中国のDRAMメーカー、長鑫存儲技術(CXMT)が、Appleからのメモリ調達に関する価格提示要請に対し、Samsung Electronics、SK hynix、Micron Technologyの世界大手3社と同水準の価格を提示し、値引きに応じなかったと報じられた。さらに、台湾のサーバーメーカーが持ちかけたDDR5の調達商談も断ったという。背景にあるとみられるのは、中国国内の旺盛なメモリ需要と、それに追いつかないCXMTの生産能力だ。
これまで中国の半導体メーカーにとって、Appleのような世界的大手との取引は、製品の信頼性を示し、海外市場での存在感を高める機会と考えられてきた。しかし、現在のCXMTは国内顧客への供給だけでも生産能力が逼迫しており、海外企業の注文を獲得するために価格を引き下げる必要性が薄れているとみられる。今回の報道は、中国のDRAM産業が価格競争に頼って市場を開拓する段階から、国内需要を背景に供給先を選べる段階へ移りつつある可能性を示している。
Appleへの値引きを拒否、台湾サーバーメーカーへの供給も見送り
台湾の半導体専門メディアTechNewsが2026年10月25日に報じた内容によると、AppleはCXMTにメモリの価格提示を求めたものの、同社が世界大手3社と同等の価格を提示したため、価格面で折り合わなかったという。記事では業界のシニアアナリストの証言として、CXMTが海外顧客向けの大幅な値引きに積極的ではない状況を紹介している。
これに先立ち、韓国の毎日経済新聞も8月6日、AppleとCXMTのDRAM供給交渉が価格面で合意に至らなかったと報じていた。交渉対象には次世代iPhoneなどに使用するLPDDR5Xが含まれ、CXMTはSamsungやSK hynixと同等、あるいはそれ以上の価格を維持したとされる。ただし、AppleとCXMTは交渉の詳細を公式に説明しておらず、価格以外の条件が合意に至らなかった要因となった可能性も排除できない。
TechNewsはさらに、台湾のサーバーメーカーの副社長がCXMTにDDR5の調達を打診したところ、供給を断られたという証言も紹介している。この役員は、断られた理由が中国政府の政策によるものなのか、その他の事情によるものなのかは分からないと述べた。したがって、CXMTが海外企業への供給を一律に制限していると判断することはできない。
一方、こうした商談が成立しなかった背景として、CXMTの供給余力が限られていることは十分に考えられる。国内顧客からの注文で生産枠が埋まっているのであれば、海外大手の調達要求に合わせて価格を引き下げる経済的な利点は小さい。今回の交渉を理解するには、中国国内の需要とCXMTの生産能力を合わせて見る必要がある。
中国国内の需要だけで生産能力が逼迫、値引きに頼らない価格戦略
CXMTが2026年5月に上海証券取引所へ提出した新規株式公開(IPO)の目論見書には、同社の供給能力が中国国内の市場需要を大きく下回っている状況が記されている。国内の半導体自給を進める動きに加え、クラウドサービスやスマートフォン、PC向けのメモリ需要が拡大していることが背景にある。
CXMTの顧客には、Alibaba Cloud(阿里雲)、ByteDance(字節跳動)、Tencent(騰訊)といった大手IT企業に加え、Lenovo(聯想)、Xiaomi(小米)、Transsion(伝音)、Honor(栄耀)、OPPO、vivoなどの端末メーカーが名を連ねる。販売は直接取引と代理店経由の両方で行われており、目論見書によると、直近3期の売上高に占める上位5社の割合は、それぞれ74.12%、67.30%、68.08%に達していた。売上の約7割が少数の大口顧客に集中しており、主要顧客との取引が事業を支えていることが分かる。ただし、この割合は売上高ベースであり、各企業に割り当てられたウェハー生産能力の比率を直接示すものではない。
需給の逼迫はCXMTの業績にも影響している。同社は2026年第1四半期の売上高が大きく伸びた理由として、出荷量の増加と製品構成の改善に加え、DRAM市場全体の供給不足と価格上昇を挙げている。需要が供給を上回る状況では、メーカーは値引きによって新規顧客を獲得するよりも、既存顧客への供給や収益性を優先しやすくなる。
市場調査会社Yole GroupのHuang Mao-yuan氏はTechNewsに対し、CXMTの生産能力の約9割が中国国内ブランド向けに使われているとの見方を示した。また、中国市場全体の需要を満たすには10年規模の取組が必要になると分析している。これらは外部アナリストによる推計・見解であり、CXMTが公表した顧客別の供給実績ではない。
中国政府が進める半導体の国産化政策も、国内顧客を優先する背景の一つと考えられる。ただし、政策的な要因を持ち出さなくても、国内の大口顧客から十分な注文を受けている状況では、海外企業に大幅な値引きを提示する理由は乏しい。Appleとの交渉が難航したという報道は、CXMTの交渉力を支える国内需要の大きさを反映している可能性がある。
LPDDR6と新世代DRAM「G5」の量産が進展
CXMTが海外の大手DRAMメーカーに近づきつつあることは、最近の製品発表からもうかがえる。同社は2026年9月7日、次世代の低消費電力DRAMであるLPDDR6の量産を開始し、Xiaomiの折りたたみスマートフォン「Xiaomi 18 Fold」に採用されたと発表した。
発表によると、このLPDDR6は16GbのDRAMダイを組み合わせた16GBのパッケージ製品で、1295ボールのFBGAパッケージを採用する。最大データ転送レートは12,800Mbpsに達するが、Xiaomiの端末に搭載されるSoCとの組み合わせでは10,667Mbpsで動作するという。最大転送レートと実際の端末で使用する転送レートには違いがあるため、製品仕様上の最大値をそのまま実機性能と見なすことはできない。
CXMTは、このLPDDR6について、10,667Mbpsで動作するLPDDR5Xと比較してピーク帯域幅が最大60%向上し、消費電力が20%低下したと説明している。ただし、帯域幅の改善率は理論上のピーク値に基づく比較であり、消費電力の数値も同社の内部試験によるものだ。独立した第三者による実機測定で同じ改善率が確認されたわけではない。また、データ転送レートと帯域幅は同じ指標ではなく、後者はデータバス幅などにも左右される。一部ではXiaomiの独自プロセッサー「XRING 03」との組み合わせも報じられているが、CXMTの9月7日付発表にはプロセッサー名まで明記されていない。
さらにCXMTは9月20日、第5世代のDRAM製造プラットフォーム「G5」と、これを使用した24Gb LPDDR5X製品の量産開始を発表した。同社によると、G5では前世代のG4と比較して、ウェハー1枚から得られる総ダイ数が50%以上増加したという。ただし、この数値は8Gb容量に換算した比較値であり、良品・不良品を選別する前のダイ数を表している。歩留まりが50%向上したという意味ではなく、実際に出荷できる良品ダイ数も明らかにされていない。
CXMTはサーバーやPC向けにも16Gbおよび24GbのDDR5製品を展開し、最大8,000Mbpsに対応するモジュールも製品ラインアップに含めている。先端DRAMの製品仕様では大手メーカーとの差を縮めつつあるものの、量産技術の競争力は公表された最大性能だけでは判断できない。長期間にわたって安定した歩留まりを維持し、大口顧客が求める品質や供給量を満たせるかが重要となる。
2027年には月産36万枚へ、生産能力の拡大計画
国内外で増える需要に対応するため、CXMTは生産能力の拡大を進めている。TechNewsが引用した調査会社Isaiah Researchの予測では、2026年中に3つの新たな製造ラインが順次稼働し、年末のウェハー処理能力は月産30万枚に達する見通しだ。さらに2027年には上海の製造拠点の拡張も寄与し、月産36万枚規模になると予測されている。
| 時期 | 月間ウェハー処理能力 | 数値の位置付け |
|---|---|---|
| 2024年末 | 16万枚 | 開示実績 |
| 2025年末 | 22万枚 | 開示実績 |
| 2026年末 | 30万枚 | Isaiah Researchの予測 |
| 2027年 | 36万枚 | Isaiah Researchの予測 |
2024年末と2025年末の数値は開示実績に基づき、2026年以降は外部調査会社の予測として区別する必要がある。特に、設備上の公称生産能力と実際のウェハー投入枚数、最終的に出荷できる良品ダイ数は異なる指標だ。新工場の稼働によって処理能力が増えても、直ちに同じ割合で製品出荷量が増えるとは限らない。
CXMTは合肥と北京に12インチDRAMの製造拠点を展開している。IPO目論見書では、Omdiaの統計を引用し、生産能力、出荷量、売上高で世界第4位のDRAMメーカーに成長したと説明した。また、当初の目論見書では295億元の資金調達を計画し、製造ラインの更新、DRAMプロセスの高度化、先端技術の研究開発などを資金の使途として示していた。その後、同社は2026年7月27日に上海証券取引所の科創板へ上場しており、295億元という数字は上場前の調達計画として扱う必要がある。
生産能力の拡大は、台湾の南亜科技(Nanya Technology)など既存のDRAMメーカーにとっても無視できない動きだ。CXMTが先端DDR5やLPDDR製品を安定して大量供給できるようになれば、競争が激しくなる可能性がある。ただし、月産ウェハー数の増加だけで市場シェアが決まるわけではない。製造コストや歩留まり、製品ごとの性能、顧客による品質認証などを含めて評価する必要がある。
HBMでは依然として技術格差、米国の輸出規制も障壁に
汎用DRAMやモバイル向けメモリで急速に存在感を高めるCXMTだが、AIアクセラレーターに欠かせないHBM(広帯域メモリ)では、依然として技術的な課題を抱えている。TechNewsの取材に対し、Yole GroupのHuang Mao-yuan氏は、CXMTのHBM技術が世界大手メーカーより少なくとも2世代遅れているとの見解を示した。これは外部アナリストによる技術水準の評価であり、製品規格上の世代差や実測性能を直接表すものではない。
HBMの製造では、複数のDRAMダイを垂直に積み重ね、シリコン貫通電極(TSV)などを通じて接続する高度な積層技術が必要となる。ダイの薄型化、微細な接続部の形成、積層精度の確保、放熱設計など、通常のDRAMとは異なる製造上の課題が加わる。各工程で発生する不良が最終製品の歩留まりに影響するため、個々のDRAMダイを製造できることと、HBMとして安定量産できることは同じではない。
さらにCXMTには、米国による先端半導体製造装置の輸出規制という制約もある。米国商務省産業安全保障局(BIS)による規制に加え、オランダなどの輸出管理によって、中国の半導体工場はEUV(極紫外線)露光装置をはじめとする一部の先端製造設備を調達することが難しい。EUV露光そのものがすべてのHBM製造に必須というわけではないが、先端DRAMプロセスの開発や製造方法の選択肢を狭める要因となる。既存のArF液浸露光装置で多重パターニングを繰り返す場合は、工程数やマスク枚数が増え、製造コストと歩留まり管理の負担が大きくなる。
もっとも、CXMTのHBM開発が試作段階にとどまっていると断定することもできない。The Informationは2026年8月31日、同社がHBM3Eの少量生産を開始し、2027年の増産を計画していると報じた。中国のAI半導体メーカーによる採用評価も進んでいるとされるが、CXMT自身はHBM3Eの生産規模や商用出荷について公式な詳細を明らかにしていない。少量生産や顧客による評価が始まったという報道と、安定した歩留まりで量産し、継続的に商用出荷できることは区別する必要がある。
CXMTはすでにLPDDR6やG5世代のLPDDR5Xについて量産開始を公式に発表しており、汎用・モバイル向けDRAMでは技術開発と事業規模の拡大を進めている。一方、HBMについては、積層・接合技術の成熟度や歩留まり、顧客認証、製造装置の調達制約など、解決すべき課題が残る。
今回のAppleとの価格交渉をめぐる報道は、CXMTが中国国内の需要を背景に、海外大手の値引き要求に応じなくても事業を拡大できる立場に近づいていることをうかがわせる。ただし、国内市場での供給不足と、世界市場での技術的な競争力は別の問題だ。今後は、新工場の稼働によって実際の供給量がどこまで増えるかに加え、先端DRAMの安定量産とHBMの商用出荷を実現できるかが、世界大手3社との差を測る重要な指標となる。



