CableLabsが8月18日に業界へ投げかけたのは、Wi-Fi 7の速度競争ではなく、家庭に残る旧端末をどう接続し続けるかという問題である。世界では230億台超のWi-Fi機器が使われ、家庭内には世代の異なる端末、低価格帯の機器、更新できないソフトウェアが混在する。同組織は、Wi-Fi 7とWPA3を組み合わせたアクセスポイント(AP)で、古い機器が接続できなくなる事例を避けるため、APとクライアントの双方がRSN Override(RSNO)を実装することを優先するよう求めた。

WPA3-Personal Compatibility Mode(PCM)自体は、2025年のWPA3 Specification v3.5に盛り込まれている。今回の新しさは、対応クライアントが少なければAP側がRSNOを有効にしにくく、APが使わなければクライアント側の実装も進まないという循環をCableLabsが明示した点にある。互換性を確保する設定が、端末の世代によってWi-Fi 7機能を使えない結果にもなる。導入側は「Wi-Fi 7対応」という表示に加え、どの帯域で何にフォールバックするのかを分けて見る必要がある。

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Transition Modeで起きる旧端末の誤解

WPA3-Personal Transition Modeは、同じRSN要素(RSNE)の中に、WPA2のPSKとWPA3のSAEといった複数の認証方式を知らせる。新旧端末を一つのSSIDへ収容するための仕組みだが、一部の旧端末は知らない認証・鍵管理方式(AKM)や暗号情報を無視できない。情報を誤って解釈し、APへ接続できなくなることがある。

Wi-Fi 7では、この問題をWPA2-onlyへ戻して回避しても、Wi-Fi 7の機能を保った解決にはならない。CableLabsはThe Registerへの回答で、Wi-Fi 7より前なら互換問題が起きた際にWPA2-onlyへ戻せたと説明した。一方、Wi-Fi Allianceの仕様では、EHTやMLOを使う接続にPSK方式のAKMを使えない。EHTはExtremely High Throughput、MLOはMulti-Link Operationを指す。従来の逃げ道では、接続を復旧できてもWi-Fi 7としては動作しない。

Ciscoの移行ガイドも、同社製品でWi-Fi 7 Personalを使う際にはSAE-EXT-KEY、GCMP-256、PMF、Beacon Protectionが必要になるとしている。これは全ベンダーのUIや初期設定を意味しないが、Wi-Fi 7対応時にWPA3の設定を従来の移行モードと同じ感覚で扱えないことを示す実装上の例である。

通常RSNEとOverrideへ情報を分ける

PCMは、古い端末が読む通常のRSNEと、新しい端末向けのRSN Override情報を分ける。2.4GHz5GHzでは、通常RSNEにWPA2-PersonalのAKM 2とCCMP-128を置き、RSNE Overrideには基本WPA3のAKM 8、CCMP-128、PMF requiredを置く。さらにWi-Fi 7用のRSNE Override 2には、AKM 24とGCMP-256を広告する。

6GHzは設計が異なる。WPA2/PSKを許可しないため、通常RSNEには基本WPA3のAKM 8とCCMP-128を置き、EHT/MLO向けのWi-Fi 7要件をRSNE Override 2へ分ける。情報を分離すれば、旧端末に理解できない要件を見せず、新しい端末には必要なWPA3とWi-Fi 7の条件を広告できる。

帯域 通常RSNE Override側 RSNO非対応端末の接続先
2.4GHz / 5GHz WPA2-Personal(AKM 2、CCMP-128) 基本WPA3、Wi-Fi 7向けAKM 24・GCMP-256 WPA2-Personalで接続し、Wi-Fi 6相当
6GHz 基本WPA3(AKM 8、CCMP-128) Wi-Fi 7のEHT/MLO向け要件 基本WPA3で接続し、Wi-Fi 6E相当

表が示す通り、2.4GHz/5GHz6GHzの「落ち先」は同じではない。前者ではWPA2-Personalへ接続できるが、6GHzではWPA2/PSKを使えない。6GHz対応のRSNO非対応端末は基本WPA3-Personalで接続できる一方、Wi-Fi 7のEHT/MLOは使えない。

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Wi-Fi 7を使えない端末はどこまで下がるのか

Wi-Fi AllianceのWPA3 Specification v3.5は、EHTまたはMLOを有効にするAPとステーションに、AKM 24とGCMP-256を求める。EHT/MLO接続ではPSK AKMを使えず、端末が許容されるAKMを見つけられなければ、EHT/MLOを無効にしてHE、すなわちWi-Fi 6へフォールバックし得る。

ここで帯域の区別を曖昧にすると、互換性の説明を誤る。2.4GHz5GHzでRSNOを理解できない端末は、WPA2-Personalとして接続できるが、EHT/MLOは使えずWi-Fi 6相当になる。対して6GHzでは基本WPA3-Personalとして接続し、EHT/MLOなしのWi-Fi 6E相当になる。前者のフォールバックを6GHzへ持ち込むことも、後者をWPA2へ言い換えることもできない。

Android Open Source Projectのhostapdには、一般的なRSN overridingの設定例もある。通常RSNEにWPA-PSK、CCMP、PMF optionalを置き、overrideにはSAE、GCMP-256、PMF requiredを置く。Wi-Fi 7向けにはSAE-EXT-KEYとGCMP-256を追加する。これはWi-Fi Allianceが定めたPCMの各値をそのまま再現する例ではないが、異なる世代に見せるセキュリティ情報を設定段階で分離できることを示している。

単一SSIDを保つか、旧端末用SSIDを分けるか

Wi-Fi Allianceの導入ガイドは、PCMを旧端末との相互運用性問題を避けるための回避設定として扱う。単一SSIDと単一パスワードを維持できるため、利用者は接続先を選び直さずに済む。ただし、RSNOに対応しない新しい端末も旧方式へ落ちる。互換性を保つ代償として、一部の端末では本来の能力を引き出せない。

もう一つは、メインSSIDをWPA3、旧端末用SSIDをWPA2として分けるDual-SSID方式だ。この方式ならメイン側の端末をWPA3で運用できる。しかし利用者は適切なSSIDを選ばなければならず、SSIDとパスワードの管理も増える。家庭なら接続先の選択ミス、組織なら導入と運用の複雑さが残る。

方式 接続の使い勝手 新しい端末の扱い 運用上の負担
PCMによる単一SSID 一つのSSIDとパスワードを維持できる RSNO非対応端末は旧方式へフォールバックする 利用者のSSID選択は不要
Dual-SSID 旧端末と新端末で接続先を選ぶ メインSSIDをWPA3として分離できる SSID選択と管理が増える

PCMを有効にすれば全端末がWPA3になるわけでも、全端末がWi-Fi 7で動くわけでもない。導入側が比較すべきなのは、古い端末をどこまで残すかと、新しい端末にどの接続条件を与えるかである。

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実装の鶏と卵をどう崩すか

CableLabsはAPとクライアント双方のRSNO対応を求めるとともに、BeaconやProbe Responseが長くなったとき、旧チップを搭載した機器が大きな管理フレームを正しく処理できるかも検証するよう促した。RSNOだけを実装しても、周辺の管理フレームを古い機器が扱えなければ、接続性の問題は残るためだ。

一方、CableLabsはRSNO非対応機器の具体的な台数、比率、製品一覧を公表していない。「多くの機器」という定性的な説明を超えて、どの製品が影響を受けるかは示されていない。したがって、Wi-Fi 7対応という製品表示からRSNO対応を推定することもできない。

Wi-Fi CERTIFIED 7の認証プログラムは2024年1月に始まっている。今後、APの更新や端末の買い替えで確認すべきなのは、Wi-Fi 7の表記そのものではなく、認証証明やベンダー資料にRSNO対応が記載され、2.4GHz/5GHz6GHzで期待するフォールバックが成立するかどうかである。