SK hynixが、米国でNANDフラッシュ工場を建てる条件として、中国・大連の工場向けに米国製の半導体製造装置を追加輸出する許可を求めていると、Reutersが10月15日に報じた。AIデータセンター向けSSDの供給を増やしたい同社に対し、米政府は国内への工場誘致と中国での生産能力拡大の抑制を同時に進めている。ただしSK hynixは、大連での装置設置は米政府の承認下で進めており、生産能力の拡大は求めていないと回答した。報道が示すのは、中国の既存拠点で供給と収益を確保することが、将来の米国生産を支えるという構想と、その前に立つ輸出管理上の難題である。

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大連の装置導入は「稼働維持」か「増産」か

Reutersが事情に詳しい関係者2人の話として伝えた交渉では、SK hynix傘下の米Solidigmが、大連の未使用区画に装置を入れてNANDの生産を増やしたいと考えている。NANDは、電源を切ってもデータを保持できる記憶素子で、SSDの保存容量を支える部品だ。米工場の検討自体は9月にも報じられていたが、今回は中国向けの装置輸出許可と米国投資を結び付けている点が新しい。

この交渉を難しくしているのが、米商務省産業安全保障局(BIS)の2025年8月29日付の方針である。BISは、一部の外国企業が中国の自社工場向けに米国由来の装置や技術などを個別の輸出許可なしに受け入れられた、認定エンドユーザー制度(VEU)の特例を撤回した。

その際、BISは既存工場の操業を続けるための輸出許可は認める意向を示す一方、生産能力の拡大や技術更新のための許可は認めない方針を明記した。中国工場への装置搬入をすべて止める措置ではない。装置の用途が、許可を判断するうえでの争点になる。

大連の「Mod B」を巡る説明は、この線引きと重なる。SK hynixはReutersに、同区画は2023年に完成しており、装置設置は米政府との緊密な協議と承認の下で進めていると説明した。そのうえで、Mod Bの生産能力拡大は求めていないとした。関係者が説明する増産の狙いと、会社が示す立場には隔たりがある。

ただし、建物が以前からあるというだけで、装置の追加が輸出管理上も能力拡大に当たらないとは判断できない。許可が対象とする設備や生産能力の基準が分からなければ、この隔たりは埋まらない。Reutersによれば米商務省は取材に回答しておらず、米政府が今回の要求を認めたとの発表もない。

三つの投資計画は工程も確定度も違う

SK hynixはすでに米国で別の投資を進めている。2024年4月に発表したインディアナ州の計画は、38億7000万ドルを投じるHBMの先端パッケージング・研究開発施設だ。HBMはDRAMチップを積層して大きな帯域を確保するメモリで、GPUの近くで高速なデータ処理を支える。

インディアナ州の投資はHBMの先端パッケージング、清州M17はNAND製造の計画であり、米国の新NAND工場構想とは工程と確定度が異なる。

2026年10月16日までに確認した公表内容を、対象工程と各発表時点の決定状況で並べると、次のようになる。

計画 増やす生産機能 公表された内容と確定度
米インディアナ州の施設 HBMの先端パッケージングと研究開発 2024年4月3日のSK hynix発表で38億7000万ドルの投資計画を公表。NANDの製造工場ではない
韓国・清州のM17 NANDの製造基盤 2026年8月7日のSK hynix発表で19兆1000億ウォンの投資を決定。2027年2月着工、2028年12月に最初のクリーンルームを開設する目標
Solidigmの米NAND工場構想 米国内でのNAND製造 10月15日のReuters報道が中国向け装置許可との関係を伝えた。立地・投資額・量産時期が確定した計画としては公表されていない

表は生産量や稼働開始の早さを比較したものではない。特にM17の日付はクリーンルーム開設の目標であり、NANDの量産開始日とは異なる。米国でのメモリ製造についても、同社は9月16日の声明で、Intelとの協力を含む具体的な計画は未決定だと説明していた。この声明は当時の決定状況を示すもので、今回報じられた交渉自体を否定するものではない。

工程の違いは、供給への効果を考えるうえで大きい。NAND工場ではウエハー上に記憶素子を作る。HBMの先端パッケージングは、製造したDRAMチップを積層し、接続して製品に仕上げる工程だ。米国にHBMの後工程を設けても、それだけでSSDに使うNANDが増えるわけではない。米国投資の金額を足し合わせるだけでは、どの部品の供給力が増えるかは分からないのである。

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AI向けSSDが必要とする「新工場までの供給」

CoreWeaveは8月5日、Solidigmと複数年の戦略契約を結び、企業向けSSDの供給能力に優先的にアクセスできる体制を確保した。CoreWeave自身が、ストレージは設備計画の制約になっており、AI需要の増加に合わせて確保する必要があると説明している。顧客は将来の工場完成を待つだけでは済まず、必要な時期の供給枠を押さえ始めている。

SK hynixもM17への投資発表で、AIサービスの拡大に加え、推論時のKVキャッシュを保存する需要が企業向けSSDの需要を押し上げていると説明した。KVキャッシュは、AIが計算したKeyとValueの情報を保存し、同じ計算を繰り返す負担を減らす仕組みである。保存するデータが増えるなか、高速なメモリと大容量ストレージに、データをどう振り分けるかも課題になる。SSDがHBMと同じ速度で動くという話ではなく、必要なデータを保持する役割が広がっているのだ。

一方、NANDの新工場は、建設計画を決めればすぐに供給を増やせるものではない。M17でさえ最初のクリーンルームの開設目標は2028年12月である。SK hynixは工場を計画に沿って建てる一方、クリーンルームの拡張と装置の導入は需要に合わせて段階的に進めると説明している。建屋を完成させることと、実際に製造能力を増やすことには、さらに段階がある。

Reutersの関係者の1人は、中国での増産が米工場の資金確保を助け、米国内での増産までのつなぎにもなると説明した。既存拠点を活用して現在の需要に応え、その収益を将来の拠点へつなぐという考え方である。ただし、追加装置による生産量や米工場への資金の振り向け方は明らかになっていない。大連の活用が新設工場よりどれほど早く、安く供給を増やせるかを数値で比較できる段階ではない。

資金不足よりも、どこへ投資を配分するか

SK hynixは10月1日のSolidigmに関する声明で、強い財務基盤があり、内部資金の活用も選択肢だと説明した。一方で、十分な資金があることと、すべての投資を手元資金で賄うことが最善であるかは別だとも述べている。同社はHBM、サーバー向けDRAM、企業向けSSDの投資需要を総合的に判断し、内部資金と外部資金が既存株主の経済的価値に与える影響を比較する方針を示した。

したがって、中国工場で利益を増やさなければ米国に投資できない、とまではいえない。需要が伸びる複数の事業に資金を振り分けるなかで、既存設備の活用と新規投資をどう組み合わせるかという問題でもある。Solidigmの資本活用についても、この声明時点で確定した事項はないとされた。

米政府側から見れば、国内生産を誘致するために中国拠点の増産を認めることは、BISが公表した抑制方針との整合を問われる。一方、近い将来の供給を厳しく制限すれば、企業が新工場へ投資する際の事業判断にも影響しうる。今回の交渉報道は、米国内で製造能力を増やす長期目標と、それまで既存工場をどう使うかという問題を切り離せないことを示している。

交渉の進展を測る材料は、大連向けに認められる装置の用途と範囲、そして米NAND工場に対する具体的な投資決定である。両者が明らかになって初めて、既存拠点による当面の供給を保ちながら、米国内でNAND生産を立ち上げられる構想なのかを評価できる。