Xは2026年8月28日、影響工作に関与した疑いのある中国関係の非真正アカウントを調べ、約20万件からなる「ボット農場」を特定したと発表した。このうち、米国のAIデータセンターと電力政策を扱っていたのは200件である。割合に直すと0.1%、1000件に1件だ。20万件は準備されたアカウント基盤の規模を示すが、Xの公開文から投稿の到達規模や世論への効果までは読み取れない。
6月にはOpenAIも、同じ論点を狙った「Data Center Bandwagon」を公表していた。OpenAIが記録したのは、生成AIによる投稿制作と、米国人を装う人格を整え、正規ニュースへ扇情的な説明を重ね、複数SNSで長く生き残るための運用である。今回の開示が示した規模と、公開されていない影響力を切り分けると、AI時代の情報工作が何を自動化しているのかが見えてくる。
20万件のうちAI・電力を投稿したのは0.1%
XのGlobal Government Affairsによると、200件は「米国のAIとエネルギー政策をめぐる正当な議論を操作し得る方法」で投稿していた。内容は、AIデータセンターが家庭の電気料金を押し上げ、送電網へ負荷をかけているという主張や、事業者が市民の負担で利益を得る様子を描いたAI生成漫画だった。
投稿には4枚の画面例が付いた。英語圏の人名を名乗るアカウントが、アニメ風のプロフィール画像を使い、電力市場の記事へ「#capacityauction」を添えている。リンク先の記事は実在するが、漫画やコメントは、データセンター事業者と一般家庭を利益の受け手と被害者に二分していた。実在する報道へのリンクが、投稿者の身元や加えられた説明まで正しいと保証するわけではない。
ただし、XがAI・電力論争と結び付けたのは20万件すべてではない。残る199,800件が何をしていたかは公表されていない。観測期間と投稿総数に加え、表示回数や実利用者からの反応も分からない。Xの表現も、議論を実際に動かしたのではなく、操作し得る方法で投稿したという水準にとどまる。
中国との関係も同じ慎重さが要る。Xは「中国関係と疑われる非真正アカウント」とし、中国政府の指揮や単一組織による運営を示していない。20万件は検出したネットワークの規模であり、20万人に影響したという数字ではない。
「非真正」に含まれる自動化、偽装、協調
X自身の真正性ポリシー(Authenticity policy)は、非真正アカウントを一種類に絞っていない。規約には、開発者方針に従わない自動・スクリプト型アカウント、架空の人物像、他者へのなりすまし、複数アカウントによる協調的な増幅が別々に並ぶ。人間が操作する偽装アカウントも、半自動の運用も対象になる。
したがって、Xが使った「ボット農場」という呼び名から、20万件すべてがソフトウェアだけで動いていたとは断定できない。生成AIで文章や画像を作ったか、自動ログインや一括管理を使ったか、投稿そのものを自動化したかも別の軸である。Xは今回、各類型の件数を示していない。
措置についても、発見と永久停止は分ける必要がある。Xは投稿の末尾で、真正性ポリシーに違反するアカウントを停止すると一般方針を説明した。しかし、今回特定した約20万件をすべて停止したとは明記していない。同規約が定める措置には、電話番号やパズルによる確認、投稿の到達制限、一時的な機能制限、プロフィール修正、停止がある。公表文だけから「20万件を一斉排除した」とは言えない。
ログイン自動化と偽装ペルソナ
OpenAIが6月に公表したData Center Bandwagonは、今回の4例を理解する材料になる。OpenAIが調べたアカウント群は、簡体字でChatGPTへ指示しながら英語と中国語の出力を求め、VPN経由で接続していた。行為者については、中国の省級政府を顧客とする民間テクノロジー企業のSNS運用チームだった可能性が高いとOpenAIは評価した。中央政府や情報機関の直接指揮を確認したという説明ではない。
行為者は、米国の労働者、学生、母親から事務員や投資家まで、異なる背景の人物を装う文面を作らせた。電力市場の容量オークションを扱う正規報道へリンクし、AIデータセンターの費用を一般家庭が負担しているというコメントや画像を添えた。Xが今回公開した例も、人物名、容量オークション、家庭負担という組み合わせが重なる。両社は同一作戦だと共同確認していないため、同じ運営網だったかは未確定である。
ChatGPTの使途は投稿制作から運用管理へ広がっていた。OpenAIによると、行為者は複数SNSへのログインと交流管理を自動化するコードを求め、ユーザー名の抽出やリンク整形にも使った。運用報告書では、日常生活を投稿して実在の利用者に見える人格を育て、アカウント同士で反応し、予備アカウントを用意する方針も記していた。活動を分け、プラットフォームに協調関係を見抜かれにくくする考えまで含まれていた。
この利用記録では、生成AIは主張を組み立てる道具であると同時に、偽装人格と素材を継続的に供給する運用部品になっていた。それでもOpenAIは、この作戦が自分たちの活動圏を越えて意味のある広がりを得た証拠はないとした。作戦を実行できる能力と、実際に人を動かした結果は別に測らなければならない。
2019年と2020年、中核と増幅網の区分
Twitter時代の中国関係作戦でも、総アカウント数の大半が活発に発信していたわけではない。2019年に香港の抗議運動を狙った作戦を公表した際、Twitterは活動的な936件と、実質的に活動する前に停止した約20万件の大規模スパム網を分けた。公開アーカイブへ収録したのは、活動が確認された936件である。
2020年の開示では、中国(PRC)関連ネットワークを中核23,750件と増幅用約150,000件に分けた。中核データは研究者向けに公開し、増幅用の多くはフォロワーも反応もほとんどなかったと説明した。この区分があれば、投稿を作る層、数字を押し上げる層、予備在庫を別々に評価できる。
| 公式開示 | 大規模ネットワーク | 活動が説明された中核 | 公開された効果・データ |
|---|---|---|---|
| 2019年、香港関連 | 約20万件 | 936件 | 中核のアーカイブを公開。大規模網は実質活動前に停止 |
| 2020年、PRC関連 | 増幅用約150,000件 | 23,750件 | 中核を公開。増幅用は低フォロワー・低反応 |
| 2026年、今回 | 約20万件 | AI・電力関連200件 | 4例を提示。一覧、反応、検出方法は未公表 |
2019年と今回で「約20万件」という丸い数字が一致するが、同じネットワークだと示す証拠はない。比較から分かるのは、過去のXが中核と増幅層を分け、第三者が調べられるデータを出したのに対し、今回は結論と4つの例だけを公表したことだ。規模を評価するには、少なくとも同じ内訳が要る。
なぜ本物の電力制約を狙うのか
Data Center Bandwagonが選んだ電力問題は、架空の争点ではない。米国東部の広域送電網を運営するPJMは、2027〜2028年受渡し分の容量オークションで134,479MWを確保したが、信頼度要件に6,623MW届かなかった。価格は連邦エネルギー規制委員会が承認した上限の333.44ドル/MW日で決まり、PJMは大規模データセンターの負荷が需要予測へ加わり続けていると説明する。
Berkeley Labの2025 Updateも、2030年に米国のデータセンターが649TWh、全米電力の11.8%を使う参照ケースを示した。感度分析の幅は521〜843TWh、全米の9.5〜15.3%に及ぶ。電源と送電設備の増強が遅れれば、容量市場と系統運用へ圧力がかかるという懸念には根拠がある。
一方で、容量市場の価格を誰がどこまで負担するかは、地域の料金制度や規制当局の判断で変わる。自家調達と相対契約も、需要家が実際に支払う額を左右する。PJMも、すべての需要家が同じ清算価格を払うわけではないと説明している。649TWhという予測も電力消費量を測るもので、家庭料金の上昇率ではない。今回の作戦は、実在する制約へ偽装した発信者が入り込み、原因と負担を一本の物語へ縮めようとした。
今回の約20万件を情報工作の成功例と呼べるかは、Xが投稿層と増幅層を分け、表示回数と実利用者の反応を示せるかにかかっている。さらに、何を根拠に中国関係と判断し、何件を停止・制限・確認対象にしたのかも必要だ。そのデータが公開されれば、大量のアカウントを準備した作戦と、米国のAI・電力政策を実際に動かした作戦を区別できる。



