「小さいものほど早く実現しやすい」というのが素朴な直感だろう。部品同士の距離が縮むほど、設計や量産はむしろ簡単になりそうだ。

ところがNTTのロードマップでは、GPUが並ぶボード間の光配線が2026年度の商用化に向かう一方、その先にある半導体パッケージ同士の配線はまだ試作段階、さらに内側のダイとダイの間はようやく2032年ごろとされる。距離が縮むほど、実現時期はむしろ遠のいているのだ。理由を追うと、対象がどこまで小さくなるかによって、部品づくりに求められる精度がまったく変わってくることが見えてくる。

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なぜ電話会社が2026年度にボード間の配線を光化するのか

AI向けデータセンターのスイッチに搭載されるASICは、1個で500Wを超える電力を消費する。NTT技術ジャーナルの解説によれば、このうち3割は高速な電気信号を送るI/O回路が占めるという。信号を速く、長く送ろうとするほど、配線の途中で電気は熱として逃げていく。これは半導体の設計をどれだけ工夫しても消えない、電気配線そのものの物理的な性質だ。

この壁を越える手段として、NTTは2025年10月6日、光電融合スイッチ「PEC-2」をBroadcomのASIC、台湾Acctonの筐体と組み合わせて発表した。スイッチ全体で102.4Tbpsの伝送容量を持ち、PEC-2デバイスを16個内蔵する。従来は着脱式の光トランシーバをスイッチの前面に置き、内部のチップとの間を電気配線でつないでいたが、PEC-2はこの電気配線ごと置き換える新型の光デバイスをチップのすぐそばに固定する。この実装方式はCo-Packaged Optics(CPO)と呼ばれる。

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効果は数字にはっきり出る。NTT技術ジャーナルによれば、消費電力12Wの従来型プラガブルトランシーバ8台分(合計96W)に比べ、PEC-2は50%削減した48Wで実現できるという。NTTは2026年度中にこのPEC-2の商用サンプルを提供する計画を示しており、2025年の大阪・関西万博では試作機がAI映像解析用にGPUへ映像データを振り分ける実証を半年間こなした。

PEC-2が2026年度に間に合うのは、対象がまだ基板の上、ミリ単位より大きな部品同士の配線だからだ。この先に続くPEC-3・PEC-4は、対象をさらに小さな部品の内部へと縮めていく。対象がどこまで小さくなるかが、この先の段階の速度を分けることになる。

なぜ2028年までパッケージ間の配線を光にできないのか

PEC-3が対象とするのは、PEC-2よりもさらに小さな配線だ。CPUやGPUの半導体パッケージ同士をつなぐ配線がそれに当たり、NTTはこれを「光I/O」と呼ぶ。EE Times Japanの技術解説によれば、商用サンプルの提供開始は2028年、実用化は2030年ごろとされている。目標時期はPEC-2の商用化予定である2026年度より数年後ろにずれている。

理由は、PEC-2とPEC-3が対象とする部品の大きさがまったく違うからだ。PEC-2は基板の上に載る部品同士の配線を光化するのに対し、PEC-3が目指す光チップレットは、NTT技術ジャーナルによれば「メンブレンデバイス」と呼ばれる薄膜構造の光デバイスを16個、横1.11mm×縦2.75mmという爪の先ほどの基板に集積する。EE Times Japanの技術解説によれば、この光チップレットはCPUとGPUの半導体パッケージ同士を直接つなぐためのデバイスだ。

メンブレンデバイスが小型化を難しくしているのは、そもそもシリコンだけではレーザーや光変調器を効率よく作れないためだ。光を出す性質に優れたインジウムリン系の化合物半導体を、薄膜の状態でシリコンの基板に直接貼り合わせる技術が要る。性質の異なる2つの材料を壊さずに薄く貼り合わせる工程は、基板レベルの部品を扱うPEC-2の開発とは求められる集積の精度がまったく違う。

同じ「光配線」という言葉でくくられていても、PEC-2が扱うのは基板の上に載る部品、PEC-3が扱うのは爪の先に収まる半導体パッケージの隙間だ。対象がここまで小さくなると、異なる材料を組み合わせた薄膜デバイスを新たに作る必要があり、初期サンプルの2028年、実用化の2030年ごろまでの年月がかかる計算だ。

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2032年、ダイとダイの間へ

PEC-3のさらに先には、ダイとダイをつなぐ配線がある。半導体パッケージの中には、複数のダイ(演算回路そのものが刻まれた素子)が並んで収まっており、このパッケージ内部の配線を光でつなぐ「PEC-4」の実現は2032年ごろと見込まれている。NTTの研究者はこの段階で、コンピュータ全体の消費電力を100分の1にまで削減する目標を掲げている。

PEC-3が光チップレットという部品でパッケージとパッケージの間をつなぐ話だったのに対し、PEC-4はそのパッケージの内部、ダイとダイの間の配線を光にする話になる。対象がミリ単位からミクロン単位に移るごとに、必要な集積の精度が一段細かくなっていく格好だ。

この技術的な難易度の差に加えて、データセンター事業者側の投資順序も段階を後押ししている。事業者はまず導入しやすいボード間の更新から投資を始め、パッケージ間・ダイ間の刷新はその先の設備更新サイクルに合わせる方が現実的だからだ。部品の作り方という技術的な主因と、顧客側の投資順序という副次的な要因がそろって、このロードマップの年数配分になっている。

国内では、IDCの予測によれば2026年の国内AIインフラ投資が前年比18%超増の8,210億円に達する見通しで、データセンターの電力コストは日本企業のAI活用コストに直結する。2028年に予定されるPEC-3の商用サンプルが予定通り出荷されるかどうかで、部品そのものを作り直す技術がどこまで進んだかが分かる。次にノートパソコンやサーバーの基板を目にする機会があれば、その内側に指先の爪ほどの大きさまで作り直された光デバイスが収まっている場合があると思い出してもいいだろう。