SamsungとSK hynixが、中国にあるNANDフラッシュメモリ工場で、200層超の製品への切り替えを進めている。Reutersは2026年10月21日、計画を知る4人の関係者への取材を基に、Samsungの西安工場では286層、SK hynixの大連工場では240層以上のNANDへの移行が計画されていると報じた。背景には、AI向けストレージ需要の拡大と、中国の長江存儲(YMTC)との競争激化がある。

Samsungは米政府と緊密に協議しながら設備更新を進めていると説明し、SK hynixも大連工場への装置導入を認めている。ただし、必要な米国製装置について、輸出許可がどこまで下りているのかはReutersも確認できていない。両社が計画する技術更新を実際の量産につなげられるかどうかは、米国の輸出規制とその運用にも左右される。

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Samsungの西安工場は286層、SK hynixの大連工場は240層以上へ

Reutersによると、Samsungの西安工場では現在、約200層のNANDを生産している。同社は社内で「Monami」と呼ぶ計画に基づき、286層の第9世代V-NAND(V9)への切り替えを進める方針だ。関係者の1人によれば、V9の月間生産量を2026年12月にウェハー5,000枚、2027年12月には4万枚まで引き上げることを目指している。ウェハーとは半導体の製造に使う円盤状の基板で、今回の目標は西安工場でV9への移行をどの程度進めるかを表している。

SamsungはReutersに対し、今回の設備更新は米国の輸出規制を順守しながら、米国を含む世界の顧客需要に対応するためのものだと説明した。一方、工場全体の生産能力を拡大したり、新たな製造施設を建設したりする計画ではないとも明言している。したがって、V9の月間生産目標が増えるからといって、西安工場全体のウェハー処理能力が同じ割合で増加するわけではない。既存の製造ラインを新世代の製品へ切り替えることと、工場そのものの生産能力を増強することは区別する必要がある。

SK hynixの大連工場では、現在生産している192層のNANDから、240層以上の製品へ移行する計画だという。関係者の1人は、240層までの製造は認められており、300層を超える製品の研究開発についても米政府へ許可を求める可能性があると述べた。ただし、300層超について言及されているのは研究開発の許可申請の可能性であり、量産計画が決まったわけではない。また、240層までの製造が認められているという情報も、米商務省産業安全保障局(BIS)が個別に確認したものではない。両社は設備更新や装置導入の事実を認めているものの、具体的な層数や生産数量は匿名の関係者が明かした計画値であり、実際の生産開始や目標達成は今後の進捗を確認する必要がある。

NANDの高積層化で記憶密度は向上するが、製造も難しくなる

NANDフラッシュメモリは電源を切ってもデータを保持できる半導体メモリで、スマートフォンやPC、AIデータセンター向けのSSDなどに広く使われている。現在主流の3D NANDは、データを記憶するメモリセルを垂直方向に積み重ねる構造を採用している。層数を増やせば、ウェハー上の同じ面積により多くのデータを記録できるため、工場のウェハー処理能力を増やさなくても、製品当たりの記憶容量を高められる可能性がある。既存工場を新世代の製品へ切り替える意義は、単純なウェハー処理枚数の増減だけでは測れない。

Samsungが2024年4月23日に発表した第9世代V-NANDは、高積層化による記憶密度の改善を示す具体例だ。同社は当時、1TbのTLC(1セル当たり3ビットを記録する方式)製品の量産を開始し、第8世代と比べて記憶密度を約50%向上させたと説明している。これには、メモリセルの小型化や積層材料の薄型化に加え、不要なチャネルホールを減らしてセルが占める平面上の面積を小さくする技術が使われている。

ただし、この約50%という数値はSamsungが公表した製品世代間の比較であり、西安工場の供給量が50%増えることを意味しない。更新前の西安工場で生産する全製品が第8世代に相当するかどうかも、同社の発表だけでは判断できない。実際の供給増加率を見積もるには、製品構成やウェハー1枚から得られる良品の割合(歩留まり)、製造工程の処理能力などを考慮する必要がある。記憶密度の改善率を、そのまま工場全体の増産率に当てはめることはできない。

また、NANDの積層数が増えるほど、製造工程の難易度も高くなる。Samsungによると、積み重ねたメモリセルを貫通する電子の通り道を形成する「チャネルホールエッチング」では、積層数の増加に伴って、より高度な加工技術が求められる。単に層数を増やせば、安定した量産が可能になるわけではない。

SK hynixが2024年11月21日に発表した321層NANDにも、こうした製造上の課題を克服する技術が使われている。同社は量産開始に際し、3回に分けて形成した孔を後工程で電気的に接続する技術や、孔の位置ずれを自動補正する技術、ウェハーの反りを抑える材料などを紹介した。これらは大連工場で計画されている240層以上の製品に、そのまま採用されると確認されたものではない。しかし、高積層化にはメモリセルを積み重ねるだけでなく、微細な孔の加工や接続を含む製造工程全体の高度化が必要であることが分かる。

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SK hynixは韓国で321層を量産、中国ではYMTCとの競争が激化

中国工場の技術更新を評価する際には、SamsungやSK hynixが企業全体として持つ製造技術と、中国の各工場で実際に使われている技術を区別する必要がある。

SK hynixは2026年7月29日の決算発表で、321層NANDが同社のNAND生産において最大の構成比を占めるようになったと説明した。さらに、2026年末までに韓国内のNAND生産能力の約50%を321層製品に対応させる計画も明らかにしている。この約50%は韓国内の生産能力を対象とした数字であり、中国を含む世界全体の比率ではない。

こうした韓国での進展に対し、Reutersが伝えた大連工場の現行製品は192層だ。同じ企業の工場であっても、拠点によって技術更新の進み方には大きな違いがある。321層NANDを量産する技術を持っていても、米国の輸出規制によって製造装置の導入が制限される中国工場では、同じ世代への移行が認められるとは限らない。今回の200層超への切り替えは、こうした拠点間の技術的な差を縮める動きとも捉えられる。

一方、中国市場では現地メーカーのYMTCが存在感を強めている。Reutersが引用したOmdiaの調査によると、2026年第2四半期の中国NAND市場におけるYMTCのシェアは38.5%に達し、Samsungの33.5%を上回った。ただし、これは中国市場に限った数字であり、世界市場での順位を表すものではない。

Reutersは別の関係者への取材を基に、YMTCの主力製品は160層と232層で、294層の製品も少量生産していると報じた。NANDの性能や製造コストは積層数だけで決まるわけではないが、YMTCも高積層化を進めており、韓国メーカーの中国工場が従来世代の製品を作り続ければ、現地市場での競争力に影響する可能性がある。また、SK hynixは7月の決算発表で、顧客需要が供給能力を上回っているとの認識を示している。中国工場の技術更新には、競争力の維持に加え、AI向けの高容量・高性能ストレージ需要に対応する狙いもある。

米国の輸出規制が設備更新の制約に

両社の計画を左右するのが、米国による半導体製造装置の輸出規制だ。BISは2025年8月29日、中国にある一部の外資系半導体工場に対し、対象装置を個別の輸出許可なしで受け取ることを認めていた「検証済みエンドユーザー(VEU)」の認可を終了すると発表した。BISは既存工場の操業を維持するための輸出許可については認める意向を示す一方、生産能力の拡大や技術更新を目的とする輸出許可は認めない方針を明記していた。

今回、BISはReutersからの個別の輸出許可に関する質問に直接回答せず、2025年の声明を示すにとどまった。Samsungは輸出規制を順守していると説明し、SK hynixも大連工場への装置導入を認めているが、それだけでは更新に必要なすべての米国製装置について許可が下りているかどうかは分からない。現時点では、米政府が規制を緩和したとも、両社が規制に違反しているとも断定できない。

今回の報道と各社の発表を整理すると、技術更新による供給への影響を評価するには、次の3つの指標を区別する必要がある。

情報 対象と時点 供給量を評価する際の注意点
V9の月間生産量を5,000枚から4万枚へ拡大 Reutersの2026年10月21日付報道。西安工場のV9について、2026年12月と2027年12月の目標 V9の生産規模を示すもので、工場全体のウェハー処理能力の増加率ではない
記憶密度を約50%改善 Samsungの2024年4月発表。第9世代と第8世代V-NANDの製品比較 西安工場で実測された値ではなく、出荷容量の増加率を示すものでもない
既存工場の操業維持と技術更新で輸出許可の方針が異なる BISの2025年8月声明。旧VEU対象の中国工場に関する方針 今回の設備更新に必要な個別装置の許可状況は明らかになっていない

西安工場におけるV9の生産目標、製品世代間の記憶密度の改善率、米国製装置の輸出許可は、それぞれ異なる内容を示している。いずれか1つの数字だけで、中国工場全体の供給増加率を判断することはできない。ただし、ウェハー処理能力を増強せずに記憶密度を高められれば、同じ枚数のウェハーから得られる記憶容量を増やせる可能性がある。実際の供給量は歩留まりや製品構成にも左右されるため、積層数の増加率だけから算出することはできない。また、今回の計画がSSD価格の下落に直結するとも限らず、まずは新世代の製品を既存工場で安定して量産できるかが重要になる。

当面の注目点は、Samsungの西安工場が2026年12月にV9の月間生産量5,000枚という目標を達成できるかどうかだ。加えて、設備更新に必要な米国製装置について、どの範囲まで輸出許可が認められるのかも引き続き焦点となる。今後、量産の進捗や許可の詳細が明らかになれば、中国工場の技術更新がAI向けストレージの供給拡大にどこまで貢献するのかを、積層数だけでなく実際の生産量や供給能力から評価できるようになる。