SSDやNANDフラッシュの価格がここ数四半期で跳ね上がり、パソコンやスマートフォンのストレージを買う消費者はその余波を感じ始めている。AIデータセンター向け需要の急拡大がその震源だとされるが、この好況がいつまで続くのかは誰にも読めない。そんな中、SanDiskは2026年8月5日に発表したFY26第4四半期決算で売上高89億6500万ドル(前年同期比372%増)、粗利率84.6%という記録的な数字を並べた。
ところが株価は8月5日、決算発表を待たない通常取引の時点ですでに5.5%下落しており、市場引け後に決算が発表されると時間外取引でさらに3.5%下げ、合わせて約9%の下落となった。記録的な決算内容と沈んだ株価という対照の背景には、NBM(複数年固定価格契約)という新しい商慣行と、それでも拭えない需要の持続性への疑念がある。
売上372%増と粗利率84.6%が示す通期の急回復
SanDiskは2025年2月21日にWestern Digitalからスピンオフし、2月24日からNasdaqで取引を開始した独立企業だ。そのSanDiskが2026年8月5日に発表した2026会計年度第4四半期(2026年4月4日〜7月3日)決算で、売上高は89億6500万ドルとなり、前年同期の19億100万ドルから372%増加した。前四半期比でも51%増えている。GAAPとnon-GAAPの粗利率はいずれも84.6%に達し、前四半期の78.4%から6.2ポイント、前年同期の26.2%からは58.4ポイントの上昇となった。
GAAP純利益は69億300万ドルで、前四半期の36億1500万ドルから91%増加した。前年同期は2300万ドルの純損失だったため、1年で赤字から巨額黒字への転換を果たした。GAAP希薄化後EPSは43.97ドル(前年同期はマイナス0.16ドル)、non-GAAP希薄化後EPSは39.25ドルで、アナリスト予想の34.59〜34.96ドル程度を上回った。予想レンジの上限からでも12%以上の上振れで、小幅な超過ではなかった。
データセンター向けは29億7700万ドルで前四半期比103%増、前年同期の2億1300万ドルからは1,298%増という数字になった。ただしこの伸び率は分母が小さいことの裏返しでもあり、前四半期比103%増という数字の方が事業の実勢をより素直に示している。エッジ(PCやスマートフォン向けなど)は54億3200万ドルで前四半期比48%増と伸びた一方、コンシューマー(一般消費者向けSSDやUSBメモリ)は5億5600万ドルで前四半期比32%減となり、セグメントごとの明暗がくっきり分かれた。
FY26通期の売上高は202億4800万ドルで前年度の73億5500万ドルから175%増加し、粗利率はGAAPが71.5%、non-GAAPが71.6%(前年度は約30%)まで改善した。SanDisk会長兼CEOのDavid Goeckeler氏は「我々は主導的な技術ポートフォリオを持って2026会計年度を締めくくり、データセンターを重要な成長の柱として確立し、顧客とのパートナーシップを深めた」と述べた。わずか1年前のFY2025通期はGAAP純損失16億4100万ドルを計上していたことを踏まえると、NAND市況の振れ幅の大きさがそのまま業績の振れ幅になる業界構造を裏付ける数字だ。
好決算にあわせて、株主還元の姿勢も強気に転じた。SanDiskは自社株買いの承認枠を140億ドル増額し、残枠は155億ドルに積み上がった。FY26通期の自社株買い実施額は45億2400万ドルで、赤字から黒字への転換期にもかかわらず還元を積み増しており、経営陣が業績の持続性に一定の自信を持っていることの表れとも読める。残枠155億ドルはFY26通期の実施額の3倍を超える規模で、複数四半期にわたる還元余力をあらかじめ確保している。
好決算でも株価が下落した理由
数字だけを見れば申し分ない内容だったにもかかわらず、SNDK株は8月5日、決算発表前の通常取引の時点ですでに5.5%下落していた。市場引け後に決算が発表されると、時間外取引でさらに3.5%下げて1,300ドルを割り込んだ。合わせて約9%の下落は、記録的な決算内容を踏まえれば異例の大きさだ。AI関連投資の持続性への懸念、いわゆる"AIバブル"警戒が要因との見方が広がっている。
株価の水準を振り返ると、この下落は突然始まったものではないとも読める。SanDisk株は2026年に入ってから8月4日終値の1,427.62ドルまで574%上昇していたが、52週高値は6月22日の2,354.39ドルで、決算発表前の時点で既に高値から4割近く下げていた。年初来の急騰局面がすでに調整局面に入っていたところに決算発表が重なっており、決算前の5.5%下落もこの地合いの悪さを引き継いだ可能性がある。
SanDiskは決算説明会で、前四半期比の増収のうち約3分の1が出荷数量の増加、約3分の2が価格上昇によるものだと説明している。ただし、その数量増加のうちAIデータセンター向けの実需要がどれだけを占めるかという内訳までは明らかにしていない。この内訳が分からない限り、AI投資が一時的な設備投資ブームなのか持続的な需要増なのかを外部から判断できず、投資家の懸念もそのまま残る。
この空白を埋める材料は、今のところ次の四半期の数字しかない。NBM契約の比率が上がるにつれて売上の一部は市況の変動から切り離されるため、残りの部分の伸び率が今後の判断材料になる。エッジ部門の48%増、データセンター部門の103%増という今回の内訳を基準点に、次の四半期にどちらが鈍化するかを追うことが、決算を読み解く実質的な物差しになる。仮にエッジ部門の伸びだけが鈍化し、データセンター部門が高い伸び率を保てば、AIインフラ投資への依存度がより鮮明になる構図だ。
NBMという固定価格契約はどう機能するのか
SanDiskが「New Business Model」、略称NBMと呼ぶ複数年契約は、決算発表時点で累計10件に達した。前四半期末の3件からQ4中に5件を積み増して8件となり、決算発表までの間にさらに2件が加わった内訳で、10件のうち2件はQ4終了後の締結だ。契約期間は3〜5年で、価格に下限(フロア)と上限(シーリング)を設け、その範囲内で固定部分と変動部分を組み合わせる仕組みで、スポット価格に売上全体を委ねてきた従来の商慣行とは一線を画す。
NANDフラッシュはこれまで市況によって価格が数倍単位で上下するコモディティ商品であり、メーカーは需要が細ると値崩れの直撃を受けてきた。NBMはフロア価格を契約で固定することで、市況が悪化しても一定の売上を確保できるようにする仕組みだ。裏を返せば、SanDiskは大口顧客に価格上昇時の上限も約束しており、双方が急変動リスクを分け合う契約だ。
CFOのLuis Visoso氏は決算説明会で「締結済みの全NBM契約から見込まれる売上の合計は、フロア価格を前提とした最低額で939億ドルに達する。実際の売上はこの最低額を上回ると考えている」と述べたと報じられている。この939億ドルという数字をFY26通期売上高202億4800万ドルと比べると、939億ドル÷202億4800万ドルで約4.6倍に相当する。言い換えれば、SanDiskは直近1年分の売上の4倍を超える金額を、複数年契約であらかじめ確保した。NAND市況がどれだけ乱高下しても、この分だけは崩れない売上の土台ができたことを意味する。
契約件数の表現には報道によって数字の違いがあるが、これは前四半期末時点の8件と、決算発表までに積み増された10件という時点のずれによるものだ。契約先の企業名を含めて会社側は詳細を明らかにしておらず、どの顧客がどれだけの規模を確約しているのかは外部から検証できない。
FY27第1四半期のガイダンス中央値である売上高105億5000万ドルを単純に4倍して年換算すると、年間の売上規模はおよそ422億ドルとなる。939億ドルはこの成長後の水準で測っても約2.2年分に相当し、成長を織り込んだ高い売上水準を前提にしても、複数年にわたって崩れない下支えになる計算だ。NBM契約の期間は3〜5年に及ぶため、この下支えは一時的な数字ではなく契約期間全体を通じて効く。
NAND大手5社が足並みをそろえた記録的決算
2026年に入り、NAND大手5社がそろって記録的な決算を更新している。SanDiskに限った動きではない。業界全体がいわゆる「メモリスーパーサイクル」と呼べる局面にある。四半期ごとの発表内容を並べると、価格上昇と需要拡大が業界全体で同時進行していることが分かる。
| 企業 | 直近四半期の主な数字 |
|---|---|
| Samsung Electronics | 2026年Q2、半導体部門(Device Solutions)売上が前四半期比56%増、メモリ事業が部門の増収を牽引 |
| SK hynix | 2026年Q2、NAND平均販売価格(ASP)が前四半期比50%台半ば上昇、営業利益率は過去最高の76% |
| Micron | FY26 Q3(5月28日締め)、NANDフラッシュ部門売上99億ドルで四半期として過去最高、前年同期比361%増、価格は前四半期比80%台半ば上昇 |
| キオクシア | FY2026 Q1(6月期)、売上高が前四半期比76%増、GAAP営業利益は前四半期比113%増(non-GAAPベースでは121%増)の過去最高。5月には米国でのADR上場計画を発表 |
各社の決算期はそろっていない。SamsungとSK hynixは暦年ベースの2026年Q2、Micronは5月28日締めのFY26 Q3、キオクシアは6月期のFY2026 Q1で、単純な横並び比較はできない。それでも時期のずれを踏まえてなお、価格上昇と需要拡大が同時進行している点は各社に共通している。キオクシアのADR上場計画は、日本市場での株価が800%超上昇したとされる勢いを米国の投資家にも広げる狙いがあるとみられる。
SanDiskを含めた5社に共通するのは、AIデータセンター向けSSDやメモリの需要急拡大と供給逼迫が同時に起きている点だ。NBM契約を結べた大口顧客も、シーリング(上限)によって価格高騰の直撃を避けられるという意味で受益者に含まれる。一方でフロア(下限)が保証するのはSanDisk側の売上・採算であり、市況が悪化した場合でも一定の収益を確保できる仕組みだ。
一方でしわ寄せは一般消費者に向かっている。SanDiskのコンシューマー部門の売上は前四半期比32%減、前年同期比でも5%減となった。需要の落ち込みに加え、NAND価格の上昇によってPCやスマートフォン、外付けSSDの店頭価格が押し上げられており、消費者が購入を手控えている面もあると読める。固定価格契約を結べない中小のストレージ機器メーカーも、仕入れコストの上昇をそのまま価格転嫁せざるを得ない立場に置かれている。日本の消費者にも影響は及び、NAND価格の上昇分は国内で販売されるPCやSSDの価格にも波及しうる。
四日市と北上、日本にあるNAND生産の心臓部
SanDiskはNAND生産のほぼすべてをキオクシアとの合弁工場に依存しており、その拠点は三重県四日市市と岩手県北上市にある。両社は2026年1月29日、この合弁体制を2034年12月31日まで延長すると発表した。AIブームを支えるNANDフラッシュの生産拠点は、実質的に日本国内にある。
延長にあわせてSanDiskは、2026年から2029年にかけて分割でキオクシアに製造委託費として11億6500万ドルを支払う。1ドル=156円前後(2026年8月上旬の相場)で換算すると約1817億円にのぼる規模だ。四半期ごとの記録的決算の裏側で、日本国内の工場に対する巨額の投資判断が動いている。
生産能力の増強も進む。北上工場のFab2(K2)では2026年7月2日、第10世代3D NANDフラッシュ製品の生産開始が発表された。AIデータセンター向けの旺盛な需要を実際に支えているのは、四日市と北上の製造ラインだ。2034年までの契約延長という数字が、生産拠点が日本にあるという構図を裏づけている。
エッジとデータセンター向けの両セグメントの売上は合計84億900万ドルに達しており、この供給網の起点にあるのが四日市と北上のウェハ生産だ。生産を担うキオクシアにとってもSanDiskとの合弁は主力事業であり、2034年までの契約延長は双方にとって長期の需要見通しを固める意味を持つ。
FY27ガイダンスとNAND好況の持続可能性
SanDiskはFY27第1四半期の見通しとして、売上高103億〜108億ドル、non-GAAP希薄化後EPS44.00〜46.00ドルを示した。non-GAAP粗利率のガイダンスは83.0〜85.0%で、Q4実績の84.6%とほぼ同水準を見込んでいる。実現すればさらなる増収増益となり、市場が抱く懸念とは裏腹に会社側は好調の継続を織り込んでいる。株価が9%下落した8月5日の反応と、経営陣が示した強気の見通しの間には温度差があり、この差は2026年11月前後に判明するFY27第1四半期の実績で最初に検証されることになる。
過去のメモリ業界の好況局面は、2017〜2018年のDRAM価格高騰や2021年前後のNAND市況拡大でも、数四半期で反落に転じてきた経緯がある。今回はNBMという複数年契約が価格の急落を一定程度吸収する仕組みとして新たに組み込まれている点が、過去の局面との違いとして挙げられる。Goeckeler氏は決算発表で「当社の技術と製品は、顧客に価値を創出し、成長を続ける持続的なフリーキャッシュフローを生み出す上で有利な立場にある」とも述べている。この発言が試されるのは、NBM契約の比率が高まってもなお成長率を維持できるかが問われるFY27の四半期決算になるはずだ。



