チタンという金属の比重は4.43 g/であり、水の4倍を超える重さをもつ。金属片をそのまま海に投じれば、底へと沈んでいくのは物理の初歩だ。船やブイのような海洋構造物は、密閉した大きな空洞を設けて全体の平均密度を水より低くすることで浮力を得てきた。しかし外殻に亀裂が生じて浸水すれば、浮力は失われる。一方で、内部に液体が通過できる開気孔をもつ金属ラティス(周期的な格子構造)は、構造体としての見かけ密度を水より大幅に小さくできるものの、隙間に水が浸入するため沈降を免れない。

2026年9月、RMIT大学付加製造センターを中心とする国際共同研究チームは、この制約を打開する設計手法を学術誌『Advanced Materials』に発表した。中空のチタン合金製支柱の内部だけに独立気泡のポリウレタン発泡材を充填し、格子外部の空間は海水が自由に通り抜けられるようにした複合材料である。論文名は「Breaking the Surface: Buoyant Metal-Polymer Open-Cell Hybrid Lattice Metamaterials」(邦訳: 水面を突破する、浮力を持つ金属とポリマーの開気孔ハイブリッド格子メタマテリアル、DOI: 10.1002/adma.74641)。研究チームはこれを、浮力を有する金属ハイブリッド開気孔ラティスメタマテリアルの実証として位置づけている。

この研究はオーストラリアのメルボルンにあるRMIT大学付加製造センターが主導し、フランスのパリ工芸院(CNAM)との国際共同研究として実施された。資金面ではオーストラリア研究会議(ARC)およびRMIT大学工学部からの支援を受けている。研究チームには主著者のJordan Noronha博士をはじめ、プロジェクトリーダーを務めたMa Qian傑出教授、Andrey Molotnikov准教授、Milan Brandt傑出教授、Martin Leary教授らが名を連ねている。RMIT大学はこの成果を、浮力をもつ金属ハイブリッド格子メタマテリアルの世界初の実証であると説明している。ただし、報告されたすべてのデータは3Dプリンターで造形された小型試片と、実験室水槽でテストされた1個の小型ブイ試作体から得られたものであり、実海域に展開された海洋インフラでのデータではない点に留意が必要だ。

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密閉殻を持たずに浮上する「骨格密度」という設計原理

従来の浮体工学において、浮力の計算は構造体全体の体積と質量から算出される見かけの平均密度を基準としてきた。密閉された中空容器であれば、内部の空気が排除する液体の体積によって浮力が決まる。だが、外骨格が開かれた多孔質材料では、海水が格子の開口部へと直接入り込む。水が満ちた空間はもはや浮力を生み出さない。Noronha博士が指摘するように、金属格子構造は幾何学的な見かけ密度を水の10分の1以下まで低減できる潜在力をもつものの、相互に連結した開気孔に水が浸入すれば、重力に従って速やかに沈降してしまう。

RMIT大学の研究チームはこの制約に対して、骨格密度(skeletal density)という概念を適用した。骨格密度とは、外部から水が侵入可能な開口部を計算から除外し、水を排除し続けるチタン製の壁面と内部に封止された発泡材チャネルのみの質量を、その排除体積の総和で除した実質的な密度である。外部の幾何学的な隙間を水が素早く通過しても、水を物理的に拒絶する領域の合成骨格密度が周囲の液体の密度(真水であれば約0.997 g/)を下回っていれば、構造体は全体として浮力を保ち続ける。

製造には金属3Dプリント技術が用いられた。使用された金属粉末はチタン合金Ti-6Al-4V(真密度4.43 g/)であり、レーザー粉末床溶融結合法によって中空の細い支柱が立体的に連結した格子骨格を出力する。その後、中空支柱の内部チャネルへ膨張性ポリウレタン発泡材を注入する。発泡材は支柱の内部で体積比1:9から1:12の比率で膨張し、密度0.077〜0.112 g/の独立気泡構造を形成して硬化する。外部の格子開口部には樹脂を残さず、水が自由に通過できる流路を維持した。

研究チームは、内部チャネルの内径を2.5 mmから4.0 mmまで変えた4種類の格子試片を作製した。測定された骨格密度は0.80〜1.27 g/の範囲に分布した。コンピュータによるモデル予測値と比較すると、実測値は7.4% ± 0.6%高めの値を示したが、これは積層造形特有の表面粗さや微細な形状誤差に起因する。真水(密度約0.997 g/)を用いた浮上試験では、計算上の骨格密度がこの閾値を下回った試片は2か月超にわたり、目視では空気漏れや浸水が確認されず、安定して浮き続けた。一方、閾値を超えた試片は速やかに沈降し、骨格密度の理論予測が設計指針として成立することを実験室環境で裏づけた。

同等密度における比強度の比較と10.3 MPaの実像

海洋浮体構造において、軽量化と機械的強度は常に相反する要求である。耐食性に優れるステンレス鋼や高密度ポリエチレン(HDPE)が広く使われているが、鋼材は自重が重く、樹脂材料は剛性と耐衝撃性に制約がある。

RMIT大学は発表の中で、同等の見かけ密度において、今回のチタンとポリマーによる複合格子構造が海洋用途で多用されるステンレス鋼や高密度ポリエチレンに比べて70%高い強度を示したと説明している。ただし、この数値の背景を正確に把握するには、密度で規格化した比強度と、材料自体の絶対強度の違いを峻別しなければならない。

実測において、見かけの嵩密度(バルク密度)をおよそ0.27 g/に揃えた条件下で、チタン・ポリウレタン複合格子の圧縮降伏強度は10.3 MPaを記録した。同等の嵩密度へと多孔質化した316Lステンレス鋼格子の降伏強度に対して約1.5倍、高密度ポリエチレンに対しては約1.9倍に相当する。密度の低さに対して高い荷重に耐えられるという点において、この多孔質構造は優れた圧縮特性を発揮する。

同一見かけ密度(約0.27 g/cm³)における圧縮降伏強度の比較横棒グラフ。カテゴリ 3 件、系列: 圧縮降伏強度(単位: MPa)316Lステンレス鋼多孔体316Lステンレス鋼…316Lステンレス鋼多孔体 — 圧縮降伏強度: 6.9MPa6.9高密度ポリエチレン(HDPE)多孔体高密度ポリエチレ…高密度ポリエチレン(HDPE)多孔体 — 圧縮降伏強度: 5.4MPa5.4チタン・ポリウレタン複合格子チタン・ポリウレ…チタン・ポリウレタン複合格子 — 圧縮降伏強度: 10.3MPa10.3単位: MPa
データを表で見る
圧縮降伏強度 (MPa)
316Lステンレス鋼多孔体6.9
高密度ポリエチレン(HDPE)多孔体5.4
チタン・ポリウレタン複合格子10.3
同一見かけ密度(約0.27 g/cm³)における圧縮降伏強度の比較実験室における圧縮試験データに基づく比較値出典: Advanced Materials (2026), DOI: 10.1002/adma.74641

グラフが示す通り、チタン・ポリウレタン複合格子は低密度領域における単位密度あたりの降伏強度において既存材料を明確に上回っている。

しかし、10.3 MPaという絶対的な降伏応力そのものは、塊状の金属バルク材(例えば通常のTi-6Al-4Vは800 MPaを超える降伏強度をもつ)と比較すればはるかに小さい。この特性は、巨大な防波堤や大型船舶の主構造といった巨大荷重を面で受ける用途にそのまま置き換わるものではなく、軽量な浮遊センサーや特殊なブイなど、極めて低い比重と適度な構造強度が同時に求められる領域に向けた値である。

材料・構造 比較された嵩密度 () 強度指標と測定値 複合格子に対する相対比 試験条件と制約事項
チタン・ポリウレタン複合格子 約 0.27 圧縮降伏強度: 10.3 MPa 基準(1.0倍) 3Dプリント小型試片、静的圧縮試験
316Lステンレス鋼(多孔質体) 約 0.27 圧縮降伏強度: 約 6.9 MPa 約 0.67倍(複合材が約1.5倍優位) 同一密度換算によるベンチマーク比較
高密度ポリエチレン(HDPE) 約 0.27 圧縮降伏強度: 約 5.4 MPa 約 0.53倍(複合材が約1.9倍優位) 同一密度換算によるベンチマーク比較

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海水環境における初期劣化と破損後の浮力維持能力

洋上構造物は常に波浪の機械的衝撃と、塩分による化学的腐食の双方に晒される。本研究では、材料の耐久性を評価するためにメルボルンのポートフィリップ湾から採取された天然海水を用いた浸漬試験が実施された。

2週間にわたる海水浸漬試験の結果、格子の質量減少率は0.15%にとどまった。同時に測定された圧縮降伏強度および圧縮強度の低下は1%未満であった。チタン表面に形成される安定な不動態酸化皮膜が、初期の海水腐食に対して強い耐性を示した形である。

さらに際立った結果が得られたのは、制御された機械的圧縮による破壊挙動の観察である。従来の単一の中空浮体は、外板に1箇所でも亀裂が入れば浸水が連鎖して浮力を失う。これに対して本研究の複合格子は、支柱に亀裂が入り、主要な節点結合部が破断し、さらには格子の一層全体が完全に破壊された後でも浮力を維持した。

浮力が喪失したのは、構造全体が押しつぶされて空隙が圧縮される緻密化(densification)の段階に至った時点であった。体積が極端に押し縮められた結果、全体の骨格密度が水の密度を上回ったためである。内径4.0 mmのチャネルをもつ試片において、理論モデルが予測した浮力喪失の臨界工学ひずみは約26%であったのに対し、実測された緻密化ひずみは37.2% ± 0.006%に達した。

Noronha博士は、ポリウレタン発泡材の微細な独立気泡がガスを内部に閉じ込め、外壁が破壊されても支柱内部への水の浸入を物理的に食い止めていることが、この耐損傷性の要因だと説明している。無数の微小気泡による分散配置が、局所的な破壊の致命化を防ぐ安全裕度として働いた。論文では、試験で加えられた応力状態が通常の運用環境で想定される荷重条件を大幅に超えていたと記されており、過酷な外力下での粘り強さが確認された。

試作ブイの水槽試験と実用化に向けた距離

理論と基礎特性の検証を経て、研究チームは機能実証のための試作ブイを製作した。積層造形されたブイは高さ約100 mm、幅約85 mmという小型のものである。この試作体は外殻による密閉ケースを持たず、防汚コーティングや追加の浮力体も備えていない。

波浪を模した乱流海水タンクに投入された試作ブイは、最大45度まで水中で連続回転させられる過酷な流況においても姿勢を崩さず、安定した浮上状態を保ち続けた。格子開口部を波が通り抜けるため、流体から受ける直接的な抗力が緩和されたことも安定性に寄与したと見られる。

プロジェクトを率いたMa Qian傑出教授は、今後の段階として、より大型の実証部品の製造と、現実の海洋環境および深海条件での長期的な挙動評価を挙げている。天然海水を用いた浸漬試験が2週間という短期間であった事実は、数年から数十年に及ぶ海洋構造物の耐用年数を見極めるには不十分である。長期の生物付着(バイオファウリング)が開口部の水の流通や骨格密度にどう影響するか、また紫外線や海水の静水圧に長期間晒された内部のポリウレタン発泡材が加水分解やセル崩壊を起こさないかという点は、今後の試験を待つ必要がある。

さらにQian教授は、チタン骨格の内部に充填する材料をポリウレタン以外の機能性樹脂や相変化材料などに置き換えることで、エネルギー吸収、熱管理、振動減衰といった別の用途へ展開できる可能性にも言及した。ただしこれらは設計思想に基づく将来提案であり、現時点で実験的に検証された事実ではない。

高精度な金属3Dプリント技術と内部樹脂充填という複合製造プロセスは、現状では製造コストと生産規模の面で大きな制約を抱えている。港湾の突堤や大型海洋プラットフォームといった大規模土木インフラへ直ちに適用できる段階にはない。研究室の小型水槽で示された設計原理が、過酷な実海域で耐えうる工業技術へと昇華できるかどうか、スケールアップの検証が続いている。