- 何が起きた: シャープとQunaSysが共同開発する全固体電池材料の評価技術が、NEDOの量子懸賞金事業の第二期(Season 2)に採択された。
- なぜ重要か: 量子コンピュータを使ったイオン移動エネルギーの計算を、より複雑な材料へ拡張し、全固体電池の材料候補の選定や設計に役立てることを目指す。
- 次に見るべき点: 計算対象となる材料や原子数、従来手法と比較した精度・計算時間の具体的な数値に加え、将来的に合成した材料の実測結果と一致するかが重要になる。
シャープとQunaSysは2026年10月22日、量子コンピュータを活用した全固体電池材料の評価技術開発が、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の量子懸賞金事業の第二期(Season 2)に採択されたと発表した。第一期では、固体電解質中をイオンが移動する際に必要なエネルギーを量子計算で評価する手法を開発・検証しており、第二期ではより多くの原子を含む複雑な材料への適用を目指す。最終的な目標は、全固体電池の材料候補を効率的に絞り込み、材料設計や試作に活用できる計算技術の確立だ。第一期の計算手法を実際の材料開発にどこまで応用できるかが、今後の焦点となる。
量子コンピュータでイオン移動のエネルギーを評価
全固体電池は、従来のリチウムイオン電池で使われる液体電解質を固体材料に置き換えた電池だ。材料開発では、固体電解質の内部をイオンがどれだけ移動しやすいかを正確に把握することが重要になる。イオンの移動に必要なエネルギーは、材料のイオン伝導特性を理解し、候補となる材料を比較するための重要な指標の一つだ。シャープとQunaSysは第一期の研究で、このエネルギーの計算評価に量子コンピュータを活用する技術を開発した。
研究では、両社がそれぞれの専門分野を生かして役割を分担している。シャープは電池や材料開発に関する知見を基に、評価すべき項目や計算に必要な精度を設定した。一方、量子コンピュータ向けソフトウェアを開発するQunaSysは、これらの評価項目を量子計算で扱える問題に変換し、計算手法の構築と検証を担当している。材料開発の現場で必要とされる評価を、量子アルゴリズムによって実行できるようにする取り組みだ。
両社は第一期の成果として、全固体電池材料の性能を従来よりも高精度かつ効率的に評価できることを確認したと説明している。ただし、計算誤差や処理時間の具体的な数値は公表されておらず、比較対象となった従来の計算手法も明らかにされていない。そのため、精度がどの程度改善したのか、計算時間をどれだけ短縮できたのかを客観的に判断することは難しい。また、計算対象となった材料名や原子数、評価した候補材料の数についても詳細は示されていない。
使用した量子コンピュータの機種や量子ビット数、計算の繰り返し回数なども未公表だ。実際の量子コンピュータとシミュレータをどのように使い分けたのかについても、今回の発表からは確認できない。現時点で明らかなのは、両社が計算手法を開発・検証し、性能評価に一定の成果を得たと報告していることまでである。なお、今回の研究は電池を試作して容量や寿命を測定したものではなく、量子計算の導入によって実際の電池性能が改善したと実証したものでもない。イオン移動エネルギーの評価結果だけで、充電時間の短縮や電池寿命の延長を結論づけることはできない。
第二期では複雑な材料への適用と計算精度の向上を目指す
第二期では、第一期よりも多くの原子を含む複雑な材料を対象に、計算精度のさらなる向上に取り組む。2026年10月22日付の両社の共同発表によると、従来型コンピュータと量子コンピュータの計算を組み合わせることで、より複雑な材料の評価を目指すという。材料ごとのイオンの移動しやすさを計算によって比較し、有望な候補の絞り込みや材料設計に役立てることが狙いだ。単に計算規模を拡大するだけでなく、材料開発の判断に使える精度を確保できるかが重要になる。
今回の構想は、材料評価に必要なすべての計算を量子コンピュータへ移すものではない。ただし、従来型コンピュータと量子コンピュータが具体的にどの処理を分担するのかは明らかにされていない。また、計算対象の原子数をどの程度まで増やすのか、どのような材料を評価するのかといった具体的な目標値も示されていない。第二期の成果を評価するには、扱える材料の複雑さがどの程度増したのかに加え、計算精度や所要時間がどのように変化したかを確認する必要がある。
両社が発表した取り組みを、第一期の成果、第二期の開発目標、将来の応用計画に分けると、次のように整理できる。
| 段階 | 取り組み | 発表時点の状況 |
|---|---|---|
| 第一期(Season 1) | イオンの移動に必要なエネルギーを量子計算で評価 | 計算手法を構築し、検証を完了したと両社が報告 |
| 第二期(Season 2) | 従来型コンピュータと量子コンピュータを組み合わせ、より多くの原子を含む複雑な材料を評価 | 計算対象の拡大と精度向上に取り組む計画 |
| 将来の応用 | 計算結果を材料の合成や実際の性能評価に反映 | 材料開発や試作評価の効率化を目指す構想 |
第一期は計算手法の構築と検証、第二期はより複雑な材料への適用という段階に位置付けられる。その先には、計算で選定した材料を実際に合成・評価し、試作の効率化につなげる構想がある。ただし、今回の発表で実証された成果と、今後実現を目指す内容は区別する必要がある。材料の合成や実測評価に計算結果を活用する段階にはまだ至っておらず、計算技術が実際の材料開発工程をどの程度効率化できるかは今後の検証課題となる。
NEDOの採択は研究開発の出発点、性能実証はこれから
NEDOが公開した第二期のスクリーニング採択者一覧には、チーム名「SHARP/QunaSys」が掲載されている。採択された課題は、化学・素材産業におけるサーキュラーエコノミーの実現に向けた多目的最適化だ。今回の採択は、量子計算技術の研究開発を進めるためのものであり、計算性能や実用性がすでに実証されたことを意味するわけではない。
NEDOは、スクリーニング審査を通過した参加者に対し、産業技術総合研究所の量子コンピュータ「ABCI-Q」などの計算環境を提供するとしている。また、公式FAQでは、応募時点では構想をまとめた資料を提出すればよく、その後の成果審査では量子コンピュータの実機またはシミュレータを活用した研究成果が求められると説明している。つまり、採択は研究開発への参加を認める段階であり、実際の技術的成果はその後の審査で評価される仕組みだ。今回の採択だけを根拠に、量子コンピュータが従来の計算手法より優れていると判断することはできない。
事業全体の標準日程では、研究開発期間は2026年9月上旬から2027年6月下旬までとされている。成果物の提出は2027年6月下旬、表彰式は同年10月中旬を予定している。ただし、これはNEDOの量子懸賞金事業全体の日程であり、シャープとQunaSysによる技術の実用化時期や、全固体電池を搭載した製品の発売時期を示すものではない。今後の成果審査に向けて、両社がどの程度具体的な評価結果を公開するかが注目される。
今回確認できる研究成果の主な情報源は、シャープとQunaSysによる共同発表である。発表本文と添付PDFには、関連する査読付き論文の著者名や掲載誌、DOI、プレプリント識別子などは記載されていない。そのため、現時点では査読を経た研究成果として確認できず、独立した研究グループによる追試についても情報は示されていない。発表された成果の再現性や、従来手法に対する優位性を判断するには、計算条件と評価結果のより詳細な公開が必要になる。
全固体電池の材料開発で量子計算が実際に役立つかどうかを見極めるには、計算対象となる材料や原子数を明らかにし、従来手法との精度・所要時間の比較を行うことが重要だ。さらに、計算結果を基に選んだ候補材料を合成し、実測した物性と予測がどの程度一致するかを検証する必要がある。シャープとQunaSysが目指す材料開発の効率化を実現するには、より複雑な材料を計算できるようにするだけでなく、その結果が実際の材料選定に役立つことを示さなければならない。第二期の研究では、量子計算の技術的な進歩を、実用的な材料評価へどこまで結び付けられるかが問われる。



