動画配信もクラウドAIの応答も、今日も当たり前のように途切れず届く。その裏側を支える海底ケーブルは、長らくNTTKDDIのような通信会社が敷設し、帯域を貸し出す設備だと考えられてきた。ところがこの15年で、国際回線を流れるデータの4分の3が、通信会社ですらないGoogleMetaAmazonMicrosoftのようなコンテンツ・クラウド事業者を経由するようになった。2010年にはほぼゼロだったシェアが、なぜここまで急速に逆転したのか。

答えは資金力の大きさだけでは説明できない。AIワークロードが要求する帯域の性質そのものが、この4社に「借りる」より「持つ」ことを選ばせた。しかも彼らが実際に手にしたのは容量の使用権であり、ケーブルを造る力は今も別の3社が握ったままだ。

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国際帯域の75%を使う、通信会社ではないコンテンツ大手

国際的な海底ケーブルの帯域使用について、2025年時点でコンテンツ・クラウド事業者が占める割合は約75%に達し、その中でもGoogle、Meta、Microsoft、Amazonが最大の需要源になっている。トランスパシフィック(太平洋横断)ルートでは80%超、トランスアトランティック(大西洋横断)ルートでは約90%をこうした事業者が消費している。2010年時点でこのカテゴリのシェアはほぼゼロだった。わずか15年で、国際通信の主役が入れ替わったことになる。

個社ベースで見るとさらに際立つ。TeleGeographyの集計によれば、Googleは30件超のケーブルシステムに所有持分を持ち、Metaも20件前後に関与、MicrosoftとAmazonも合わせて10件前後に名を連ねる。共同出資案件が重なるため単純合計は一意にならないが、通信キャリアではないこの4社が関与するケーブル案件は60件を超える。世界の海底ケーブルは稼働中・計画中を合わせて約600本規模、総延長はICPC(国際ケーブル保護委員会)ベースの2025年データで約170万kmとなっており、案件数の比率としては一部にとどまるが、AI基盤や大陸間データセンターを結ぶ主要な大容量ルートに投資が集中している点が特徴だ。

海底ケーブルの多くは複数企業が出資するコンソーシアム方式で建設される。容量を確保する方法は、建設への出資による持分保有と、IRU(解除不能使用権、Indefeasible Right of Use)と呼ばれる長期使用権契約の購入の2通りがある。いずれの方法でも、「容量を握る」ことと「ケーブル自体を所有・建造する」ことは別だという点は変わらない。テック大手はこの仕組みを使い、コンソーシアムへの出資や容量の長期契約を通じて、実質的に太い回線を自社専用として確保してきた。契約構造を通じた実効支配こそが、この転換を技術的に成立させている。

KDDIによれば、日本の国際通信の99%以上は今も光海底ケーブル経由で行われており、国内の生活や仕事のほぼすべてがこの物理インフラに依存する。その太い回線の使用の大部分を、通信会社ではない海外のコンテンツ・クラウド事業者が占めている。2010年からの15年で起きたこの変化は、日本にとっても対岸の火事ではない。

170年前にも起きていた同じ交代劇

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世界初の海底ケーブルは1850年8月28日、英仏間のドーバー海峡に敷設された。初日で切断し失敗に終わり、安定運用にこぎ着けたのは1851年になってからだった。日本では1871年6月に長崎-上海間で海底電信が初めて開通し、1906年8月には太平洋を横断する回線が開通している。黎明期の海底ケーブル事業は、巨額の初期投資と失敗のリスクを引き受けられる限られたプレイヤーだけの領域だった。

1872年に設立された英国のEastern Telegraph Companyは、その典型例だ。設立時点で8,860マイルだったケーブル網は、わずか15年後の1887年前後には22,400マイルに達し、世界の海底通信をほぼ独占する規模に成長した。英帝国の電信網は「オールレッド・ライン」と呼ばれ、植民地間の通信を自国資本だけで完結させる戦略資産として扱われた。

両大戦を経て国際情勢が変わると、この独占体制は1929年のEastern TelegraphとMarconiの合併(持株会社Cable and Wireless Ltdが発足、1934年に社名をCable and Wirelessへ統一)を経て、1947年の英国政府による国有化で幕を閉じた。以後は各国の通信キャリアが海底ケーブルを共同で保有・運用する体制が20世紀を通じて定着した。この独占を支えたのは当時の英国が握っていた造船・海底測量技術という物理的な参入障壁であり、現代の海底ケーブル製造を仏米日3社が握る構図と同じ論理がここにある。

日本では1953年に設立されたKDD(現KDDI)が1985年まで国際通信を独占し、1964年にはKDDとAT&Tが太平洋横断ケーブルTPC-1を開通させている。ケーブルの中身も銅線から光ファイバーへ進化し、研究開発は1970年代に始まったが、商用化が実現したのは世界初の大西洋横断光海底ケーブルTAT-8(1988年)、日本初のTPC-3(1989年)からだった。この時代を通じ、海底ケーブルは各国通信キャリアが共同出資し、余剰容量を他社に貸し出すことで投資回収する「キャリア間インフラ」として運営されてきた。独占が19世紀と21世紀の2度にわたって生まれた理由は共通しており、巨額の初期投資と長期の投資回収期間を要するがゆえに、資本力と将来需要を見通す情報を持つ主体へ自然と集約される構造を海底ケーブル事業自体が持っているためだ。

転換の起点は2008年、Googleが日米間ケーブルUnity(6社連合、Googleは20%出資)への参加を発表し、2010年に開通したことにある。2016年にはMicrosoftとFacebook(現Meta)が共同でMareaを建設し2017年に完成させた。Googleは2018年1月、米国-チリ間10,500kmのCurieを「非通信大手として初の単独保有ケーブル」と位置づけて発表し、2019年11月に敷設を完了、2020年に商用サービスを開始した。コンソーシアム出資から単独保有へ、2008年のUnity参加から数えて11年をかけて段階的に移行してきたことになる。

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なぜ借りるより持つ方が合理的になったのか

海底光ファイバーケーブル市場は2025年の52.2億ドルから2026年に58.9億ドル、2031年には98.7億ドルへ拡大する見通しだと、市場調査会社Mordor Intelligenceは2026年のレポートで推計している。年平均成長率(CAGR)は10.87%だが、その内訳を見ると成長の主役が入れ替わっていることがわかる。クラウドとコンテンツの事業者向けセグメントのCAGRは11.84%と市場全体を上回る一方、従来型の通信キャリア向けセグメントの伸びは相対的に鈍化傾向にある。58.9億ドルという規模は、2026年8月時点の実勢レート(1ドル=157円前後)で換算すると約9,247億円に相当する。

帯域を市場でリースする従来型の調達は、需要が読みやすい定常的なトラフィックには向いていたが、AIワークロードには相性が悪い。大規模言語モデルの学習では複数のデータセンター拠点間でパラメータを同期させる処理が発生し、遅延のばらつきが計算効率を直接左右する。リース契約では他社の需要変動によって使える容量や経路が変わりうるため、常に同じ経路を同じ遅延で使えるという保証がない。海底ケーブルを自ら保有すれば、経路設計や容量配分、増設のタイミングを自社の需要予測だけで決められるようになり、この予見可能性がAI基盤の競争力に直結する。

変化の速度を示す数字もある。新規海底ケーブルプロジェクトへの投資額は2025年から2027年の3年間で約130億ドルに達する見通しで、これは2022年から2024年の3年間の投資額のほぼ2倍にあたると、CNBCが2025年11月に報じている。通信キャリアが主導してきた市場に、テック大手の投資が短期間で倍増する規模で流入したことになる。この投資の担い手が誰かを見ると、市場の成長曲線そのものがハイパースケーラー(大規模クラウド事業者)の需要によって描かれていることがわかる。

クラウド事業者向けセグメントの成長率が通信キャリア向けを上回るという構図は、海底ケーブルというインフラの位置づけ自体が変わったことを映す。かつては「必要経費」として扱われてきた国際回線が、AI基盤を支える「戦略資産」として投資対象になったということだ。この戦略資産を実際にどう設計し、誰が保有しているのかは、企業ごとに大きく異なる。

テック大手の海図と、握れなかった製造の92%

Metaは2025年11月、アフリカ大陸を周回する2Africaケーブルのコア部分を完成させたと発表した。180Tbit/sの容量を持つ45,000kmのルートで、33カ国・46の陸揚げ地点を持つ。この案件はVodafoneやChina Mobileなど複数の通信事業者も出資する多国籍コンソーシアムによるもので、Metaが手がける"自社ケーブル"の中にも地政学的なライバルが共同出資者として名を連ねている例がある。Metaはこれとは別に2025年2月、大西洋とインド洋を横断する50,000kmのWaterworthも発表しており、AI向けインフラ投資を広域に展開している。

Googleは前述のCurieに加え、2025年11月にモルディブ、クリスマス島、オマーンを結ぶDhivaruケーブルを発表した。Amazonは2025年11月、AWSとして初となる単独保有ケーブルFastnetを発表している。米国メリーランド州とアイルランドのコークを結び、容量は320Tbit/sを超える。陸揚げ局の完成は2027年を予定するが、システム全体の稼働(RFS)は2028年になる見通しだ。Microsoftは他の3社と異なり単独保有のケーブルを持たず、2016年のMarea共同建設を除けば出資モデルに徹する戦略を取っている。

Microsoftの動きはさらに続く。2015年のHiberniaやAqua Commsへの出資に加え、近年はLightstorm主導のI-2SEAへの参加など、既存事業者との連携を通じてネットワークを確保する動きを続けており、単独保有に踏み切らない姿勢は一貫している。複数ルートへの分散出資によってリスクを分ける戦略は、単独保有によって経路を丸ごと制御する戦略とは異なるアプローチであり、テック大手の中でも投資哲学が一様ではないことを示している。

ここまでの数字を見ると、海底ケーブルの主役は完全にテック大手へ移ったように見える。しかし、この4社が実際に自ら建造しているケーブルはほとんどない。海底ケーブルの製造市場を見ると、シェアを握るのは仏Alcatel Submarine Networks(40%)、米SubCom(31%)、日NEC(21%)の3社で、合わせて92%に達する。中国のHMN Technologiesは8%にとどまり、テック大手が所有面で存在感を強める一方、製造面では中国勢の影響力は数字ほど大きくない。価格競争力で存在感を示すHMNも、規模では仏米日3社に大きく水をあけられているのが実態だ。

所有と製造がこれほど分離している理由は、海底ケーブルの敷設が特殊な技術と設備を要する事業だからだ。専用の敷設船や海底測量、修理体制の構築には数十年単位の蓄積が必要で、テック大手が持つ資金力だけでは短期間に代替できない。GoogleやMetaが担うのは、ルート設計と資金調達、そして完成後の容量配分の決定であり、実際の製造と敷設は仏米日3社に発注する形になる。つまりこの業界は、「回線を誰が使うか」を決める所有のレイヤーと、「回線を誰が造るか」を決める製造のレイヤーに分かれており、この17年で入れ替わったのは前者だけだ。

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見えない国境線、上陸許可という地政学

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海底ケーブルは公海を通る区間もあるが、実際には各国の排他的経済水域(EEZ)や領海を通る区間が大半を占める。国連海洋法条約の下でケーブル敷設の自由は公海・EEZの両方である程度認められているが、ケーブルが陸に上がる瞬間、つまり陸揚げ局の設置には各国政府の許可が必要になる。この上陸許可こそが、誰がケーブルを所有していようと避けて通れない物理的なチョークポイント(関所)であり、AI時代の海底インフラをめぐる地政学の焦点になっている。1本のケーブルにどれだけ出資しても、着地点となる国が拒めばそのルートは成立しない。

中国のHMN Technologies(旧Huawei Marine)は、価格競争力の高さで知られる。東ミクロネシアケーブルの入札では、HMNが競合の仏Alcatel Submarine Networksや日NECより2割以上安い価格を提示したが、2020年に米国が安全保障上の懸念を表明し、2021年には世界銀行主導の入札そのものがどの社にも発注されないまま終了した。ソロモン諸島でも同様の展開があった。2017年にHMNが契約を獲得したものの、オーストラリア政府が介入し、最終的には2019年に別の陸揚げ体制でCoral Sea Cableが稼働した。

この2件に共通するのは、価格で優位に立っても上陸許可という政治判断で覆るという構図だ。海底の敷設自体は国連海洋法条約の下でほぼ自由だが、陸揚げ局は主権国家の領域内にある固定資産であり、通信傍受やインフラ寡占への懸念があれば政府はいつでも許可を拒否できる。米国はこの上陸許可の審査を通じて同盟国にHMN排除を働きかけており、日本を含む同盟国ではNECなど欧米日系企業への案件誘導が進む一方、中国系は価格と施工速度で依然として優位に立つ。所有権をどれだけ握っても、上陸を拒否されれば回線は機能しない。

上陸許可以外の脆弱性、修理船という制約

海底ケーブルには、上陸許可とは別の弱点もある。世界で敷設・修理の両方を担える専用船はわずか60隻程度しかなく、世界全体で年間200件前後発生する障害に対応している。1件あたりの修理費用は数十万〜数百万ドル規模とされ、限られた修理船の配備状況そのものが、特定海域での実効的な影響力を左右する要因になる。

日本は使う側であり、作る側でもある

Googleは2024年4月、日米間の新規海底ケーブル敷設に約1500億円を投資すると発表した。テック大手による直接投資は太平洋の向こう側の話ではなく、日本の沿岸にも及んでいる。動画配信もクラウドサービスも、国際会議のビデオ通話も、その大半はこの物理インフラなしには成立しない。海外の非通信大手が国際帯域の75%を使う構造は、通信の生命線を海外資本に依存している日本自身の状態を意味する。

一方で日本は、ケーブルを「造る側」でもある。NECグループの海底ケーブル専業子会社であるOCC(本社横浜市、製造拠点は北九州市)は、累計製造距離が40万kmを超え、世界シェアは20%台を維持している。前述の製造市場シェア(仏ASN40%、米SubCom31%、日NEC21%)に照らせば、日本は世界3位の製造国であり、依存する側であると同時に、他国のケーブル需要を支える側でもあるという二重の立場に置かれている。NECは2030年までに世界シェアを35%まで引き上げる目標を掲げているとされ、依存を減らす方向というより、供給網の中での存在感を増す方向に日本の戦略が向いていることをうかがわせる。

この二重の立場は、2025年11月7日に高市早苗政権が示した方針によって、政策の焦点にもなった。政権は海底ケーブルを半導体と並ぶ「特定重要物資」に指定する方針を表明している。経済安全保障推進法の基幹インフラ制度では、すでにNTTやKDDIなど10社が「特定社会基盤事業者」に指定され、総務省が電気通信分野の設備調達を事前審査する体制が存在する。特定重要物資への指定は、供給網の分断や特定国への依存を避けるため、政府が資金支援やサプライチェーン強化の対象とすることを意味し、海底ケーブルが単なる商用インフラから安全保障インフラへと位置づけを変えたことを示している。

日本に陸揚げする海底ケーブル25本のうち、権威主義国を経由しないルートは10本にとどまり、2本には中国企業の出資が入っているとされる。「特定重要物資」指定は、こうした陸揚げ経路の地政学的な組み替えを促す政策的な後押しになる。NECとOCCが持つ製造力は、この組み替えの受け皿としても位置づけられている。

次の転換点、マルチコアファイバーと北極ルート

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帯域需要の拡大は、ケーブル技術そのものの進化も加速させている。空間分割多重(SDM)は、1本のケーブル内に独立した伝送路(コア)を複数持たせることで、限られた海底の物理スペースの中で伝送容量を底上げする技術だ。NECは2022年3月、マルチコアファイバーを用いた長距離伝送実験で、伝送容量を従来比7倍となる約1.7Pbit/sまで拡大できると実証したと発表している。新規のケーブル案件では60Tbit/s超の伝送容量を要件に含めることが一般的になりつつあり、AIワークロードを前提とした仕様が入札段階から標準になりつつある。SDM技術の商用化は数年内に本格化すると見込まれているが、この実証結果自体は、次の投資サイクルがどの技術仕様を軸に動くかを先取りして示している。

NTTも2026年3月、ケーブルの構成を変えずに伝送容量を4倍にする192コアの多芯光ファイバーシステムを発表しており、大容量化を競う動きはNEC一社に閉じていない。AIを含むクラウド関連の海底ケーブルトラフィックは年間約30%の成長率で伸びているという業界推計もあり、今後数年の容量増強はこの成長ペースに追いつくための投資という性格を強める。Nokia Bell Labsは、世界のAI広域ネットワークのトラフィックが2033年までに月間1ゼタバイト分の容量を新たに必要とすると予測しており、今回の技術実証はその増加分をどう吸収するかという長期的な課題への布石でもある。

日本発の新ルートも動いている。Far North Fiberは、日本と北欧・アイルランドを北極海航路経由の14,000kmで結ぶ計画で、フィンランドのCinia、Far North Digital、ARTERIA Networksのコンソーシアムが手がける。運用開始(Ready-for-Service)は2029年末を予定しており、これは当初計画の2026年末から3年近く後ろ倒しになった数字だ。北極海ルートは既存のアジアと欧州を結ぶルートより物理的に短くなるため、実現すれば新たな低遅延経路として、この分野の地図をさらに書き換えることになる。

AIが要求する低遅延と大容量という条件は、この17年でGoogle、Meta、Amazonに「借りる客」から「持つ主」への転身を選ばせたが、入れ替わったのは所有者の名前だけであり、実際の敷設と製造は今も仏Alcatel Submarine Networks、米SubCom、日NECという伝統3社に委ねられたままだ。日本にとっての分岐点は、NECとOCCが持つ21%という製造シェアを今後どこまで押し上げられるかにある。Far North Fiberが2029年末に稼働すれば、日本は「使う側」に加えて「架ける側」としての立場を、北極海という新しい経路の上で改めて示すことになる。