NVIDIAが2027年の世界のHBM需要の37.3%を占めるとの予測が、AI向けメモリをめぐる調達競争の激しさを示している。
ChosunBizが8月5日に報じたMorgan Stanleyの推計では、NVIDIA、Google、AMDの3社だけで、GPU・ASIC向けHBM需要の約85%を占める。一方、NVIDIAが将来の供給や生産能力を確保するために結んだコミットメントは、7月26日時点で2790億ドルに達した。
さらにTrendForceは9月29日、2027年のHBM全体の平均販売価格が前年比121%上昇すると予測した。
大口顧客が将来の供給を確保しようとする一方、HBM不足と価格上昇を受け、AIチップ1基当たりのメモリ容量を減らして、より多くの製品を出荷する設計も検討されている。
ただし、需要予測、供給確保のための金額、実際に出荷できるHBMの量は、それぞれ別の指標だ。巨額の契約を結んだからといって、それだけで必要な計算資源を予定通り確保できるとは限らない。
NVIDIAが占める「37.3%」は、供給枠ではなく需要予測
ChosunBizの報道によると、Morgan Stanleyは2027年にGPUとASICへ搭載されるHBMの需要量を、メモリの総容量を示すビット数で推計している。
Gbはギガビットの略で、ここではHBMの総容量を比較するための単位として使われている。
| 買い手 | 2027年HBM需要推計(10億Gb) | 世界需要に占める比率 |
|---|---|---|
| NVIDIA | 18.125 | 37.3% |
| 17.507 | 36.0% | |
| AMD | 5.9 | 12.1% |
| 世界全体 | 48.618 | — |
公表された比率を合計すると、NVIDIA、Google、AMDの3社で85.4%になる。
この推計で目立つのは、需要がNVIDIAだけに集中しているわけではないことだ。
Googleは36.0%とNVIDIAに迫り、AMDも12.1%を占めると予測されている。クラウド事業者が自社設計のAIアクセラレーターを増やせば、HBMメーカーはNVIDIAだけでなく、複数の大口顧客の製品計画に対応する必要がある。
ただし、37.3%という数字はあくまで2027年の需要量に関する予測である。
Morgan Stanleyの元のレポートを一般向けに確認することはできず、NVIDIAが世界のHBM生産能力の37.3%を契約済みだという意味でもない。
「NVIDIAが世界のHBM供給の37.3%を確保した」と表現すると、推計の対象が変わってしまう。
HBM需要の大きさを考える際には、AIチップ1基当たりの搭載量も重要になる。
Googleの公式技術解説によると、学習向け「TPU 8t」は216GB、推論向け「TPU 8i」は288GBのHBMを搭載する。
NVIDIAの公式仕様では、Rubin GPU 1基当たりのHBM4容量は288GBとなっている。
HBMは複数のDRAMダイを積み重ね、GPUやAIアクセラレーターの近くに配置して大量のデータを高速に供給するメモリだ。NVIDIAのGPUだけが使うものではない。
また、製品によって1基当たりの搭載容量も異なる。
そのため、HBM需要に占める割合が近いからといって、AIチップの出荷台数や計算性能まで同じ割合になるわけではない。37.3%をNVIDIAのAI市場シェアと読み替えることもできない。
2790億ドルはHBMだけの購入額ではない
NVIDIAの四半期報告書の注記10によると、将来の供給と生産能力を確保するためのコミットメントは、前四半期の1190億ドルから、2026年7月26日時点で2790億ドルへ増加した。
CFOの説明では、この増加は主にメモリ調達に関係するとしている。
AI向け製品の需要に備え、NVIDIAが将来の部品供給を大規模に確保していることは公式資料から確認できる。
ただし、この2790億ドルすべてがHBMの購入額というわけではない。
NVIDIAは、データセンター向け製品に必要な供給・生産能力について、主にメモリと製造設備に関係するものだと説明している。現在の製品だけでなく、将来の製品世代も対象に含まれる。
また、2790億ドルをすでに支払い終えたという意味でもない。
37.3%は2027年のHBM需要量についての予測であり、2790億ドルは2026年7月26日時点でNVIDIAが抱える複数年の供給・生産能力コミットメントである。
この二つの数字から、NVIDIAが2027年にHBMへいくら支払うのかを算出することはできない。
| 数字 | 対象と期間 | 根拠 | 読み取れること |
|---|---|---|---|
| NVIDIAの37.3% | 暦年2027年のGPU・ASIC向けHBM需要。総ビット容量基準 | ChosunBizが伝えたMorgan Stanleyの推計 | NVIDIAがHBM需要の大きな割合を占めるとの予測。確保済みの供給枠ではない |
| 2790億ドル | 2026年7月26日時点の複数年の供給・生産能力コミットメント | NVIDIAのForm 10-Q | 将来の部品・製造能力確保の規模。HBMだけの購入額ではない |
| 前年比121%上昇 | 暦年2027年のHBM全体の平均販売価格 | TrendForceの予測 | 供給不足と、HBM4・HBM4Eなど高価格製品の構成比上昇を含む平均価格の変化 |
この三つは、単位も対象期間も異なる。
数字を掛け合わせてHBM市場全体の規模やNVIDIAの購入額を求めることはできない。
NVIDIAの開示によると、2790億ドルのうち、2027会計年度の残りに920億ドル、2028会計年度に870億ドル、2029会計年度に880億ドルの支出が予定されている。
その後は2030会計年度に60億ドル、2031会計年度に50億ドル、2032会計年度以降に10億ドルとなる。
NVIDIAの会計年度は暦年と一致しないため、「2027会計年度の残り」をそのまま暦年2027年の支出と考えることもできない。
さらにNVIDIAは、一部の契約について、正式な発注前であれば取り消しや日程変更、数量調整が可能な場合があると説明している。ただし、変更によって追加費用が発生する場合もある。
したがって、2790億ドルは将来の供給を確保するための大規模なコミットメントではあるものの、そのまま将来の良品出荷量を示す数字ではない。
HBM価格「121%上昇」には、HBM4への世代交代も影響する
TrendForceの9月29日の発表によると、AIサーバー需要の拡大により、HBMと通常のDRAMが限られた先端工程やウェハー生産能力を奪い合う状態が続いている。
新世代HBMの歩留まりや生産量を引き上げるにも時間がかかるため、同社は2027年もメモリ供給が逼迫すると予測する。
そのうえで、2027年のHBM全体の平均販売価格について、前年比121%の上昇を予測している。
ただし、この121%を「同じHBM製品が一律で2倍以上に値上がりする」という意味で読むのは適切ではない。
平均価格の上昇には、供給不足だけでなく、単価の高いHBM4の構成比が上がることや、2027年後半からHBM4Eの出荷が増えることも影響する。
既存製品の価格が変わらなくても、より高価な新世代製品が販売全体に占める割合を増やせば、平均販売価格は上昇する。
「同じ製品の値上げ」と「高価格製品への世代交代」は分けて考える必要がある。
HBMと通常のDRAMは、一部のウェハー生産能力を共有する。
そのため、HBM向けの生産を増やせば、一般的なDRAMの供給にも影響する可能性がある。
ただし、2027年のHBM平均販売価格が121%上昇するという予測を、そのままPC向けDDR5メモリの店頭価格へ当てはめることはできない。
HBMと一般消費者向けDRAMでは、製品仕様も顧客も流通経路も異なる。
8層HBMなら多くのGPUを作れるが、容量当たりでは割高になる
HBM不足と価格上昇は、次世代AIチップに搭載するメモリ容量にも影響し始めている。
TrendForceによると、GPUやASICメーカーの間では、当初想定していた12層のHBMに加え、8層の構成を優先的に検討する動きが広がっている。
背景にあるのはAIの計算需要が弱まったことではなく、HBMの供給量が限られていることと、システム全体のコスト上昇だ。
8層品は12層品より積み重ねるDRAMダイが少ないため、HBMスタック1個当たりの容量と部品コストを減らせる。
同じ量のDRAMダイを使う場合でも、1基のAIチップへ搭載する量を減らせば、より多くのGPUやASICへHBMを配分できる。
一方で、容量当たりの価格まで安くなるとは限らない。
HBMスタックにはDRAMダイとは別にベースダイが必要で、そのコストは積層数を減らしても同じ割合では下がらない。
8層品では、1個のベースダイに対して搭載されるDRAM容量が12層品より少なくなるため、1Gb当たりに換算するとベースダイのコスト負担が大きくなる。
TrendForceは、2027年の8層品について、1Gb当たりの価格が12層品より10〜20%高くなる可能性があると予測している。
つまり、ここでは「AIチップを何基出荷できるか」と「1基当たりにどれだけHBMを搭載するか」の間で調整が行われることになる。
1基当たりのメモリ容量を減らせば、同じHBM供給量から作れるAIチップの数を増やせる。一方、そのGPUが利用できるメモリ容量は当初計画より小さくなる可能性がある。
なお、TrendForceは8月、NVIDIAについてもRubin Ultraで、当初の12層HBM4Eだけでなく、8層HBM4EやHBM4など複数の構成を検討していると報告している。
ただし、最終仕様はまだ決まっていないとしており、「NVIDIAが8層HBMへの変更を決定した」とまでは言えない。
巨額の供給確保が、実際の出荷につながるか
Morgan Stanleyの予測どおりGoogleなどの需要が増えれば、2027年のHBM市場では、複数の大口顧客が限られた供給能力を取り合うことになる。
NVIDIAの2790億ドルに及ぶ供給・生産能力コミットメントも、そうした環境で将来の部品と製造能力を早めに確保しようとする動きと捉えられる。
しかし、契約規模が大きいことと、必要な仕様のHBMを必要な時期に十分な量だけ受け取れることは同じではない。
2027年のAIインフラ投資を見るうえでは、GPUやASICの出荷台数だけでなく、1基当たりに実際に搭載されたHBM容量と、メモリメーカーが実際に出荷できた良品の量を確認する必要がある。
例えば、8層化によってAIチップの出荷台数が増えても、供給されるHBMの総容量がほとんど増えていなければ、HBM不足そのものが解消したことにはならない。
一方、HBMメーカーの生産量と歩留まりが改善し、GPUの搭載容量を減らさなくても必要な台数を供給できるようになれば、供給制約が和らいだと判断しやすくなる。
NVIDIAの巨額コミットメントが実際の計算資源の増加につながるかを見るには、契約額だけでなく、HBMの生産量、歩留まり、搭載容量、そして最終的なAIシステムの出荷量まで追う必要がある。



