キオクシアは2026年9月3日の技術説明会で、低遅延フラッシュ「XL-FLASH」を使うCompute Express Link(CXL)対応メモリ拡張モジュール「KIOXIA XL1シリーズ」の性能シミュレーションを明らかにした。EE Times Japanによると、DRAMの3分の1をXL1へ置き換えても性能低下は5%以下に収まり、同じコストなら容量を2倍、性能を1.3倍にできたという。ただし、製品は8月3日に発表済みで、同月中としていた評価用サンプルの出荷完了は確認できない。新しいのは製品の存在より、NANDをDRAMの下へ組み込む設計がどこまで性能を保てるかという数字である。
8月予定のサンプルが9月にも「近日中」
KIOXIA XL1シリーズの計画は、少なくとも1年以上前から段階的に具体化してきた。キオクシアは2025年6月の経営戦略資料で、CXL接続のXL-FLASHを2026年後半にサンプル出荷する計画を示した。2026年8月3日には製品名をXL1とし、FMS 2026で参考展示すると発表。業界パートナー向けの評価用サンプルは「8月中」に出荷予定としていた。
ところが、9月3日の説明会を伝えたEE Times Japanは、サンプル出荷を「近日中」と記した。8月の予定が変わったのか、出荷準備は済んでいて表現だけが異なるのかは分からない。キオクシアの公式ページにも、9月7日時点で出荷完了を告知する更新は見当たらない。この時系列から遅延を断定することはできないが、少なくとも量産に進んだ製品ではない。
さらに、8月の発表には、評価用サンプルの一部機能は未評価で、仕様を変更する可能性があるとの注記が付く。容量とフォームファクター、対応するCXLの世代、帯域も公表されていない。消費電力や価格に加え、量産時期と顧客名も不明だ。9月の説明会で増えた情報は、製品仕様ではなく社内シミュレーションの結果だった。
DRAMの3分の1を置き換える条件
XL1の狙いは、DRAMを全面的にNANDへ置き換えることではない。松寺克樹氏は説明会で、メモリアクセスの80%がデータ全体の上位20%へ集中すると説明した。頻繁に読むデータはDRAMへ残し、残りをXL1へ移す。アクセス頻度に応じて媒体を使い分ければ、高価なDRAMを本当に速度が必要なデータへ集中できる。
媒体そのものの速度差は大きい。キオクシアが2025年に示した階層図では、DRAMの読み出し遅延は40ナノ秒未満、XL-FLASHは3〜5マイクロ秒、一般的なTLC NANDは40マイクロ秒未満とされた。XL-FLASHは通常のNANDより速いが、DRAMと同じ速度ではない。CXLはPCIeを基礎に、ホストが接続機器をメモリとして読み書きできる経路を提供するものの、媒体の遅延までは消さない。
キオクシアは、書き込みや消去で100マイクロ秒以上かかるXL-FLASHに専用コントローラーを組み合わせ、「従来方式」に比べて遅延を90%以上減らしたとしている。その比較対象の絶対遅延は明らかでない。DRAMの3分の1を置き換えて性能低下5%以下、同一コストで容量2倍・性能1.3倍という結果も、サーバー構成、アプリケーション、データセットが開示されていない社内シミュレーションである。
したがって、5%という数字はXL1がどのAI処理でもDRAMに近い性能を出す証拠ではない。低頻度データを正しく選び、遅い媒体へのアクセスを抑えられた条件では、DRAM容量を減らしても全体性能への影響を小さくできる、という設計仮説の裏付けだ。次に必要なのは、顧客の実機と実際のワークロードで同じ傾向が再現するかという検証である。
CXL、Storage-Next、CMXは別の経路
キオクシアが同時に進める三つの製品は、「フラッシュをメモリとして使う」という説明だけでは混同しやすい。XL1、GP1、CM10は同じNAND戦略の製品だが、CXLによるCPUメモリ拡張、GPUから直接読む高速SSD、CMXのKVキャッシュ用SSDという別々の層を担う。
| 製品・構成 | 接続と媒体 | 主な役割 | 2026年9月7日時点の公開状態 |
|---|---|---|---|
| KIOXIA XL1シリーズ | CXL、XL-FLASH | CPU側のメモリ空間へ低頻度データを置く | 8月中に評価用サンプル出荷予定。完了は未確認 |
| KIOXIA GP1シリーズ | PCIe 6.0/NVMe 2.2、第2世代XL-FLASH | GPUが直接読む高速フラッシュでHBMを補完 | 年末までに限定顧客へ評価用サンプル出荷予定 |
| KIOXIA CM10シリーズ | PCIe 6.0/NVMe 2.1、第10世代BiCS FLASH TLC | CMXでKVキャッシュを大容量SSDへ置く | 7月30日時点で限定顧客へのサンプル出荷を開始 |
| NVIDIA CMX(コンテキストメモリストレージ) | BlueField-4、NVMe SSD、Spectrum-X | GPUの外側にポッド単位で共有するKVキャッシュ階層を作る | NVIDIA Rubin向けに構成を提示 |
XL1はCPUからCXL経由でメモリとしてアクセスする。一方、GP1は最大1000万ランダムリードIOPS、512バイト単位、最大50 DWPDを掲げるSSDで、NVIDIA Storage-Nextに沿ってGPUからの直接アクセスを狙う。CM10もSSDだが、こちらは最大61.44TBのTLC NANDを積み、BlueField-4がNVMe SSDを管理するCMXの大容量KVキャッシュ階層に向けた製品である。
つまり、TrendForceが強調したXL1とNVIDIAの関係を、一つのCXL製品に対する共同開発と捉えるのは正確でない。キオクシア側はCM10のCMX対応を表明しているが、NVIDIAのCMX公式ページはキオクシアを個別のパートナーとして列挙していない。公開資料から確認できるのは、キオクシアがNVIDIAの二つの構想に対応するSSDを用意し、その外側でXL1というCPU向けCXLモジュールも開発していることだ。
キオクシアがDRAMを正面から置き換えない理由
AIサーバーで最速の層を担うHBMとDRAMは、NANDよりはるかに低遅延である。キオクシアの戦略は、その最速層を奪うのではなく、使用頻度の低いデータを下位層へ移して、限られたHBMとDRAMを有効に使うことにある。XL-FLASHはDRAMと通常のTLC NANDの間を埋め、TLC NANDは容量と帯域、QLC NANDはさらに大きな保存容量を担う。
これは製品を増やすための分類ではない。長い文脈を扱うAI推論では、過去の計算結果であるKVキャッシュが膨らむ。検索拡張生成では、GPUが参照するベクトルデータベースも大きくなる。すべてをHBMやDRAMへ載せれば速いが、容量と費用が制約になる。そこで、再利用頻度と必要な遅延に応じ、XL1、GP1、CM10へデータを分ける。
事業面でもキオクシアは、この階層化をスマートフォンとPCに続く成長先としている。同社は2026年6月、データセンター・エンタープライズ向けの売上比率を中長期で60%超へ高める目標を示した。今後3年間の設備投資は年約4700億円、研究開発費は年約2300億円を予定する。XL1だけの成否ではなく、AIサーバー内でNANDが占める層を何段増やせるかが投資回収を左右する。
採用を決めるのは容量よりソフトウェア
メモリ階層は、遅い媒体を挿せば自動的に安くなる仕組みではない。どのデータをDRAMへ残し、いつXL1へ移すかを誤れば、マイクロ秒単位の遅延が頻発して性能を落とす。キオクシアがFMS 2026で、Linuxのデータアクセス監視機構DAMONを拡張し、CXL接続フラッシュの階層管理を改善する技術を取り上げたのはこのためだ。
耐久性も用途を選ぶ。説明会で示されたXL-FLASHの書き換え回数は15万回以上で、GP1は最大50 DWPDを掲げるが、XL1の容量や保証条件はまだ出ていない。書き込みの集中を避ける制御、障害時のデータ保護、サーバー再起動後の扱いまで含め、DRAMとは異なる運用設計が要る。
XL1を評価する材料は、派手な容量倍率よりも、評価用サンプルの実出荷日と実機でのデータ配置方式である。消費電力と耐久性、価格と量産時期も欠かせない。これらが開示され、複数の顧客環境で5%以下の性能低下を再現できれば、NANDは保存装置からAIサーバーのメモリ階層へ本格的に入り込める。



