中国の二大メモリーメーカーが、互いの主力分野へ踏み出そうとしている。DRAMを手がけるCXMT(長鑫存儲技術)は北京でNAND型フラッシュメモリーの研究開発用生産ラインを計画していると、Reutersが2026年9月18日に報じた。NANDを主力とするYMTC(長江存儲科技)についても、Reutersは4月に、低消費電力DRAM(LPDDR)の試作品を顧客へ送ったと伝えている。

二つの動きを合わせると、中国でDRAMとNANDを分担してきた企業の事業領域が重なり始めたように見える。ただし、片方は研究ラインの計画、もう片方は顧客に渡した試作品についての報道だ。新分野での量産や継続出荷が確認されたわけではない。双方の新製品が実際の供給競争につながるには、どの段階を越える必要があるのか。

AD

二社の越境は、どの段階にあるのか

Reutersの9月18日の報道によると、CXMTが計画するのは北京の新工場に設けるNANDの研究開発用生産ラインである。顧客との協議も進めており、AIシステムやスーパーコンピューター向けのストレージ製品にチップを使いたい企業が含まれるという。しかし、ラインがいつ動き出すか、大規模な商業生産へ進むかは分かっていない。購入意向は供給契約や納入の確認ではない。

一方、Reutersが4月14日に伝えたYMTCの動きは、LPDDRの試作品を顧客に送ったというものだ。Reutersによると、同社は年末までに顧客の反応を得て、DRAM生産について判断する。試作品を送った後、顧客が採用を判断し、量産に進むかどうかは未公表だ。

ここで、両社がすでに量産している製品を並べると、今回の動きの位置がはっきりする。CXMTは9月20日の公式発表で、第5世代のDRAM製造基盤「G5」と、これを使う容量24GbのLPDDR5X製品2種を量産していると説明した。YMTCは公式の企業紹介で、2024年に第5世代TLC方式の3D NANDを量産したと記している。どちらも自社の従来の主力分野についての実績だ。

企業 公表済みの主力製品 相手の分野へ進む動き まだ確認できない段階
CXMT DRAM。G5を使うLPDDR5X製品2種について2026年9月20日に量産を発表 NANDの研究開発用生産ラインを北京に計画したとの9月18日のReuters報道 ライン稼働、チップの仕様、商業量産、継続出荷
YMTC 3D NAND。第5世代TLC製品を2024年に量産したと公式サイトに記載 LPDDR試作品を顧客へ送付したとの4月14日のReuters報道 評価結果、DRAM量産の決定、継続出荷

YMTCはLPDDR試作品を顧客へ送った段階、CXMTはNANDの研究開発用生産ラインを計画する段階であり、両社の越境製品について量産・継続出荷は確認されていない。表が示すのは、両社の新事業について確認できる進捗だ。LPDDRの試作品を顧客に渡したことは、用途に応じた動作や品質を確かめる接点ができたことを示す。ただ、顧客の評価結果や採用機種、発注量は公表されていない。CXMTの顧客協議も、NANDチップの供給が始まったことを意味しない。両社が「相手の市場へ進む」と一括りにされても、確認できる事実の種類が異なる。CXMTのG5量産をNANDの量産と読み替えたり、YMTCのNAND量産をDRAMの量産と読み替えたりはできない。

工場の能力と新製品の供給量は違う

YMTCについてReutersは、武漢の第3工場が2026年末に稼働を始め、2027年には月5万枚のウェハーを処理できるようになる見込みだと伝えた。さらに、新たに計画する2工場は、それぞれ完成時に月10万枚の設計能力を持つという。関係者によれば、3工場の一部をDRAMに振り向ける構想もあるが、その配分は開発の進み方次第だ。

ここでいう月産能力は、完成後に設備が処理し得るウェハーの規模であり、現時点のDRAM出荷枚数ではない。工場の建設、装置の導入、試験生産、顧客による品質確認は別々の段階である。しかも、一部をDRAMに割り当てるという話だけでは、NANDとDRAMの具体的な配分を計算できない。月5万枚や月10万枚をDRAMの確定供給量として足し合わせると、判断を誤る。ウェハーを何枚処理できるかという能力と、良品チップをどれだけ得られるかという出荷量も同じ数字ではない。新しい種類のメモリーを同じ敷地で製造するとしても、装置の構成や工程の完成度によって実際に供給できる量が変わる。Reutersが伝えた工場計画から、DRAMの市場シェアを逆算する根拠はない。

CXMT側も、DRAMの進歩をNANDへそのまま移せるとは限らない。同社がG5について公表した微細化や容量24Gbという数字はDRAMの製造基盤とLPDDR5X製品の説明である。NANDでは、セルを積み重ねる構造や、読み書きの特性、信頼性、製造歩留まりを別に確立しなければならない。今回のNAND計画には層数、容量、性能、量産規模の公表値がない。

逆方向でも同じ注意が必要だ。YMTCのXtacking技術は、NANDの記憶セルと制御用の周辺回路を別々のウェハーで作り、接合する仕組みだ。積層技術を持つことは事実だが、その説明だけからLPDDRやHBMの製造工程、歩留まり、顧客認定まで達成したとはいえない。DRAMは動作中のデータを高速に保持し、NANDは電源を切った後もデータを残す。製品が満たすべき条件も異なる。

AD

需給の見通しもDRAMとNANDで分かれる

相互参入が実現すれば、中国の機器メーカーにとって調達先の選択肢が増える可能性はある。ただし、研究ラインや試作品の段階で、PC用メモリーやSSDの価格が下がると予測することはできない。価格へ効くには、競争できる性能と品質を備えたチップを、顧客が必要な時期に必要な量だけ継続して届ける必要がある。

TrendForceが2026年7月30日に示した見通しでも、二つの市場の方向は同じではない。同社は、AIサーバー向け需要とHBMへの製造能力の配分により、2027年のDRAM供給は引き続き厳しいと予測する。一方、NANDは新たな能力の立ち上がりと消費者向け需要の弱さから、2027年後半に供給が緩むとみている。これは業界全体の需給予測であり、CXMTやYMTCの新製品が予定どおり量産されるという予測ではない。仮に両社が開発を進めても、製品を市場へ出せる時期と、その時点の需給が一致するとは限らない。そのため、Reutersが伝えた工場の設計能力を、現時点の出荷量や将来の確定供給量へ換算することはできない。

同じ「メモリー不足」でも、DRAMとNANDでは投資のタイミングも収益を見込む顧客も異なる。YMTCがDRAMへ、CXMTがNANDへ進むという二つの動きは、中国の供給源を増やす可能性とともに、両社がこれまで得意としてきた市場の外で製造技術と顧客基盤を築けるかという課題を浮かび上がらせる。

次に確認すべきなのは、YMTCのLPDDR試作品に対する顧客評価と量産判断、CXMTのNANDラインの稼働日と製品仕様である。その後に良品率や納入先、継続供給が見えて初めて、両社が互いの市場で実際に競う規模を測れる。現時点で見えているのは、その競争に向けた異なる二つの準備段階だ。