NVIDIAが、AIデータセンターの電力を800V直流(800VDC)へ切り替える道筋を、既設設備の改修から施設全体の直流化まで段階的に示した。最初に使うのは、現在の交流配電を受けて800VDCへ変換する専用の電源ラックである。建物の電気設備を全面更新せず、計算ラックから電源変換器を追い出せる。GPUを調達しても、1MW級ラックへ必要な電力を運べなければ稼働できない。電源設備が計算能力を決める条件になった。

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54Vで1MWを送る代償

1MWを54Vで送ると、単純計算では電流が約18,500Aに達する。800Vなら約1,250Aで済む。実機では冗長系や変換損失を見込む必要があるが、電圧を上げれば同じ電力を運ぶ電流を大幅に減らせるという関係は変わらない。電線や銅製バスバーの発熱は電流の2乗に比例するため、54Vのままラック電力だけを増やす設計は急速に重く、大きくなる。

NVIDIAのホワイトペーパーは、48Aを流す同じ断面積の導体で比べた場合、415V交流が1平方ミリメートル当たり0.6kWなのに対し、800VDCは1.7kWを送れると試算する。増加率は157%である。NVIDIAが2025年に公表した別の設計試算では、800VDCは従来方式に比べてエンドツーエンドの効率を最大5%高め、銅使用量を45%減らせるとしていた。いずれも施設条件に左右される設計値であり、稼働中のデータセンターで一律に得られた実測値ではない。

電圧を上げる狙いは、ケーブルを細くすることに加え、交流から直流への変換を計算ラックの外へ移すことにある。現在のAIラックでは、415Vまたは480Vの交流を電源棚で54V直流へ変え、計算トレイの近くでさらに12VやGPUの動作電圧まで下げる。変換器が増えるほど損失と故障点が増え、GPUに使えるラック空間も減る。

800VDCを計算ノードの近くまで運べば、最後に12Vへ直接落とせる。NVIDIAは、64対1のLLCコンバーターとマトリクストランスを使う方式について、400Vから50V、さらに12Vへ変換する多段方式より効率を1ポイント高め、GPU近傍の実装面積を26%減らせると説明する。800V化は施設の配電方式であると同時に、ラック内部の空間を計算機器へ戻す設計変更でもある。

既設設備を残す段階移行

NVIDIAが描く移行経路は、電源変換を少しずつ上流へ移す三段階に分かれる。

段階 電力の流れ 利点 残る課題
電源ラック 415/480V交流をラック列の近くで800VDCへ変換 既設の交流配電と建物を使える 変換段が残り、電源ラックが床面積を使う
施設級整流器 低圧交流を約1.5MVA単位で800VDCへ変換 複数ラックへまとめて給電し、計算室を空けられる 低圧変圧器と直流保護設備が必要
中圧整流器・SST 35kV級交流から800VDCへ直接変換 低圧交流層を省き、施設全体を直流化できる 多MW級の信頼性、熱、保護、認証が未成熟

最初の電源ラックは、既設データセンターへの変換アダプターに当たる。NVIDIA自身も、追加の変換段が残るため、施設全体で見れば最適解ではないと認めている。それでも、建設済みの受電設備や交流配電を使いながら高密度の計算ラックを導入できる利点は大きい。土地、建屋、受電容量を確保した事業者にとって、施設の作り直しを避けられるからだ。

経済日報が8月17日に伝えたNVIDIAの計画では、MGX対応の800VDC電源ラックを2026年下半期に投入し、既設の交流設備と組み合わせる。2027年にはラック列の電力をまとめる方式へ進み、1列当たり最大2MWを支える。新設施設では、その先に中圧交流を一度で800VDCへ変えるDCパワーブロックを置く構想だ。

ホワイトペーパーは、低圧交流を受ける施設級整流器を1系統約1.5MVA、効率約99%と想定する。さらに中圧整流器や固体変圧器(SST)は1台最大7.5MVA、効率98.5%以上を目標にする。35kV交流を受ける17.5MWの概念設計も示され、4台の1.1MW計算ラックと冷却設備へ給電する。ただし、この図は製品仕様ではなく、NVIDIAが協業先へ示す設計例である。

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なぜ蓄電も一緒に変えるのか

大規模なAI処理では、多数のGPUが同時に計算し、同時に通信待ちへ入る。NVIDIAのホワイトペーパーによると、ラックの消費電力はアイドル時の約30%から100%まで短時間で動く。800VDCは大電力を運びやすくするが、この激しい負荷変動は消さない。対策を入れなければ、ラック内の電源機器からデータセンターの受電設備まで、ピーク電流に合わせて大きく設計しなければならない。

NVIDIAは、変動の長さに応じて蓄電方式を分ける。100ミリ秒未満は電解コンデンサーが向き、100ミリ秒から10秒の範囲ではスーパーキャパシターなど複数の方式を組み合わせる。10秒を超える領域では電池の方が体積効率を上げやすい。ラック付近のコンデンサーが短時間の電力変動を吸収し、施設側の蓄電池がジョブ全体の起動や停止をならす設計である。

蓄電で吸収しきれない場合、GPU側の電力平滑化機能が電力を消費して負荷の谷を埋めるか、処理性能を抑えてピークを下げる。前者はエネルギーを捨て、後者は計算速度を落とす。したがって、800VDCの経済性は整流器の変換効率だけでは決まらない。蓄電容量と制御ソフトをどう配分し、受電設備を過大にせずGPUを高稼働させられるかが、データセンター全体の費用を左右する。

直流の共通バスは、電池やキャパシターを交流系統より少ない変換段で接続しやすい。NVIDIAが800VDCと蓄電を一つの構想にまとめる理由はここにある。AIデータセンターは大口の定常負荷ではなく、同期して急変する電子負荷になった。短時間の変動を施設内で抑えられなければ、受電設備の負担が増え、系統接続の審査にも影響する。

デルタ電子とLITEONはどこまで進んだか

台湾の電源大手は、電源装置の単品供給からラック列全体の電力と冷却をまとめる事業へ踏み込んでいる。デルタ電子は、400~480V交流を800VDCへ変換する1.1MWの列間電源システムを公開済みだ。800VDCを50Vまたは48Vへ落とす90kWのDC/DC電源棚に加え、チップ側で50Vまたは12Vへ変換する配電板も開発し、後者の変換効率は最大98.5%としている。

経済日報によると、デルタ電子は800VDCと±400VDCの製品を2026年第3四半期に量産し、第4四半期から少量出荷する計画である。2026年は±400VDCが先行し、800VDCの数量は2027年に増える見通しだという。NVIDIAが進める方式に対応する製品は出始めたが、当初は複数の直流方式が併存する。

LITEONは2026年第1四半期の決算発表で、50VDC電源ラックは量産に入り、800VDC電源ラックは下半期に顧客検証へ進むと説明した。110kWの電源棚は出荷を始め、AI関連製品が2026年売上高の約30%を占めるとの見通しも示している。COMPUTEX 2026では、電源棚とバックアップ電池を組み込み、発熱の大きい部品を冷板で冷やす800VDC液冷電源ラックを実機展示した。

8月6日には、Wolfspeedの炭化ケイ素(SiC)MOSFETが、LITEONの800VDCサイドカーと計算ラック用電源装置で採用に必要な認定を完了したと両社が発表した。高電圧を高速に変換するSiCは、整流器の損失と部品数を抑えるための有力な材料である。Wolfspeedは200ミリメートルSiC製造基盤による供給力も強調する。

ただし、発表で確認できるのはSiC技術の認定完了までだ。ハイパースケーラーの社名と受注額、供給数量は開示されていない。LITEONの電源ラック全体に対する顧客認証がいつ完了するかも不明である。部品が選定されたことと、データセンターで大規模な量産採用が始まることの間には、システム検証と安全認証が残る。

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標準と安全、顧客認証の壁

800VDCはNVIDIAだけの独自方式として閉じてはいない。Google、Meta、MicrosoftはOpen Compute Project(OCP)で、48VDCから±400VDCまたは800VDCへ移る「Mt Diablo」電源サイドカー仕様を共同作成した。NVIDIAもMGXのラック設計をOCPへ提供している。複数社が同じ電圧範囲と機械インターフェースを使えば、データセンター事業者は電源、計算ラック、冷却装置を別々の供給元から選びやすくなる。

一方、OCPが2026年3月にまとめた低圧直流のホワイトペーパーは、700Vの単極方式や350/700Vの双極方式など複数案を併記した。接地、中性点、遮断器の構成にはそれぞれ得失があり、施設級の直流配電は一方式に決まっていない。将来候補には1500VDCもあるが、NVIDIAは当面の設計として800VDCを進めている。

安全設計も交流の延長では済まない。NVIDIAは、人が触れられる場所にタッチセーフのコネクターを使い、負荷がかかったまま抜けない機械式インターロックを組み込む。直流は電流のゼロ交差がないためアークを切りにくい。保護装置と接地方式を改め、保守手順や作業員教育も800VDCに合わせなければならない。ホワイトペーパーが示す施設設計は、確定仕様ではなく協業先と詰めるための設計例だ。

LITEONが2026年下半期に予定する顧客検証で確認されるべきなのは、ピーク効率よりも、負荷急変時の安定性、故障区間の切り離し、冗長系を含む実効効率である。そこで顧客認証が進み、OCPで保護と接続の仕様がそろえば、800VDCは展示会の電源ラックからデータセンターの調達標準へ移る。1MW級ラックを置けるかどうかは、GPUの型番より、電源と蓄電を同じ設計として扱えるかにかかっている。