トカマク型核融合炉では、1億度を超える高温プラズマを磁場で閉じ込めるため、プラズマ内部に数百万アンペア規模の電流を流す必要がある。この電流が作る磁場と外部コイルの磁場を組み合わせることで、プラズマを閉じ込めるらせん状の磁場構造が形成される。しかし、従来のトカマクでは、この電流の大部分を中心ソレノイドと呼ばれる大型電磁石のトランス作用によって発生させてきた。変圧器と同じ原理を利用するため、利用可能な磁束変化量には限りがあり、やがて放電を中断しなければならない。核融合発電所の連続運転を目指す上で、この制約の克服は長年の課題となっている。

米国のGeneral Atomicsなどによる研究チームは、電磁誘導に頼らず、高周波の電磁波によってプラズマ内部に電流を発生させる「ヘリコン電流駆動」の実験的証拠を初めて捉えた。成果は、査読付き学術誌『Physical Review Letters』に掲載された研究論文「First Experimental Evidence of Helicon Current Drive」で報告されている。ただし、今回の実験は連続的な核融合発電や正味のエネルギー生成を達成したものではない。実験でプラズマに結合された高周波電力は370 kWで、駆動電流も磁気軸近傍に集中する20±10 kAと推定されている。それでも、高密度プラズマの深部に高周波を送り込み、外部から電流を駆動できることを裏づけた点で、将来の核融合炉設計に向けた重要な原理実証といえる。

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トランス作用の限界と「速い波」による運動量輸送

トカマクを連続運転するには、電磁誘導に頼らずプラズマ電流を維持する「非誘導電流駆動」が欠かせない。そのためには、プラズマ内部の圧力勾配によって自然に発生するブートストラップ電流に加え、外部から粒子ビームや高周波電磁波を入射して電流を補う技術が必要になる。

代表的な手法として、下限混成波(Lower Hybrid Wave)や電子サイクロトロン波(Electron Cyclotron Wave)を利用した電流駆動がある。しかし、将来の核融合炉で想定される高温・高密度プラズマでは、それぞれに課題がある。下限混成波はプラズマ密度が高くなると中心部への伝播が制限され、電子サイクロトロン波による電流駆動は、大電力化に伴う装置コストや電力変換効率が課題となる。

そこで以前から研究されてきたのが、下限混成周波数帯の高速波(Fast Wave)の一種であるヘリコン波だ。ホイッスラー波とも呼ばれるこの電磁波は、高密度プラズマでも中心部まで伝播しやすく、電子にエネルギーとトロイダル方向(トーラスの円周方向)の運動量を与えられると考えられている。具体的には、波の位相速度に近い速度で磁力線に沿って移動する電子が、ランダウ減衰などの相互作用を通じて波からエネルギーを受け取る。特定方向に伝播する波を選択的に入射することで、一方向に移動する電子を優先的に加速し、電流を発生させる仕組みだ。

この原理自体は以前から知られていたものの、実験的な実証には長い年月を要した。高温プラズマの境界条件が変化する環境でも、高周波電力を安定して結合させ、狙った方向に波を伝播させるアンテナの開発が難しかったためだ。DIII-Dの研究チームは、真空容器の内壁に設置した櫛形進行波アンテナ(Comb-line Traveling-wave Antenna)と、476 MHzの高周波発振装置を組み合わせて実験系を構築した。高周波源には定格1.2 MWのクライストロンを使用しているが、今回の電流駆動実験で実際にプラズマへ結合された電力は370 kWである。装置の定格出力とプラズマに投入された電力は区別する必要がある。

加熱による抵抗変化と電流駆動をどう切り分けたか

高周波をプラズマに入射した際、電子が特定方向に加速されて電流が増えたのか、それとも単にプラズマが加熱されたのかを区別するのは容易ではない。プラズマの電気抵抗率は、おおむね電子温度の1.5乗に反比例するためだ。仮に高周波が加熱しか引き起こしていなくても、電子温度の上昇によって抵抗率が低下すれば、既存の誘導電流の分布が変化する。この影響を新たな電流駆動と誤認する可能性がある。

そこで、Jeff Lestzらの研究チームは、加熱と電流駆動の影響を分離するための対照実験を行った。実験には、測定結果を比較しやすい安定したLモード放電を使用し、以下の3種類の放電条件を比較した。

  1. 基準放電群: 中性粒子ビーム入射(NBI)2.3 MWと電子サイクロトロン加熱(ECH)1.5 MWによって維持した基本放電。
  2. ヘリコン印加放電群: 基準条件に加え、476 MHzのヘリコン波を370 kW、1秒間にわたって入射した放電。
  3. 電子加熱対照放電群: ヘリコン波を入射せず、代わりにヘリコン波の吸収予測に相当するECHを追加した放電。

ヘリコン波を入射すると、磁気軸付近の電子温度は約1 keV上昇した。もし電流分布の変化が温度上昇だけで説明できるなら、ECHによって同程度の加熱を行った対照放電でも、同じような変化が現れるはずだ。研究チームは、この違いをプラズマ内部の磁場構造から調べた。

解析には、運動シュタルク効果(Motional Stark Effect:MSE)による磁場測定と、磁気平衡再構成コード「EFIT」を使用した。注目したのは、磁力線のねじれ具合を表す安全係数(Safety Factor:$q$)の分布である。安全係数は、磁力線がポロイダル方向(トーラス断面を回る方向)に1周する間に、トロイダル方向へ何周するかを表す指標だ。解析の結果、ヘリコン波を入射した放電では、基準放電やECHによる加熱対照放電に比べ、磁気軸近傍の安全係数分布が明らかに速く平坦化していた。

さらに、プラズマ中心部で発生する磁気流体不安定性の一種「ノコギリ波振動(Sawtooth Oscillation)」にも違いが現れた。一般に、磁気軸付近の安全係数が1に達することは、ノコギリ波崩壊の発生と密接に関係している。ヘリコン波を既存のプラズマ電流と同じ方向(co-current)に入射した放電では、ノコギリ波の発生が基準放電や加熱対照放電よりも早まった。この結果は、磁気軸近傍に同方向の非誘導電流が追加され、安全係数の低下が加速されたという解釈と一致する。

研究チームは、観測された電流駆動がヘリコン波そのものによるものか、それとも低域混成波へのモード変換によって生じたものかについても検討した。過去の類似実験では、意図せず発生した遅い波(Slow Wave)が電流を駆動していた可能性が問題となっていた。しかし、今回の実験条件では、476 MHzの遅い波はプラズマ中心部まで伝播できない密度分布となっている。したがって、磁気軸近傍で観測された変化を、低域混成波による間接的な電流駆動で説明することはできず、ヘリコン波による直接的な電流駆動を裏づける結果となった。

放電グループ 追加された条件・電力 実験の目的 観測された挙動 物理的解釈と注意点
基準放電 NBI 2.3 MW + ECH 1.5 MW 比較の基準条件を設定 誘導電流の拡散に伴い、安全係数が緩やかに変化 ヘリコン波による追加電流駆動がない基準状態
ヘリコン印加放電 基準条件 + ヘリコン波370 kW(1秒間) ヘリコン波による電流駆動効果を検出 安全係数分布が急速に平坦化し、ノコギリ波が早期に発生 加熱効果だけでは説明できない同方向電流の追加を示唆するが、総駆動電流の直接測定ではない
電子加熱対照放電 基準条件 + ヘリコン波の吸収予測に相当する追加ECH 電子温度上昇による抵抗変化の影響を分離 安全係数の変化は基準放電に近く、ノコギリ波の発生も同様には早まらない 温度上昇による抵抗率低下だけでは、ヘリコン印加時の変化を説明できない
DIII-D実験における加熱および高周波電力の比較横棒グラフ。カテゴリ 4 件、系列: 電力(単位: MW)基準加熱NBI基準加熱NBI基準加熱NBI — 電力: 2.3MW2.3基準加熱ECH基準加熱ECH基準加熱ECH — 電力: 1.5MW1.5高周波源定格高周波源定格高周波源定格 — 電力: 1.2MW1.2ヘリコン実結合電力ヘリコン実結合電…ヘリコン実結合電力 — 電力: 0.37MW0.37単位: MW
データを表で見る
電力 (MW)
基準加熱NBI2.3
基準加熱ECH1.5
高周波源定格1.2
ヘリコン実結合電力0.37
DIII-D実験における加熱および高周波電力の比較ヘリコン波としてプラズマに結合された電力は370 kW。1.2 MWは高周波源の定格出力であり、実際のプラズマ結合電力とは異なる出典: Physical Review Letters (DOI: 10.1103/mbn4-fd4v)

今回の実験でプラズマに結合されたヘリコン波の370 kWは、NBIとECHを合わせた3.8 MWの基準加熱電力の約10分の1に相当する。この比較的小さな追加電力による影響を、温度分布や磁場構造の測定と対照実験を組み合わせて検出したことが、今回の研究の重要な点だ。ただし、両者は加熱方式やエネルギーの伝達過程が異なるため、この電力比だけで電流駆動効率を比較することはできない。

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磁気軸近傍で推定された20 kAの駆動電流とその不確実性

では、ヘリコン波によって実際にどれほどの電流が駆動されたのか。この数値を理解するには、測定方法と解析上の限界を押さえる必要がある。高温プラズマの内部に電流計を直接設置することはできないため、研究チームは磁場測定と数値モデルを組み合わせて駆動電流を推定した。

解析では、ノコギリ波が発生する前の安定した時間帯である放電開始後1360〜1560ミリ秒のデータを使用した。ヘリコン波を入射した5ショットと、基準放電およびECH対照放電の計7ショットを比較し、MSE診断と磁気測定に基づくEFITの平衡再構成から、プラズマ内部の平行電流密度分布を求めた。そこからオーム誘導電流、ブートストラップ電流、中性粒子ビームによる電流、電子サイクロトロン電流の計算値を差し引き、ヘリコン波に起因する電流成分を算出した。こうして得られた電流密度は、磁気軸付近に集中する分布を示した。

電流が集中していたのは、規格化半径 が約0.2以下の領域である。ここでの は、磁気軸を0、プラズマ最外殻の磁気面を1とする無次元の半径座標を指す。この の範囲で積分されたヘリコン駆動電流は、20±10 kA と推定された。推定値に対して±50%という大きな不確実性があるため、精密な測定値として扱うことはできない。

不確実性が大きい主な理由は、磁気平衡再構成から求めた電流密度分布に、非物理的な振動が含まれるためだ。電流密度そのものの振動は小さくても、半径方向に積分すると、その影響が無視できなくなる。特に磁気軸から離れた領域では、積分対象となる面積が増えるため、誤差が大きくなる。このため研究チームは、再構成された電流密度が最初に符号を変える までの範囲に積分を限定し、結果を有効数字1桁で報告した。

一方、この局所的な電流分布は、高周波の伝播を計算する光線追跡コード「GENRAY」の予測とおおむね一致している。GENRAYは、 の範囲で21 kA、プラズマを最初に通過する間に駆動される電流の合計を26 kAと予測した。ただし、GENRAYによる電流密度のピーク値は、シミュレーション内で設定された光線の軌道に敏感であり、計算条件によって変わり得る。実験値と計算値の一致は理論モデルを支持するものだが、それ自体が独立した追加の実証になるわけではない。

また、EFITによる再構成結果には磁気軸から離れた領域で非物理的な振動が現れるため、プラズマ全体にわたる総駆動電流を十分な精度で求めることはできなかった。今回得られた20±10 kAは、あくまで磁気軸近傍の限られた領域で推定された電流であり、プラズマ全体の駆動電流を表す数値ではない。この区別は、実験結果を将来の核融合炉に適用する際にも重要になる。

今回の実験で実証されていないこと

今回の成果は、ヘリコン電流駆動の原理を実際のトカマクプラズマで裏づけたものだが、定常核融合炉への応用にはいくつもの課題が残る。とりわけ、電流駆動の方向、投入電力の吸収過程、高性能プラズマでの動作という3つの点は、今後さらに検証する必要がある。

第一に、アンテナの動作条件による制約がある。今回の実験では、進行波アンテナの片側しか正常に動作していなかったため、既存のプラズマ電流と同じ方向に電流を駆動する「同方向入射」と、反対方向に駆動する「逆方向入射」を直接比較できなかった。逆方向入射によって電流分布の変化が反転することを確認できれば、ヘリコン波が電流を駆動しているという結論を、より直接的に検証できる。

第二に、高周波電力の吸収量と電流駆動効率の定量化が十分ではない。GENRAYによる計算では、今回の電流駆動実験において、ヘリコン波は最初の通過で入射電力の約47%を吸収されると予測されている。残りの電力については、壁での反射を経てプラズマ中を複数回通過する間に吸収される可能性があるが、その過程を正確に把握できていない。

今回の研究では、電子温度の応答から高周波電力の吸収分布を推定し、理論モデルとの整合性も確認している。しかし、熱輸送による温度分布の変化や、複数回の伝播に伴う損失を十分に分離できていないため、吸収量の精密な評価には至っていない。このため、観測された駆動電流が理論上の期待値より小さい理由についても、電力が十分に吸収されなかったためなのか、吸収された電力に対する電流駆動効率が低かったためなのかを区別できない。研究チームも、この問題を今後の検証課題としている。

第三に、今回の電流駆動実験がLモード放電に限られている点だ。将来の核融合炉では、閉じ込め性能を高めたHモードや、ブートストラップ電流の割合を高めた先進トカマク運転領域が重要になる。DIII-DではHモードプラズマに対するヘリコン波の入射や炉心加熱も報告されているが、今回の論文で示された電流駆動の定量的な実証はLモードで行われた。より高い圧力や異なる電流分布を持つプラズマでも、狙った位置に高周波を吸収させ、十分な電流を駆動できるかは今後の検証が必要だ。

もちろん、今回の実験は核融合反応による正味のエネルギー生成や、長時間にわたる定常運転を実証したものでもない。実験は数秒規模の放電の中で実施され、ヘリコン波を連続して入射した時間は1秒間だった。電流駆動の物理的な仕組みを確認することと、発電炉で必要な電流を長時間維持することの間には、なお大きな隔たりがある。

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発電炉の定常運転に向けて何を検証すべきか

こうした制約を踏まえても、今回の成果には重要な意味がある。トカマク型核融合炉の連続運転を妨げてきた中心ソレノイドへの依存を減らす手段として、ヘリコン電流駆動が実際に機能することを裏づける証拠が得られたためだ。既存のブートストラップ電流や中性粒子ビーム、高周波による電流駆動と組み合わせることで、将来の炉心に必要な電流分布を維持するための選択肢が広がる。

ヘリコン波は、将来の高温・高密度プラズマでは、電子サイクロトロン波などによる既存の電流駆動よりも高い効率を発揮する可能性があると予測されている。特に、プラズマ深部の狙った位置に電流を供給できれば、電流分布を調整しながら磁気的な安定性を維持する上で有用となる可能性がある。ただし、今回の実験だけで、将来の核融合炉でも既存技術より高効率になると結論づけることはできない。

実用化に向けては、次のような検証が重要になる。

  • 双方向入射の比較: アンテナの両方向から高周波を入射し、同方向入射と逆方向入射で電流分布がどのように変化するかを直接測定する。
  • 吸収過程の定量化: 熱輸送の影響を補正した吸収分布を求め、最初の通過で吸収される電力と、複数回の伝播や壁面で失われる電力を区別する。
  • 電流駆動効率の評価: 電流駆動効率 を不確実性を含めて定量化し、電子サイクロトロン電流駆動や中性粒子ビーム電流駆動との比較を進める。
  • 高性能運転領域での実証: Hモードやブートストラップ電流の割合が高い先進トカマク運転領域で、ヘリコン波が狙った位置まで伝播し、必要な電流を安定して駆動できるかを確認する。

今回推定された20±10 kAという電流は、核融合発電炉で必要とされる数百万アンペア規模の電流に比べれば小さい。しかし、その意義は電流の絶対値ではなく、ヘリコン波によってプラズマ深部に非誘導電流を発生させられることを、対照実験と磁場測定によって裏づけた点にある。今後、吸収効率や駆動電流の定量化が進み、高性能プラズマでも同様の効果を確認できれば、ヘリコン波は定常運転を目指すトカマクの重要な電流駆動手段となる可能性がある。