2026年現在、NVIDIAのGPUやAMDのAIアクセラレータは、1つのパッケージに十数個のHBM(広帯域メモリ)スタックとロジックダイを並べる設計に移行している。これらのチップを接続するインターポーザ(中間基板)の面積は年々拡大し、TSMCのCoWoSは2026年に5.5レチクル(約4,700 mm²)のインターポーザを量産している。

ここで「レチクル」とは何か。半導体の露光装置は、マスク上の回路パターンを4分の1に縮小してウェハーに転写する。1回の露光で描画できる最大面積は26mm × 33mm、すなわち約858 mm²であり、これを1レチクルと呼ぶ。インターポーザの設計がこの面積を超えると、複数回の露光を継ぎ合わせる「スティッチング」が必要になり、位置合わせ誤差と歩留まり低下のリスクが跳ね上がる。

半導体業界はこの制約に対して、チップレット(小さなダイの組み合わせ)で対応してきた。だがAIワークロードの拡大に伴い、チップレット同士を接続するインターポーザ自体が巨大化し、レチクル限界に再び直面している。TSMCのZhang副社長は2026年4月の技術シンポジウムで「2027年に9.5レチクル、2028年に14レチクルへ拡大する」と表明し、最終的にはウェハー全体をインターポーザとして使う「System-on-Wafer(SoW)」構想まで示した。

問題は、丸いウェハーの上に巨大な四角いインターポーザを並べると、端の部分が無駄になることだ。300mmウェハーから8レチクルのインターポーザは4個しか取れない。

AD

Rapidusの回答は「四角いガラス」だった

2026年8月、OCP APAC Summitに登壇したRapidus Design SolutionsのRozalia Beica(パッケージングCTO)は、同社のロードマップを提示した。インターポーザ面積を4レチクル(3,320 mm²)から6レチクル(4,980 mm²)、そして2030年までに8レチクル(6,640 mm²)へ段階的に拡大する。8レチクルは1辺約81mmの正方形に相当する。

この数字だけならTSMCの14レチクル計画に見劣りする。しかしRapidusが狙うのは「大きさの競争」ではない。製造方式そのものの転換だ。

Beicaが示した比較は明快だった。8レチクルのインターポーザを各基板から何個取得できるか。

基板フォーマット 取得可能数(8レチクル換算) 300mmウェハー比
300mm円形ウェハー 4個
300×300mmパネル 9個 2.25×
510×515mmパネル 36個
600×600mmパネル 49個 12.25×

600mm角パネルを使えば、同じ面積のインターポーザを300mmウェハーの12倍以上の効率で製造できる。円形ウェハーの端で生じる材料の無駄が、正方形パネルでは原理的に消えるからだ。

素材にも意味がある。Rapidusはシリコンではなくガラスをインターポーザの基材に選んだ。ガラスはシリコンに比べて表面の平坦性に優れ、熱膨張係数を用途に合わせて調整できる。高密度な再配線層(RDL: Redistribution Layer、チップの端子をパッケージ外に引き出す配線層)を形成する際、この平坦性が寸法精度を左右する。さらにガラスはシリコンより電気的特性が良く、AIチップの電力効率向上にも寄与するとされる。

LCD産業の遺産を半導体に転用する

600mm角のガラス基板は、半導体業界の常識から見れば異例のサイズだ。しかし液晶パネル産業では日常の素材である。Rapidusはこの「異分野の知見」を意図的に取り込んだ。Sharpをはじめとする日本のディスプレイメーカー出身のエンジニアを採用し、ガラスの割れや反りといった加工上の課題に対応している。

2025年6月、北海道千歳市のセイコーエプソン千歳事業所内に設けたRapidus Chiplet Solutions(RCS)で試作を開始。同年12月のSEMICON Japan 2025で、同社は「世界初」とする大型ガラスインターポーザのプロトタイプを公開した。600mm角のガラス基板から切り出したインターポーザは、従来品より表面積が30〜100%大きいという。

製造装置の面ではLam Researchとの協業が中核を担う。Rapidusのエンジニアリングセンター長、折井靖光氏は「600mm角ガラスキャリア上にRDLを形成する2.xDパッケージング技術の中核をなすのが、Lamのパネルレベルソリューション、特に600mmパネルをサポートする銅電解めっき装置『Kallisto』だ」と述べている。Kallistoはパネルを水平搬送から垂直姿勢に切り替え、チャックに固定してめっきチャンバー間を移動させる構造を持つ。装置の全長は最大18mに達する。Lam Researchは量産向けの次世代装置「Phoenix」も同拠点で開発中だ。

2026年4月、RCSは本格稼働を開始した。開所式には経済産業大臣の赤澤亮正氏が出席し、日本政府の支援姿勢を改めて示した。Rapidusの設備導入は最終的に約300台規模に達する計画だ。

AD

TSMCとの比較:同じゴール、異なるルート

RapidusとTSMCは、AIチップのパッケージング大型化という同じ課題に取り組んでいる。しかしアプローチは構造的に異なる。

比較軸 TSMC(CoWoS) Rapidus(パネルレベル)
インターポーザ素材 シリコン ガラス(RDL有機インターポーザ)
基板形状 300mm円形ウェハー 600×600mm角パネル
2026年のインターポーザ規模 5.5レチクル(量産中) 4レチクル(3,320 mm²、試作段階)
2028年の目標 14レチクル 量産開始(ガラスインターポーザ)
2030年の目標 SoW-X(ウェハー全体、40レチクル相当) 8レチクル(6,640 mm²)
製造の前提 前工程(ウェハーfab)の延長線上 液晶パネル製造の知見を転用

TSMCは既存のウェハープロセスを極限まで拡大し、最終的にはウェハー全体を1つのパッケージとして使うSoWへ向かう。Cerebras Systemsが既にこの技術を採用している。一方Rapidusは、ウェハーの円形という制約自体を取り払い、パネル形状で面積効率を最大化する路線を選んだ。

どちらが優れているかは、まだ判断できない。TSMCには量産実績と顧客基盤がある。Rapidusの600mmパネル方式は、量産段階の歩留まりと信頼性が未検証だ。

前後工程一体の「IIM」モデル

BeicaがOCP APAC Summitで提示したのは、パッケージング技術だけではない。「Innovative Integration and Manufacturing(IIM)」と名付けた製造モデルだ。AIとセンサーデータを使ってウェハーの状態をリアルタイムで監視し、欠陥を予測し、その結果を設計側にフィードバックする。設計と製造の最適化を同時に回す仕組みである。

Beicaはこの施設を「前工程と後工程を一つの屋根の下に統合する世界初のファブ」と位置づけた。千歳市のIIM-1(2nmロジックの前工程fab)と隣接するRCS(後工程のパッケージング拠点)を、データとプロセスで一体運用する構想だ。

RapidusのAdvanced Packagingポートフォリオは、フリップチップBGA、2.5Dシリコンインターポーザ、パネルレベルRDL有機インターポーザ、ブリッジあり・なしの両構成、ハイブリッドボンディングによる3D積層をカバーする。2030年には、サブ2nmロジック、HBM、チップレット、光インターコネクト、ハイブリッドボンディング、パネルレベルパッケージングを1つのシステムに統合する姿を見据えている。

AD

2.6兆円の賭けと残された問い

日本政府はRapidusに対し、2027年3月末までに総額2.6兆円(約163億ドル)を投じる。2026年4月には追加で6,315億円(約40億ドル)の支援を承認した。2026年2月には民間32社(Canon、Fujitsu、NTT、SoftBank、Sony Groupなど)から1,676億円の出資も得ている。

ただし、この巨額投資が成果に結びつくかどうかは、いくつかの未解決の条件にかかっている。

第一に、600mm角ガラスの量産品質。プロトタイプ段階では「世界初」を達成したが、数百枚、数千枚のスケールで反りと割れを抑制できるかは実証されていない。Lam Research自身もKallistoを「少量生産・R&D向け」と位置づけており、量産装置のPhoenixはまだ開発途上だ。

第二に、顧客認定。Rapidusのインタビューで折井氏が述べたように、技術認定(テクノロジー・クオリフィケーション)と製品認定(プロダクト・クオリフィケーション)の二段階を通過しなければ量産には入れない。後工程のパイロットラインは2026年4月に本格稼働したばかりで、認定完了の時期は示されていない。

第三に、TSMCのSoW構想との競争関係。TSMCが2029年にSoW-Xで64個のHBMスタックを統合する計画を実現すれば、インターポーザの面積競争自体が別の次元に移る可能性がある。Rapidusの8レチクル・パネル方式が、その時点でどのような位置を占めるかは、AIチップの設計思想の推移次第だ。

NEDOの公募で8レチクル・インターポーザを提案したのはRapidusだけだったという。同社の技術者は「約1年後、8レチクルが業界の標準的な考え方になり、さらに9.5レチクルの必要性まで議論されるようになった」と振り返っている。読みは当たった。問題は、量産の現場でもその読みが当たるかどうかだ。