オハイオ州南部パイク郡に、3777エーカー(約15.3平方キロメートル)の更地が広がる。1952年に米国原子力委員会が選定し、1956年に稼働を開始したポーツマス気体拡散工場(PORTS)の跡地だ。冷戦期、この施設は核兵器用の高濃縮ウランを製造し、米国の核抑止力を支えた。2012年に最後の濃縮セルが停止して以来、この土地は環境修復の対象として静かに眠っていた。
2026年、この土地は再び国家規模のエネルギー集約施設へと変貌しようとしている。SoftBank傘下のSB Energyと米エネルギー省(DOE)が共同で進める「PORTS Technology Campus」計画は、最大10ギガワット(GW)のデータセンターと、それを駆動する9.2GWの天然ガス発電所の建設を掲げる。CNBCの分析によれば、10GWは米国約800万世帯の年間電力消費量に相当する。現在稼働中の世界最大のAIデータセンターであるxAIのColossus(Memphis、約946MW)の10倍以上の規模だ。
この巨大計画の入居者として名乗りを上げているのがOpenAIである。そしてOpenAIにこの施設をリース可能にするための金融保証を引き受けるはずだったのがNVIDIAだった。
2500億ドルの保証が1200億ドル未満に縮んだ理由
2026年7月下旬、Wall Street JournalはNVIDIAがOpenAI向けに約2500億ドルの金融保証を交渉中だと報じた。CNBCが翌日確認したこの構想では、NVIDIAが自社の信用力を背景にOpenAIのリース債務と建設関連債務を保証し、OpenAIが投資適格の信用格付けを持たなくても大規模な借入を可能にする仕組みだった。
それから約2週間後の8月14日、同紙はNVIDIAがこの保証額を1200億ドル未満に引き下げたと報じた。Reutersはこの報道を独立に検証できていないとしつつ、複数の関係者の話として伝えている。縮小の理由は、投資家がNVIDIAのリスクエクスポージャー拡大に懸念を表明したためだ。
重要な点は、この保証がNVIDIAからの直接投資ではないということだ。NVIDIAが現金を拠出するのではなく、OpenAIが第三者から借り入れる債務に対して「連帯保証人」の役割を果たす。OpenAIやSB Energyが債務を履行できなくなった場合、NVIDIAが支払い義務を負う。
さらに、この保証とは別に、NVIDIAは最大3500億ドル相当のAIチップをこの施設に供給する商談も並行して進めている。チップ代金と建設・リース債務は財務構造が異なり、両者は独立した交渉として扱われている。
| 項目 | 当初の構想(7月下旬) | 修正後(8月中旬報道) |
|---|---|---|
| NVIDIAの金融保証額 | 約$250B | $120B未満 |
| 保証対象 | 計画全体(10GW) | 計画全体(10GW)※保証額のみ縮小 |
| チップ供給(別建て) | 最大$350B | 最大$350B(変更なし) |
| プロジェクト総額(チップ込み) | $500B超 | $500B超(変更なし) |
| 交渉状態 | 初期段階 | 合意間近と報道(未署名) |
Interesting Engineeringが伝えたソース原文によれば、修正後の保証も10GW施設全体のリース支払いと建設関連債務を対象としている。保証の範囲が狭まったのではなく、同じ範囲に対してNVIDIAが引き受ける金額が半分以下に減った。この差額、少なくとも1300億ドル分を誰がどう手当てするのか、現時点で明確な答えはない。
「循環融資」という構造問題
保証額縮小の背景には、AI業界全体に広がる資金循環への不信がある。構図はこうだ。NVIDIAがOpenAIに投資する。OpenAIはその資金でNVIDIAのチップを購入する。NVIDIAの売上が伸び、その成長を根拠にさらなる投資や保証が可能になる。この循環が需要を人工的に膨らませているのではないか、という疑問が投資家の間で強まっている。
CNBCは8月11日、NVIDIAが「循環融資(circular financing)」の批判を鎮めようとしているが、Wall Streetは懐疑的だと報じた。Business Insiderは7月下旬、NVIDIAのクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)価格が、スワップが取引され始めた2025年11月以来最大の上昇を記録したと伝えている。NVIDIAの債務不履行に備える保険料が急騰したということは、市場が同社の財務リスクを以前より深刻に評価し始めたことを示す。
この不安に応えるため、NVIDIAのCEO Jensen Huangは8月11日、BlackRockやGoldman Sachsを含む大手金融機関がAIインフラ建設向けに5000億ドル超の資金を準備していると発表した。各機関が個別案件を独自に評価し、NVIDIAの関与は一部案件に限られるという構造にすることで、「NVIDIAがすべてを保証している」という印象の払拭を狙った。
しかし、この発表の3日後に保証額縮小が報じられた事実は、市場の不安が完全に解消していないことを示唆する。
OpenAIの財務体質が保証の前提を揺るがす
保証を引き受ける側にとって、相手方の返済能力は最大の関心事だ。OpenAIの財務状況は、8520億ドル($852B)という評価額に見合うものとは言い難い。
2026年6月に漏洩した監査済み財務諸書(Ars Technica、Financial Timesが報じた)によれば、OpenAIの2025年の売上高は130億7000万ドル($13.07B)で、2024年の37億ドル($3.7B)から3.5倍に成長した。一方、営業損失は2024年の87億8000万ドル($8.78B)から2025年には209億2000万ドル($20.92B)へ拡大している。研究開発費だけで191億8000万ドル($19.18B)に達し、売上高を大きく上回る。Sacraの推計では、2026年のキャッシュバーンは約270億ドル($27B)、2027年には約630億ドル($63B)に達し、キャッシュフローがプラスに転じるのは2030年とされている。
投資適格の格付けを持たず、2030年まで黒字化の見通しが立たない企業に対して、1200億ドル超の保証を提供する。この構造的緊張が、NVIDIAの投資家を不安にさせている核心だ。
保証縮小が変えるもの、変えないもの
保証額が半減しても、PORTS Technology Campusの物理的規模は変わらない。DOEのファクトシートによれば、第1フェーズの800MWは2026年に着工し、2028年の稼働を目指す。SB EnergyはAEP Ohioを通じて42億ドル($4.2B)の送電線建設を進め、日米戦略貿易投資協定の一環として333億ドル($33.3B)の日本側資金が天然ガス発電に充てられる。建設期間中に1万人以上の雇用が生まれるとDOEは試算している。
NVIDIAにとって、保証の縮小はリスク管理の調整であり、関係の断絶ではない。同社は2025年9月にOpenAIとの戦略的パートナーシップを発表し、10GW以上のNVIDIAシステム導入に合わせて最大1000億ドル($100B)を段階的に投資する意向を表明している。2026年3月にはOpenAIが1220億ドル($122B)の資金調達ラウンドを完了した際、NVIDIAも300億ドル($30B)を拠出した。
保証額を1200億ドル未満に抑えることで、NVIDIAはプロジェクトへの関与を維持しつつ、自社のバランスシートに載る偶発債務の規模を制御する道を選んだ。ただし、対象範囲が10GW全体のままである以上、当初の想定との差額である1300億ドル超の保証ギャップが生まれる。この空白を他の金融機関が埋めるのか、それともプロジェクト全体の資金計画が見直されるのか、8月中旬の時点では見えていない。WSJは、NVIDIAとOpenAIが合意に近づいており、早ければ8月中の署名もありうると報じている。ただし、2026年8月中旬時点で正式な契約は結ばれていない。
電力と資金、二つのボトルネック
10GWという規模は、データセンター建設の歴史において前例がない。IEEE Spectrumの分析によれば、2014年時点で米国データセンター業界全体の平均消費電力が約8GWだった。単一のキャンパスが、10年前の業界全体を上回る電力を消費する計算になる。
MetaがLouisiana州に計画する5GWのデータセンター「Hyperion」でさえ、当初100億ドルと見積もられていた総費用が500億ドル($50B)超に膨らんでいる。PORTS計画の総額5000億ドル超という数字は、チップ代を含めた場合の試算であり、建設費とエネルギーインフラだけでどこまで膨らむかは不透明だ。
電力の確保も課題だ。DOEは9.2GWの天然ガス発電を新設する計画だが、送電網の増強、環境影響評価、地域住民への影響、いずれも時間がかかる。SB EnergyはOhio州環境保護局(EPA)への許可申請で、湿地や河川への影響を巡る二つの配置案を提示しており、最終レイアウトは未確定だ。
NVIDIAが保証を縮小した事実は、AIインフラの建設が技術の問題であると同時に、資金調達の構造設計の問題であることを改めて示した。チップの性能がどれほど向上しても、それを収容する建物の資金が手当てできなければ、GPUは倉庫に眠る。冷戦時代にウランを濃縮していた土地が、今度はAI時代の資本集約構造の歪みを映し出している。
