オーストラリアのニューサウスウェールズ大学(UNSW)と中国のUtmoLight(極電光能)は、30cm四方の単接合型ペロブスカイト太陽電池で、安定化変換効率23.5%を達成したと発表した。

この数値自体はUtmoLightが9月に公表していたもので、UNSWは10月7日、酸化ニッケル層を使わずに電荷を取り出す接触部分を製造工程で形成する技術と、商用サイズへの大型化計画について詳しく説明した。

今回の研究は、小さな実験室用の太陽電池で高い効率を達成するだけでなく、面積を広げても性能を維持できる製造技術の確立を目指したものだ。商用化に向けた進展を評価するには、変換効率の数値だけでなく、その測定条件や、大型化しても同じ性能を再現できる製法なのかを見極める必要がある。

UNSWの公式発表

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23.5%という効率は、どの面積を基準に測定されたのか

UNSWが公表した太陽電池の外形寸法は30cm×30cmだが、変換効率の測定に使われた開口面積は676cm²だった。

30cm四方の外形面積は900cm²となるため、両者には違いがある。開口面積とは、測定時に光が当たる領域を区切った面積のことで、パネル全体の面積を基準にした変換効率とは、そのまま比較できない。

つまり、今回の23.5%という数値を、30cm四方の全面積で達成した変換効率と解釈するのは正確ではない。

認証機関については、UtmoLightの発表で国家光伏産業計量測試中心の名前が挙げられている。

また、同社が公開した試験報告書の抜粋には、福建省計量科学研究院の名称も記載されており、標準試験条件(STC)下で最大電力点追従(MPPT)による測定が行われたことが分かる。

MPPTとは、太陽電池が発電している間、出力が最大になる動作点を追跡する方法だ。

報告書の注記によると、23.50%という変換効率は、300秒間の試験のうち、最後の30秒間に得られた測定値の平均である。

ここでいう「安定化」とは、測定中に出力が落ち着いた状態で変換効率を評価したという意味だ。数分間の測定で得られた安定化効率を、屋外で何年にもわたって性能を維持できる耐久性と混同してはならない。

実際、UNSWも湿気や熱、長時間の光照射による劣化を今後の課題として挙げている。

一方、公開された面積と出力の数値には、さらに確認が必要な点もある。

試験報告書の抜粋に記載された出力は15.68Wだ。ASTMの公開資料に示された標準試験条件の放射照度1000W/m²を使い、UNSWが公表した開口面積676cm²を0.0676m²に換算すると、変換効率は次のようになる。

15.68W ÷(1000W/m² × 0.0676m²)× 100 ≒ 23.2%

同じ条件で23.5%の変換効率を得るには、約15.89Wの出力が必要になる。

つまり、現在公開されている数値だけでは、23.5%という変換効率と676cm²という開口面積の関係を独立に検証できない。

ただし、この計算は、UNSWが公表した開口面積とUtmoLightの試験報告書が、同じ試料の同じ測定領域を指していると仮定したものだ。

公開されている報告書の抜粋には面積や測定の不確かさに関する情報が含まれておらず、これだけで認証値が誤っていると判断することはできない。

面積情報を含む試験報告書の全体が公開され、UNSWの発表との対応関係が明らかになれば、測定結果をより詳しく検証できるようになる。

酸化ニッケル層を省き、製造中に電荷を取り出す接触部分を形成

今回の太陽電池で注目されるのが、従来使われてきた酸化ニッケル層を省いた設計だ。

UNSWによると、酸化ニッケル層には短絡を防ぐなど、太陽電池を正常に動作させる役割がある。しかし、ペロブスカイト材料と好ましくない化学反応を起こし、安定性を損なう場合もある。また、この層を形成するための製造工程も必要になる。

そのため、単純に酸化ニッケル層を取り除くだけでは、太陽電池として必要な機能を維持できない。別の方法で、その役割を補う必要がある。

太陽電池が光を吸収すると、内部で電子と正孔が生じる。正孔とは、電子が抜けた部分を正の電荷の担い手として扱うもので、電子と正孔をそれぞれ異なる電極へ取り出すことで電流が流れる。

研究チームは今回、正孔を優先的に取り出す「正孔選択接触」を、従来のように層を順番に積み重ねるのではなく、製造工程の中で直接形成する方法を採用したと説明している。

光を吸収するペロブスカイト層の形成と、電荷を取り出す接触部分の形成をどのように組み合わせるかが、今回の技術の重要なポイントだ。

こうした製造方法には、先行研究がある。

Xiaopeng Zhengらは2023年に『Nature Energy』で発表した論文で、ペロブスカイトの前駆体溶液に加えたホスホン酸やカルボン酸が、成膜中に酸化インジウムスズ(ITO)基板上で自己組織化する現象を報告している。

これは、分子が自発的に規則正しく並ぶ「自己組織化単分子膜」を正孔選択接触として形成しながら、同時にペロブスカイトを結晶化させる方法だ。

研究チームは、この方法によって溶液の濡れ性に関する問題を解決し、製造工程を簡略化できると説明している。

先行研究の論文要旨

ただし、この先行研究が、今回23.5%を達成した太陽電池と同じ材料や製造条件を採用しているという意味ではない。

UNSWの発表では、今回使用した分子の種類や配合、接触部分の詳細な構造までは明らかにされていない。

先行研究から読み取れるのは、ペロブスカイト層を形成する過程で、正孔を取り出すための界面も同時に作り上げるという製造方法の狙いだ。

特に大面積の太陽電池では、こうした接触部分が広い範囲で均一に機能するかどうかが重要になる。

膜の厚さや結晶化の状態が場所によって異なれば、欠陥が生じたり、電荷を取り出す際の損失が増えたりする可能性がある。

小さな太陽電池で高い性能を発揮する材料を見つけても、単純に塗布面積を広げれば同じ性能が得られるわけではない。

UNSWのXiaojing Hao教授は、UtmoLightが持つ大面積加工やモジュール製造の経験が、材料や素子の設計を高性能なサブモジュールへと発展させるうえで欠かせなかったと説明している。

酸化ニッケル層を省くことで、成膜工程を減らし、材料同士の反応による問題を抑えられる可能性はある。

ただし、製造工程が減ることと、製造コストが下がることは必ずしも同じではない。

新しい製法での不良率や材料使用量なども評価する必要があり、今回の発表だけでは、製造コストや歩留まりがどの程度改善するかを数値で判断することはできない。

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「世界記録」の23.5%は、ほかの研究とどう違うのか

UtmoLightは今回の23.5%という変換効率について、Martin Greenらがまとめた「太陽電池効率表」の第68版に掲載された基準を0.6ポイント上回ったと説明している。

UNSWも、大面積ペロブスカイトサブモジュールの世界記録と位置づけている。

ただし、ペロブスカイト太陽電池の変換効率を比較する際には、対象となる試料の大きさや測定条件に注意が必要だ。

小面積の研究用セル、複数のセルを組み合わせたサブモジュール、商用サイズのモジュールでは、評価対象も製造上の課題も異なる。

実際、Dongdong Xuらの研究チームが2026年8月12日に公開した『Nature』論文では、開口面積810cm²のペロブスカイトモジュールで24.0%、全面積0.72m²の大型モジュールで22.0%という認証変換効率が報告されている。

こちらは、表面処理の工夫によって性能を高めた別の研究だ。

比較対象となるNature論文

今回のUNSW・UtmoLightの成果と比較すると、次のようになる。

発表・研究 公表された変換効率 対象面積と測定条件
UNSW・UtmoLight 23.5% 外形30cm四方、UNSW公表の開口面積676cm²。最大電力点での安定化効率。報告書抜粋によると300秒間の試験の最後の30秒間の平均値
XuらのNature論文 24.0% 開口面積810cm²での認証変換効率。公開要旨では測定方法の詳細は示されていない
同じNature論文の大型モジュール 22.0% 全面積0.72m²での認証変換効率。810cm²の試料とは面積の基準が異なる

この表は、単純に変換効率の優劣を示すものではない。

今回の23.5%は最大電力点で測定した安定化効率だが、比較対象となるNature論文の公開要旨では、24.0%という数値の詳しい測定方法は説明されていない。

さらに、今回のUNSW・UtmoLightの成果についても、公表された開口面積と認証報告書の数値の対応関係には確認すべき点が残っている。

したがって、23.5%を「あらゆる大面積ペロブスカイト太陽電池の中で最も高い変換効率」と一般化するのは適切ではない。

どの面積を対象に、どのような条件で測定した記録なのかを明確にしたうえで評価する必要がある。

また、今回の成果は、大学と企業による発表、および公開された認証報告書の抜粋に基づくものだ。

UNSWの発表ページには、今回の23.5%を達成した試料について詳しく記述した査読付き論文やDOIは示されていない。

2023年の先行研究や、2026年8月の比較対象となる研究が査読付き論文として公開されているからといって、今回の材料構成や測定条件についても同じ水準の情報が公開されているわけではない。

次の目標は2.8m²の商用サイズ、変換効率18〜19%を目指す

UNSWが次の目標として掲げているのは、今後数カ月以内に、面積2.8m²の商用サイズに相当するペロブスカイト太陽電池モジュールを製造し、試験することだ。

この大型モジュールで目指す変換効率は18〜19%とされている。

つまり、今回の30cm四方の試料で達成した23.5%を、そのまま商用サイズでも実現する計画ではない。

30cm四方の外形面積は0.09m²であるため、2.8m²への拡大は、外形面積で約31倍に相当する。

これは2.8÷0.09という計算によるもので、今回の効率測定に使用された開口面積676cm²を基準にした比較ではない。

また、23.5%は今回の試料で実際に測定された数値だが、18〜19%は今後製造する大型モジュールの目標値だ。

両者の差を、大型化によってすでに確認された効率低下と捉えることもできない。

太陽電池を大型化すると、広い面積にわたって均一な膜や接触部分を形成する必要がある。さらに、複数のセルを電気的に接続する工程も含め、製造条件を適切に制御しなければならない。

研究室で製造した最も性能の高い1枚が優れた効率を達成することと、同じ製法で多数のモジュールを安定して生産できることは、別の問題だ。

今回の公開資料には、製造した試料の総数や、各試料の性能のばらつき、量産時の歩留まりなどは示されていない。

商用化を判断するには、こうした再現性に関するデータも重要になる。

もう一つの課題が、長期間使用した際の耐久性だ。

酸化ニッケル層を省く設計には、ペロブスカイトとの望ましくない反応を避け、劣化要因を減らす狙いがある。

しかし、それだけで太陽電池全体の耐久性が保証されるわけではない。

湿気や熱への耐性、長時間の光照射による性能の変化などは、別途検証する必要がある。

300秒間の測定で出力が安定していたとしても、屋外で長期間使用した際に同じ性能を維持できるかは分からない。

今後の2.8m²モジュールの試験では、面積の定義と測定条件を明確にした変換効率だけでなく、複数の試料で同じ性能を再現できるか、長期間の使用でどの程度劣化するかも重要な評価項目となる。

今回の研究が示したのは、正孔を取り出す接触部分を製造工程の中で形成することで、大面積のペロブスカイト太陽電池でも高い変換効率を実現できる可能性だ。

この製法が商用サイズでも安定して機能し、十分な耐久性と製造時の再現性を確保できれば、製造工程を簡略化しながら高性能を維持する技術として、量産への道が開ける。

23.5%という記録そのものに加え、その性能をどこまで大きなモジュールで再現できるかが、今後の焦点となる。