電気料金の請求書に見慣れない項目が増えたと感じる人が、特に米国で増えている。PJM(米中西部・東部13州をまたぐ送電系統運営者)の容量オークション価格は2024年7月公表分で前年の9倍に跳ね上がり、市場監視官はその63%、約93億ドル相当をデータセンター需要の急増が占めると分析した。それでもAmazonは原子力発電所の電力を17年契約で押さえ、Metaはガスタービン3基分の建設費を全額肩代わりしてまで着工を急いでいる。電力会社が悲鳴を上げる「電力不足」と、投資額を積み増す一方の「着工ラッシュ」は、実は同じ現象の裏表にすぎない。

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AEP Ohioの30GW凍結とPJM価格9倍が映す矛盾

2023年3月、米オハイオ州の電力会社AEP Ohioは中央オハイオ地域でのデータセンター新規接続受付を凍結した。申請キューの規模は30GWを超え、州全体のピーク電力需要9.4GWの約3倍に達していた。この申請の3分の1が実現するだけでも、州のピーク需要はほぼ倍増する計算になる。同じ年、ジョージア州の電力会社Georgia Powerは2031年までの需要予測を、2022年時点の約400MWから約6,600MWへ、実に17倍に引き上げる改定を2024年4月16日に承認させている。この2社に共通するのは、需要の伸びが自社の想定を大きく超えたという事実だ。

電力会社の需要予測は通常、IRP(統合資源計画)と呼ばれる数年単位の計画に基づいて作られる。過去の実績や既存契約の伸びを外挿する手法が中心で、単一の巨大需要家が数年で電力使用量を桁違いに増やすケースは想定してこなかった。Georgia Powerの17倍という上方修正は、IRPが依拠するこの外挿の手法では、生成AI時代の需要増を捉え切れなかったことを示している。予測が外れた分だけ、現場の電力会社は接続申請の処理に追われることになった。

PJMの容量オークションは、電力会社に数年先の供給力確保を義務付けるために毎年開催される入札制度で、応札価格が需給の逼迫度をそのまま映す。2024年7月に公表された結果について、市場監視官はデータセンター需要の急増を主因に挙げている。AEP Ohioが接続を凍結し、Georgia Powerが需要予測を17倍に改定したのと同じ時期に、価格という指標にも同じ需給逼迫のサインが表れていたことになる。

それにもかかわらず、AmazonやMetaやMicrosoftの建設計画に中断の気配はない。AEP Ohioが接続を凍結した同じ年、Amazonはペンシルベニア州の原子力発電所から電力を確保する契約に向けて動いていた。系統会社が「順番待ち」を宣言する裏で、電力そのものを別ルートで調達する動きが並行して進んでいたことになる。

「6%増」から「倍増」へ、外れ続けた電力需要予測

米国の学術誌Scienceは2020年2月、2010年から2018年にかけて世界のデータセンターの処理負荷が550%以上増えたにもかかわらず、消費電力の増加はわずか6%にとどまったとする論文(Masanet et al.)を掲載した。仮想化やサーバー統合による効率化が需要の伸びを吸収したという結論で、当時は「データセンターの電力消費は横ばいが続く」という見方の根拠として広く引用された。この論文が発表されたわずか2年9カ月後、前提そのものが覆ることになる。

2022年11月30日、OpenAIはChatGPTを公開した。公開からわずか2カ月で月間利用者数は推定1億人に達し、生成AIの学習・推論に必要な計算量が電力需要の前提を書き換え始めた。国際エネルギー機関(IEA)は2024年1月24日公表の報告書「Electricity 2024」で、世界のデータセンター電力消費が2022年の460TWhから2026年に1,000TWh超へ倍増以上になると予測した。米国の電力研究機関EPRIも同年5月29日、米国のデータセンターが消費する電力の割合は2023年時点の4〜4.5%から2030年には最大9%に達するとの試算を公表している。Masanetらの論文が示した「8年で6%増」という数字は、その4年後には過去のものになっていた。

Goldman Sachsは、2030年までの世界のデータセンター電力需要の試算を、2025年後半から2026年にかけて165%増から220%増、世界で1,350TWh(うち米国だけで約750TWh)へ段階的に引き上げた。試算そのものが1.3倍以上に膨らんだ計算になる。電力会社の予測に続き、投資銀行の試算までもが後追いを繰り返している。

米エネルギー省とローレンス・バークレー国立研究所は2024年12月20日、米国のデータセンター電力消費が2023年の176TWhから2028年には325TWhから580TWhへ拡大し、全米電力の6.7%から12%を占めると発表した。下限と上限で1.8倍近い開きがあるこの予測幅は、これまで見てきたGoldman SachsやIEAの上方修正と並べても際立って大きい。専門機関でさえ、数年先の需要を精緻には見通せていないことになる。

2010年代前半にも、クラウドコンピューティングの急拡大で電力需要が急増するという同様の懸念が広がった。当時はサーバーの仮想化と集約が進み、実際の消費電力は抑えられた。IEAやEPRIが今回の急増を「効率化だけでは追いつかない」と位置づけるのは、仮想化と同じ手法では吸収し切れない種類の需要増だと見ているからだ。

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ベンダー・構成により数値には幅があるが、2022年のA100世代のGPUラックは1台あたり消費電力が約25kWだった。2023年のH100世代で約40kW、2024年のGH200世代で約72kW、2025年のGB200世代では132kW(うち115kWが液冷分)に達している。空冷で対応できる上限は概ね40kW程度とされ、GB200以降のラックは液冷なしでは稼働できない。TrendForceの予測では、次世代のVR200世代は約225kWに達するという。需要増の背景には、このGPUラック1台あたりの消費電力急拡大があり、効率化による吸収をハードウェア自体の消費電力増加が上回るようになった。

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系統接続はなぜ3〜8年もかかるのか

PJM管内で新規に発電・蓄電プロジェクトが電力系統への接続を申請する場合、審査から商業運転開始までの平均期間は2008年には2年未満だった。それが2025年時点では8年を超えるまでに伸びている。ローレンス・バークレー国立研究所の調査でも、2023年に完成したプロジェクトの接続申請から商業運転までの期間は中央値で5年に達し、2015年の3年、2008年以前の2年未満から段階的に長期化してきたことが確認できる。この統計の対象は太陽光・蓄電池・風力が約95%を占める発電・蓄電キューであり、同研究所自身も「キューの規模は長期的な開発意欲を示す指標であり、データセンターのような負荷増加に対する短期的な需給逼迫を捉える解像度は低い」と注記している。

PJMやERCOTでは、発電・蓄電プロジェクトに加えてデータセンターのような新設の負荷案件も、原則として申請順に審査される「クラスター研究」という同じ枠組みの対象になる。同時期に申請された案件をまとめて一括審査し、必要な送電線増強コストを案件ごとに割り振る仕組みだが、審査対象の一部が撤退や仕様変更をするたびに、同じクラスター内の他案件も審査をやり直す必要が生じる。遅延の主因は、この制度そのものにある。

先行する案件が負担するはずだった送電線増強費用の按分も、その都度組み直される。加えて送電線の新設には用地取得や環境影響評価が伴い、着工から完成までに数年を要する。順番待ちの長さの大半は、この物理的な工事期間そのものに起因する。

テキサス州の送電系統運営者ERCOTでは、大口負荷の接続申請キューが2025年末時点で233GWを超えた。前年末比で約300%増という急拡大で、このうち約77%をデータセンター向けの申請が占める。PJMでも改革前のバックログは2,700件を超えていたと報告されている。1件の巨大データセンター案件が、その地域の系統計画全体を書き換えるほどの規模に膨らんでいる。

PJMは2026年、従来の先着順(first-come-first-served)方式から、必要な資料や資金の準備が整った案件を優先する「サイクル」方式への移行を進めている。ERCOTも2026年6月、大口負荷の接続申請を一括審査する新制度を承認した。数年がかりの順番待ちを生んできた審査方式そのものが、見直しの対象になり始めている。

系統の順番待ちを金と契約で買う仕組み

Amazonは2025年6月11日、ペンシルベニア州のサスケハナ原子力発電所から最大1,920MW(1.92GW)の電力を17年間のPPA(電力購入契約)で調達する契約を結んだ。2032年までに全量供給を受け、契約は2042年まで続く。Talen Energy社の試算では、この契約による同社の想定総収益は180億ドルに上るという。送電はPPL Electric Utilitiesが担う「フロント・オブ・メーター」契約で、2026年春に予定する送電網の再構成工事を経て段階的に移行する内容であり、新設の接続審査を経ずに既に稼働中の原発から電力を直接調達する契約という点が要点になる。

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既存の原子力発電所は既に系統に接続済みで、新たな接続審査を必要としない。新設の負荷案件が数年がかりのクラスター研究を経て順番を待つのに対し、既に発電と送電が完了している電源を契約で押さえる方法なら、その手続きを丸ごと省ける。系統接続の順番待ちが「新しく電力網につながる権利」を巡る競争だとすれば、PPAは「既につながっている電力網の使用権」を買い取る取引にあたる。

Metaは異なる方法を選んだ。ルイジアナ州のデータセンター向けに、電力会社Entergyが新設するガスタービン3基(合計2,262MW)の建設費32億ドルを全額負担する契約を結んでいる。需要と同時に専用の電源を新設するこの方式は、案件専用の発電設備を新設・接続する個別協議として州の規制当局に承認される。既存の系統に新規負荷として割り込む通常の接続申請とは、審査の枠組みそのものが異なる。

Metaが建設費を負担しても、ガスタービンの所有者はあくまでEntergyであり、送電網の一部にも接続される計画になっている。契約はMeta向けの供給を優先する内容とみられるが、他の利用者がこの発電設備からどこまで恩恵を受けるかは明らかにされていない。

OpenAIは「Stargate」計画で総額5,000億ドル・4年計画を掲げ、2029年までに10GWの確保を目標にする。2025年9月時点で約7GW分の計画が確定済みだ。テキサス州アビリーンの拠点では、開発・運営を担うCrusoe社がGE Vernova製のガスタービン29基(LM2500XPRESS、各35MW・計1GW超)を調達し、Parker Hannifinはその吸気ろ過システムや防音設備といった付帯機器を供給する契約を結んだ。この現地発電は系統電力を完全に代替する主電源ではなく、系統からの受電を補完する位置づけと報じられている。

Microsoftも同じ発想で動いた。Constellation Energyと20年間のPPAを結び、2028年の再稼働を目指してペンシルベニア州のスリーマイル島原発1号機を「Crane Clean Energy Center」として復活させる。再稼働費用16億ドルを投じ、835MWを長期契約で押さえる内容だ。原発の再稼働、ガスタービンの自己資金建設、電力購入契約という手段は違っても、共通するのは系統の公共キューを経由しない発電・送電の確保という一点にある。

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Microsoft、Amazon、Meta、OpenAI、4社の電力調達戦略

大型原子炉の新設をハイパースケーラー各社が避ける背景には、ジョージア州Vogtle原発拡張工事の教訓がある。当初140億ドル・2017年完成の計画は、建設会社Westinghouseの2017年破産を経て総額368億ドル、完成は2024年までずれ込んだ。予算は2.6倍に膨らみ、工期は7年以上延びた計算になる。この記憶があるからこそ、Microsoftは既に建設済みで稼働実績のあるスリーマイル島原発の再稼働を選び、ゼロから原子炉を建てる選択肢は取らなかった。

Metaも同じ制約の中で、複数の布石を組み合わせている。TerraPower、Oklo、Vistraの3社と契約を結び、2035年までに最大6.6GWの原子力由来電力を確保する計画だ。ガスタービンで当面の電力を賄いながら、10年先の電源構成を原子力へ寄せていく二段構えになっている。

次世代の小型モジュール炉(SMR)への投資も各社に共通する。Amazonは他の投資家とともに、エネルギー企業X-energyの5億ドル規模の資金調達ラウンドに参加し、ワシントン州とバージニア州で計600MW超のSMR開発を支援する。GoogleはKairos Powerと提携し、2035年までに500MWの導入を目指す契約を結んだ。第1号機「Hermes 2」(50MW級・テネシー州)は2030年の稼働を予定している。新興企業Oklo社の初号機「Aurora」(アイダホ国立研究所)は2027年末から2028年初頭の稼働を目指すが、規制当局の承認状況次第で変動するとされる。

4社に共通するのは、電力を「数年後に専用ルートから」確保するという発想だ。「今すぐ系統から」電力を得るという選択肢は、そもそも検討の対象になっていない。Microsoftは既存原子炉の再稼働、Amazonは原発PPAとSMR投資の両輪、Metaはガスタービンと原子力の二段構え、OpenAIはCrusoe経由でのタービン調達という違いはあっても、系統の公共キューを避けるという狙いは揃っている。SMRスタートアップは、その狙いを2030年代に向けて支える調達先という位置づけになる。

日本の送配電8社も家庭に転嫁する年6200億円

日本経済新聞の報道によれば、送配電会社8社は2026年7月、経済産業省に対して託送料金の値上げを申請した。値上げ幅は年平均で6,200億円規模とされる。値上げには物価上昇や設備更新など複数の要因が含まれ、データセンター向け送電網投資もその一因に数えられる。適用は2026年11月を予定しており、日本でも同じ構図が動き始めている。

託送料金とは、発電した電力を家庭や企業に届けるために使う送電網の利用料で、電力小売会社を通じて全ての利用者の電気料金に上乗せされる。米国のPJM容量オークションが「発電容量の確保コスト」を市場価格として利用者に転嫁する仕組みだとすれば、日本の託送料金値上げは同じコストを規制料金という形で直接家庭に配分する仕組みにあたる。AIデータセンターを一度も使わない世帯も、この値上げからは逃れられない。

日本には、AmazonやMicrosoftが選んだような大規模な原発PPAや自前発電という調達手段が、米国ほど広くは存在しない。電力会社が主体となって送電網を増強する枠組みが中心である分、そのコストは託送料金という形で利用者全体に配分されやすい構造になっている。

民間調査では、国内データセンター関連の投資額は2024年の約4,000億円から2028年に1兆2,000億円規模へ拡大するとの見方もある。NTTは2033年度までに国内データセンターの電力容量を現行比3倍超となる約1GWへ拡大する計画を明らかにしている。ソフトバンクは苫小牧のデータセンターを初期50MWから300MW超へ拡張する計画に650億円超を投じ、2026年度の稼働を目指す。KDDIの堺データセンターは2026年1月22日に稼働し、最新のGB200 NVL72を搭載しながら再生可能エネルギー100%で運用しており、国内のデータセンター投資も膨らみ続けている。

三菱重工業は2026年3月期に純利益が前期比35%増の3,321億円に達し、これまでの決算を上回る水準を記録した。同社は大型ガスタービンの生産能力を2030年度までに2024年度比2倍へ拡大する計画も明らかにしている。電気料金を払う家庭とは対照的に、電力設備を供給する日本企業は米国のデータセンター特需で潤っている格好だ。日本は米国のような自前発電による系統バイパスの選択肢を大規模には持たないまま、供給側でだけ利益を得て、負担側では家庭が値上げを引き受けるという非対称な構図に置かれている。

バイパス戦略の限界とガスタービン3年待ちという次の壁

ガスタービン大手のGE Vernovaの受注残は2025年末の80GWから2026年第2四半期には116GWへ急増し、新規発注のリードタイムは3〜5年程度とされる。同社は受注の約2割をデータセンター向けが占めると説明している。競合のSiemens Energyも受注残69GWを抱え、納期は同じく3〜5年程度とみられる。系統の順番待ちを迂回する手段そのものにも、既に新たな順番待ちが生まれている。

それでもガスタービンの納期は、系統接続の平均8年より短い。系統接続の待ち時間よりは短いという理由で、ガスタービンの自己資金建設という迂回策にはなお合理性が残る。ただし受注残が積み上がるほど納期は延び、系統接続キューと同じ性質の順番待ちに近づいていく。迂回路として選ばれた手段が、選ばれるほど渋滞するという構造は、系統接続そのものが抱えてきた問題と変わらない。

原子力運営会社のConstellation Energyや、ガス火力を手がけるVistra、NRG Energyは2025年に株価が急伸し、NRG EnergyはS&P500構成銘柄の中でも上昇率の上位に入った。発電設備を持つ側の企業には、株価という形で既に恩恵が表れている。系統の順番待ちが長引くほど、既に電力を持つ企業や新規のタービンを供給する企業の存在感が増す構造になっている。

原発PPAやガスタービンの自己資金建設は、契約した当事者の順番待ちを解消するだけで、他の申請者が待つ系統接続キューの処理速度自体を速める仕組みではない。個別協議として規制当局が承認するこれらの契約に、系統全体の混雑を緩和する義務は課されておらず、バイパス戦略が全体の待機列にどう影響するかを検証する制度も今のところ存在しない。

OkloのAuroraは2027年末から2028年初頭、GoogleとKairos Powerが組む「Hermes 2」は2030年、Meta、TerraPower、Oklo、Vistraの提携も2035年までの目標という、いずれも数年から10年先の計画にすぎない。原子力による解決も、ガスタービンと同様に時間がかかる。ハイパースケーラーが今取り付けているのは、2030年代に確定する電力の予約権であり、目先の不足はこれらの契約では埋まらない。

「電力が足りない」という悲鳴には、系統に新しくつながる順番待ちの渋滞と、発電容量そのものの逼迫という、性質の異なる二つの不足が混在している。PJMは2026年5月6日公表の報告書「Powering Reliability Through Market Design」で、2027/2028年度分の容量オークションで目標とする20%の予備率に対し約6.5GW(5.2%)の供給力不足が生じたと発表した。目標予備率を下回る供給不足はPJM史上初めてで、順番待ちの渋滞に加えて実際の発電容量そのものが逼迫していることを示す。

ハイパースケーラー各社が原発PPAやガスタービンの自己資金建設で回避しているのは、この二つの不足のうち系統接続という手続き上の順番待ちであり、発電容量そのものの不足を解消する仕組みではない。バイパスのコストはPJMの容量オークションや日本の託送料金を通じて全ての消費者に配分されている。GE Vernovaの受注残が2029年前後の納入分まで埋まり、複数のSMRが2030年前後に商用化を迎える頃、迂回路そのものが渋滞に転じるかどうかが、この構図の次の分岐点になる。