英紙The Telegraphが10月21日に報じた調査によると、ロシアの漁船17隻が、英国と米国・欧州を結ぶ海底通信ケーブルの近くで低速航行や長時間の滞留を繰り返していたという。同紙は4年半にわたる船舶追跡データを海底ケーブルの位置情報と照合し、ケーブル上での滞留や敷設ルートに沿った移動を500件以上確認した。これらの船舶が海底ケーブルの正確な位置を調査していた可能性が指摘されているが、確認された活動がそのまま攻撃やケーブル切断を意味するわけではない。今回の調査は、不審な船舶の動きを把握するだけでなく、その活動の目的をどう立証し、重要な通信インフラをどう守るかという課題を浮き彫りにしている。

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ロシア漁船17隻、海底ケーブル付近で500件以上の不審な活動

The Telegraphの調査は、衛星などを利用して船舶の動きを追跡するGlobal Fishing Watchのデータと、海底ケーブルの敷設位置を示す海図を照合したものだ。その結果、ケーブル付近で低速航行や長時間の滞留を繰り返していたロシア漁船17隻を特定したという。ただし、今回の分析は船舶の位置や移動の記録に基づくもので、海底で実際に何が行われていたのかを直接確認した調査ではない。

具体的な事例として同紙が挙げたのが、スコットランド北方を通る海底通信ケーブル「Atlantic Crossing 1」付近での活動だ。ロシア漁船がこのケーブル上で活動していた時間は合計337時間に達し、そのうち322時間が2023年4月に集中していたという。単にケーブルの上を通過したのではなく、特定の海域で活動が長時間続いていたことが、監視上の懸念につながっている。もっとも、こうした航跡だけで、船舶が実際に海底ケーブルを調査していたと断定することはできない。

今回の報道で示された主な数値と、それぞれが意味する範囲を整理すると、以下のようになる。

原報道の数値 数えている対象 その数値だけでは分からないこと
4年半 分析対象となった船舶追跡データの期間 同じ任務や目的で継続的に活動していたか
17隻 ケーブル付近で長時間の滞留や低速航行が確認された船舶 各船舶の装備や実際の任務
500件超 ケーブル上での滞留や敷設ルートに沿った移動の事例 攻撃やケーブル切断が行われた回数

この表はThe Telegraphが公表した数値を整理したものであり、船舶追跡データを独自に再集計したものではない。特に重要なのは、17隻が船舶の数、500件超が航跡から確認された活動の件数を表しており、いずれも破壊工作の実行件数ではないという点だ。繰り返し確認される不審な航跡は、監視対象を絞り込む有力な手掛かりになる。しかし、その回数を積み上げても、船舶が搭載していた機器や海底ケーブルへの接触の有無、活動の目的まで明らかになるわけではない。

船舶の航跡から活動の目的を特定できるのか

船舶自動識別装置(AIS)の情報を利用すれば、船がいつ、どこを、どのように移動したかを追跡できる。しかし、特定の海域を低速で航行したり、同じ場所に長時間とどまったりしていた理由までは分からない。通常の漁業活動なのか、それとも海底インフラを調査していたのかを判断するには、航跡以外の情報が必要になる。

データを提供するGlobal Fishing Watch自身も、位置情報から船舶の意図を判断することには限界があると説明している。同団体は6月4日付の違法漁業リスクに関する解説で、AISについて「運航者の意図や、活動の法的な文脈の全体を、単独で把握することはできない」と指摘した。また、遠隔海域では衛星による信号の受信が途切れる可能性があるほか、位置情報が意図的に操作されたり、送信が停止されたりする場合もあるという。そのため、船舶の活動を評価する際には、複数の指標や船舶登録情報などを組み合わせる必要があるとしている。

ただし、これはAISデータ全般の限界を説明したものであり、今回報じられたロシア漁船17隻について個別に評価した発言ではない。不審な航跡が確認されたからといって、直ちに破壊工作や偵察活動の実行を認定できるわけではない一方、意図が確定していないことを理由に監視を怠るべきでもない。海底ケーブル付近で同じような活動が繰り返されていれば、追加の観測や調査を優先すべき海域を特定する材料になる。

The Telegraphは、これらの漁船が海底ケーブルの正確な位置を調べていた可能性を指摘している。しかし、17隻それぞれの装備や任務、実際に海底で行った活動については、航跡だけでは十分に説明できない。監視対象を特定するための情報と、特定の船舶による行為を立証するための証拠は、明確に区別する必要がある。

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NATOは無人機による監視を強化、残る課題は行為の立証

NATOはすでに、海底インフラを保護するため、無人機と既存の艦艇などを組み合わせた監視体制の整備を進めている。取り組みの舞台となっているのは、今回の報道で注目された北大西洋とは異なるバルト海だ。NATOの2月12日付の公式発表によると、2025年1月に発足した「Task Force X-Baltic」は、海底インフラの保護を目的とする「Baltic Sentry」を支援している。2025年3月から10月にかけては、空中と海上で運用する無人機70機の展開・試験を可能にしたという。

ただし、この70機という数字は、海中でケーブルを直接監視する機体の数でも、攻撃を阻止した件数でもない。NATOは自律システムやAIの活用によって状況認識を高め、悪意ある活動の検知能力を改善できると評価しているが、今回報じられた北大西洋のロシア漁船17隻を追跡した実績を示したものではない。バルト海での取り組みが示しているのは、従来の艦艇による監視に加え、無人機などを活用して観測手段を増やそうとしていることだ。

しかし、監視能力の向上が、そのまま破壊工作の立証につながるとは限らない。英国政府も5月29日付の政策説明で、海中で行われる悪意ある活動は意図が不明確な場合が多く、行為の証明や刑事訴追が難しいことを認めている。敵対国と明確に結び付く重大な破壊工作を処罰する法律が存在していても、個々の事案で実際に何が行われ、誰が関与したのかを裏付ける証拠は別途必要になる。

こうした課題に対応するため、英国政府は故意または無謀な行為によって海底ケーブルを損傷させた場合の罰則強化を検討している。また、ケーブルの所有者や運用者に対し、損傷の防止、検知、対応に関する義務を課すことも検討対象に含めている。大規模な事案では、政府が企業にインフラ保護のための措置を指示できる緊急権限も提案する方針だ。ただし、これらは5月時点の政策資料で検討・提案として示された内容であり、すべてが施行済みの制度というわけではない。

無人機による監視の拡充と、法的な責任追及、事業者によるインフラ保護は、それぞれ異なる役割を担う。不審な船舶を早期に発見できるようになっても、その船が実際に何をしたのかを証明するには追加の調査が必要だ。さらに、ケーブルが損傷した場合に備え、通信事業者が迅速に対応できる体制も欠かせない。監視技術の高度化だけでは、海底通信インフラの安全を十分に確保できないのである。

海底ケーブルを守るには、監視だけでなく復旧能力も重要

英国政府の5月の説明によると、同国の通信を支える海底ケーブルは約64本あり、故障が発生した場合には修理船が8日以内に現場へ到着する体制を整えているという。ただし、これは修理船が現場に到着するまでの期間であり、8日以内に修理が完了して通信が復旧することを保証するものではない。損傷の状況や修理作業に応じて、実際に通信が回復するまでには別途時間が必要になる。

また、英国政府は、海底ケーブルの故障の圧倒的多数は悪意のない原因によるものだと説明している。代表的な原因として挙げられているのが、漁業活動や船舶の錨による損傷だ。安全保障上の脅威への対策を強化する場合でも、こうした日常的な事故に対応する修理能力は引き続き重要になる。不審な船舶を監視する体制と、実際に損傷したケーブルを修復する体制の両方があって初めて、通信インフラの信頼性を維持できる。

約64本というケーブルの本数だけで、英国の通信網がどの程度の損傷に耐えられるかを判断することもできない。ケーブルの本数、修理船が現場へ到着するまでの時間、通信が実際に回復するまでの時間は、それぞれ異なる指標だからだ。特に、修理船の到着を復旧完了と同一視すると、損傷後に必要となる作業や、通信障害が継続する可能性を過小評価してしまう。

今回のThe Telegraphの調査は、海底ケーブル付近で繰り返される船舶の活動を可視化した点で、監視上の重要な手掛かりを示した。ただし、航跡から活動の意図や破壊工作の有無を確定するには限界があり、監視能力の向上と行為の立証は別の課題として取り組む必要がある。さらに、実際にケーブルが損傷した場合には、通信を維持し、迅速に復旧させる体制が不可欠だ。海底通信インフラの防衛では、追跡した船舶や投入した無人機の数だけでなく、異常の検知から対応、修理、通信回復までを一貫して機能させられるかが重要になる。