台湾・基隆地方検察署は2026年8月24日、NVIDIAのB300 GPUを搭載したSupermicro製AIサーバーを中国へ不法に輸出したとして、NVIDIA台湾の社員やSupermicro台湾子会社の営業担当者ら8人を背信、文書偽造などの罪で起訴した。検察によれば、買い手は台湾で使うと偽って130台の販売承認を得た。その後74台を中国へ送り、残る56台は税関が止めた。NVIDIAのホワイトリスト、最終使用者声明、現地確認まで用意されていた。それでも、承認に関わる企業の担当者が情報を隠せば、統制はすり抜けられたというのが起訴内容である。
検察発表の見出しは「9人起訴」だが、不法輸出部分の被告は8人だ。9人目は販売代理店からの資産流用に関する別の容疑で加わった。起訴は検察側の主張であり、有罪が確定したわけではない。
8台以上なら現地確認、それでも130台の注文は通った
基隆地検が描いた販売審査は、書類を一つ出せば終わる仕組みではない。B300搭載サーバーを買うには、NVIDIA側の審査を経てホワイトリストへ入る必要があった。買い手は最終用途と最終使用者を申告し、Supermicro台湾子会社、NVIDIA台湾、両社の本社側が順に確認する。8台以上を購入する場合は、営業担当者と技術担当者が設置場所を訪ね、設備を実地に確かめる手順もあったという。
検察によれば、買い手となった台湾企業の経営者らは、この承認の流れに関わる担当者を取り込んだ。Supermicro台湾子会社の営業担当者は審査手順を伝え、販売代理店の幹部は代金を立て替えることで買い手の資金力に対する疑念を隠した。データセンターの担当者は、実際には見積書だった文書を賃貸契約として扱い、稼働しているように設備を見せたとされる。
2025年9月10日に行われた現地確認では、借りた区画のラック、電力、ネットワーク帯域が130台を動かすには明らかに足りなかった。それでも検察は、NVIDIA台湾とSupermicro台湾子会社の被告らが事情を伏せ、事情を知らない両社の担当者を誤認させたと主張する。最終使用者声明には設置国を「Taiwan」と記し、米国の制裁対象へ輸出または再輸出しないとも誓約していた。
NVIDIA台湾で販売パートナーを担当していた被告は、現地確認を済ませたと本社側へメールで報告し、注文の承認を求めた。基隆地検は、この人物をB300 GPUの販売承認を通した中心人物と呼び、買い手の資金不足と、中国企業が代金の出所だった事実を意図的に隠したと主張している。複数の確認手順は存在した。しかし同じ注文を成立させたい内部担当者が互いの説明を補強すると、確認は独立した検証として働かなくなる。
買い手の信用力を調べる工程と、設置場所を確かめる工程は、本来なら別々の誤りを見つける機会になる。ところが起訴内容では、資金審査を販売代理店が迂回し、設備確認をデータセンター側が支え、メーカーとGPU企業の担当者が承認を進めた。確認項目が多くても、情報源まで重なれば安全性は増えない。
2台、64台、64台に分けた中国までの経路
承認された130台は、2台、64台、64台の3段階に分けて納入された。最初の2台は当初の買い手が代金を払えなくなり、別の中国顧客へ転売された。第2段階の64台と合わせ、2026年1月20日から2月12日までに中国へ直接、またはインドネシア経由で運ばれたと検察は説明している。
第3段階の64台では、8台が日本へ送られ、4月11日に香港を経由して中国へ渡ったとされる。残る56台も日本へ輸出する予定だったが、台湾の税関が異常を検知した。税関は戦略的ハイテク貨物の輸出許可を求め、当事者らはSupermicroのウェブページを切り貼りした資料を添えて申請したものの、許可が出る前に捜査当局がサーバーを押さえた。
結果は、130台のうち74台が中国へ到達し、56台が台湾で止まったというものだ。主犯格とされた2人が74台の転売・輸出で得た利益は、仕入れ代金を引いた後で21,205,531米ドルに達したと基隆地検は算定している。Supermicro台湾子会社の営業担当者2人には、それぞれ62,804米ドルと83,872米ドルの業績賞与が支払われたという。
基隆地検は、別件を捜査していた検察官と海巡署基隆查緝隊が不法輸出を発見し、調査局と警察を加えて捜査を広げたと説明している。5月20日には住居や企業など12カ所を捜索し、7月24日の第3次捜索でNVIDIA台湾の担当者を取り調べた。捜査全体では3回の捜索を行い、7人を勾留したとしている。
25億ドルの米国事件とは被告も取引も異なる
AIサーバーの中国向け迂回を巡っては、米司法省も2026年3月19日、Supermicroの共同創業者を含む3人を起訴した。米司法省によれば、被告らが関わった東南アジア企業は2024年から2025年に約25億ドル相当のサーバーを購入した。全購入額のうち中国へ流れた割合は示されていない。一方、2025年4月下旬から5月中旬までの短期間では、少なくとも5億1,000万ドル相当を中国へ迂回させたと司法省は主張している。
米国事件で使われたとされる手口は、台湾事件とは違う。被告らは監査を欺くため、動かないダミーサーバーを数千台並べ、ラベルやシリアル番号を貼り替えたと米司法省は主張している。実物はすでに中国へ送られ、倉庫には監査用の外観が残された。
台湾事件と米国事件は、Supermicro製サーバーの中国向け迂回と、監査用の偽装という特徴を共有する。ただし、被告、対象取引、捜査機関は異なる。25億ドルという数字を台湾で起訴された130台の取引規模として扱うことはできない。米国の起訴内容も刑事裁判で確定した事実ではなく、被告は有罪が証明されるまで無罪と推定される。
社内調査の「経営陣は知らなかった」が残す課題
Supermicroは台湾での起訴に先立つ8月20日、3月の米国事件を受けて実施した独立調査の結果を発表した。独立取締役が監督し、外部法律事務所とフォレンジック会計の助言会社が対象取引や一部の規制製品顧客を調べた。その結果、現経営幹部が迂回計画や実際の迂回を知っていた証拠、同社が既知の規制対象へ直接販売した証拠は見つからなかったという。
一方で、同社は営業、技術支援、事業開発部門の従業員に対し、解雇を含む人事措置を取った。理由は社内方針または行動規範に従わなかったことだ。取締役会は輸出管理を強化する勧告をすべて採用し、同社は政府当局への協力も続けるとしている。
この調査は会社が選任した外部専門家によるものであり、捜査当局や裁判所の判断ではない。対象も主に3月の米国起訴に関する取引で、4日後に台湾で公表された起訴内容全体を否定するものではない。台湾ではNVIDIAやSupermicroという法人が被告になったのではなく、両社の台湾拠点で働いていた個人が起訴された。
今回の事件でメーカーが確かめるべきなのは、審査項目の数より、各確認が別々の情報源に基づいているかだ。買い手の資金源、設置場所の電力と帯域、輸出後の機器の所在を同じ営業系統の説明に依存すれば、ホワイトリストも現地確認も連鎖して誤る。裁判で起訴内容がどこまで認定されるかに加え、NVIDIAとSupermicroが承認担当者から独立した照合を実装するかが、再発防止を測る材料になる。



