米ビンガムトン大学は10月15日、小腸の絨毛を模した電極を使い、細菌の働きで発電する新しいバイオ電池の研究成果を紹介した。査読誌『Small』で9月30日に公開された論文の要旨によると、同じ体積の平面電極と比較して、体積当たりの出力密度が約8.3倍に向上した。細菌が栄養を取り込み、活動できる環境を電極そのものに組み込んだことが特徴だ。将来的には排水管の内側に設置し、小型機器の電源として利用する構想もある。ただし、今回の性能向上が実際の排水環境でも維持できるかどうかは、今後の検証が必要となる。

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菌が活動しやすい電極を小腸の構造から着想

従来の平面電極では、細菌が活動できる表面積に限界があった。一方、細孔を増やして表面積を広げた材料では、細菌の集団が形成する膜「バイオフィルム」によって、栄養や老廃物の通り道が塞がれる問題がある。研究を率いるSeokheun Choi教授によると、これまでの電極設計では、栄養の供給不足や老廃物の蓄積、細菌の不均一な増殖が課題となっていた。単純に表面積を増やしても、内部の細菌に十分な栄養が届かなければ、発電効率の改善にはつながらない。

そこでRuohan Zhang氏、Botian Wang氏、Choi教授らの研究チームが着目したのが、小腸の内壁に並ぶ指状の突起「絨毛」だ。絨毛は、大きな表面積を確保しながら、物質が移動する距離を短くできる構造を持つ。研究チームはこの特徴を柔軟な電極に取り入れ、細菌が効率よく活動できる環境をつくろうと考えた。腸内の細菌群をそのまま再現するのではなく、細菌の活動に適した環境を形状によって生み出すという発想である。

電極の材料には、水を含む高分子の網目構造を持つハイドロゲルを採用した。論文要旨によると、導電性高分子のPEDOT:PSS、ポリビニルアルコール、還元酸化グラフェンを組み合わせた材料を使用している。この材料で絨毛を模した柱状構造をつくり、内部に枯草菌の「芽胞」を埋め込んだ。芽胞は細菌が厳しい環境を生き延びるためにつくる休眠状態の構造で、栄養が供給されると発芽し、電気化学的に活性な細胞へと成長する。

この電極では、細菌の活動場所と、発生した電子を回収する経路を同じ材料が担う。絨毛型の構造をアノード(負極)とし、イオン交換膜を挟んだ反対側に、改質した炭素繊維布のカソード(正極)を配置する。微生物燃料電池は、細菌が有機物を代謝する過程で放出する電子を外部回路に取り出し、イオンの移動を伴う電気化学反応によって発電する仕組みだ。発電のエネルギー源となるのは、細菌に供給される有機物である。芽胞を利用して必要なときに発電を開始する仕組みには先行研究があるが、今回の研究では、これを絨毛型の導電性ゲルに組み込んだ。細菌の保持、栄養の供給、電子の回収という複数の役割を、一つの電極で両立させようとした点が新しい。

出力密度が約8.3倍に向上した条件

公開された論文要旨によると、体積当たりの出力密度は、従来の平面型電極の8.04µW/cm³に対し、絨毛型電極では66.45µW/cm³に達した。比較に用いたのは、体積を同じにそろえた平面電極である。つまり、約8.3倍という数値は、今回の実験で設定された比較条件における性能向上を表している。既存のあらゆる微生物燃料電池に対して8.3倍の性能を持つという意味ではなく、蓄えられるエネルギー量が8.3倍になったことを示すものでもない。

研究チームは24個のデバイスを使って電極の形状を評価し、柱の半径と高さの組み合わせが発電性能に影響することも明らかにした。最適な寸法では、絨毛を模した柱1本当たりのピーク出力が8.35µWに達したという。なお、µW(マイクロワット)は電力の単位で、1µWは100万分の1Wに相当する。電極の体積で割った出力密度と、個々の電極構造から得られる電力は異なる指標であり、混同しないよう注意が必要だ。

大学の発表では、栄養培地を連続的に供給した条件で、約0.75Vの電圧を少なくとも14時間維持できたことも報告されている。これは栄養を補給しながら発電を続けられたことを示す実験結果であり、栄養を補給せずに14時間動作できるという意味ではない。また、14時間という数字が電池の寿命の上限を示しているわけでもない。

実用性を評価するうえでは、電圧だけでなく電流も重要になる。電力は電圧と電流の積で決まるため、0.75Vという数値だけでは、実際にどの程度の電力を機器へ供給できるか判断できない。14時間という動作時間を組み合わせても、発電した総エネルギー量は算出できない。大学は小型LEDやマイクロセンサーへの応用に言及しているものの、公開情報からは、具体的な機器をどのような条件で駆動できたのかまでは確認できない。論文の公開要旨にも、形状評価における最適寸法や独立した反復測定の回数、測定誤差の詳細は示されていない。また、0.75Vを維持した試験についても、大学発表では負荷抵抗や電流の値が明らかにされていない。

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模擬配管での発電を確認、実際の下水への応用は今後の課題

排水管への応用については、将来構想だけでなく、実験室での試験結果も報告されている。9月30日に公開された論文要旨では、排水を模した栄養・電解質溶液を使い、配管内での発電を模擬する実験が行われた。ただし、これは実際の下水を流す現場での発電試験ではない。また、大学が紹介した14時間の持続試験とも、試験環境や評価項目が異なる。

論文要旨と10月15日のビンガムトン大学の発表に記載された試験を、供給液と試験環境で整理すると次のようになる。

公開された試験 供給液・環境 確認できる結果
大学発表の持続試験 栄養培地を連続供給 約0.75Vを少なくとも14時間維持
論文要旨の配管試験 模擬配管で、排水を模した栄養・電解質溶液を使用 配管の形状に沿わせた電極で、栄養供給に応じた発電を確認

これらの結果は、試験環境と評価した性能を区別して捉える必要がある。特に、14時間の持続試験の結果を、そのまま配管内での連続運転実績と解釈することはできない。それでも、配管の形状に沿わせた電極で発電を確認したことには意味がある。平面試料で性能を比較する段階から、実際の設置環境を想定した構造で発電できるかを検証する段階へ進んだためだ。

実際の排水環境で利用するには、細菌への栄養供給に加え、温度、塩分濃度、pHなどが変動する中でも安定した出力を維持できるかが重要になる。Choi教授は過去の論考でも、微生物燃料電池の性能がこうした環境条件に大きく左右されると指摘している。今回の論文要旨と大学発表からは、実際の下水を使った長期運転の実績や、排水をどの程度浄化できたかまでは確認できない。

研究チームは、別の電極配列を使い、位置ごとの反応を区別する生体電気化学センシングについても報告している。これは細菌の活動によって生じる電気を取り出すだけでなく、その反応を場所ごとの状態を把握するための信号として利用する試みだ。ただし、特定の汚染物質を選択的に検出できることや、下水の浄化能力が実証されたことを意味するものではない。

小型センサーの電源として実用化するための条件

Choi教授は2023年に学術誌『Batteries』で発表した論考で、大規模な微生物燃料電池の維持・運用には課題が多いと指摘していた。そのうえで、特定の細菌を選んで組み込む小型電源の用途を重視している。今回の絨毛型電極も、限られた空間で細菌を効率よく活動させ、少量の電力を取り出すという研究の延長線上に位置付けられる。

実際に小型機器の電源として利用する場合、発電した電気を一時的に蓄える蓄電素子や、機器の動作に必要な電圧へ変換する回路も必要になる可能性がある。こうした補助回路自体も電力を消費するため、電極で測定された出力をそのまま機器へ供給できるとは限らない。センサーなどの実機と組み合わせ、細菌の活動を維持しながら、補助回路の損失を差し引いてどれだけの電力を供給できるかを確かめる必要がある。

製造面では、研究チームは今後、絨毛型の構造を一工程で形成でき、量産にも対応可能な印刷技術の開発を目指している。また、現在の電極はゲル全体に芽胞を埋め込んだものであり、小腸の粘液や細胞層がつくる生理的・化学的な環境まで再現したわけではない。Choi教授は、今後は形状だけでなく、こうした環境も模倣することで、細菌が長期間生存し、活動を続けるための条件を明らかにしたいと説明している。実際の下水でも細菌の活動を維持でき、補助回路の消費電力を差し引いてセンサーに必要な電力を供給できれば、排水管のように電池交換が難しい場所でも、流れてくる有機物を小型機器の電源として活用できる可能性がある。