社は公開データセット「WTBs2025」から約3,000枚の画像を使用し、NVIDIA A100 GPUを1台使って数時間の追加学習を実施した。学習には教師あり微調整とGRPO(Group Relative Policy Optimization)を組み合わせている。

微調整後のモデルを、学習に使用していない約1,400枚の画像で評価したところ、分類精度は67%だった。また、損傷位置の検出性能を測るF1スコアは、調整前の0.003から0.11へ改善したと報告している。限られた計算資源でも、専門分野のデータを使ってモデルを調整できることを示す実験ではあるが、数値の解釈には注意が必要だ。

分類精度と位置検出のF1スコアは、そもそも異なる能力を評価する指標である。画像に損傷があるかどうかを分類する能力が向上しても、損傷箇所を正確に特定できるとは限らない。実際、位置検出のF1スコアは改善後も0.11にとどまっており、実用上十分な検出性能が得られたと判断することは難しい。今回の結果はLiquid AIによる限定的な実験であり、独立した検証や実際の現場での運用成功を示すものではない。専門データによる微調整が有効かどうかは、導入先の要求精度や運用条件に照らして評価する必要がある。

AD

導入時は実機性能に加え、商用ライセンスとデータ送信経路も確認

LFM3はモデルの重みを公開しているが、無条件に商用利用できるわけではない。文章モデルに適用される「LFM Open License v1.0」には商用利用に関する年商条件があり、基準額は年間1,000万米ドルに設定されている。ただし、条文にはその境界について異なる表現が含まれているため、年商が基準額付近にある事業者は、具体的な適用条件を確認する必要がある。

また、ライセンス上の法人の定義には、ある法人が支配する企業、支配される企業、共通の支配下にある企業も含まれる。このため、子会社単体の売上高だけで利用条件を判断できるとは限らない。企業グループで利用する場合は、対象となる法人の範囲を含めて確認することが重要だ。

データの取り扱いにも注意が必要となる。モデル自体をスマートフォンやPCなどの端末上で実行した場合でも、アプリケーションが外部のWebサービスやツールを呼び出す構成であれば、その通信先にデータが送信される可能性がある。ローカルでAIを実行することと、すべての処理が端末内で完結することは同義ではない。機密情報を扱う業務では、モデルの実行場所だけでなく、外部ツールとの連携やデータの送信経路まで確認する必要がある。

LFM3ファミリーは、共通基盤から用途別のモデルを展開することで、小型AIの選択肢を広げた。ただし、文章処理、画像理解、音声操作、判断タスクでは求められる能力が異なり、公開ベンチマークだけで最適なモデルを決めることはできない。導入時には、まず必要な入力形式と出力形式を明確にし、実際の業務データを使って精度や応答速度を測定することが重要だ。そのうえで、端末のメモリー要件、実行形式ごとの機能差、外部へのデータ送信経路、商用ライセンスの条件を確認すれば、どの業務を小型モデルに任せられるのか、現実的な判断が可能になる。