IntelのLip-Bu Tan CEOが、競合するAMDのLisa Su CEOと協業の可能性について話し合ったことが明らかになった。Tom's Hardwareが2026年10月26日に報じたもので、Tan氏は24日に開催されたCASPAの対談でこの件に言及した。ただし、具体的な協業分野や契約内容、金額などは公表されていない。一方、両社はすでにx86 CPU向けAIソフトウェアの共通化に取り組んでおり、競合関係にありながら協力する動きは始まっている。
今回の発言を理解するうえで重要なのは、Intelが進める顧客向け半導体設計、先端パッケージング、ファウンドリ事業を区別することだ。それぞれ受注の仕組みや収益構造が異なり、AMDとの協業が必ずしも半導体の製造委託を意味するわけではない。また、Intel Foundryの外部売上高は増加しているものの、その背景には会計上の要因もある。Tan氏が掲げる顧客重視の経営改革を評価するには、協業の内容だけでなく、実際の受注や生産計画、売上の内訳を確認する必要がある。
AMDとの協業について、現時点で何が分かっているのか
Tan氏はCASPAの対談で、AMDのSu氏と協力できる分野について話し合ったことを明かしたが、具体的な内容には踏み込まなかった。CASPAの公式日程でも、10月24日夜にTan氏とCASPA会長のJimmy Cheng氏による対談が予定されていたことは確認できるものの、協業に関する詳細は記されていない。現時点では、AMDがIntelに半導体製造や先端パッケージングを発注する計画があると判断できる材料はない。
一方、両社が正式に発表した協業には、すでに具体的な取り組みがある。Intelの公式発表によると、両社はAI開発フレームワーク「PyTorch」のx86 CPU向け最適化を、共通のソフトウェアライブラリ「oneDNN」に集約する取り組みを進めている。AMDは独自の最適化ライブラリ「ZenDNN」で培った技術をoneDNNに統合しており、オープンなAIソフトウェア基盤の開発を推進するUXL FoundationにもSteering Memberとして参加している。これはIntelとAMDのCPUでAI計算を効率化するためのソフトウェア面での協力であり、半導体の製造委託とは性質が異なる。
この取り組みには、将来的なAI Compute Extensionsへの対応も含まれる。ただし、計画されている機能がすべて実装されたわけではなく、性能がどの程度向上するかも公表されていない。また、今回Tan氏が言及したSu氏との会話が、このソフトウェア協業を指していたかどうかも不明だ。それでも、両社が競合関係を維持しながら共通技術の開発を進めていることは、協業の可能性を考えるうえで重要な前例となる。
顧客向け半導体設計と先端パッケージングで受注機会を拡大
Intelが顧客重視の経営方針を打ち出したのは、今回が初めてではない。Tan氏は2025年4月29日のIntel Foundryに関する公式発表で、顧客の声に耳を傾けることが最優先事項だと明言していた。その方針を具体的な事業へと結び付ける取り組みが、顧客の用途に合わせた半導体設計サービスや、複数のチップを組み合わせる先端パッケージング技術の強化である。
2026年7月23日の第2四半期決算説明資料によると、IntelのDesign Services事業の売上高は前年同期の約3倍に拡大した。Tan氏は、これまでのネットワーク分野からコンピューティング分野へ事業を広げ、将来的にはアクセラレーターにも展開する方針を説明している。具体例として挙げたのが、Fortinetと進めるセキュリティプロセッサーの共同開発だ。顧客の用途に特化したASIC(特定用途向け集積回路)の設計を請け負うことで、Intelは従来の自社製CPUとは異なる収益機会を開拓しようとしている。ただし、Design Servicesの具体的な売上高は開示されておらず、約3倍という成長率だけでは事業全体の規模を判断できない。
先端パッケージングでも、顧客からの受注拡大に向けた準備が進んでいる。Intelは同じ決算説明で、EMIB-Tの受注残が増加し、歩留まりと信頼性が目標水準に達したと説明した。2027年に予定される顧客製品の生産立ち上げに対応するため、量産体制の整備も進めている。また、2025年の発表では、EMIB-TやFoveros-R/Bを含む2.5Dパッケージングおよび3D積層技術を紹介し、Amkorとの協力関係も示していた。
ただし、顧客向けに半導体を設計すること、複数のチップを高度なパッケージに組み上げること、シリコンウエハーを製造することは、それぞれ異なる事業だ。Intelがこれらの分野で顧客を獲得しても、それが直ちに先端製造プロセスの受注増加につながるとは限らない。EMIB-Tの量産準備についても、AMD向けの案件と結び付ける公式発表はない。顧客重視戦略の成果を判断するには、各事業の受注状況と、顧客製品が実際に生産を開始する時期を分けて確認する必要がある。
Intel 14Aの設計環境整備と量産開始は別の段階
Intelの先端製造プロセス「14A」についても、設計環境の整備と実際の量産開始を区別する必要がある。同社が2026年7月23日に示した計画では、14A向けのPDK(Process Design Kit)バージョン0.5が完成し、バージョン0.9は10月に提供する予定とされていた。PDKは、半導体設計者が対象の製造プロセスに適合する回路を設計・検証するための情報やモデルをまとめた開発キットだ。顧客が新しい製造技術を使った製品設計を進めるうえで欠かせないが、PDKの更新は工場での量産開始を意味するものではない。
Intelが同時に示した生産計画では、自社製品向けのリスク生産を2027年後半に開始し、2028年に量産を立ち上げる予定となっている。リスク生産とは、量産に先立って製造工程の完成度や歩留まりなどを検証する段階であり、安定した商用量産とは異なる。これらはあくまで7月時点の計画で、10月に予定されていたPDK 0.9についても、実際の提供日は確認できていない。今回のAMDとの協業に関する発言によって、14Aの生産計画が前倒しされたと判断する根拠もない。
さらに重要なのが、Intelが14Aへの設備投資を実際の需要に応じて進める方針を採っていることだ。2026年第2四半期のForm 10-Qでは、14Aの開発完了に向けた取り組みを続ける一方、製造設備の拡張規模や投資ペースは確約された需要に基づいて決定すると説明している。その需要には、自社製品に加え、潜在的な大口外部顧客が14Aを採用することで生じる需要も含まれる。つまり、14Aを利用した設計を可能にする技術的な準備と、工場拡張を正当化できるだけの注文を獲得することは、別々の課題である。
AMDとの協業が将来的に14Aの受注につながる可能性は否定できないものの、現段階では具体的な製造契約は確認されていない。Intelのファウンドリ戦略にとって重要なのは、協業の可能性そのものよりも、顧客が実際に14Aを採用し、製造能力の拡張を支える確かな需要が生まれるかどうかだ。
ファウンドリの外部売上増加にはAlteraの連結除外が影響
Intelの顧客獲得戦略を評価するうえでは、ファウンドリ事業の売上構成にも注意が必要だ。2026年第2四半期のIntel Foundryの外部売上高は2億9,300万ドルで、部門売上高57億6,500万ドルの約5.1%に相当する。以下は、IntelのForm 10-Qに記載されたセグメント情報と経営陣による業績分析(MD&A)に基づく数値だ。
| 項目 | 2026年第2四半期 | 集計範囲 |
|---|---|---|
| 外部売上高 | 2億9,300万ドル | ウエハー製造、組立・テストなどを含む |
| Intel Foundry部門売上高 | 57億6,500万ドル | グループ内取引を含む部門全体の売上高 |
| 外部売上高比率 | 約5.1% | 外部売上高 ÷ 部門売上高 |
対象期間は2026年6月27日までの3か月間である。外部売上高と部門売上高をそれぞれ百万ドル単位で表すと293と5,765になり、「293 ÷ 5,765 × 100」で計算した比率は約5.1%となる。これはIntel Foundryの部門売上高に占める外部顧客向け売上の割合であり、ファウンドリ市場におけるIntelのシェアや、Intel全体の連結売上高に対する比率ではない。
外部売上高は前年同期から2億7,100万ドル増加したが、この成長をそのまま新規顧客の獲得成果と解釈することはできない。IntelはForm 10-Qで、増加の主な要因として、2025年第3四半期に実施したAlteraの連結除外を挙げている。従来はグループ内取引として扱われていたAltera向けの売上が、連結除外によって外部顧客向け売上に分類されるようになったためだ。したがって、外部売上高の増加額がそのまま新規受注の増加を表しているわけではなく、Alteraの影響を除いた実質的な成長率も、この数値だけからは算出できない。
また、外部売上高にはウエハー製造だけでなく、組立やテストに関する収益も含まれている。そのため、外部売上高が増加したという事実だけでは、14Aをはじめとする先端プロセスの製造受注が拡大したのか、先端パッケージングの案件が増えたのかを判別できない。まして、今回の発言を受けてAMDからの受注がすでに発生していると考えることはできない。約5.1%という数字が表しているのは、社内向けの製造を含むIntel Foundry事業全体に対して、外部顧客からの売上が占める割合にすぎない。
Tan氏が進める顧客重視の経営改革が実際の業績に結び付くかどうかは、今後の受注と生産の進展によって明らかになる。特に重要なのは、14Aへの設備投資を支える確約需要の獲得、2027年に向けた先端パッケージング顧客の生産立ち上げ、そしてAlteraの連結除外による影響を切り分けた外部売上の成長だ。設計サービスや先端パッケージングで築いた顧客関係が継続的な製造受注につながれば、Intelは自社製品への依存を減らし、外部顧客の需要によっても製造基盤を支えられるようになる。AMDとの協業の可能性はその文脈で注目されるものの、現時点では具体的な事業成果とは切り離して評価する必要がある。
